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【米経済コラム】ウォール街の最新商品:否認の物語−D・ライリー 7月8日
(ブルームバーグ):
大半の人は金融危機がどのように終わるかを知りたがっているが、危機がいかにして始まったかも、一部の人にとっては同様に重要だ。
金融危機の原因がどこにあるかを見極めることは、過去2年間の市場大混乱にどう対応するかを決めるのに役立つだろう。危機にさらされているのは金融業界のビジネスモデルと年間数十億ドルに上る利益だ。
ウォール街の幹部らが金融危機の原因について都合のいい解釈を与え、住宅バブルと信用バブルを膨らませた自身の役割を軽視する一方、解決には自身のかかわりが不可欠だと主張していることは驚きではない。
これは、危機以前の状態に戻ろうとする業界を挙げた努力の一環だ。この業界戦略は、オバマ政権が掲げる金融規制改革案を取り上げる議会公聴会が今月開かれる際、試されることになる。業界のもう一つの方策は、株価下落で利益を得ることを狙った空売りに責任を押し付けることだ。
総合すると、業界のメッセージははっきりしている。「信用収縮が起きたのは金融システムが腐っていたからではなく、窮状に付け込んで利益を上げようとする投資家によって激しさを増した嵐に圧倒されたためだ」というものだ。自身のせいではないとするウォール街の主張に反論できるだろうか。
それは可能だ。実際に起きたことは、金融業界が主張するシナリオとは正反対だった。銀行は不良資産となる恐れのある融資や高騰した資産への投資に過剰な額の借入金を意図的に使い、金融当局は金融工学の暴走に見て見ぬふりをした。一方の投資家は、問題は起きないと信じてかかった。このように崩壊の舞台は整っていた。
「われわれのせいではない」
こうした事実を認めることは、ウォール街に多くの痛みをもたらすだろう。調査会社フュージョンIQの最高経営責任者(CEO)で、「ベイルアウト・ネーション」の著者であるバリー・リットホルツ氏は「責任のあるすべての人たちに対し、『違う。私たちではない』と反論するよう駆り立てる力が大きく働いている」と指摘する。
金融業界は自身の危機原因説を売り込むため、政策立案者へのロビー活動を展開し、反ウォール街のムードが広がるのを食い止めようとしている。
米証券業金融市場協会(SIFMA)の極秘メモによると、証券業界は「問題解決の一端を担うことができる」と国民を納得させるためのキャンペーンを開始した。このメモについては、ブルームバーグ・ニュースのロバート・シュミット記者が最近の記事で報じた。メモによると、SIFMAは世論調査、ロビー活動、広報活動に月8万5000ドル(約800万円)を支払っているという。
虚構の説明
「お役に立ちたい」との売り込みは容易ではないだろう。SIFMA関係者もそれを理解している。メモでは、広報活動による攻勢は、「金融危機のさまざまな側面に対する責任を業界が認める必要性など、難しい題目について異なる意見」をメンバーが持っていることに敏感である必要がある、と記している。
言い換えれば、「ウォール街に責任はないとの主張は誰にも受け入れられないだろうが、それでもメンバーはそれを試してみたいと望んでいる」ということだ。そうした考え方がどのような結果をもたらすか誰も分からない。「バンカーをハグしよう」と書いたバンパーステッカーがそのうち登場するかもしれない。
銀行関係者やトレーダーがハグされたいと望んでいるのは、75年ぶりの規模の金融規制改革を検討している議会と政府だ。危機に関するウォール街の見解が特に重要になるのは同改革案が検討される場だ。
「学ぶことは何もない」
銀行経営が専門のルイジアナ州立大学のジョゼフ・メーソン教授は「100年に一度の危機といった説は、そこには学ぶことは何もないことを意味する。時折起きることであり、受け入れなければならないということだ」と指摘。「このために銀行と規制当局は、金融規制を有意義な方法で改革するという責任を免れている」と語った。
さらに付け加えると、危機は特定企業の行動が原因ではないとされた場合、金融業界の幹部を訴訟から守りやすくなる、とメーソン教授は指摘した。
危機の責任は金融業界にはないとした主張を押し通す理由はもう一つある。市場の信頼感を高めることだ。実際に銀行や規制当局が原因で危機が始まったとすれば、シティグループやバンク・オブ・アメリカ(BOA)が融資から将来発生する可能性のある損失額を見積もる際、両行が適切な判断を下していると、投資家が今になって信じる理由はあるだろうか。
リーマン・ブラザーズ・ホールディングスやベアー・スターンズが危機に至ったのは、株の空売りを仕掛けられたためと考える方が、ずっと気分が楽になる。これが、米証券取引委員会(SEC)や他の規制当局がさまざまな空売り規制を検討している背景にある。空売り規制の動きが悲惨な結果をもたらすことはないだろう。ただ、問題の原因は空売りにあり、無謀な投資によるバランスシート上の穴ではない、と受け止められた場合は危険だろう。
英国の首相を務めたウィンストン・チャーチルはかつて、勝者として自分が歴史を書くつもりだから、歴史は自分には好意的だろう、と語った。ウォール街は金融危機の敗者とされるが、チャーチルを手本にしたいと強く望んでいる。 (デービッド・ライリー)
(デービッド・ライリー氏はブルームバーグ・ニュースのコラムニスト。
同氏の見解は本人自身のものです)
更新日時 : 2009/07/08 15:10 JST
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90003001&sid=a5g1ylJNfStw&refer=commentary