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「計画破産国家アメリカの罠――そして世界の救世主となる日本」(講談社)
(2009年4月24日発売)
そして舞台の幕は上がる。
まったく新しいシナリオに基づく次なる国際秩序をもたらすであろう「計画破産国家アメリカ」という劇の幕が、である。
二〇〇八年も年の瀬となった一二月一五日。私はシンガポールにいた。日本は真冬だというのに、彼の地の外気は摂氏三〇度。一歩でも外に出ると、東南アジア特有の湿気に満ちた空気がたちまち私を包み込む。そしてその日の夕方、港を臨む「ホテル・リッツカールトン」の地下階にあるレセプション会場で、私はある奇妙な体験をした。
そもそもなぜ私はシンガポールにまで出向いたのか。それは世界屈指の民間情報分析機関「オックスフォード・アナリュティカ(Oxford Analytica)」が創立以来、本拠地であるイギリス・オックスフォードを離れ、アジアで会合を開くと聞きつけたからである。日本では一般になじみのない機関かもしれない。だが、G8各国政府をはじめ、世界中の主要なコングロマリットたちがいずれもその分析レポートを購読しているほどの権威ある機関なのだ。それがなぜいま、初めての海外における会議を、しかも「アジア」において行うのか。――そんな好奇心につられて、成田からシンガポールへと飛ぶことにしたというわけなのである。
レセプション会場を見渡す限り、日本人らしき人物は見当たらない。「これはまた目立つな」と思いつつ、ドリンクを片手に会場を歩いていると、お世辞にも「英国紳士風」とはいえない薄汚れたバッグを肩からかけた長身の老人が声をかけてきた。
互いに自己紹介する私たち。聞くところによればこの老人、日本では映画「007」で有名な英国対外情報工作機関“MI6”の幹部であった経歴を持ち、現在は退官してこの民間情報分析機関でアドヴァイザーをしているのだという。つまり、ありていにいえば本物のスパイである。ここではM氏ということにしておこう。
M氏は時折見せる眼光こそ鋭い人物。しかし、キスされるのではないかとひるんでしまうほどに顔を近づけて熱心に語るその語り口はユーモアにあふれ、まさに好々爺といった印象だ。
ひとしきり世間話をした後、やおらM氏が切りだしてきた。
「ミスター・ハラダ、いま起きている金融メルトダウンについてどう考えますか。ここまで事態が混乱してしまった原因はアメリカのこれまでの立ち居振る舞いにあると私は思う。1990年代初頭まで、世界には確かに秩序があり、大過なく歴史が進んできた。ところがそれからというものの、アメリカ人たちが世界中で暴れまわり、この“秩序”をたたき壊してしまった。そしてその代り蔓延るアメリカ流拝金主義。『万事カネがすべて』というその流れをそろそろ私たちは食い止めなければならない。そうは思いませんか」
先ほどまでの笑顔から一転して生真面目な眼差しで私を見据えながらこう語るM氏のクィーンズ・イングリッシュを聞きながら、私は思った。日本には何かというと「アングロサクソン」なる言葉を語る人たちがいる。多くの場合、それはアメリカと英国を一心同体としてとらえるために用いられている。これまで世間で「親米保守」と分類される著名なお歴々にありがちな言論(曰く、「アングロサクソンは戦争に負けたことがない。だから日本は彼らに楯ついてはならないのだ」云々)だ。しかし、冷静に考えてみると、「アングロサクソン」などという分類それ自体がフィクションなのだ。せいぜいのところ、アメリカにいるのは「アングロ・アメリカン」であって、それですら往々にしてイギリス勢とはまったく立場を異にするのである。それなのに、私たち日本人はマスメディアを通して戦後垂れ流されてきた虚妄の言論にどれほど騙されてきたことか。――インテリジェンス工作の最前線で活動してきたこの好々爺M氏の青い瞳を覗き込みながら、そう思った。(中略)
そして翌12月16日。私はさらに「世界の現実」に打ちのめされることになる。
――会合が正式に始まり、お決まりの基調講演が冒頭行われた。スピーカーはキショレ・マブバニ教授。シンガポール国立大学リー・クアン・ユー公共政策大学院でトップを司る人物である。
アメリカ発金融メルトダウンをめぐる現状、そしてそれに対して一つたりとも有効な手段を講じることができていない状況を手短に描いた後、マブバニ教授はひと際決然とした調子で語り始めた。
「問題は累積しています。しかし、これに対処すべき政治家たちは“凍ったメンタリティー(frozen mentality)”にとらわれたままなのです。いま、世界を覆っている暗雲を取り除くには、まったく新しい発想、そしてまったく新しいやり方が必要なのです。それなのに、彼らはこれまでの発想、これまでのやり方にこだわっている。実は、各国で等しく見られるこうした状況こそ、真の問題なのです」
聞けばつい先日、アラブ首長国連邦・ドバイで開催された「ダヴォス会議」の準備会合でこの問題を解決するための方法について話し合ったのだという。マブバニ教授は同会議でグローバル・ガヴァナンス委員会の委員長もつとめている。一方、毎年初めにスイスで行われる「ダヴォス会議」(別名「世界経済フォーラム(WEF)」)といえば、閣僚をはじめ、日本の政治家たちが行列を連ねて意見を拝聴しにいく場所だ。今後、彼の地を訪れる日本の政治家たちは何度となく聞かされることだろう。「貴方たちこそが、世界の抱える問題そのものなのだ」と。
私がシンガポールで体験したのは、開演前のロビーで、これから始まる劇について意見を述べ合う観客のざわめきのようなものだった。
本当のシナリオをあなたは知っているか、そう確認しあうのだ。
間もなく開演する劇に「計画破産国家アメリカ」というタイトルがついているわけではない。あくまでも私が便宜上、つけたタイトルに過ぎない。現実の世界では、まったく違うタイトルがつけられ、ある意味、とても分かりやすいストーリーとして展開されていくことになる。そして多くの人が素直に信じ込み、むしろ、中途半端な知識や情報を持つ自称「情報通」ほど、シナリオを書いた連中にまんまと騙されていくことになるのだ。
表に出るタイトルやストーリーに騙されてはならない。すでにいくつものメッセージは届けられている。そう、何年の前から繰り返し繰り返し、送られているのだ。分かる者には分かるように。分からない連中だけを選別するために。
それが真のインテリジェンスの世界のやり方なのである。
これから始まる「計画破産国家アメリカ」という劇には、もちろん日本も重要なプレイヤーとして登場する。
その時、私たちは問われることになる。シナリオをきちんと理解して演じているか、あるいは、まったく知らずに、ただ踊らされるだけなのか、を。
台本を持って演じる俳優と、台本すら渡されずに指示通りに動くだけのエキストラにはっきりと選別されるのだ。
この本は、シナリオを読み解く手助けになればと書いたものだ。「世界史の真実とは何か」と考え、さらには「そうであるならばこれからどうすべきなのか」と考える、愛すべきすべての日本人に贈るために、より多くの日本人がエキストラではなく俳優として演じてほしいと願い、執筆したものである。
(『計画破産国家アメリカの罠』(講談社、2009年4月24日発売)「はじめに」より一部抜粋)
[新世紀人コメント]
「薄汚れたバッグを肩からかけた長身の老人」とは面白い。お世辞にも英国紳士風とは言えないとのことであるが、洋の東西を問わないようだ。
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