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墓穴を掘り続ける米国、火の粉はCDS履行にも
怒涛の一週間が終わった。
アメリカのメディアで今週、一体何度「ボーナス」という言葉が出てきたのだろう。
テレビはどのチャンネルつけても「ボーナス!」「ボーナス!」、新聞も連日紙面トップで「ボーナス!」「ボーナス!」、道歩いててすれ違いざまに聞こえてくる市民の会話も「ボーナス!」「ボーナス!」・・・
・・・いいかげんにしてほしい。
3月17日付けのMHJエントリー『AIGは死んでお詫びを:政治筋「ハラキリのススメ」』で書いたように、(1)AIGが払ったボーナス額=1億6千500万ドル、(2)米国がAIGに用いた公的資金総額=1730億ドル、(1)÷(2)=全体の0.1%以下。
「納税者のためズラ!」と御旗を掲げ、米議会総出で百姓一揆さながらの騒ぎを繰り広げているが、完全に優先順位を間違っておる。
昨夜の某局の討論番組でもAIG問題が議論されていたが、そこで、あるジャーナリストが、「政界はボーナスのことばかりに気を取られているが、それは問題全体からみれば氷山の一角、それよりもっと大きな問題に目を向けるべきではないのか」と発言し、筆者はその新鮮さに雷に打たれたようになり、一瞬、噛んでたパスタを飲み込むのも忘れたね。(←またもや「パスタの夕食」か・・・)
口の端からスパゲティ垂らしてTV画面を食い入るように見つめ、その先を息を殺して待っていたら、そのジャーナリストは、こう続けた。
「AIG にこれまでに使われた公的資金総額のおよそ3分の2が、他の大手金融機関に流れたことが判明した。しかし、AIG経由で金を受け取ったとされる金融機関たちは、すでに多額の公的支援を受けとっているではないか。公的支援を受けながら、なおもAIGを食い物にしようとしている、これらインベストメントバンク達の責任は追及しなくてもいいのか。」
この発言を聞いて、筆者はパスタ吐きそうになったよ。
期待に胸膨らませていたのに、こいつも、やっぱり全然わかってなかったんである。
このジャーナリストは、3月15日付けでAIGがリリースした「昨年秋にAIGに向けられた国からの緊急融資の使い道」のことを言ってるんだよね。
NYタイムズがまとめてくれたリストによりますと、AIGからお金受け取った金融機関とそれぞれの額は、
‐Goldman Sachs ($12.9 billion、129億ドル)
‐Merrill Lynch ($6.8 billion)
−Bank of America ($5.2 billion)
−Citigroup ($2.3 billion)
−Wachovia ($1.5 billion)
たしかに、全員、公的資金のお世話になってる会社ばかりですわね。
リストには、米国のみならず、欧州の主要金融機関も入っていた。
−Société Générale of France ($12 billion)
−Deutsche Bank of Germany ($12 billion)
−Barclays of Britain ($8.5 billion)
−UBS of Switzerland ($5 billion)
ボーナスの百姓一揆にそろそろ飽きてきたのか、次に何を言い出すかと思えば、これだ。
AIGのリリースに書かれてあるとおり、これらのお金は、CDSという契約書に従って、債務を履行しただけのこと。ビジネスはビジネス、契約は契約、払うことになってたんだから払うまで。
しかし、ボーナス一揆の興奮ひきずる政界で、一揆ネタをフィードするのに余念のないメディアで、そして、ネタをフィードされるままにヒステリアに一緒に参加する一般大衆の間で、いま、ボコボコと噴出し始めているのが、
「納税者のカネで緊急支援してやったのに、それをエサにしてまだ金儲けしようとしているウォール街」
というトーンである。
海外勢については「ガイジンのくせに、米国納税者のカネにたかりやがって」というトーンも混じる。
これは危険な動きであるな・・・。
世間は、ボーナスの話題にはいいかげん飽きてきてるけど、ウォール街バッシング(=魔女狩り、火あぶりのアトラクション付き)そのものには、まだ、ぜんぜん飽きていない。
あらたに「追求すべきネタ」を探し、目をギラギラさせている。昨日のNYタイムズの記事(AIGが3億ドル相当の税金リファンドを求め国家を相手に訴訟を起こしている、という記事)などは、その最たる例である。
だが、いまになって、「AIGが、国から融資をしてやったカネを、他の金融機関に横流しした」といいがかりをつけるのは間違っている。
なぜなら、去年の秋、当時の財務長官ポールソンと連銀のバーナンキ議長がAIGに緊急融資を施す決定をした時点で、あの緊急融資は「それが目的だった」のだから。
ボーナス問題が火付けになって、そこから火の手はどんどん拡大し、いまや、問題の核心部分にいる「クレジット・デフォルト・スワップ(Credit Default Swap=CDS)の履行」にまで、【糾弾】の火の粉が飛びそうだ。
CDS、CDO といったクレジット市場での金融取引は、ウォール街で働くプロフェッショナル達ですら、それを専門に扱う部門で働いていなければ、ちゃんと理解はしていない。
ましてや、政界関係者や一般大衆が、CDSだのなんだの言われたって、何のことか理解できないのは当然である。
しかし、「CDSの履行」ばかりは、無知な集団が感情にまかせて「糾弾の対象」にして大騒ぎを始めると、これは、相当やっかいで重大な問題に発展する。
なぜならば、CDSというのは、現在政府当局が手を尽くして解凍させようとしているクレジット市場では要(かなめ)というか背骨に相当するプロダクトであり、政治的思惑がCDSの履行にまで口を挟み影響を及ぼすようなことになれば、クレジット市場のコンフィデンスはさらに失われ、グローバルで流れている資金市場そのものが崩壊してしまう、そういうリスクをはらんでいるから、である。
資金市場の完全崩壊・・・そのリスクこそが、いま最も恐れられているリスクなんである。
ボーナス問題で90%課税になるまで徹底的に叩かれまくり、こんなことが続くようでは、金融機関は誰も公的資金をもらいに来なくなるし、公的資金早期返済のために銀行の自己資本が減ることになれば、金融機関のリスクテーキング能力は限定され、クレジット市場の資金還流の回復が遅れ、結果として景気回復を遅らせるだろう、とは前回のMHJエントリー(『議会は魔女狩りモード』)で述べた。
しかし、CDS履行への米政界の介入は、自己資本早期返済の悪影響どころじゃないインパクトを世界中に産むよ。
どの国にいようとも、米国で繰り広げられてる集団ヒステリアの魔女狩りショーを、海の向こうからヒトゴトのように眺めていることはできなくなる。
CDSは、真の意味で「国境のない金融プロダクト」だからだ。
次回からクレジットとCDSについて、少し説明したいと思っている。
http://wholekernel.blogspot.com/2009/03/cds.html