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<金価格上昇の背景にドル増刷への懸念>
ドル建て金価格に影響を与える米国の金融政策の方向性。8月11─12日の2日間の日程で開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)に対する金市場の関心事は、この3月から実施されている国債の買い取りを柱とする「量的緩和策」の扱いだった。
なぜなら年始以降の投資需要急増の背景にあるヘッジファンドの金ETF(上半期521トン残高増加)の大量取得やNYコメックスにおける高水準の買い建て玉の維持(ネット400─600トン)は、すべからく将来のインフレを想定したものであって、それはここまで続いた中銀によるドル紙幣の大増刷(プリンティング・マネー)に対する対応策として取られたからだ。
すなわちこの先の金融市場の不測の混乱再発に備える以上に、金融自体の安定化の中でも起こり得るマネタリーインフレへの運用上の備えということである。
8月のFOMCでは、国債買い取り策について従来の9月末を10月末に延長し、総額3000億ドルの金額は据え置くという政策変更が行われた。一方で政策金利の目標水準は0.00─0.25%に据え置かれることになった。
金利見通しについては、声明文で「経済情勢は異例の低金利が長期間継続するのを正当化する公算が大きい」とした。いわゆる「時間軸効果」を狙ったものといえる。それが功を奏したというべきだろう。その後、長期金利は低下する結果となっている。
<国債買い取り終了後も続くRMBSなどの買い取り>
だが、これでいわゆる「出口戦略」を示したといえるのだろうか。今回、国債買い取りには終息の道筋を示したFRBだが、それより金額の大きな住宅ローン担保証券(買取予定1兆2500億ドル)や米連邦機関債(ファニーメイ、フレディ・マック債、買取予定2000億ドル)の買い取りについて、具体的な方向性は示されなかった。現状維持で従来通り年末まで継続されると市場は理解している。
FRBとしては「中銀による国債買い取り」が現下の国債大量発行環境の中で、投資家の間で「中銀の国債買い取り=財政規律の緩み=ドル紙幣の大増刷=マネタイゼーション=インフレ期待の高まり」というイメージに結びつきやすく、実際に市場がそれを危ぐしている現状に配慮したものとみられる。
したがって国債の買い取りについてのみソフトランディングを目指す玉虫色の内容となったと思われる。政策の実態は、住宅ローン担保証券(RMBS)と政府機関債(住宅公社債)の買い取りであり、実質的な量的緩和策は続いているとの解釈となろう。それこそがバーナンキFRB議長がこの政策を「量的緩和策」と呼ばず「信用緩和策」とした真骨頂であるからだ。
この決定を受けた金市場の反応は極めて限定的で、むしろ上昇したほどだった。本来的に緩和策の終了示唆(出口戦略)は、金価格にとっては買い要因が弱まることを意味するが、金市場は今回の決定をそうは受け取っていないということである。
実体経済の方はFRBも声明文で認めるように、経済活動は今後も「当面」弱い状態が続く公算が大きいことから、景気は最悪水準は抜け出したと認めながら、まだまだ政策の急な変更は「しない」というよりも、「できない」ということである。
すなわち景気動向が自律的な回復基調に乗ったとはとても言えない状況にあり、政策のサポートなしでは失速という可能性が高いと思われる。早晩、「どこまでサポートする必要があるのか」あるいはより根源的に「(政府サイドが)どこまでサポートできるのか」という問題に行き当たるのではないか。
<急増する中小金融機関の破たん>
金融環境に目を映すとFRBによる潤沢な資金供給で「カネめぐりは安定」したといえる。一方で金融機関が抱える不良資産のさらなる劣化が進んでおり、金融システムが水面下に爆弾を抱えている状態とも指摘されている。
米国では地銀を中心とした破たんが目立っていたが、年始から前週末(8月22日)の時点で81行が破たんした。このうち36行は7月以降に破たんしており加速する様相を示している。
以前から指摘されている商業用不動産市場の悪化がいよいよ顕在化してきており、関連するローンの焦げ付きが増加している。いわゆるショッピングモールやアウトレットなど過去数年の建設ブームの中で、拡大したローンが急激な景気悪化により、本体のビジネスの行き詰まりを生じ、ローンの延滞率が上がっている。しかもそうした貸出に関与している地域金融機関が多いという事情がある。
さらに住宅ローンでも優良貸出を意味するプライムローンといった通常債権の焦げ付きも増えており、体力の落ちたところから破たんが始まっている。
<金融安定化で遅れる不良債権処理>
そもそも金融当局による潤沢な資金提供に世界的な金融市場の落ち着きもあり、金融界全般が一時の混乱状態を抜け出したことから平穏が戻っているのだが、多くの銀行はいまだに多額の不良債権を抱えている状況にあるとされる。
米議会調査委員会が8月11日に発表した報告書によると、今なお6000億ドルから1兆5000億ドルの不良資産が残っているとされた。実際に3月末の時点で取引がないため価格の付けようのない「レベル3」と呼ばれる資産を大手18社だけで6575億ドルも抱えていたという。
金融市場の安定化がむしろ処理を遅らせているという構図がある。ガイトナー財務長官が主導した官民共同ファンドによる不良資産の買い取りは宙に浮いたままとなっており、やはり不良資産の切り離しなしには根本的な問題の解決にはならないということである。
実際、春先に実施されたストレステスト以降、銀行の増資は進んだものの、貸し出しの増加にはつながらず、むしろ減少と伝えられているのはこうした内に抱える不良資産の存在があると思われる。
潜在的な問題は先送りされており、仮に景気が二番底に向かうとなると危機が再燃する可能性がある。この状況を逆に捉えるなら、米政府はテコ入れ策の手を緩めるわけにはいかないし、FRBも同じだろう。
州政府レベルでの財政の悪化も目立っており、政策運営上の連邦政府の負担はますます増すことになりそうだ。結局、出口戦略を描こうにも、その出口はまだまだ遠いということになる。緩和状態はさらに相当期間続けざるを得ず、900ドル台半ばで滞留を続ける金価格の動きは、それを織り込み済みといえそうだ。
亀井幸一郎 マーケット ストラテジィ インスティチュート代表 金属・貴金属アナリスト
(26日 東京)