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田中 宇  目立たず起きていた「反乱の夏」  2009年9月16日   
http://www.asyura2.com/09/hasan64/msg/580.html
投稿者 新世紀人 日時 2009 年 9 月 18 日 16:39:19: uj2zhYZWUUp16
 

http://tanakanews.com/090916rage.htm

目立たず起きていた「反乱の夏」

2009年9月16日  田中 宇

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 9月12日、米国の首都ワシントンDCに、前代未聞の100万人規模の人々が集まり、オバマ政権による財政規模の急拡大や政府権限の肥大化、これから起こりそうな増税に反対してデモ行進し、国会議事堂やホワイトハウスの周辺を人々が埋め尽くした。(9/12 Taxpayer Tea Party March on Washington, DC)

 この集会(912DC)の規模について、ニューヨークタイムスは「数万人」と報じ、この日オバマ大統領が訪問したミネソタ州でオバマ支持のために集まった人々の数と同規模だと報じた。半面、主催者や参加者は、100万から200万人が参加したと述べており、参加者の規模に大きな開きがある。警察は、参加者の数を発表していない。(Today's DC Obama protest crowd over a million)(Medicare Protests builds on anti-tax, anti-spending sentiment)

 集会参加者が撮影したいくつものYouTube動画などを見ると、どうみても「数千」や「数万」の規模ではなく、少なくとも数十万人は集まっている感じだ。ニューヨークタイムスの記事にも「群衆がホワイトハウス前の芝生の広場を埋め尽くし、オバマ大統領就任以来最大の反オバマ集会が開かれた」とは書かれている。(Thousands Rally in Capital to Protest Big Government)(09.12.09 March on Washington - March to Capitol Hill)(9-12 March on DC - Press Stand CRASH - raw footage)(9/12 Protest Washington DC Time Lapse Footage 0800 - 1130)

 ニューヨークタイムスなどの米マスコミは、オバマ政権におもねり、集会の参加者数を実態よりはるかに少な目に報じていると、ウェブログなどで指摘されている。この912DC集会は、右派系の小さな政府論者の組織が呼びかけて開かれており、共和党の国会議員も参加している。そのため、共和党系のウォールストリート・ジャーナルも、NYタイムスの過小報道を批判した。(NY Times Buries Massive Conservative D.C. Rally, Hails Smaller Liberal Protests)

 ワシントンDCの公園を管理している米政府の国立公園局は、912DCの集会は、これまでにDCで開かれたイベントの中で最大の規模であると「史上最大の集会」だったことを認めている。ワシントンDCで開かれた歴史的な大集会として知られるものに、1963年8月のキング牧師の「I Have a Dream」の演説会があるが、あの時に集まった人々は20万人だった。今回の912DC集会は、それをはるかに上回っている。(National Park Service Admits 9/12 Demo Largest On Record)(Mainstream Media Cover-Up Implodes As World Discovers Millions Marched In DC)

▼小さな政府運動の拡大

 912DC集会の呼びかけたのは、政府財政規模の拡大や増税に反対する「小さな政府」主義を掲げる右派・共和党系の諸団体であり「912dc.org」というウェブサイトを作っている。集会では、銃規制反対や、オバマが計画している健康保険改革(健康保険の政府化)への反対、「地球温暖化」対策としての産業規制(キャップ&トレード)への反対なども掲げられている。

 日本の反政府集会は左派が中心で「日の丸君が代反対」「反愛国・反国家」とつながることが多いが、米国では逆に「政府は民意を代表する愛国者のふりをして、金融界など一部の勢力に牛耳られている」と主張する「愛国者こそ反政府」の流れがある。912集会では米国旗があふれ、愛国的な歌やスローガンがさかんに叫ばれた。米国の独立と自由を象徴する、黄色地にとぐろを巻くヘビが描かれた独立戦争時代からの米軍旗(ガズデン旗 Gadsden flag)も多く掲げられた。(Conservative anti-government protesters appropriate historic US flag)

 集会の主催は右派系だが、オバマ政権が金融救済のために巨額の財政出動を行い、金融界は救われて株価は上がっているものの、失業は上昇傾向が続き、住宅ローン破綻も増えて、実際の景気に回復感が全くないことに怒っているリベラル・左派系の人々、オバマのアフガニスタン増派やイラク占領の長期化に反対する反戦系の人々も参加し、超党派での反オバマ大集会となった。

 912集会は、米政府財政の肥大化や、金融界による米政府支配に反対する運動として今春から始まった「ボストン茶会」運動の流れをくんでいる。この運動は、金融救済策や増税に反対する人々が公園や住民集会所に集まる形式で始まり、初夏以降は、米政府が掲げる健康保険改革について国会議員が住民に説明する住民集会(タウンホール・ミーティング)で、住民が議員を詰問する形式へと拡大し、そして今回、912の100万人集会に結びついた。(世界がドルを棄てた日(3))

