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http://www.tanakanews.com/090526dollar.htm
ドル崩壊の夏になる?
2009年5月26日 田中 宇
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5月16日、ウォールストリート・ジャーナル系の投資分析誌「バロンズ」が、米国債とドルのバブル崩壊がすでに始まっているとする分析を、トップ記事として掲載した。それによると、昨秋のリーマン・ブラザーズ破綻から昨年末にかけて、リスクに対して過敏になった投資家たちは、社債や株式を売って、リスクが低いと考えられてきた米国債を買う傾向を強め、米国債が高騰(金利は低下)したが、これは米国債の価値が過大に評価された「バブル」だった。今年に入り、米国債バブルの崩壊過程が始まり、昨年末に2・8%だった30年もの国債の利回りは4・1%まで上がり(価格としては20%下落)、今後は来年にかけて5%へと上がる見通しだ。(U.S. Blues - bear market in Treasuries will worsen)
米政府は財政赤字を急増させており、そのリスクを勘案すると、米国債の価格はもっと安く評価されても不思議ではない。米経済に底打ち感が出てくると、投資家が再びリスクをとって株や社債を買うようになり、米国債が売れなくなる。また、景気回復で需要が復活してくるとインフレがひどくなり、国債利回りを押し上げる(価格は下落)。これらの要因から、米国債の下落傾向が続くとバロンズは予測している。(Treasury Bear Will Worsen - Barron's 2 comments)
▼気がつかない人々
5月12日のFT紙には、米国の会計検査院(GAO)の元長官(David Walker)が「このまま米政府の財政が悪化すると、ドル(米国債)は、いずれトリプルA格を失う」と警告する論文を発表した。論文は、米政府運営の国民健康保険であるメディケアなどの社会保障費の赤字増加と、金融危機対策による財政赤字急増が抑制できない場合、米国債は1913年以来の最優良格付けを失うと予測し、すでに債券のリスクを表すCDS(破綻保険)の料率では、米国債がマクドナルド社債より高リスクと評価される局面も出てきたと指摘している。(America's triple A rating is at risk)
この論文が発表された後、ドルは他の主要通貨に対して値を下げた。米国債のリスクの上昇を意味するCDS料率の上昇を見て、米国債は破綻に向かっているという指摘を、何人もの米欧の分析者が放つようになっている。(Greenback falls on credit rating fears)(US debt on default path)
「投資家は米国債やドルを忌避したくても、他に買うものがない。他の通貨も安心できない以上、米国債などドル資産を買うしかない。だから、米国債やドルの崩壊はあり得ない」と豪語する「日経新聞信奉者」ともいうべき人々(中高年者)が、いまだに私の周囲にも多い。しかし、今後の地域覇権国となる中国など新興黒字諸国は、明白にドルと米国債の危険性について語り、ドルの代替として、鉱物資源やエネルギーなどコモディティ(相場商品)を買い漁っている。知的好奇心がある人は、分析力の低い日本の新聞(業績悪化で今後さらに知力が落ちる)に価値観の構築を依存せず、英文情報などを集めて自分の頭で考えた方が、はるかに面白い。若者は「日経を読め」と言う上司など無視した方が良い。
米国の衰退による世界の転換に気づいていない人が多いのは、米国も同じだ。米国の戦略を練っているCFR(外交問題評議会)のレスリー・ゲイブ会長は最近「米国は覇権を失って衰退しているのに、いまだにその深刻さに気づかない人がいるので驚く」と書いている(米国中枢の「当事者」であるゲイブは立場上、まだ米国の覇権は回復可能だと書いて、話をぼかしているが)。米国民の多くが自国の衰退に気づいたら、何とかせねばという政治気運が高まって、衰退にブレーキがかかりうる。だがブッシュ政権以来、人々に気づかせないような潜在的なやり方で自滅的な政策が続いてきたので、衰退が抑止されない(それをやっているのはCFR自身だったりする)。(Necessity, Choice, and Common Sense, A Policy for a Bewildering World - Leslie H. Gelb)
