★阿修羅♪ > 国家破産66 > 451.html ★阿修羅♪ |
|
Tweet |
日本経済を突然襲った円高とドバイショック【BPnet 大前研一】
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20091208/199790/?P=1
2009年12月8日
日本の経済を二つの波が襲った。
一つは円高、もう一つは11月末に起こったドバイショックである。
円高に株式市場は過敏に反応し、11月末には大きく株価を引き下げた。
FOMCの不用意な発言でドル不信が円高を招いた
まずは円高から見ていこう。
11月27日にシドニー為替市場で一時1ドル=84.72円まで急騰し、1995年以来、14年ぶりの円高水準となった。
今回の円高ドル安は、アメリカのFOMC(連邦公開市場委員会)での議論に端を発している。
FOMCは、「FRB(連邦準備制度理事会)は、世界金融危機の後に買い取った多額の資産を売却すべきではないか」という議論が委員会内にあることを発表した。
これはFRBのバランスシートを縮小させ、準備預金の水準を下げるための手段としては有効なものではある。
ところがこの発表は、世界経済に対して大きな影響を与えた。
金融危機後に買い取ったFRBの資産は実に100兆円規模になっているが、この資産を市場に売却して償却するとどうなるか。
それだけの吸収余力はアメリカにも世界にもない。
むしろ今は世界中で貯め込んだドルをいつどういう形で市場に放出するか、個人も企業も、また中央銀行なども皆が密かに考えている最中なのである。
アメリカのファンドマネージャーなどはドルを売って金を買え!と真顔で叫んでいる人も多いし、少なくともリーマンショックの後の巻き戻し期間中に返済資金として不足していたドル需要も完全になくなっている。
そういう微妙なときにFRBの抱えていた分までが現実に市場に放出されたら、ドルの価値が大きく低下するのは確実だ。
またアメリカの経済学者や評論家(例えばフレッド・バーグステインなど)の中には、ドル安が米国企業の競争力を増すので好ましい、などと今さら言う輩もいてノイズを増している。
こうしてドルの信用が大きく揺らいだため、世界的にドル安に一気に進んだのである。
そんな中、12月からはリスボン条約が発効して新生EU(欧州連合)の誕生となったが、期待の大統領職も強いリーダーをイメージしていた人々には失望につながり、ドルの受け皿としてのユーロも気合いが入らなくなっていた。
それが結果的に円の独歩高を招くことになった。
しかし長期的なスパンで見れば円高ドル安の状態がいつまでも続くとは思えない。
過去の為替レートの推移を上のグラフで見てみると、一時的に極端な円高ドル安が起こっても、その期間は決して長くは続かなかった。
年間を通して円高ドル安が維持されたことは、ここ15年は起こっていない。
グラフを見ても、一番ひどい時期は95年4月に記録した1ドル=約79円である(今回の円高も、その当時を彷彿とさせる急激さであった)。
しかし95年のときも決して長く続くことなく、すぐに1ドル=100円前後に落ち着いたのである。
だから私は「急な円高ドル安がやってきたからと言って、あたふたする必要はない」と言いたい。
特に今回はFOMCの不用意な発言という人為的なミスが招いた円高ドル安なのだから。
またその発言をよく聞けば、「売却を検討」と言っただけだ。
「決定した」のではない。
にもかかわらず、市場が「もし本当に売却されたら大変だ」と過剰に反応したに過ぎない。
何より、民主党政権になってからすでに世界最悪となっている日本の国債がさらに乱発されそうな風潮を見れば、世界はいずれ幻滅して円を売り始めるようになるだろう。
日本国債の格付けが下方修正される可能性も高いので、あえて円を貯め込むインセンティブは働かないと見ておいた方がいいだろう。
アメリカは肥満経済を改め、適正な規模に正すべき
ユーロと円についてはどうか。
EUの新基本条約であるリスボン条約がすべての加盟国で批准され、EUは新たなスタートを切った。
しかし、バルト三国や東欧諸国の経済危機はまだ完全に去ったわけではなく、イギリスの不動産やスペインの失業率などEU主要国でも経済的には安定しているとは言いがたい。
ECB(欧州中央銀行)がまだ(中国や日本に比べて)備蓄が少ないなど、次の金融危機に対する準備が行き届いているとは言えないからだ。
そのため、ドルほどではないがユーロも売られる傾向にある。
では、なぜ円にシフトしているのかと言えば、日本が長きにわたり景気低迷を続けおり、バブルの影響も少なかったからだ。
