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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2022
(2009年10月26日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
中央銀行はバブルを破裂させるべきか否かという論争があったことを、読者は覚えているだろうか。この問いを持ち出すだけで罵倒されることがあったのは、決して遠い昔の話ではない。
今日では、バブルを破裂させてもよいかという問題は行儀よく語り合うのに相応しいテーマだと思われるが、バブルが発生したら何をすべきか、あるいはどうやって破裂させるべきかという点については、まだ合意が形成されているわけではない。
【金融市場の一部でバブルが生まれつつある今こそ必要な議論】
*今またバブルが発生しつつある〔AFPBB News〕
既に金融市場の一部ではバブルが形成されつつあることから、今こそこの問題について詳しく考えてみる必要があるだろう。
筆者が先週のコラム、「既に秒読みが始まった『次の危機』」で論じたように、バブルが頻繁に発生するようになった根深い原因はいくつかあり、中には容易に取り除けないものもある。金融セクターの規模、「大きすぎて潰せない」問題、銀行が再び強めているリスクを取る意欲などがその主なところだ。
政府はこうした原因にまだ手をつけていない。中央銀行もこれを治療しようとはしないだろうが、中央銀行はいくつかの症状に対処する能力を持っている。実はこの症状が重要だ。
一部のエコノミストは、合理的期待形成という名の心地よい世界を手放したくないらしく、いまだに、中央銀行が(というより、誰であっても)バブルの発生を認識するのは不可能だと言い続けている。全くおかしな話である。
住宅を例にとって考えれば分かるように、家賃や所得に対する住宅価格の比率、販売戸数、住宅ローンの統計などを見れば、バブルを認識するのに必要な知識はすべて手に入る。中央銀行にとって、住宅バブルが生じているという判断を下すことよりも易しい仕事は、ほとんどないと言ってもいい。
バブル潰し反対論の根拠として最も古くから使われているのは、短期金利を操作するだけの金融政策では、消費者物価と資産価格の両方ににらみを利かすことはできないというものである。だが、これは論じるまでもないほど正しい一方で、誤解を招きかねない主張でもある。
中央銀行は、既に実施している金融政策の手段をより柔軟に運用することができるし、同時に新しい手段を導入することもできるからだ。本稿では、この原則に基づいて4つほど提案をしたいと思う。
【金融政策でバブルを潰す4つの提案】
*住宅バブルは発生が分かりやすいし対策も可能〔AFPBB News〕
第1の提案は、「中央銀行は、可能であれば代替的な手段を活用せよ」である。これは、いつでも実施できることではないだろう。しかし可能である場合、例えば住宅市場については、市場の状況に応じて担保掛け目(LTV)の上限を上下させることが考えられるだろう。
住宅バブルはほぼ常に信用(住宅ローン)の供与が原動力になって膨らむため、景気循環に逆行するようにLTVの上限を操作すれば、リスクの高い住宅ローンの実行を促進したり抑制したりできる。
操作を担当するのは米国なら地区連銀、ユーロ圏なら加盟各国の中央銀行が適当だろう。住宅バブルは米国なら西海岸や東海岸、ユーロ圏ならスペインやアイルランドといった、比較的狭い範囲内で生じる地域的な現象である場合が多いからだ。
第2の提案は、「中央銀行は、金融政策について既に認められている裁量を活用すべき」ということである。理想的な世界では、1つの政策手段は1つの目標に向かって講じられるべきだが、我々が住んでいるのは理想的な世界ではない。中央銀行は今後、資産価格の動向も考慮に入れた物価の安定を目指す技術を会得する必要があるだろう。
具体的に言うなら、政策金利を決める時に、物価の安定という定義に沿った金利の最低値を「反射的に」選択してはならない。バブルが発生していたら、物価の安定という観点から導かれる金利よりも高い水準に政策金利を設定すべき、ということだ。
後知恵ではあるが、もし各国の中央銀行が2003〜04年にあれほど積極的な利下げを行っていなくても、どのみちバブルは発生していただろう。しかし、もっと小さなものにとどまっていた可能性は高い。
第3の提案は、「中央銀行は、モデルをベースにした経済分析に金融動向の分析もつけ加えるべき」という点である。中央銀行が利用している景気予測モデルは、金融面のショックやバブルの影響を拾うことがないように作られている。しかし、金融の不安定性が居座っているこの世界では、そのようなモデルは百害あって一利なしだ。
金融市場の状況や資金の流れの分析を行えば、今や役に立たなくなってしまったモデルを補強することぐらいはできるだろう。
【各国の中央銀行が連携すれば市場に強いメッセージが伝わる】
最後の提案は、「各国の中央銀行は互いに協調しなければならない」というものだ。どの中央銀行も自国の物価を安定させる手段を備えているが、資産価格(特に株価と住宅価格)の多くは、世界規模で連動していることが多い。従って、中小規模の国の中央銀行が、国内で発生した株式バブルの破裂を試みるのは理にかなったことではない。
*もし世界の3大中央銀行がインテル、BMW、トヨタ自動車の株を空売りしたら・・・〔AFPBB News〕
しかし、各国の中央銀行が一緒に行動すれば、強いメッセージを市場に発することができる。もし世界の3大中央銀行が揃ってインテル、BMW、トヨタ自動車の株を空売りしたらどうなるか、想像してみればいい。
以上の提案で金融の不安定性が解決できるわけではないことは、筆者も十分承知している。金融セクターの徹底的な改革が伴わなければ、何をやっても解決は望めないだろう。
しかしそれでも、上記の提案は火消しの道具として役に立つかもしれない。この問題がいずれ自然と消え去るかのような「ふり」をするくらいなら、この提案の1つでも2つでも、試してみた方がよいのではないだろうか。
グローバル株式市場と債券市場、そして一部の商品市場では既に新たなバブルが発生しているのではないか、と筆者は強く疑っている。いずれのバブルも、世界経済が直近のバブルの崩壊から立ち直る前に、弾けてしまう可能性がある。中央銀行は、新しいバブルが大惨事を招く前にこれらを破裂させるべきである。
今はまだ、バブル抑制の戦略を実行する時期ではないのかもしれない。しかし、今のうちにそのような戦略をまとめておく必要があることは間違いない。