 住民集会での議員に対する詰問は、一部の過激派だけの言動ではない。たとえば、民主党国会議員がオバマの健康保険改革を住民に説明するために、8月4日にメリーランド州の人口360人の地区の学校を借りて開かれた住民集会では、事前予測では20−30人の参加と思われていたものが、住民の大半である250人も参加し、今の制度をむしろ悪化させる健康保険改革や、財政赤字の急拡大、燃料費などの値上げを招く「地球温暖化」対策などの政策を批判する発言が相次いだ。(A Town Hall Protest in Maryland)

 8月の議会の夏休み期間中に、議員が地元に戻って開いた国政報告集会では、各地で人々が会場に入りきれないほどやってきて、議員を詰問し、いくつかの地域では乱闘になって逮捕者も出た。(Has the Tipping Point Been Reached?)(Two town halls turn into near-riots)

 米国では、左翼や右翼だけでなく、国民の多くが政府の財政金融などの政策に対して怒っている。日本では、日銀の金融政策に反対する人々が何万人も集まることは考えられず、金融は「専門家」(業界の身内)のみが公的な場での発言を許されるが、米国民は国家運営が自分のこととつながっていると思っているので、多くの人がバーナンキのドル過剰発行に反対して政治運動を起こしている。

(同時に、黒人のオバマを嫌悪する白人優勢論者や、反政府の武装闘争を標榜する極右勢力も勢いづいており、米国では武器の販売が過去最高になっている)(Study: Militancy on the rise in US)

▼信用を失うマスコミ

 912集会についてホワイトハウスは「政府の健康保険改革に反対する人々は少数派であり、国民の主流の意見を代表していない」と表明した。しかし今回、DCに史上最大の群衆が集まって健康保険改革を含む政策に反対したことや、8月の各地の住民集会での住民による政府批判の発露からは、今や米国民の主流はオバマの政策に反対していることが感じられる。(A New Silent Majority? White House Says Health Care Protesters Not in Mainstream)

 米政府はそのことを知っているからこそ、NYタイムスなどマスコミに912集会の参加者数をわざと少な目に報道させ、あたかも米国民が今もオバマの政策を支持しているかのように見せている。

 米国民は、政府とぐるになってプロパガンダ機関と化しているマスコミに対しても不信感を募らせており、最近の世論調査によると、米国民の3分の2は、マスコミはよくウソを報じると思っている。1985年には、マスコミはおおむね事実を報じていると考える人が米国民の55%だったが、この比率は99年には37%となり、今では29%しかいない。米国では、不況を受けて多くの新聞が倒産寸前だが、米国民の中には「当然の報いだ」という思いが強い。この傾向は日本でも同様だ。(Poll: News media's credibility plunges to new low)

 米国と同様に英国でも、国民の間に反政府感情が高まっている。英国では、事態はまだ米国のように顕在化していない。だが、英国の労働組合の連合会(TUC)は最近「英政府が財政による経済テコ入れをやめたら失業が増加して400万人を超え、国民の不満が高まって暴動が起きる」と発表した。米国と並んで金融危機が水面下で悪化している英国では、金融救済費などで政府の財政赤字が急増しており、これ以上景気対策に公費を使えないところまできている。(TUC fears risk of riots as jobless total rises)

 私は今年2月に「世界的な反乱の夏になる?」という記事を書いた。「反乱の夏」(summer of rage)は、英国ロンドンの警察の治安担当幹部が、景気や財政の悪化によって国民の不満が高まり、夏にかけて反乱が起きると予測して作った言葉だった。私は、昨年末に米政権の外交顧問であるブレジンスキーが「今後、世界的に政治議論が盛んになり、世界中の人々が政治覚醒する」という予測をしたことと合わせて、英国だけでなく、米国やその他の国々でも反乱の夏になるかもしれないと書いた。(世界的な「反乱の夏」になる?)(世界的な政治覚醒を扇るアメリカ)

 英国ではその後、英国民の不満は高まっているようではあるものの、金融財政の延命策が採られたため、夏がすぎても「反乱」はほとんど起きていない。しかし米国では、米マスコミの報道抑制があるために目立たないかたちながら、今年の夏は「反乱の夏」だったといえる事態になっている。反乱の夏の締めくくりが、100万人規模の912集会だったといえる。

