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ヘッジファンドの広報担当 ― A.A.
テーマ:A.A.
◎ 失敗したカラ売り
一ヶ月前あたりから日本国債が売られ、わずかな間に長期金利が1.3%程度から1.5%まで急上昇した。民主党連立政権下で大きな国債増発が必至ということが理由になっている。しかしこれに対し「民主党連立政権が成立し国債増発があることは既に8月に分かっていたことではないか」という素朴な疑問がある。
実際、本誌は09/8/10(第581号)「総選挙の国債増発」(「総選挙後の国債増発」の間違い)で、このような動きが有り得ることを予想したたつもりである。3月の底値から夏場には米国の株価がかなり戻した。またヘッジファンドから逃げていた資金もかなり戻ってきており、ヘッジファンドには資金の余裕が生まれていた。
余裕資金を持ったヘッジファンドが、次に何かを仕掛けてくるか注目されていた。考えられることの一つが日本国債のカラ売りであった。しかしこの時には外資系ヘッジファンドは日本株を買っただけであった。それまでに売り過ぎた日本株を買戻したのであった。いわゆるリバランスである。
ところがここに来て、筆者が危惧していた日本国債のカラ売りを誰かが仕掛けてきたのである。どういうわけか、このような状況になると市場関係者やエコノミストという怪しい人々が一斉に「財政の危機」を唱える。長期金利は短期間のうちに1.5%まで上昇した。
ところが今回は、1.5%に達するやいなや急激に長期金利が低下し始めた。つまり逆に国債が買われたのである。国債増発の懸念より、金融機関がよほど余剰資金の運用に困っていたのであろう。一斉に国債を買い始めたため、証券会社の国債の在庫が瞬く間になくなったのである。直に長期金利は元の1.2%台に舞い戻った。筆者はいずれ長期金利は低下するものと見ていたが、想像以上に早く急落したのである。
カラ売りを仕掛けたのはやはり外資系ファンドのようだ。OECDなどが日本の国債発行の残高が異常に多いと警告したことなどをきっかけに国債を売ったのである。
日本の国債が売られ、長期金利が上昇すると必ずマスコミは「財政危機」を喧伝し始める。「日本政府の膨大な借金はついにいくらに達し、これを一万円札し重ねると富士山の何倍になる」とか「赤ん坊を含めた日本人一人当りの借金は何百万円になる」という例の陳腐な話を持出す。
このようにヘッジファンドの思惑は今回も外れたのである。彼等は長期金利を2%、あるいはそれ以上に持って行くつもりただったのではないかと筆者は推察している。ところが1.5%の壁ではね返された。もしヘッジファンドが逃げ遅れていたなら大きな損失を抱えていることになる。
筆者には、彼等がもう一度国債のカラ売りを仕掛けてくるように思われる。カラ売りを仕掛けてくるとしたなら補正予算などの景気対策が決定する頃と思われる。その時にも、ヘッジファンドの「投機的な動き」を見ぬふりをし、日本のマスコミは「財政の危機状況を無視しての大型補正予算」といってまた騒ぎそうである。筆者は日本のマスコミや市場関係者にはヘッジファンドに繋がっている「ヤカラ」がいるのではないかと感じられる。彼等はヘッジファンドの広報を担当しているかのようである。
◎ 急激な円高
円高が急速に進んでいるので、久しぶりに為替相場を取上げる。筆者は経常収支が常に黒字の日本の円が高くなるのは、自然な流れと見ている。前にも述べたが90円くらいが長期的トレンド上の今日の数値であり、つまり今のところそれほど極端な円高にはなっていない(筆者は当然円安が好ましいと考えるが)。むしろ米ドルとほぼ同一歩調で下落している中国の人民元の動きこそが異常である。
そろそろ世界各国はこのような中国からの製品輸入を拒否することを真剣に考えるべきである(古臭い観念論者のWTOなんか何の役にも立たない)。中国はまだ失業者(特に高学歴者の就職難)を抱え苦しいと訴えている。しかし苦しいのはどの国も同じである。不思議なことに、口で言われているほど人民元に対する圧力が強くならない。筆者は、これは中国に生産拠点を移した多国籍企業が政治的に動いているからではないかと見ている。
さて経常収支の黒字を別にし、今回の円高の要因はいくつか考えられる。これらを分析することが、今後の円相場の動向を占う上で重要である。
円高と言っているが、ドバイの信用不安が表面化する前までは米ドルの独歩安(人民元も為替操作によって連れ安になっている)であった。この大きな原因は米国の金融緩和が事前の予想より長期化することがはっきりしたことである。またこれに関連し、低金利の米ドルを調達し、これを米国外に投資する動きが活発になった。いわゆる米ドルキャリー取引であり、これが米ドル安を演出してきた。数年前、機関投資家が低金利の円を調達し海外に投資していた円キャリー取引と同じ構図である。
さらにFOMCの議事録でFRBが米ドル安を容認していることが広く知られたことである。米政府高官は口では「強いドルは米国にとって利益である」と事ある毎に発言しているが、本音は違うのである。
もちろん米ドル安こそ米国経済にとってメリットがある。米ドルが10%下落すれば、何もしなくとも米国の産業の生産性はほぼ10%上昇することになる。「強いドルこそ米国の国益」なんて言葉を本気に信じていた人々は頭がおかしいのである。中国が経済的に成功したのは、1ドルが1人民元だった為替レートを1ドルが8人民元まで切下げたからである(現在1ドルが6.8人民元)。
ところが直近でドバイの信用不安が起り、強かったユーロも安くなり、とうとう円の独歩高になった。これはEUの金融機関がドバイにかなり貸付けを行っているためである。一方、日本の大手銀行のドバイの融資残高の総額は1,000億円程度と大きくはない。つまり消去法で円が買われている。
ドバイの信用不安が他の湾岸諸国に広がるという話がある。しかし多少の動揺はあるかもしれないが、筆者はそのようなことはないと思っている。サウジアラビアなんかは、政府系ファンドを持っているくらい資金的な余裕があり、信用不安を引き起す可能性は小さい。ドバイの信用不安は前から囁かれていたことであり、ドバイは特殊と筆者は考える。
しかしドバイの件が落着いても円高・米ドル安の要因は変わらない。最悪の場合、米ドルキャリー取引の巻き戻しが起るまで円高が進む可能性がある。またドバイの信用不安のような出来事がまた起れば、投機資金が動き為替相場がオーバシュートする可能性がある。
ところが藤井財務大臣は為替介入に消極的ということが知られている。したがって円は投機筋のえじきになる可能性が強い。もっとも事業仕分などの緊縮財政指向なことを一方でやっており、さらに貿易収支が黒字に転換していながら、為替介入を行うなんて国際的な協調が得られるとは思われない。
気が進まないが、来週は事業仕分けを取上げる。
― 経済コラムマガジン09/11/30/(595号)より転載
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