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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/1957
2009年10月19日(Mon)
松原 怜 Rei Matsubara
在ニューヨーク経済ジャーナリスト
10月14日のニューヨーク株式市場は活況に沸いた。
ダウ工業株30種平均は約1年ぶりに1万ドルの大台を回復した〔AFPBB News〕
米銀大手JPモルガン・チェースが発表した7〜9月期決算は、純利益が前年同期比7倍増。前日に、半導体世界最大手のインテルが年末に掛けての増収予想を公表したことも重なり、買い材料に飢えていた投資家は十二分に刺激された。ダウ工業株30種平均は金融危機の嵐が吹き荒れた2008年10月以来、丸1年ぶりに1万ドルの大台を回復した。
当日は、S&P500種をはじめとする主要な株価指標が軒並み年初来高値を更新。とりわけ、ナスダック総合指数は、3月9日に付けた今年の底値(1268.64)に比べると、7カ月間で71.2%も急騰したことになる。金塊相場は1オンス=1100ドルという未踏の高値を目前にし、原油先物は1年ぶりに1バレル=75ドルを突破。市場は明らかに過熱している。
【危機対応が招いた新たなバブル】
世界的な低金利政策でカネ余り現象が起こっている〔AFPBB News〕
その背景にあるのは「カネ余り」だ。金融危機対応のため、主要国政府・中央銀行は昨年秋、一斉に低金利政策と大量流動性供給に踏み切った。市中のマネーはジャブジャブだ。既に最悪期は抜け出したものの、平時の政策に立ち戻るための「出口戦略」への切り替えのタイミングを計りかねている。その間隙をついて、マーケットは、躊躇することなく利益追求に走り始めている。
「典型的なドルキャリーだ。今それをやらない理由がない」。為替ディーラーの説明は単純明快だ。連邦公開市場委員会(FOMC)声明や連邦準備制度理事会(FRB)幹部の発言を信じるならば、昨年末に導入された実質ゼロ金利政策に当面変更はない。ドルを売って得た資金を、株や商品投資に充てる図式はすっかり定着した。
このため、ドル相場は夏以降、ほぼ一貫して下落基調だ。対円で見ると、8月初旬に1ドル=98円近くまで上昇したドル相場は一転。その後の2カ月間で88円台まで売られた。資金の逃避先だったドルの魅力が急速に色褪せているのは、機関投資家が「攻め」に転じたから。新たなバブルはじわじわと膨れ始めている。
【「人の死」は安全確実な投資対象?】
証券化市場も再び動き出している。もっとも、危機の引き金となったサブプライムローン関連商品には、さすがに懲りたようだ。「もっと確実にリターンが得られる投資商品はないか」――。欲深い投資家の探し当てた答えの1つが、生命保険契約の証券化だ。
米国では、個人加入の生保契約を第三者に売却することが認められている。個人の金融資産なのだから当然と言えば当然だが、投資家にとっては、元の契約者が死亡したり、高度障害を抱えた時に大きなリターンが得られるだけに、保険金殺人などの犯罪行為につながる恐れがある。
モラルハザードを引き起こしかねない動きを感じ取り、1面トップ(9月6日付)でウォール街を批判した米紙ニューヨーク・タイムズの記事を借りて、生保契約証券化の仕組みを見てみよう。
ついに、人の死まで投資対象に! 人は必ず死ぬから安全確実?〔AFPBB News〕
72歳男性が保険金200万ドル(約1億8000万円)の生保契約を保有している。年間保険料は5万ドルだ。男性は現金がほしいが、解約した場合の返戻金は5万8000ドルにしかならない。ところが、生保買い取り会社に契約を売れば、代金として返戻金の4倍近い21万5000ドルを得られる。
そこで男性は生保契約を買い取り会社に売却。買い取り会社は契約者本人に代わって保険料を払い続ける。余命が5年なら、支払い保険料は総額25万ドルだ。契約者がその時点で死亡し、保険金が満額(200万ドル)支払われれば、買い取り会社は差し引き約150万ドルの利益を手にする。
こうして売買された生保契約を多数束ねて証券化商品に仕立てる。医学の進歩などで余命が延びれば、保険契約期間中に契約者が死亡せず、保険金が下りないケースもある。だが、ファンド筋に言わせれば「経済情勢とは無関係に人は死ぬ。複数の契約を一本化するから保険金殺人が発生する可能性も低く、投資家にとっては確実なリターンが見込める手堅い商品」なのだそうだ。
【年末商戦、今年も不振か】
個人消費は冷え切ったまま〔AFPBB News〕
「人の死」をも投資対象とする貪欲なマネーゲームの復活と、低迷する実体経済との間には、埋められない温度差がある。
9月の米雇用統計では、失業率は9.8%と約26年ぶりの高水準になった。非農業部門就業者数も前月比26万3000人減と雇用減少が続いている。解雇の不安を抱えた家計は萎縮し、個人消費の急回復は望み薄だ。
さらに、一部のエコノミストは、長引く不況で商業用不動産の価格が一段と下落していることに警鐘を鳴らしている。商業用不動産ローンを担保にした証券(CMBS)の価値急落が「第2のサブプライム問題を引き起こす」との悲観論まである。
ただ、CMBSの損失処理は、金融当局が目を光らせている大手金融機関では手当て済みとの見方が大勢。処理が遅れているのは、長期保有を理由にCMBSの時価評価を見送ってきた保険会社や中堅・中小金融機関で、それらが万一破綻した場合のマグニチュードを本気で心配する向きは少ない。
むしろ深刻なのは、商業用不動産の典型とされる大規模ショッピングモールのテナント閉店が相次ぎ、空室率が上昇していることだ。モール運営会社などへの銀行融資が焦げ付くだけでなく、買い物の場が失われることが問題なのだ。
【クリスマス需要の先取り? おもちゃの10ドルセールを始めたウォルマート】〔AFPBB News〕
米国ではGDPの約7割を個人消費が占める。年末に掛けて書き入れ時を迎える小売業界にあって、消費者がお金を使う場所が減るのは由々しき事態。全米小売業協会(NRF)は、今年の年末商戦(11〜12月)売上高が、調査開始以来初めて前年割れした昨年実績をさらに1%下回ると予想する。
先手を打って、小売業世界最大手のウォルマート・ストアーズは、人気のおもちゃ100品以上を10ドル均一で販売するセールを始めた。クリスマスのプレゼント需要を早めに刺激するのが狙いだが、年末が近づくと出費がかさみ、財布のひもが締まることに備えた作戦でもある。
全米企業エコノミスト協会(NABE)は10月12日、2007年12月から始まった景気後退が終結したと判断した。だが、景気の底打ち感や反発力は感じられず、マネーゲームに興じる市場との距離感は広がる一方だ。そんなアンバランスを抱えたまま、米経済は今年の最終コーナーである第4四半期(10〜12月期)に入った。