逆説的な言い方だが、ドルやユーロに比べて、円はこれ以上落ちることはないと見られているのである。
個人金融資産もGDPの3倍ほどあり、これが国債を買い支えている(という異常事態ではあるが)のも外国から見た日本への信頼につながっている。
ただ、一時的とは言え急激な円高に対して日本の対応が後手に回っていることは問題だ。
藤井財務大臣は、「いざというときにはもちろん対応はする」という趣旨の発言をしているものの、なんら具体的な手は打っていない。
具体的な手とは、もちろん為替への介入だ。
日銀は福井俊彦総裁時代(2003〜08年)には為替に介入しない方針を貫き、それまでのお家芸であった介入に終止符を打った。
それまでの政府は円高に少しでも振れると輸出産業への配慮から何かというと介入し、ドルの最終的な買い手になっていた。
このため投機家が安心して円高に悪のりする嫌いがあった。
その無駄な悪循環を絶った、というのは良いことだった。
しかし、介入はするかしないか分からないところで投機家に対して最も大きな牽制効果があるので、何もしない状態を長く続けておけば、今回のように経済実態と関係のない投機的な円高が過度に進む可能性がある。
介入しようと思えば日本にはその資金もあるし、それだけの力とノウハウを持っている。
藤井大臣も一度くらいは介入して、刀を磨いておくのも悪いことではない。
円とドルとユーロでは、経済の強さや魅力によって為替レートが上下する。
しかし、「誰がもっとも魅力的か」という積極的な選ばれ方をしているわけではない。
実態はその逆で、「どの通貨をもっとも避けるべきか」という不人気投票で為替レートが決まっているのだ。
現在の不人気のトップはドル。
そして2位に円、3位にユーロという順なのだが、12月に入ってからは2位と3位が入れ替わっている。
円高ドル安の問題は、結局はアメリカの問題だ。
アメリカが過去20年に及ぶ自分たちの肥満経済を見つめ直して、適切な規模に正すことが肝要だ。
これまでアメリカは、「世界から借金をする」「国民は自分の未来から借金をする」という借金癖が身についてしまっている。
しかし、ドルに対する信任が失われれば世界からも未来からも借金ができなくなる時代が到来する。
商業不動産の崩壊が起こったドバイ
もう一つ、世界を襲ったドバイショックについても見ておこう。
11月25日にドバイの国策企業ドバイワールドの負債総額が5兆1000億円に達し、12月に迫った返済を来年5月まで延期するように要請した。
問題となったのは砂漠のミラージュと呼ばれた数々のプロジェクトを仕掛けたデベロッパーであるナキール社だ。
信用不安が世界に伝播し、欧米やアジアの市場で連鎖的に株安が起こったのである。
ヨーロッパには、HSBC、RBS、BNPパリバなどドバイ首長国に貸し込んでいた金融機関が相当数ある。
そのために市場が敏感に反応した。
日本は影響が比較的に少なかったものの、現地で積極的に事業展開していたゼネコン4社は年初来株安まで落ち込んだ。
サブプライムローン問題は、個人に対する住宅ローンが発端であった。
個人の不動産の問題は一段落したが、現在その余波は商業不動産に向かっている。
商業不動産といえば90年代初めに世界中でその崩壊が起こったことがあるが、今、世界中でそれと同じシーンが再現されようとしている。
つまり商業用不動産に貸し込みすぎた銀行が不良債権に悩まされ、ヨーロッパやアメリカの銀行が90年代のデジャブュ状態になる恐れがある。
ドバイ危機も商業用不動産の危機という側面を持っているので、皆一斉に債権の見直しに走っている、というわけである。
もう一つの側面は新興国への投資が焦げ付くかも知れない、ということで、低調な先進国から新興国に向かっていた資金の流れが変調をきたす可能性が出てきたことだ。
改めてドバイの事態を見てみよう。
アラブ首長国連邦(UAE)の一つであるドバイ首長国は、政府系持ち株会社「ドバイワールド」、傘下の不動産会社「ナキール」のすべての債務を猶予してもらうように要請する方針を明らかにした。
その債務額を下の表にまとめたので見てほしい。
全部合わせれば日本円にして5兆1000億円になる。
この事態に対して、さっそく動きを見せたのがUAEの隣国アブダビ首長国である。
豊かな石油産出国であるアブダビにとって、5兆1000億円という債務は、石油の産出量で言えば数カ月分に過ぎない。
本気で救済しようとすれば可能なレベルである。
ただしアブダビは今回、「救済する」とは断言していない。
