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財界が陣頭指揮する
「事業仕分け」
国民大多数には増税、
多国籍大企業のための
「安上がりな政府」狙う
政府の行政刷新会議は十一月十九日、二〇一〇年度予算に向けた「事業仕分け」の前半結果の報告を行った。二十四日からは、後半戦が始まっている。
鳩山政権は、連日、作業の模様をインターネットで中継するなどで、この問題に対する国民の関心をあおり、八ッ場ダムの中止宣告などに続いて、「ムダ排除」の姿勢を印象づけようとしている。
だが、鳩山政権の唱える「ムダ排除」は口実にすぎない。その狙いは、財界の願う「安上がり」で強力な政府を実現することである。
事実、御手洗・日本経団連会長は「行政の簡素化やムダの排除を通じた歳出の圧縮につながる」とほめあげているし、桜井・経済同友会代表幹事も「非常に意義があり、評価している」と絶賛している。
連合中央幹部がこれを支持しているのは当然としても、問題は、いわゆる「左」の勢力である。労働組合や活動家の中にも、マスコミを通じてたれ流される情報に幻惑され、鳩山政権に対して幻想を抱く人びとが多いようである。
確かに、「ムダ排除」は必要であろう。問題は、誰のための政策か、誰にとっての「ムダ」か、ということである。
鳩山政権の策略を見抜き、闘いに備えなければならない。
国民生活に打撃与える「仕分け」
「仕分け」作業の実態は、一事業につき、わずか一時間の審議で廃止や凍結、あるいは削減を決めるという乱暴きわまりないものである。
「仕分け」は最終判断ではないというものの、廃止・縮減とされた事業の中には、国民生活を支えている事業もある。
地方自治体にも、深刻な影響を与える。地方交付税の「抜本的な見直し」が決まったが、地方交付税は小泉改革下ですでに約五・一兆円も削減されている。「見直し」決定は、地方のさらなる疲弊(ひへい)につながるものである。農道整備事業も廃止されるが、これまた、地方に多大な影響を与えるものだ。
「仕分け」後半を控え、鳩山首相はさらなる「厳格査定」を指示している。だがそれは、生活と営業が未曾有(みぞう)の危機にある国民諸階層を、いっそうの苦境に追い込むものとなることは想像に難くない。
「安上がりな政府」狙う
鳩山首相は所信表明演説で「戦後行政の大掃除」と述べた。「仕分け」をはじめとする「ムダ排除」は、その一環である。
それは、「安上がり」で効率的、強力な国家をつくり、国際的大競争に勝ち抜くための国際政治力の強化をもくろむ、巨大金融機関を頂点とする多国籍大企業の要求に応えるものである。
とくに昨秋のリーマン・ショック以降、世界経済は激変し、「世界の成長センター」となったアジア市場をめぐる争奪はますます激化した。わが国多国籍大企業は焦りに駆られている。
しかも、わが国は政府と地方を合わせ、国内総生産(GDP)の一・七倍以上と、先進国一の累積債務を抱える。これでは、危機に対処できない。
鳩山政権はこれらの課題を解決するため、カネがかかりすぎる国家行政機構、関連組織の大改革を行おうとしているのである。
小泉政権以上の改革を狙う
「仕分け」ような手法での「ムダ排除」は、自民党政権下では不可能であった。なぜなら、自民党政権下では「政官業の癒(ゆ)着」による利権構造が温存され、多数の族議員を背景にした予算要求圧力が強かったからである。官僚も、予算が配分された特殊法人に天下ることなどを通じて利益を得ていた。
財界は、この構造を破壊することを求めた。
「聖域なき構造改革」を掲げた小泉政権は、特殊法人に資金を流す財政投融資(財投)を改革したり、道路公団民営化などの特殊法人改革を進めた。だが、小泉の基盤は自民党で、利権にひたり制度疲労していたから、限界は避けがたかった。財界が、経済財政諮問会議などを通じて強力にバックアップしてもそうであった。
鳩山政権は、この癒着を断ち切ろうとしている。
だからこそ、小泉元首相は「構造改革を忠実に継いでいるのは民主党だ」と、鳩山政権の役割を言い当てたのである。また、野党としての立場はどこへやら、谷垣・自民党総裁も「我々もしがらみを切りたいと思っても切れなかった。どこまで成果が出るか見たい気持ちもある」と述べた。
かれらは、鳩山政権の役割をよく知っているのである。
「仕分け」は増税の地ならし
「仕分け」は、鳩山政権の危機を隠してもいる。
景気悪化で来年度の税収はさらに減り、四十兆円を下回る見通しである。対して、十七日に終了した「仕分け」前半で圧縮された概算要求額は四千五百億円程度である。鳩山政権は概算要求額を三兆円程度圧縮し、九十二兆円前後とする方針のようだが、まったく足りない。
鳩山政権は来年度の新規国債発行額を四十四兆円以下に抑える方針で、高速道路無料化や子ども手当、ガソリン税の暫定税率廃止など、マニフェスト(政権公約)で掲げた項目の見直しに追い込まれた。他方で、景気の「二番底」を防ぐためにも、一定の財政出動は避けられないというジレンマにある。
いずれにしても、早晩、増税は不可避である。鳩山首相と民主党は、消費税増税について「四年間は行わない」と約束してきたが、反故(ほご)にせざるを得ないだろう。
さりとて、かれらに大企業への増税などできるはずがない。日本経団連などは、逆に法人税引き下げを強く求めている。
「仕分け」は、「これだけ削ったのだから」と、国民に増税を納得させるためのセレモニーなのである。きわめて欺まん的なものと言わねばならない。
行政刷新会議は財界の肝いり
財界は、「ムダ排除」を、単に支持しているだけではない。
行政刷新会議には、財界人である稲盛・京セラ名誉会長や茂木・キッコーマン会長が加わっている。
また、直接の作業を行う「仕分け人」には、小泉政権下で増税路線を敷いた石・元政府税制調査会会長や、総合規制改革会議委員などを務めた川本・早稲田大学教授、さらに米大手投資銀行、モルガン・スタンレーのフェルドマン経済調査部長までもが加わっている。
これは、奥田・日本経団連会長ら民間委員が陣頭指揮を執って小泉政権による改革政治の司令塔となった、経済財政諮問会議をほうふつさせる。
「仕分け」は、鳩山政権の正体をあらわにさせるものである。
鳩山政権の策略を見抜き闘おう
だが、このような鳩山政権の戦略は、制約要因に囲まれている。
民主党は参議院での単独過半数に欠け、来夏の参議院選挙までは、社民党、国民新党との連立を維持せざるを得ない。困難な生活にあえぎながら、幻想的期待を抱いた人びとが多数いることも無視できない。すでに述べた国家財政の制約もある。
それに、世界的不況の「出口」は見えず、世界は多極化し、急速で複雑な変化を見せている。わが国経済の確たる見通しが立つはずもない。
労働者・労働組合を中心とする国民運動を前進させる好機である。
「ムダ排除」をめぐっては、建設業界など、従来の自民党支持層の中での不満も高まっている。地方自治体も、交付税が削減されれば大反発しよう。消費税率の増税となれば、さらなる国民的憤激が避けがたい。普天間基地をめぐる沖縄県民の闘いは、ますます前進している。
労働者・労働組合はこうした広範な力と結びつき、財界の手先である鳩山政権の正体を見抜いて、国民諸階層の先頭で闘うことが求められている。