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米銀の黒字決算が「うまく作り上げた」とされるこれだけの理由
(辻広雅文 プリズム+one)
世界的金融危機の震源地を、各国金融当局は注視している。米国大手金融機関の第1四半期決算が、先週発表された。予想されていた通りに、好業績である。だが、日本の金融当局幹部は、「実力以上の決算をうまく作り上げた。内実は苦しいはずだ。第2四半期は厳しいだろう」と分析する。
「うまく作り上げた」とは、どういうことだろうか。どれほど「内実は苦しい」のだろうか。
世界の注目を最も集めたのは、窮地が伝えられるシティグループの決算である。結果は2007年第3四半期以来の黒字に転換、16億ドルの利益を上げた。この5四半期は赤字を垂れ流し、その合計は285億ドルにも上っていただけに、世界中の金融関係者にとって朗報となるはずであった。
ところが、市場の反応ははかばかしくない。それは、「うまく作り上げた」黒字だからである。この第1四半期では、「負債評価益」という特殊な会計処理によって、シティグループは25億ドル、バンク・オブ・アメリカは22億ドル、JPモルガン・チェースは4億ドルの利益をかさ上げしているのである。
「負債評価益」とは、何か。
シティが10億ドルの社債を発行したとする。ところが、金融危機に直撃され信用度が低下し、社債の価値が9億ドルまで低下した。この時点で社債を時価評価する。具体的には、市場価格で買い戻すとしよう。購入価格は9億ドルだから、発行額の10億ドルとの差額1億ドルが発生する。それを利益として計上できる、という会計処理方法である。
これは、米会計基準「FAS159」が認める合法的処理である。企業の資産を再評価する場合、社債などの負債もその対象とするべきだという主張は、一見論理が通っている。
だが、現実的には成り立たない、無理筋の解釈であろう。業績が悪化すれば手元資金が細り、社債などを買い戻すにはリファイナンスが必要となる。だが、応じてくれる金融機関はないはずだ。そもそも、業績が落ち、信用を失えば失うほど利益が上がるという会計処理が、健全な基準であるはずがない。
シティグループの決算から負債評価益の25億ドルを差し引くと、9億ドルの最終赤字に転落していたことになる。市場が良い反応をしないはずである。
18億jの利益を上げたゴールドマンサックスの決算も、その利益水準が持続可能だとはとても言えない。
ゴールドマンは米政府から公的資金を投入される際、銀行業に業種転換するのに伴い、決算期を変更した。四半期決算を従来の12月〜2月から1月〜3月にしたのである。
一か月後ろにずらすことによって、12月の月次決算は反映されていない。ほとんど報道されていないが、12月単月決算は1〜3月決算書に小さく注記されていて、実は10億ドルの赤字である。決算月の変更で、この赤字は巧みに捨象されているのである。
1月〜3月の好決算は、市場部門の好調に支えられている。1〜3月の金利、為替、債券などの市場は、実に読みやすい動きを繰り返す「素人相場」であった。素人相場とは、素人でも勝てるようなわかりやすい相場のことである。このチャンスに元来リスクテイカーとして有名なゴールドマンは、可能な限りポジションを膨らませた。そして、賭けに勝った。「決算をうまく作りあげた」のである。
加えて、ベアスターンズもなく、リーマンもなく、バンカメに吸収されたメリルリンチも信頼を失うというライバル不在のなかで、顧客はゴールドマンとJPモルガンに群がった。その優位も存分に生かした。
したがって、ゴールドマンらしさを存分に発揮したともいえるが、市場の動きが鈍くなったり、あるいは複雑化して読みにくくなればトレーデイングの機会は激減してしまうから、とても経営を安定させる戦略が展開されたとは言えないのである。
JPモルガンもゴールドマンと同様の理由で、トレーデイング部門が21億ドルの利益計上に貢献した。だが、JPモルガンには商業銀行としての不良債権問題がのしかかる。実際、この第1四半期でも消費者金融への引当金を大幅に積み増している。
シティグループに話を戻せば、クレジットコストが103億ドルで前年同期比76%増である。主にはクレジットカード部門の不良債権処理費用である。各行ほとんどが貸倒引当金の繰入額を増加させており、今後は個人、法人問わずデフォルトが急増し、あらゆるローンが不良債権化する危険が、決算書から読み取れるのである。米国大手金融機関で唯一赤字であったモルガンスタンレーの商業用不動産処理も、その兆候の一つかもしれない。
「黒字をうまく作り上げた」要素を、もうひとつ挙げよう。今四半期決算から、時価会計ルールが変更されている。これまで金融機関を悩ませ続けてきた証券化商品の評価方式が時価会計から、各行の内部モデル評価に変更されたのである。例えば、市場価格が1ドルであっても、内部モデルによれば2ドルという違いがあり得る。
市場は時にオーバーシュートする。
今回の金融危機ではいまだ証券化商品の買い手が現れず、市場が機能不全に陥っていて、適正価格が形成されない。こうした異常時には、内部モデルによる評価も選択肢としてはありえるだろう。だが、現時点では各行の内部モデルの妥当性がわからない。当局がチェックしているかどうかも不明だ。したがって、決算には不透明感が付きまとう。少なくても、内部モデル評価と時価評価を両方記載すべきであろう。そうでなければ、投資家あるいは市場に対して極めて不誠実であり、信頼は取り戻せない。
米国財務省は今、金融機関のストレステスト(資産査定)を進めている。ストレステストの結果、資本不足に陥っていると判断した金融機関には、再び公的資本注入を行わなければならない。だが、公的資金枠の残りは少なく、追加出資を議会は容易に認めない、という厳しい状況にある。
国際金融市場と米銀経営に詳しい倉都康行・RPテック代表は、米銀の第1四半期決算を、「(会計ルールの変更を認めた)政府と市場の二つに救われた」と総括し、「実力だけで決算をすれば、各行ともに赤字だったろう。だが、それがむき出しになれば、マーケットが混乱、暴落しかねない。そうなれば、比較的健全な銀行も自力増資が難しくなる。財源が乏しくなってきている財務省にすれば、何としてもマーケットに持ちこたえてほしい。だから、あらゆる“支援”をする」と解説する。
だが、本格的な不良債権の増加を、財務省が阻むことはできない。第2四半期以降の決算は、決して楽観できないものとなる可能性が高い。
http://diamond.jp/series/tsujihiro/10069/