現在のところ救済を示唆しただけである。
それでも世界市場はこれを受け入れ、株価は回復に向かった。
ドバイにとって不幸だったのはタイミングの悪さ
ドバイは私も注目していた国だ。
今では石油のGDP(国内総生産)に占める割合がわずかになっており、少しでも早く石油依存の体制を変えようとして努力してきた。
多くの観光客を呼び込めるようにリゾート施設を充実させ、戒律の厳しいアラブの金持ち達が羽を伸ばすためにセカンドハウスとして所有するマンションなどの建設ラッシュが続いていたのである。
数年前は世界中のクレーの4分の1はドバイに集結している、ということを言う人もいた。
だが、ドバイにとって不幸だったのはタイミングの悪さだ。
建設ラッシュの途中にサブプライムローン問題と世界金融危機が起こった。
もし数年後のことだったら、ドバイは恐らくすべての建設資金を回収していただろうし、現に巨大投資の大半はすでに回収している。
ナキールの目玉プロジェクトである椰子の木の形をしたパームも真ん中のモール部分を除いてはほとんど完成しているし、すでに売却済みである。
問題は世界地図の形をしたザ・ワールドとこれからが本格的な建設フェーズに入るパーム・デイラ計画などが大きく引っかかっていることである。
前ページの図にもあるように、ドバイワールドはラスベガスのカジノ「MGMミラージュ」や(ユニクロと競って競り勝った)バーニーズなどの海外資産を持っている。
またドバイ・ポーツ・ワールドは今やイギリスのP&Oを買収し、シンガポールのPSAと並ぶ港湾オペレーターの地位を確立している。
こうしたものは資産としてかなりの価値を有しており、うまく処分していけば財務諸表もそれ程ひどいことにはならないと思われる。
たまたまブラジルでの講演の行き帰りに私はドバイを経由したので、このドバイショックの翌週(12月の第1週)3日間にわたってドバイとアブダビを訪れた。
現地の巨大プロジェクトをすべて訪問し、また会社経営者とも話をする機会があった。
現場で何が起こっているのか、その様子は改めて来週紹介したいと思う。
少なくとも今言えることはAIGやリーマンのような底なし沼の状況ではないし、またUAE(七つの首長国)が結束して事に当たればそれ程大きな問題とはならない、というのが私の見立てである。
■コラム中の図表は作成元であるBBT総合研究所(BBT総研)の許諾を得て掲載しております
■コラム中の図表及び記載されている各種データは、BBT総研が信頼できると判断した各種情報源から入手したものですが、BBT総研がそれらのデータの正確性、完全性を保証するものではありません
■コラム中に掲載された見解、予測等は資料作成時点の判断であり、今後予告なしに変更されることがあります
■【図表・データに関する問合せ】 BBT総合研究所, http://www.bbt757.com/bbtri/
大前研一の「「産業突然死」時代の人生論」は、09年4月7日まで「SAFETY JAPAN」サイトにて公開して参りましたが、09年4月15日より、掲載媒体が「nikkeiBPnet」に変更になりました。今後ともよろしくお願いいたします。また、大前氏の過去の記事は、今後ともSAFETY JAPANにて購読できますので、よろしくご愛読ください。
大前研一氏の大人気コラム
「『産業突然死』時代の人生論」
が本になりました(日経BP社刊)。
ビジネスに役立つ情報や考え方の
ヒントが満載です。
お求めはこちらまで。
大前 研一(おおまえ・けんいち)
1943年、福岡県に生まれる。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号を、マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社。以来ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を務める。
2005年4月に本邦初の遠隔教育法によるMBAプログラム(ビジネスブレークスルー大学院大学)が開講、学長に就任。経営コンサルタントとしても各国で活躍しながら、日本の疲弊した政治システムの改革と真の生活者主権の国家実現のために、新しい提案・コンセプトを提供し続けている。
近著に『さらばアメリカ』(小学館)、『知の衰退からいかに脱出するか』(光文社)、『ロシア・ショック』(講談社)がある。
大前研一のホームページ:http://www.kohmae.com
ビジネスブレークスルー:http://www.bbt757.com