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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2232
(2009年11月25日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
景気後退期に卒業した人は、初任給が安いだけでは済まない(写真は今年3月にニューヨーク市立大学で開催された就職フェアの様子)〔AFPBB News〕
気後退の影響で、クリスティン・デーヴィーさん(22歳)の家族は再び一緒に暮らすことになった。
米国内のとあるリベラル・アーツ・カレッジ(教養課程中心の4年制大学)に通っていた彼女は、卒業までの1年間の大半を就職活動に費やしたが、今年5月の卒業と同時に失業者の仲間入りをしてしまった。
数千ドルの教育ローンを抱えていたため、卒業後はニュージャージー州の親元に戻るしかなかった。すると程なく、兄も実家に戻ってきた。「家賃が払えなくなるかもしれない」というのがその理由だった。
息が詰まりそうだった、とデーヴィーさんは言う。父と母も昨年失業してしまっていたからだ。
「本当に狭い家で・・・おまけに収入もないわけです。だから口げんかが絶えなくて。原因はやっぱり経済や家計のこと、教育ローンのこと、それから請求書のことでした。最初は、そんなに悪い生活じゃなかったんです。4年間の学生時代は掃除も料理も自分でやっていましたけど、ここなら母や父が手伝ってくれますから。でも、そういう時期はあっという間に終わりました」
【世界各地で増える若年失業者、経済と社会に多大な影響】
このような境遇にあるのはデーヴィーさんだけではない。今年高校や大学を卒業した2009年卒業組の若者は、米国では1930年代の大恐慌以来という厳しい景気後退の真っ只中に世の中に送り出された。20〜24歳の失業率は10月現在で15.6%。16〜19歳では27.6%という高水準に達している。
このトラウマは今の若者たちの意識を変えてしまうとの指摘がある。「新しい『ロストジェネレーション(失われた世代)』が作られている恐れがある。もしそうなら、米国経済にとって長期的に大変な事態になる」。三菱東京UFJ銀行の米国担当シニア・マクロエコノミスト、エレン・ゼントナー氏はそんな懸念を口にする。
また、これは決して米国だけの現象ではない。イングランド銀行の金融政策委員をかつて務めた労働経済学者のデビッド・ブランチフラワー氏は、やはり若年層の失業率が20%近くに達している英国についても、同じような懸念を抱いている。大陸欧州では、若年層の失業率がもっと高い国もある。
「若い頃の失業は深い傷となって残る。20歳の時に仕事がなかったという経験は、40歳になってもダメージを及ぼし続ける」とブランチフラワー氏は言う。
【ベビーブーマーの子供たち、所得が少ないのはもはや宿命】
専門家たちが特に心配しているのは、この世代の人口が多いからだ。1980年から1990年代前半にかけて生まれた彼らは、いわゆるベビーブーマーの子供たちである。親の世代にならって「エコーブーマー」と呼ばれているこの世代は数が多いために、彼らが年齢を重ねるにつれて、経済や社会に極めて大きな影響を及ぼすと考えられている。
米行政管理予算局のピーター・オルザグ局長は今月、ニューヨーク大学(NYU)に出向いて講演した。といっても、学生たちに慰めの言葉をかけに来たわけではない。彼の口から出てきたのは、次のような厳しい話だった。
ある研究によれば、失業率が高い時期に卒業・就職する人の初任給は、失業率が1ポイント上昇するたびに6%減少し、その影響は数十年間も続く。例えば、景気後退期の1982年の新卒者は1986年の新卒者と比べ、就職後20年間で得た所得が平均で10万ドル少なかった――。
オルザグ局長が学生たちに発したメッセージを、ヴァニティ・フェア誌は次のようにまとめてみせた。「オルザグからNYUの学生への贈る言葉:諸君、要するに、もうどうしようもないのだ」
卒業してすぐ就職できた若者も、労働や消費、借金、住宅購入などに対して親の世代とは異なる考え方を持つ可能性がある。一部の専門家は、その手がかりが日本にあると指摘する。日本では不動産と株式のバブルが1990年代初めに崩壊し、成長率が10年にわたって落ち込んだからだ。
【日本に見る態度の変化】
日本生産性本部が毎年行っている調査によれば、バブル期を体験していない若者世代は労働市場について保守的な見方をしている。日本は2002年から2007年にかけてまずまずの経済成長を遂げたものの、今年春の調査では、新入社員の55%が「今の会社に一生勤めようと思う」と答えたそうだ。
また、日本では官公庁やそれに近い性格の団体・企業の職員(電力・ガス会社や郵便局など)が安定した就職先として人気を集める一方、トヨタ自動車やソニーなど激しい競争にさらされている民間企業の人気がその分低下しているという。
話を米国に戻そう。前出のデーヴィーさんは幸いなことに、先週からニューヨークのPR会社に勤め始めた。しかし、これまでの体験や状況はまだ彼女に大きな影響を及ぼしている。
「ようやく仕事が決まって、肩の荷が下りた感じなんですけど、思っていたほどすんなりとはいかないみたいです。最初のお給料で何か楽しいことができればいいんですが、いろいろなローンの返済がありますからね。失業していたこの数カ月間、ずっと支えてくれた母と父にもいくらか渡したいし、車のローンや、ニューヨークに通勤する交通費とかもあります。初任給なんて、あっという間に消えちゃいますよ」
デーヴィーさんはニューヨーク市内で友人と共同生活するのが以前からの夢だそうだが、しばらくは親元から通うことにしたという。「できるだけ長く今の仕事を続けて、できるだけお金を貯めておこうと思うんです」
【景気や住宅市場を大きく左右】
エコノミストの多くは、デーヴィーさんの世代の動向に注目している。昨今の消費者ローンと支出の減少、そしてそれに伴う貯蓄の増加が長期的な傾向になるかどうか見極めようとしているのだ。デーヴィーさんや彼女の世代の若者たちがいつまで親と同居するかも、景気には大きな影響を及ぼすだろう。
米国では不況入りしてから、節約のために共同生活を始めるケースが増え、世帯数が減少している。ただ、エコノミストたちは、エコーブーマーたちが自宅を持ちたいと思い始めるのに従い、世帯数がいずれ増加に転じ、住宅市場回復の一因になると期待している。
「エコーブーマーは、これから大人になる米国史上最大の世代だ。彼らが年齢を重ねることで、住宅市場も再び活気づく公算が大きい」。ハーバード大学の研究者たちは今年、そのように分析していた。だが彼らも、エコーブーマーたちが「以前の世代より低い給与水準で働き始めたこと」を警戒している。
今の若者は、親の世代が所有する住宅の価値が急落するのを目の当たりにしてきた〔AFPBB News〕
また「ローンの審査がかなり厳しくなっているため、住宅価格がさらに激しく下落してもエコーブーマーたちは住宅の購入には至らず・・・30代、40代になっても持ち家比率は昔の世代のそれに及ばないかもしれない」とも懸念している。
住宅購入を思いとどまらせる要因は、住宅ローンの借りにくさだけではないかもしれない。何しろ今の若者の多くは、親の世代が所有する住宅の価格が急落するのを目の当たりにしてきた。「そのせいで、住宅購入はいい投資だという見方ができなくなった可能性がある」と三菱東京UFJ銀行のゼントナー氏は述べている。
デーヴィーさんは、就職に至るまでの一連の出来事は辛い思い出になるだろうが、ずっと忘れないようにしたいと話している。「この体験を、長期的な教訓にしたいんです。同じことがまた起こるかもしれませんからね」