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http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20091203/211104/
真性デフレの大波は、価格水準自体を1980年代にまで引き戻しつつある。このままでは一握りの「勝ち組」だけが生き残り、あとは死屍累々たる風景が残るのみ。低価格を支持する消費者も、いずれはデフレの悪循環に巻き込まれる。 新宿西口店は1200人、銀座店には2000人の大行列ーー。11月21日、「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングは創業60周年の感謝セールを開始した。初日は通常1500円で販売している保温下着の「ヒートテック」を各店先着200人に限り600円で販売したほか、通常は4足で990 円の靴下を60人限定で1足10円にした。 しかも路面店を中心に約400店では午前6時という早朝に開店し、先着100人にパンと牛乳を配った。この「朝食付き」の特別セールに、東京や大阪などの各店では買い物客が未明から列をなした。東京都内の店舗にわざわざ電車で足を運び、午前5時すぎから並んだ40代の主婦は、目当ての商品が買えず、「電車代が無駄になった」と悔しがる。 「30年前より安い」居酒屋 ファーストリテイリングがフリースブームで営業利益1000億円を超えたのは、政府が「緩やかなデフレ」を認めた2001年だった。そして、再び政府がデフレ宣言をした今年、同社は過去の記録を塗り替えて、史上最高益を達成した。 価格破壊の「勝ち組」ユニクロが生み出した夜明け前の大行列は、「真性デフレ」の象徴的な光景である。 今、世の中には低価格と値下げの嵐が吹き荒れている。 「約30年前に居酒屋を出店した時よりも今の価格は安い」。業界に先駆けて270円均一の居酒屋を出店した三光マーケティングフーズの平林実社長はしみじみと語る。当時、平林社長が東京・渋谷に出していた店では、生ビールが390円、サワーが290円、料理も最低で380円だった。 同社が低価格の均一料金店を始めたのは今年5月のことだ。当初は300円均一の店を出したが、客の反応はいま一つ。そこで299円に下げ、最終的には270円に落ち着いた。これまで出してきた「月の雫」や「東方見聞録」といった店舗の多くも270円均一店に衣替えした。 低価格店の成功もあって、270円均一店に変更後、来店客数は前年同月比で20%増、売上高も10%増えた。しかし、平林社長はさらなる値下げを「検討中」だという。 デフレの脅威にさらされているのは衣料や食品などの身近な商品だけではない。長引く消費不振に、進むグローバル化と円高は、これまで低価格化が比較的緩やかだった商品やサービスまでも「値下げ」の渦に巻き込み始めた。 その1つが教育分野。「2010年は授業料の割引を検討している」。そう話すのは、静岡、愛知、山梨など東海エリアを中心に学習塾を運営する秀英予備校の友重博行・静岡第一本部本部長だ。同社では2007年から小学1年〜中学2年生の冬期講習を無料化するなど、少子化対策として短期の講習については低価格路線を取ってきた。この路線をさらに拡大し、来年は通常授業の割引にも踏み切る。 理由はリーマンショック以降の入学者の減少だ。今年1月時の入学生徒数は前年同月比で微減、新学期が始まる3月には入学者数が「かなり落ち込んだ」(友重氏)。教育費は家計の中で「聖域」とも言える分野。そこにも手をつけざるを得ない、消費者の苦しいやりくりが垣間見える。 「マークX」は約10万円値下げ これまで新型車の価格は旧モデルを上回るのが当たり前だった自動車にもデフレの波は押し寄せている。 象徴的なのが10月にトヨタ自動車が発売した新型セダン「マークX」だろう。価格は238万円からに設定。これは前モデルに比べ9万8000円安い。 1990年代後半から急激な価格下落が日常化した家電製品や衣料品などに比べて、自動車は価格を維持できていた。モデルチェンジに際しては、「性能向上や新機能の追加を考慮に入れると実質的なお買い得感は増している」として、新型モデルが旧モデルの価格より高いのが普通だった。それがマークXでは価格そのものを引き下げた。 きっかけは、今年5月に発売したハイブリッド車「プリウス」だ。プリウスはエンジン排気量が1500ccから1800ccに大型化したが、最低価格は前モデルより1割近く安い205万円に設定した。エコカー減税の効果などから、「クルマが20万〜30万円安くなれば需要が喚起されることを学んだ」(豊田章男社長)という。 ただ、プリウスの場合は、2月に登場し大ヒットしていたホンダのハイブリッド車「インサイト」に対抗することが至上命題だった。それに対し、マークXのような中型セダンはトヨタが圧倒的に強い分野。その分野でも価格を引き下げなければ、消費者の支持を得られない、との判断だ。 好調に見える業界にもデフレの影は忍び寄る。10月に米マイクロソフトが最新OS(基本ソフト)「ウィンドウズ7(セブン)」を発売したことで、久しぶりの活況に沸くパソコン業界。電子情報技術産業協会によると、10月の国内パソコン出荷台数は前年同月比21.5%増の71万6000台と急回復した。 しかし、単価が昨年比で大きく下落したため、出荷金額は全くの横ばいだ。原因は、セブン登場に合わせて各社一斉投入した「CULV」と呼ばれる製品だ。 CULVとは従来のネットブックよりも性能が高く、画面サイズが一回り大きい、ノートパソコンの新ジャンルのこと。価格は10万円前後で、5万円前後のネットブックより高いが、一般のA4判サイズのノートパソコンよりは安い。ネットブックの性能に不満を感じるユーザーの「受け皿」となり、単価向上の牽引役となるはずだった。 だがフタを開けてみると、想定とは逆の方向に市場は向かった。NECや富士通など国内メーカーが主力と位置づける、A4判ノートパソコンなどの価格帯を CULVが引き下げたのだ。「CULVはむしろ、20万円前後するパナソニックの高級機種からシェアを奪っている」と調査会社BCNの森英二アナリストは指摘する。 BCNによると、セブン搭載A4判ノートパソコンの平均価格は、10月第3週の12万8000円から11月第3週には11万2000円に急落。年末商戦で10万円を切る可能性があるという。 真性デフレの厳しい価格競争についていけない企業は、淘汰されるしかない。勝ち残るのはユニクロのような一部の勝ち組だけだろう。そうなれば、企業業績の悪化が給与の減少を呼び、さらなる消費意欲の減退を呼び起こす、デフレスパイラルに陥る可能性も出てくる。前回のデフレと違い、今回は需給ギャップの急拡大が価格下落の連鎖を呼び起こす「真性デフレ」だ。ここから抜け出すのは容易ではない。今は価格破壊を享受する消費者も、いずれその影響に苦しむことになる。 日経ビジネス 2009年12月7日号10ページより |