★阿修羅♪ > 国家破産65 > 889.html ★阿修羅♪ |
|
Tweet |
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2108
(2009年11月7/8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
大半の投資家は、「それ」が存在することに異論をはさまない。ただ、「それ」がどの程度大きいのか、どの程度警戒すべきなのかは、あまりはっきりしていない。
ここで言う問題の「それ」とは、ドル・キャリートレードのこと。最近非常に大きな利益が上がるようになり、その結果、人気もうなぎ登りの投資戦略である。
【にわかに人気が高まる投資戦略】
米国の超低金利政策を受けて、ドルがキャリートレードの調達通貨になった〔AFPBB News〕
仕組みは至ってシンプルだ。ヘッジファンドをはじめとする投資家はまず、ドル資金を短期で借り入れ、市場で示されている低い金利を支払う。
そして、その資金で利回りの高い資産を購入する。投資対象は、金利水準がドルより高い外国通貨や、原油、コモディティー(商品)、新興国の株式や債券、企業のエクイティや債権など多岐にわたる。
この戦略には、利益を生み出す源泉が2つある。1つは、購入した資産が生み出す利息や値上がり益。もう1つは、資金を借り入れた通貨の相場変動によって得られる利益だ。
ドル・キャリートレードはまた、借り入れ通貨であるドルの価値にも影響を及ぼし得る。例えばブラジル株を買うためには、借り入れたドルを売らなければならないからだ。
キャリートレードという手法は以前から多用されている。かつてはドルではなく、金利の低い日本円を借りるパターンが何年も用いられた。しかし昨年の金融危機の真っ只中に円相場が上昇し、変動が激しくなると、円キャリートレードの「巻き戻し」によるポジション解消が相次ぎ、数多くの市場に連鎖反応が及ぶことになった。
【「巻き戻し」に警鐘を鳴らすルービニ教授】
11月に入って、ドル・キャリートレードを巡る議論に火がついた。火つけ役は米ニューヨーク大学スターン経営大学院のヌリエル・ルービニ教授である。教授は11月2日付の本紙(英フィナンシャル・タイムズ)への寄稿文*1で、ドルを市場から低利で借りられることがリスク資産のバブルを煽っていると指摘したのだ。
この寄稿文はFT.comで、この週最も読まれた記事の1つになった。
「容易に借りられる資金と世界的な過剰流動性が資産価格をもうしばらく押し上げる可能性があるため、(ドル・キャリートレードの解消は)まだしばらく起きないかもしれない」。ルービニ教授はそう論じたうえで、次のように指摘している。
「しかし、キャリートレードが大規模に行われれば行われるほど、その期間が長ければ長いほど、そして資産バブルが膨らめば膨らむほど、その後にやってくる資産バブルの崩壊は大規模なものになる。(米連邦準備理事会=FRB)やその他の政策当局は、自分たちがモンスターバブルを作り出しつつあることに気づいていないように見える。彼らの気づきが遅れれば遅れるほど、その後の相場下落は激しいものになるだろう」
【キャリートレードが盛んになるほど、後のバブル崩壊は大きくなる】
教授のこの議論には批判も多い。とりわけ強く反発しているのは、株式やその他の資産にはまだ値上がり余地があると信じている数多くの投資家たちである。彼らは、確かに資産は急騰したが、だからと言ってバブルだとは限らないと主張している。
例えばスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)500種株価指数は今年3月の安値から60%近く上昇したが、現在の水準は1年前とさほど変わらないうえ、2007年10月に記録した最高値をまだ30%超下回っている、というわけだ。
だが、投資家たちの賭け方がますます似通ったものになりつつあるという証拠がある。
マクロ・リスク・アドバイザーズのディーン・カーナット社長は、資産価格の相関係数が大きくなってきたと指摘している。相関係数とは、異なる資産の価格がどの程度連動しているかを表す指標のこと。
例えば、ドル相場と様々な資産(債券のスプレッド、新興国市場の債券、原油、S&P500種株価指数など)との相関係数は、今年1月から9月までは0.3前後だったのに対し、9月と10月は0.5を超えたという。「私が見る限り、この現象は、すべての資産価格が大規模なドル・キャリートレードによって押し上げられていることを示している」とカーナット氏。
同氏はまた、ほかのキャリートレードの巻き戻しを観察して得られた最大の教訓は、巻き戻しがあっという間に終わり得ることだと述べている。だが、円キャリートレードの時もそうだったように、ほかの投資と比べると、この戦略がどれぐらいの規模で実行されているか把握するのは困難だ。
ここで、大局的な視点から事態を眺めることが重要になる。ドルからその他の資産(例えばブラジル株)に資金をシフトさせているのは、短期的な利益だけを狙う投資家ばかりではない。富裕層の個人が保有するミューチュアルファンドからの資金フローも急増しており、今年は記録的な水準に達している。
「もし米国の金利が大幅に上昇してドルの借り入れコストが相当高くなっても、この種の資金の流れは恐らく変わらないだろう」。JPモルガン・チェースの富裕層向け資産運用事業の1つ、JPモルガン・グローバル・アクセス・ポートフォリオでCIO(最高投資責任者)を務めるリチャード・マディガン氏はこう見ている。
【戦略的なドル離れは変わらない?】
「キャリートレードは戦術的な投資であり、資金調達の源泉が非常に大きな意味を持つ。低コストで調達できることと、調達通貨が比較的安定していることが重要だ・・・米国の場合、個人投資家にとっても機関投資家にとっても、これまでの外国への投資はかなりの程度戦略的なものだと私は考えている」
ドル・キャリートレードが利益の上がらない戦術に変わってしまう理由があるならば(例えば米国の金利や債券利回りの上昇など)、今後のカギを握るのは、タイプの異なる投資家間の相互作用だろう。
「最近の市場の上昇は、相場の勢いに乗ろうとするモメンタムトレーダーやプロのトレーダーが演出してきたものであり、多くの投資家はこれが持続可能ではないと考えている」。投資戦略の分析を手がけるクリエイト・リサーチのCEO(最高経営責任者)、アミン・ラジャン氏はこう語る。
同氏によれば、いわゆる長期投資家はまだ多額の投資資金を現金で持ち続けており、株式その他の資産には投資していない。
「本当に怖いのは、彼らが怖じ気づく時だ。今後の相場展開は、『バイ・アンド・ホールド』の長期投資家が市場に投じる資金を増やすようになる頃までキャリートレードが持続するか否かに大きく左右される」
By Aline van Duyn