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ダイヤモンド
――「モラトリアム法案」可決でも救われない
いまだリーマンショックの影を引きずる製造業界。中でも中小製造業の町工場が集まる大田区は青息吐息だ。しかも、ここ大田区では、公正取引委員会にも“ご注進”できないある違法行為が横行しているという。下請け町工場が抱える製造業界の闇とは――
現場に聞いてみた。
「買うのは現金、売るのは手形」
支払いサイトが5カ月、6カ月はザラ。振出日は空欄のまま――。
取引先から振り出されるこんな手形に、大田区の町工場が悲鳴を上げている。
資金回収に時間のかかる製造業では、とくに一般的に利用されている約束手形。ちなみに約束手形とは、発注側である手形の振出人が、下請け会社、つまり手形の受取人に対し、指定した期日に代金を支払う約束をする有価証券のことだ。
下請け会社の方も原材料費や外注費を支払わなければならないため、多くの場合は、期日前に銀行から手形を担保に借金をすることになる。
ただしこの際、あらかじめ利息分が割り引かれた金額しか入ってこない。資金繰りに苦労している中小・零細企業にとって、期日を待てば金が足りず、割引すれば損をする。どっちにしても火の車というわけだ。
電子部品設計・製造会社を経営するAさんはこう明かす。
「大きな仕事が入ってくるとありがたい半面、頭を抱えちゃうんですよ。なにしろ、動くお金が大きいでしょ。おまけに製品を全部納めないうちは、代金は払ってもらえない。その間、あたしの方は外注費を払わなくちゃいけないわけですよ」
しかし、ようやく納品したと思ったら発注会社は“手形払い”である。
「買うのは現金、売るのは手形。いや正直、本当に苦しいですよ」
「当局にご注進」できないワケ
公正取引委員会では、下請け代金の手形サイトを「原則120日以内」と指導しており、それ以上の手形は「割引困難」な手形としている。しかし、ここ大田区では、そうした指導などまるで無視した商慣習がまかり通っているのだ。
そればかりか、手形の振出日が空欄になっている「白地手形」を振り出す企業もある。振出日を記載していなければ、第三者にはサイトの期間がわからない。後々の面倒を恐れての策なのだろうか――。
「手形は勘弁してください、って親会社(発注会社)に言うとさ、『じゃあ、もっと値下げしてよ』と、こうだもん」とバルブ製造業のBさん。
問題はそればかりではない。
町工場の経営者たちが恐れる「赤伝」もそのひとつ。正式には「赤字伝票」といい、処理済みの伝票を取り消すために切る。親会社の中には、納期の遅れなどに対しペナルティを課すときにこれを使うところがあるという。赤伝には清算の総額しか記入されていないことがあり、その場合ペナルティの細かな内容はわからないことが多い。一方的に法外な値引きを要求され、泣き寝入りするケースもある。
「だけどなあ、こういうことを当局にご注進すると明日がないからねえ」(Bさん)
実際、“当局にご注進する”下請け会社はごくまれのようだ。
現在、独占禁止法では下請け会社いじめを防止する「下請法」が特別法として制定されている。しかし、下請法に違反しているとして、公正取引委員会から勧告を受けた企業は少なく、昨年度は全国で15件のみ。それでも2004年の改正下請法施行以降、最多という。
非鉄金属加工業のCさんは、次のように説明してくれた。
「公正取引委員会から調査用紙が送られてきても、本当のことは何1つ書けないんですよ。絶対に親会社さんにバレちゃうから。民主党政権は下請法を強化した『中小企業いじめ防止法』をあらたに制定するっていうけど、意味ないと思うよ。それより検査官が直接、手形をチェックして、サイトの長いものや白地手形を摘発してくれたら……」
使えば工場が潰れる?!