米国債とドルに対する信用が落ちると、原油、金、穀物など、ドル建て表記されているコモディティの価格が上がる。ドルの刷りすぎと相まって、超インフレになるという指摘があちこちから出ている。「ドルと米国債の崩壊、超インフレ」は、起きるか起きないかではなく、いつ起きるかという話になってきている。米国の投資戦略家は「インフレに備え、相場商品を買い貯めよ」と指摘している。中国などが相場商品を買い漁っているのは、先見の明である。世界の転換が見えず、何の準備もしない日本人は、自らを時代遅れの衰退勢力におとしめている。(Could the Weimar Hyperinflation Happen Again in America?)(Buffet predicts rising inflation)(Say Hello to the Long-Lost Art of Stockpicking - Barron's Interview)(Brace For Hyper-Inflation)
▼一足先に瓦解していく英国
「ドルと米国債の崩壊、超インフレ」がいつ起きるかという話になっていると書いたが、実際のところ、それはいつ起きるのか。FTに米国債格下げの懸念について書いた元会計検査院長は、格下げを、まだ何年(何十年)も先のこととして書いている。メディケアなど社会保障費の増加で米財政が破綻するのは、まだ10年以上先と考えられているからだ。
しかし、米国と並んで従来の覇権体制を担ってきた英国の国債格付けは、すでに引き下げが始まっている。5月21日、米英の格付け機関スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、英国の国債を従来の「トリプルAで安定」から「トリプルAだが悪化方向(ネガティブ)」に引き下げた。金融危機対策としての財政赤字増、不況による所得税・法人税の減収で、英政府の財政赤字が急増していることが理由だ。まだ格付け自体は最優良のトリプルAだが、今後も事態が悪化すれば格下げされる。(S&P Lowers Britain's Debt Outlook)
1980年代の金融自由化以来、米国・英国・カナダなどのアングロサクソン諸国は、政治的に、すべて国債格付けがトリプルAと決まっていた。金融の強い国、つまり英米中心のアングロサクソン諸国が、製造業立国(日中など)やエネルギー産出国(アラブ、ロシア)など他の主要国を牽引して世界を運営(支配)するのが、この30年の世界体制だった。英国が最優良格付けを失うことは、この世界体制の崩壊を意味する。(S&P warns UK over high debt level - First major nation to face loss of triple A)
S&Pやムーディーズといった格付け機関は、政治的に、英米中心体制を維持するための機構の一部であり、アングロサクソン諸国には甘く、日本を含む他の国々には厳しく格付けをしていたと考えられる。つまり、トリプルAネガティブに引き下げたられた英国は、実際の事態はもっとひどく、すでにトリプルAにふさわしくない状態と考えた方が良い。英国がトリプルAを失うなら、同じ金融構造を持つ米国もトリプルAを失うことになるとの見方も出ている。(US will eventually lose AAA credit rating, top investor says)
著名分析者たちの公式表明では、英国債の格下げは早くても2年後、米国債が格下げされるのは早くて3−4年後と予測されている。だが、私が英国の経済破綻の可能性についての情報に初めて接し、それを記事にしたのが昨年1月だ。その後、まだ1年あまりしか経っていないが、すでに英国は財政破綻への道を意味する格付けの引き下げを受けた。そして、ロイヤル・スコットランド銀行やロイズ銀行といった、英大手銀行の破綻と国有化など、金融危機の悪化が顕在化するのはこれからである。この速度感からすると、英国のトリプルAは、あと1年も持たないのではないかと思える。(イギリスの凋落)(More banks may have to be nationalised, says IMF)
在フランスの米国人分析者であるウィリアム・ファフは最近「アングロサクソン型の資本主義が崩壊し、フランス型の経済の方が優れたものに見えてきた」という意味のことを書いている。フランスは長く「失業者の国」と揶揄されてきたが、昨今の米英の失業急増で、フランスの方が低失業になりつつある。つい2年ほど前、フランス経済はアングロサクソン型に転換しない限りじり貧だと広く言われていたのが、大昔の話のようである。(As Smash-and-Grab Capitalism Collapses, the French Economy Shines By William Pfaff)
