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http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90003011&sid=a73synUW79D4&refer=jp_asia
6月17日(ブルームバーグ):スパイ小説作家のジョン・ル・カレ氏にぴったりの筋立てだ。
総額1340億ドル(約13兆円)相当の米国債をイタリアからスイスに持ち出そうとして両国国境でイタリア当局に身柄を拘束された日本旅券を持った2人のことだ。詳細が恐ろしいほど不明なため、世界中でさまざまな観測が渦巻き、枚挙にいとまがない。
この2邦人は北朝鮮の資金をスイスに隠そうとした金正日総書記の工作員だろうか。それともナイジェリアのインターネット詐欺団の一味か。資金は核弾頭を購入しようとしたテロリスト向けだったのか。それとも、日本政府が秘密裏にドル資産を売却しているのか。米国債は本物か、それとも偽物か。
この米国債が本物かそうでないかは、投資家が認識している以上に大きな意味を持つ。少なくとも、米国が自国の通貨供給をかなり大規模に管理できなくなるリスクが示唆されている。
米国は、向こう数年で発行する巨額の国債に買い手を必要としている。投資家を引き付けるには、米国のドル管理能力に対する信頼を既に流通している米国債によって失わないようにしなければならない。
ドルは良かれ悪しかれ世界経済の中心にあり、この通貨を安定させるに越したことはないが、新聞の経済面よりも国際スパイ小説にふさわしい今回のニュースはそれに寄与するものではない。事件の真相を究明して市場に知らしめるのは米財務省の義務だ。
GDPに匹敵
考えてもみてほしい。この2邦人が運んでいた米国債はニュージーランドの国内総生産(GDP)に匹敵する規模だ。この資産でスロバキアとクロアチアを買い取ったとしても、モンゴルかカンボジアのGDPに相当するおつりがくる。巨額詐欺事件のバーナード・マドフ被告も小さく見えるというものだ。
スーツケースに隠されていた米国債が本物なら、2人合わせて世界4位の米国債保有者だ。ガイトナー米財務長官が日本や中国からのドル資産への投資維持に向けて割く時間の一部でも、イタリアとスイスの国境を越えようとしたこの2人のために使うべきではないかと考えても無理はない。
この事件が市場でほとんど注目されないのは、恐らく時代のせいだ。何しろ、すべてを知り尽くしていたはずの資本家にとって、昨年は混乱の極みだった。2人の旅行者がスーツケースにブラジルの保有規模を上回る米国債を隠し持っていても、超現実的なこの時代の雰囲気から考えればさほど違和感はないのかもしれない。
それでも、この事件を初めて聞いたとき、わたしは4月1日のエープリルフールでないことをカレンダーで確認したくなった。
本物ならば
この米国債が本物だと仮定しよう。ドルが基軸通貨であるとの考えは「いささかも揺らいでいない」と述べた与謝野馨財務・金融・経済財政担当相の確信も踏みにじられるだろう。事件の真相が明らかになるにつれ、同相は日本が保有する6860億ドルの米国債に関する説明を求められる可能性がある。
イタリアにとっては朗報かもしれない。米国債が本物であれば、それを不正に持ち出そうとした者に額面の約40%を罰金として科すことができるからだ。拡大する財政赤字や4月に大地震に見舞われたラクイラの復興に取り組む同国には悪い話ではない。
しかし、ホワイトハウスには最悪だろう。理論的に、米国か中国、日本しかあれだけ大量の米国債は動かせないためだ。米財務省が説明しなければ、陰謀論がまかり通ることになろう。
金融関連ブログ「マーケット・ティッカー」でカール・デニンジャー氏は「米国が財政赤字穴埋めのためにこっそりと、例えば日本を対象に過去10−20年間、国債を発行していた」可能性を指摘する。同氏はこの推察に対する「答えが得られると期待しよう。すぐに忘れられてしまうような『こっけいな話』とは訳が違う」と続ける。
答えよりも疑問ばかりが渦巻く事件だが、メディアがもっと注目しないのは奇妙だ。関心は高まるだろう。ガイトナー財務長官とバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が最も回避したいのは、たとえ高度な偽物であっても、世界中で巨額の米国債が次から次に発見されることだ。(ウィリアム・ペセック)
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