「モラトリアム法案」
いくら道路交通法を整備しても、取り締まりをする巡査がいなかったら、世の中はめちゃめちゃだ。道路という道路は違反車で溢れ、日々大勢の死者が出ることだろう。中小企業いじめ防止法や下請法においても同様である。実際、大田区内の工場数は2005年、4778件。ピーク時の1983年(9190件)の半数ほどに減っている。
チェック機能やサポート体制のない法律など、何の役にも立たない――
町工場の経営者たちは、19日に可決された、債務返済を猶予しやすくする「中小企業金融円滑化法案」、いわゆるモラトリアム法案についても懐疑的だ。
「返済期限の猶予を謳ってるけど、こんな法律を使ったら後が怖いよ。格付けが下がって、2度と貸してくれなくなるね。金融機関は実施状況を当局に報告することが義務付けられているそうだけど、その後の借り手の状況は誰がチェックするんだよ」(Bさん)
「この法案についてのメインバンクの方針?そんなの怖くて聞けないですよ」(ゴム・プラスチック加工業Eさん)
ちなみに、大田区内の信用金庫に取材を申し込んでみたが、「法案が固まらないうちは公式なコメントは控えたい」とのことだった。突然目の前に置かれたパンドラの箱をいったい誰が開けるのか――銀行も借り手も互いに疑心暗鬼に陥っている。このままでは、結局箱のふたが開けられることはないのかもしれない。
「昔のバンカーは、リスクを背負ってでも企業を育ててくれたもんです。でも、今じゃ少しでも危ない橋はけっして渡ろうとしないですからね……」。板金加工業会社を経営するFさんは力なくぼやいた。
場合によっては「廃業」も…
グローバル化による産業空洞化、原材料の高騰、ITの普及による価格競争激化。弱り目にたたり目の大田区製造業者たちだが、けっしてやられっぱなしではない。
試みのひとつが「仲間まわし」、別名「ちゃりんこネットワーク」だ。切削業者から穴あけ業者、研磨業者へ、といった具合に、ひとつの工場から別の工場へ工程を回し、製品を納品できるネットワークを作っている。いわば町全体をひとつの工場にするシステムだ。
また、大田区内の「共同受発注会 メイドイン大田」は、区内の業者が互いの知恵と技術とネットワーク力を結集し、共同で新商品を提案、受注、開発するグループ。「大田区のことは大田区で解決する」をモットーに、中小製造業者たちが力を合わせて“脱下請け”を果たしてゆく。
だが、それでも経営はなかなか楽にならない。廃業や、将来を見据えての業態転換を図る企業も続出している。
「今後の展開については、かなり厳しく捉えています。コスト削減も限界です。M&A、転業など、あらゆることを対象として情報を収集しています。場合によっては廃業するしかないでしょう」(化学製品製造・販売業Gさん)
「東アジアの途上国は、マンパワーを武器に当分は大幅な成長軌道に乗ると思います。その点、日本の製造業の伸びしろは大きくはない。これからが転換期と言えるでしょう。新製品や新技術の開発はもちろんですが、業態転換をして生きる術も模索しなければ」(プラスチック加工・販売業Hさん)
モラトリアムより
「再チャレンジの機会」を――
ではいったい、大田区が復活を果たすにはどんな法整備が必要なのか。町工場経営者に聞いてみた。
「怖いのは手形の不渡り。中小企業金融円滑化法も、『取引先が倒産した場合に限って3年間、返済を猶予する』といった具合に部分的に適用してほしい。連鎖倒産から守ってほしい」(Aさん)
「信用保証協会の保証料率が高すぎる。もっと減らしてほしい」(Dさん)
「大企業には銀行が、中小企業には公的機関、たとえば郵便局が融資する、といった具合に、金融機関のすみ分けをしてほしい。立場の弱い企業こそ、国が前面に出て守るべきでは」(Cさん)
さらに、メッキ・表面処理業のIさんはこんな思いを明かしてくれた。
「たとえ倒産しても、再チャレンジができたら。『中小企業カムバック支援法』のような法律を作っては。倒れても立ち上がれる勇気とチャンスを与えてほしいんです」
2005年4月、金額や期限に上限を設けず、個人が債務を保証する『包括根保証制度』が廃止された。自己破産や自殺に追い込まれる経営者や連帯保証人が後を絶たず、悪評の高かかったこの制度。極度額(保証する金額の上限)を書面で交わすこととなり、3年、または5年以内に発生した債務のみ保証することとなった。ただし、極度額の基準はなく、対象はあくまで個人。会社が保証人となる場合は適用されない。
もう一段進んだ法整備があればもっと頑張れるはずだ、とIさんは言う。
10月10日〜11日、大田区産業プラザで開催された「おおた商い観光展2009」では、子どもたちが熱心にカラフルな絵を描いている姿が見られた。小さな手に握られていたのは、世界初の視覚障害者向け触図筆ペン「みつろうくん」だ。インクがわりのみつろう粘土は、溶けやすく乾きやすい。描いた部分を触って確かめることができ、はがして描き直すのも簡単。線の太さも自在だ。
開発したのは、区内で機械・電気設計や加工組立などを行う、安久工機の田中隆代表取締役社長。開発費用は約600万円。大田区の助成金や経済産業省の補助金でまかなった。
これまでにも人工心臓や血液循環シミュレーターなど、最先端の装置を数々発明してきた田中社長。開発への思いを熱く語りながらも「やりたいことに挑戦するには、当然ながらお金がなくては」と話す。行政側の助成・補助金制度の拡充、さらに申請や応募の際の細やかな指導があれば、町工場のチャレンジ力をもっと引き出せるはず、とも。
「大田区でポンチ絵(図面)を紙飛行機にして飛ばせば、翌日には見事な製品が出来上がる」
そう称えられるものづくり技術の集積地、大田区。この町の空を再び紙飛行機が軽快に飛び交うためには、モラトリアムよりもチャレンジの機会こそが必要なのかもしれない。