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http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090601/196345/
米ゼネラル・モーターズ(GM)の経営危機が世界の自動車産業に与える影響は、これまではどのブランド、どの子会社が誰に売却されるのかという「GM解体」の側面から語られることが多かった。しかし連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)適用の申請が現実になった今、同じくらい注目されるのが破たん処理後の「新生GM」が何を残し、復活に向けてどんな手を打つかだ。 結論から言えば、新生GMは米本土で工場閉鎖や人員削減などの合理化を進めると同時に、新型車の開発、生産、販売で大胆な“アジアシフト”を急ぐ可能性が高い。そのカギを握るのが韓国の子会社「GM大宇自動車技術」と、中国の上海汽車との合弁会社「上海通用(GM)」である。 「GMが中国で生産したクルマを2011年から米国で販売へ」――。3週間前の5月12日、米自動車専門誌オートモーティブ・ニュース(電子版)はそう報じた。同誌はGMが米議会の議員に配布した再建計画案の文書を入手、その中でGMは、2011年に中国生産車を米国で1万7335台販売し、 2014年にはこれを5万1546台に増やす計画を提示していたという。 翌日には米ウォールストリート・ジャーナルも同じ文書を基にした記事を配信、オートモーティブ・ニュースの報道を裏付けた。このニュースは、世界の主要メーカーで初めて中国生産車の対米輸出を表明するものとして自動車業界の注目を集めた。 破たん前から“アジアシフト”に布石GMと全米自動車労組(UAW)の交渉が大詰めを迎えていた時期のニュースだけに、米メディアでは「中国生産車の対米輸出計画はUAWに対する牽制」という見方も報じられた。実際、GMは5月29日、UAWとの交渉合意に基づいて米国内の閉鎖された工場1カ所を再開し、小型車を生産すると発表した。しかしUAWとの交渉が妥結したからといって、新生GMが中国生産車の対米輸出を白紙に戻すとは考えられない。と言うのも、GMのアジアシフトは決して今に始まった話ではないからだ。 この5〜6年、GMは韓国のGM大宇と中国の上海GMに巨額の投資を行い、小型車の開発機能と生産能力を拡大してきた。その結果、GM大宇は欧州および新興国市場向けの輸出拠点、上海GMは急成長する中国市場向けの現地生産拠点として、GMの世界戦略に欠かせない存在になっている。 GM大宇は2008年、韓国国内販売と輸出(組み立てキットを含む)の合計で190万台余り、上海GMは傘下の軽商用車メーカー上海GM五菱を含めて109万台余りを販売した。両社を合わせれば約300万台と、GMグループの世界販売(約835万台)の実に約36%に相当する。 それだけではない。上海GMの最量販車種である小型セダン「ビュイック・エクセル」とコンパクトカー「シボレー・ロバ」は、ともに韓国にあるGM 大宇の開発センターが設計し、上海のPATAC(汎アジア自動車技術センター)が中国市場向けの内外装のモディファイなどを行った。PATACは1997 年にGMと上海汽車が合弁で設立した開発拠点で、技術移転を積極的に進めた結果、今やGMのグローバルな新車開発の一翼を担う技術力を持つ。 上海GMの工場で生産されるクルマの品質は、既に韓国や米国の工場と遜色ないとされる。韓国で設計した小型車を中国で量産し、米国に輸出することは、理論的にはすぐにも始められる。 GMはこれまで、中国生産車を米国に輸出する可能性を慎重に否定してきた。「中国市場でのシェア拡大が優先」というのが表向きの理由だが、背後にはUAWの反発に対する政治的配慮があったのは間違いない。 今回の破産法申請と、それに伴うUAWとの合意で、新生GMはアジアシフトを進めやすくなる可能性が高まる。GM経営陣はそれを見越し、早い段階から布石を打ってきた。それが如実に表れているのが、GM解体に伴う独オペルの売却と、GM大宇の温存だ。 1990年代まで、GMは大型の乗用車やSUV(スポーツ・ユーティリティー・ビークル)は主に米本社で、中小型車は欧州子会社のオペルで開発する分業体制を敷いてきた。そこに2002年に加わったのがGM大宇である。同社はアジア通貨危機の影響で2000年に経営破たんした旧大宇自動車をGMが買収して発足した。 ウォン安によるコスト競争力を背景に、GMはGM大宇を低価格のコンパクトカーや小型車の開発・生産拠点として育成し、ユーロ高に苦しむオペルは中型車にシフトさせた。そんな中で陥った今回の経営危機で、GMは1931年の買収から78年の歴史を持つオペルを分離売却し、買収からわずか7年のGM 大宇を温存するという対照的な選択をした。 自動車産業の新たな中国シフトを誘発する可能性もオペルに比べて、GM大宇の経営状態が良いわけでは決してない。GM大宇は生産の9割を輸出しており、その販路のほとんどをGMに依存している。リーマン・ショック後の世界的な自動車販売の急減速を受け、GM大宇の輸出は激減した。同社は既に銀行の融資枠を使い尽くし、韓国の政府系金融機関である韓国産業銀行に資金支援を要請している。実は、GM大宇の破たん回避を巡っては、ここ数カ月韓国政府および韓国産業銀行とGMが激しいさやあてを繰り広げている。GM側は、GM本社に対する米国政府の資金支援の一部を海外子会社に振り向けることはできないとし、韓国政府にGM大宇への支援を求めた。これに対して韓国側は、GM大宇をグローバルな戦略拠点に位置づけることをGMが保証しなければ支援できない、と反発した。 これはGMが韓国政府から支援策を引き出すための駆け引きと見るべきだろう。前出のGMが米議員に配布した再建計画案には、中国生産車の対米輸出開始に加え、韓国生産車の米国販売を2010年の3万6967台から2014年に15万7126台に大幅に増やすことが盛り込まれていた。要するに、新生 GMの再建計画は、GM大宇の存続が前提なのだ。 「GM大宇を売却する計画はない」。4月20日、上海モーターショーに出席したGMアジア太平洋部門のニック・ライリー社長はメディアの取材にそう明言した。さらに、米工場の閉鎖に伴い中国に新工場を建設する可能性も示唆した。これがGMの本音だろう。 もちろん、新生GMのアジアシフトが思惑通りに進むかどうかは予断を許さない。GM大宇では旧大宇自動車時代から労働争議が頻発してきた歴史があり、韓国政府との交渉次第では経営が迷走する可能性もある。また、上海GMの合弁パートナーである上海汽車は中国の国有企業であり、中国生産車の対米輸出は米議会の警戒と反発を招くリスクがある。 だが、仮に新生GMが中国生産車の本格輸出を開始し、米国がそれを受け入れれば、世界の自動車産業に大きなインパクトをもたらすだろう。日本メーカーは国内外の生産拠点の再配置を迫られ、新たな中国シフトを誘発する可能性も否定できない |