アングロサクソンの優位は、金融界でも崩れている。FT紙によると今年、株式の時価総額で見た場合の世界の4大銀行のうち3つは、中国商工銀行、中国建設銀行、中国銀行という中国勢である(4位は英国・香港系の香港上海銀行、5位は米JPモルガン・チェース、6位は三菱東京UFJ)。10年前に1位と2位だったシティグループとバンカメという米国2行は、今では20位圏外に落ちた。(Top 20 financial institutions by market capitalization, 1999 - 2009)(China Banks Surge to World's Biggest May Be Too Good to Be True)
▼インフレを欲するオバマの経済顧問
英国は絶望的だが、米国には各種の潜在力があるはずだ。それなのに米国までが絶望的なのは、潜在力を浪費する自滅的な政策がまかり通るからだ。たとえば最近、オバマ政権の経済顧問でハーバード大学教授のケニス・ロゴフ(Kenneth Rogoff)が「巨額のレバレッジ(債務)を解消せねばならない今のバブル収縮期に必要なことは、意図的にインフレを起こし、債務の価値を減らすことだ。6%程度のインフレが2−3年続くのがよい」と言っているのが、自滅策の一つである。(U.S. Needs More Inflation to Speed Recovery, Say Mankiw, Rogoff)
米政府が意図的にインフレを誘発したら、確かに理論的には米政府の財政赤字の総価値は減るが、その一方で、米国債を買ってくれていた中国など世界の投資家がドルと米国債を忌避する傾向を強め、現実には米国の財政破綻を早めてしまう。ハーバードなど米国東海岸のエリート大学では、政治経済や環境などの分野で、著名な教授ほど、学問的な正しさではなく、米中枢の勢力がやろうとしている自滅的ないし腐敗した策略を米国にとって最良策であると言いくるめる詭弁術を評価されて、権威になっている。(そのような戦略詐欺師を教授にすることで、大学運営に必要な献金を、米中枢に近い業界から得ている)
米国では、不況が長引くにつれて保護主義が台頭している。連邦政府は、自由貿易重視の看板を下げられないが、地方の州政府や市町村は、景気対策の公共事業の発注で、米国企業以外は入札に入れない政策を拡大している。これまで米国各地の公共事業で下水道ポンプを売ってきたカナダのポンプメーカーは、急に全米各地で入札から締め出されて怒っている。(Outrage in Canada as U.S. Firms Sever Ties To Obey Stimulus Rules)
米国が保護主義になることは、ドルを刷って世界から商品を買い、世界中の製造業の発展に寄与するという、経済覇権国として戦後60年続けてきた役割を放棄することを意味する。半面、中国などのBRIC諸国は、相互の自由貿易体制の維持によって繁栄することを方針としている。今後の世界の自由貿易体制の中心は、BRICなどの非米諸国が中心になっていく傾向だ。
先週、ブラジルのルーラ大統領が中国を訪問し、ドル崩壊に備えてIMFの特別引き出し権(SDR)を活用した主要諸通貨バスケット制の新しい基軸通貨体制を作ることを、中国側と話し合った。BRICは、ドルが自滅した後の世界の自由貿易体制について考えている。貿易立国である日本はいずれ、中国にお願いして非米同盟の末席に入れてもらうことになるだろう。(Brazil and China eye plan to axe dollar)
米国では今週、自動車最大手のGMの倒産があり得る。米政府はGMに対し、6月1日までに再建案を作り直して出せと命じたが、GMは米政府を満足させられる新案を作れず、倒産申請する方向だ。米政府は、倒産後の短期的な国有化を通じてGMを復活させるといっているが、この政策が成功する可能性は低い。GMは、中国で製造した低コストの自動車を米国に輸出して利ざやを稼ぐつもりだという。GMは、米の経済覇権の失墜を象徴している。(GM bankruptcy plan eyes quick sale to government)(Leaked GM document shows automaker plans to sell China-built cars to U.S. consumers)
▼意を決したサウジアラビア