▼激化していく米国の反乱

 反乱の夏が終わって秋になり、これから米国は安定するのかといえば、それはむしろ逆だ。米国はあらゆる分野で、今後、反乱がさらに激化しそうな状況にある。

 米国民の生活は、今後さらに悪化していくだろう。オバマの経済顧問であるローレンス・サマーズは最近「我慢できないほどの高い失業率が、今後、何年も続くだろう。経済は回復しても、失業は減らない」と予測を述べている。彼は要職にいる割には悲観的なことを正直に言う人で、7月にも不況の二番底と失業増を警告し、8月には中産階級に対する増税があるかもしれないと示唆している。米政府が正式に増税を言い出せば、反政府100万人集会がまた起きるだろう。(Adviser: High unemployment for years)(The worst is not yet over, says Summers)(Why Obama will have to raise taxes)

 米国の求人倍率はすでに6・05だ(7月末時点)。6人の求職者に対して一つの仕事しかない。07年末の1・7から増加している。求人数は、昨年の半分になっている。これは、仕事を探しても無駄だという状況だ。(Job openings down 50% from the peak in 2007)

 だから多くの失業者は、職探しをあきらめてしまい、統計的に「失業者」の状態から外れる。失業率は、新聞の見出しになる数字では10%を切っているが、職探しをあきらめた無職者を含めた失業率(U6)は17%である。U6失業率は上昇し続けており、今年3月には13%台だった。こんな状態なのに、金融界だけは税金で救済され、銀行首脳は桁外れの巨額報酬を受け取っている。米国民が激怒するのは当然だ。(Ron Paul: Federal government `one giant toxic asset')

 当局が巨額資金をつぎ込んでも、米国の金融システムは、まだ悪い状態から脱していない。経済学者のジョセフ・スティグリッツが9月15日のリーマンブラザーズの破綻一周年に述べた話によると、リーマン破綻後に潰れそうな大手銀行どうしが合併したせいで、米国には「大きすぎて潰せない銀行」が増えてしまい、米金融システムはリーマン破綻前より今の方が悪い状況となっている。(Stiglitz Says Banking Problems Are Now Bigger Than Pre-Lehman)

 米国では、不況がぶり返す可能性も増している。ここ数カ月、連銀はドルの刷り過ぎで、インフレが懸念される状況だったが、最近、連銀は何も発表しないまま通貨流通量を減らしていることが明らかになった。銀行界は貸し渋りを拡大しており、信用供給の総量が減少し、これを受けてドルの流通量も急減している。減少の勢いは、大恐慌の1930年代以来の激しさだ。これでインフレ懸念が薄まったのは良いのだが、今度は逆に、貸し渋りの拡大による不況のぶり返しが心配される状態になっている。(US credit shrinks at Great Depression rate prompting fears of double-dip recession)

▼アフガン反戦も強まりそう

 軍事外交面では、米軍のアフガニスタン占領への反対論が強まっている。アフガンでは8月に大統領選挙をしたが、米国が支持する現職のハミド・カルザイの一派が、全投票所の15%にあたる800の投票所を投票日に閉鎖して住民に投票させず、代わりにねつ造したカルザイ票を投票箱いっぱいにしてカブールに送り返して開票させていたという、とんでもない選挙不正が発覚している。米国のアフガン占領の目的は本来「民主主義を根づかせるため」だった。それがこのざまでは、米国民の間に「何のために米軍がアフガンにいるのか」という反戦的な疑問が出てきて当然だ。(800 Afghan Polling Sites Existed Only on Paper)(Is the Antiwar Movement Waking Up?)

 加えて間抜け(隠れ多極主義的)なことに、アフガンでの米軍の最高責任者であるマクリスタル司令官は911記念日の記者会見で「アフガニスタンには、アルカイダがいる兆候はない」と、関係者ならみんな知っていることながら秘匿されてきた事実を発表してしまった。しかもマクリスタルは、2万人の米軍を増派することをオバマに求めている。米軍は、911の「犯人」であるアルカイダを退治する名目で米国民を納得させ、アフガンに侵攻した。マクリスタルの発言は「アルカイダがいないなら、さっさとアフガンから撤退すべきだ」「増派など論外だ」と米国民が思うことを誘発したかのようである。(US Commander: No Sign of al-Qaeda Presence in Afghanistan)

 米国では今後、ドルに対する国際信用の失墜と長期金利の高騰、財政破綻、インフレもしくはデフレという通貨不安定の激化、商業不動産市況の崩壊による銀行破綻増、不況のぶり返しと失業増などが起こる可能性が高いが、これを受けて米国民の反政府意識が強まる傾向が続くことはほぼ確実だ。

 以前から反連邦の意識が強いテキサス州では今年4月、共和党の州知事が「オバマの政策が続くなら、テキサスは合衆国から離脱せざるを得ない」と発言し、それを受けてテキサスでは共和党支持者を中心に、分離運動が活発化している。以前の記事「揺らぐアメリカの連邦制」に書いたような、米連邦の解体が起きる可能性も増している。('We hate the United States': Secessionists rally in Texas)(揺らぐアメリカの連邦制)


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