ドルの基軸通貨性が崩壊した後、世界の通貨体制は、中国が提案するような、地域ごとに基軸通貨がある多極型の体制に移行していく可能性があるが、今のところ各地域の通貨統合は、EUをのぞいて全く進んでいない。サウジアラビアなどペルシャ湾岸のアラブ6カ国(GCC)も、2010年に通貨統合を予定していたが、先日アラブ首長国連邦(UAE)がこの構想から離脱を表明し、頓挫した観がある。GCCの通貨統合からは、すでに06年にオマーンが離脱しており、UAEも抜けて4カ国になった通貨統合の構想は「もはや死んでいる」と評されている。(U.A.E. Pulls Out of Gulf Monetary Union Project)
しかしこの話は、よく見ると逆の方向性を持っている。UAEが通貨統合からの離脱を表明したのは、GCCの中でずば抜けた国力を持つサウジアラビアが、通貨統合とともに設立するGCCの中央銀行(GCC各国の中央銀行の機能を統合したもの)を、サウジの首都リヤドに置くことを決め、UAE以外のGCC諸国の同意をとりつけたことに反発したためである。UAEの外相は、ドバイという金融センターを持っている自国こそGCC中央銀行の拠点としてふさわしく、GCC中銀はUAEの首都アブダビに置くべきだと主張し、サウジに考え直してもらうために離脱を挙行したと説明している。(UAE says if terms change might rethink FX union)
これは逆の立場から見ると、これまでGCC通貨統合に対して強い姿勢を示さなかったサウジアラビアが、通貨統合の主導役は自国でなければならないという強い姿勢を見せたことを意味している。GCC内で圧倒的な経済規模を持つサウジが主導力を発揮しない限り通貨統合は進まないが、サウジはこれまで米国に気兼ねして、ドルの基軸性喪失と表裏一体であるGCC通貨統合を強く推進してこなかった。そのサウジが、UAEの反対を押し切ってリヤドにGCC中央銀行を置くことを決めたことは、頓挫ではなく逆に、いよいよ通貨統合が現実に近づくことを示していると私には感じられる。同時に、サウジが意を決したのは、ドル崩壊の接近を感じ始めたからとも推測できる。
UAE、特にドバイは、金融面でロンドンの出先機関として機能してきた。政治面では、かつてのオサマ・ビンラディンや、その他のCIAやMI6のエージェントが好んでドバイに滞在しており、英米中心主義の諜報勢力の拠点である。UAEにGCC中銀を置くと、世界の多極化を防ぎたい英国の隠れた意を受けて、通貨統合が健全に推進されない懸念がある。だからこそ、サウジはGCC中銀をリヤドに置きたいと考え、UAEはそれを阻止したいと考えているのだろう。
UAEの金融センター機能は、サウジから流れてくる資金がないと成り立たないので、この話の最終的な決定権限を持つのはサウジである。今後、ドルや英米金融の崩壊感が強まっていく中で、GCC通貨統合は世界の原油決済システムにとっても不可欠なものとなり、サウジ中心に通貨統合が推進され、いずれUAEやオマーンも再加盟すると予測される。
金相場とドルの相関を見ている分析者からは「今後の数カ月がドルにとって危険な時期だ」という予測が発せられている。金地金重視派は、以前から「まもなくドルが崩壊し、金が高騰する」という予測を何度も発し、それらは大体外れている(一時的に金が高騰したこともあるが、結局ドルは今日まで崩壊していない)。しかし、この手の予測は、一度あたるだけで数10年分以上の世界体制の転換を意味する(イスラエル・イラン戦争も同様)。そして私は、ここ10年ほど国際情勢を詳細に見てきて、いずれドル崩壊・金高騰という事態(政治的には米英覇権の終わり)が現実になるだろうと思うし、昨今の金融危機によって、その転換点が訪れる可能性が明らかに高まっている。今夏、一つの山場が来るのではないかと感じている。(09年夏までにドル崩壊??)
[新世紀人コメント]
無料扱いなので転載します。選挙に向かう事もあり暑い夏になりそうです。
タイミングよく豚インフル騒ぎとか北朝鮮の核実験騒ぎなんかが起きてくれる(起こされる)ので麻酔を効かせながら手術をするのではないでしょうか?
http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&v=APt907cqeXs
夏を待ちきれなくて‐TUBE
http://www.youtube.com/watch?v=oSPthhcUUlo&feature=related
恋してムーチョ
夏は楽しいだけではなく、しばしば歴史上では苦しい終局が到来する季節でもあります。
でも若者達にはそんな夏でも楽しいのかもしれません。
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