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特許の怪物「パテント・トロール」横行! ビジネスリスク増大に怯える企業【ダイヤモンドオンライン】
http://diamond.jp/feature/patentwars/10002/
【第2部】 2008年06月19日
米国では、特許出願の急増に伴って訴訟が頻発している。進出している日本企業も原告あるいは被告となりうる。発明とは無縁の企業や集団が敵対的訴訟を仕掛ける“パテント・トロール”も散見される。ビジネスリスクの増大に、企業はどう対処しているのか。
トヨタ自動車のハイブリッド技術が狙われている。
フロリダ州のソロモン・テクノロジーは2005年9月、トヨタが自社特許を侵害したとしてフロリダ地方裁判所に、2006年1月にはハイブリッド車の輸入差し止めを求め米国際貿易委員会(ITC)に提訴した。
1ヵ月間の審理の後、2007年2月の行政判事(ALJ)の仮決定を受け、ITCはソロモンの訴えを退けたが、ソロモンは不服として連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)に控訴していた。
今年5月7日、CAFCはそれを棄却する判決を下した。関係者によると、トヨタ側はソロモンが上告、または上告した場合それを連邦最高裁判所が受理する可能性は、共にきわめて低いと見ている。
だが、胸をなで下ろすわけにはいかない。同じくハイブリッド車をめぐる特許侵害で、フロリダ州のペースとの争いは継続している。
ペースは2004年、原告側に有利な判決が出るとして、訴訟が集中しているテキサス州東地区連邦地裁に、差し止めなどを求めてトヨタを提訴した。2006年8月、地裁はトヨタのペース特許の均等論(実質的に機能・方法が同じで、実質的に同じ結果を生じる技術にも均等に権利が及ぶこと)侵害を認定し、差し止め請求を却下する代わりに、1台につき25ドル(原告の要求は200〜500ドル)のロイヤルティを将来にわたって支払うことを求める判決を下した。
これを共に不服として臨んだCAFCの控訴審の2007年10月の判決では、ロイヤルティの支払いについては破棄されたものの、均等論侵害自体は認められた。トヨタはこれを不服として、最高裁に上告したばかりである。
ソロモンの売上高は約800万ドル(2007年)。ここ数年は赤字続きの弱小機械メーカーである。OTCブリティンボードの株式上場銘柄だが、仕手筋の仕掛けか、この事件の経過を先取りするように、株価は乱高下した(右図参照)。ペースの場合は、原告は個人であり、資金面をサポートする第三者が存在する。
「パテント・トロール」は
定義も特定も困難
「いずれもパテント・トロールのにおいがしないわけではない」と、特許庁のワシントンオフィスの澤井智毅代表は言う。自らはR&Dやその製品の製造・販売を行なわないにもかかわらず、特許を保有し、敵対的訴訟を仕掛ける企業や集団を、パテント・トロールと呼ぶことが多い。だが、そもそも定義は難しく、特定はできない。
近年、米国では特許紛争の増加を背景に、競合他社への牽制目的で、とりわけ情報・電子分野の各企業が特許を争うように取得している。“軍拡競争”さながらの様相で、R&D投資が増えれば出願件数も増えるという相関関係は失われている(左図参照)。
出願件数の急増は、米特許商標庁(USPTO)の審査業務を増やし、特許の質を低下させる。それがパテント・トロールなどの権利の乱用を助長し、結果として企業はさらに牽制のための特許出願に走る、という悪循環に陥っている。パテント・トロールは、特許制度そのものの不信をあおり、イノベーションを阻害する要因にもなりかねない。
ちなみに、大統領経済諮問委員会の2006年の報告書によると、訴訟賠償額が2500万ドル以上の特許訴訟においては、原告と被告のそれぞれが平均400万ドルを法廷費用として負担しているという。
化学・製薬以外の産業では、特許から得られる利益を訴訟コストが上回っているという研究もある(右図参照)。まさに“囚人のジレンマ”だ。
もっとも、こうした歪みを修正する画期的な判決も出た。2006年5月、オンラインオークションのイーベイとマークエクスチェンジが争った訴訟において、連邦最高裁判所は、販売差し止め請求を認める際の4つの基準を示したのである。これにより、これまでほぼ自動的に認められてきた差し止めが、原告が回復不可能な侵害を受けることを証明しない限り、難しくなった。トヨタ事件でペースの差し止め請求が退けられたのも、この判例が根拠となっている。
米国はようやく、特許の質に目を向け始めたのである。
特許を供与するIBM
集めるマイクロソフト
特許にまつわるビジネスリスクの高まりを受けて、企業も身構え始めた。
特許データベースを保有するIFIパテントインテリジェンスの調査によると、2007年、マイクロソフトは米国で1637件の特許を取得した。過去2年間は取得件数トップ10の圏外だったが、6位に急浮上した。
マイクロソフトは、2003年に特許戦略の舵を切った。それまでは寡占的企業である優位的立場から、知的財産を公開しないというポリシーだったが、積極的に特許を取得しライセンスする、オープン戦略に転換したのだった。東芝、富士通など日本企業とも次々にクロスライセンス契約を結んだのは、記憶に新しい。
この新戦略を指揮するために、引き抜かれたのが、世界ナンバーワンの特許数を誇るIBMで28年間にわたって知財部門を率い、ライセンシングとロイヤルティで毎年400億円近い収益を上げてきたマーシャル・C・フェルプス氏である。
古巣のIBMは、OS(基本ソフト)のリナックスをはじめとするオープンソースの開発を支援するために、2005年にオープンソースコミュニティに対する500件の特許の開放に踏み切った。これまで蓄積した強力な特許を武器に、IBMの製品に適合するかたちでのオープンソフトウエアの普及を仕掛けると同時に、さらなるIBM製品の普及を図ろうとしているのだ。
このオープンソースコミュニティの動きを最も警戒しているのが、マイクロソフトだ。特許の急拡大も「訴訟の刃をそこに向けるためのものではないか」(IBM幹部)との憶測がある。
これらIT企業と比較し、化学・製薬企業の特許の数は圧倒的に少なく、そのぶん価値が高い。
「リピトール」特許切れを受け、
ファイザーが1万人の人員削減
たとえば、製薬世界最大手のファイザーは、総売上高の3割近くを稼ぎ出す高脂血症薬「リピトール」が2011年6月以降、各国で特許切れとなるのを受けて、全世界で約1万人の人員削減を実施すると発表した。他社後発薬の追い上げを受け、売り上げの急激な悪化が予測されるからだ。
イーライ・リリーでも稼ぎ頭の抗精神病薬「ジプレクサ」が、2011年に特許切れとなり、すでに発売ずみのうつ病治療薬「シンバルタ」に期待をかける。イーライ・リリーでは、R&Dの当初から知財部門のメンバーが加わり、特許取得の可能性などについて、法的アドバイスを行なう体制を敷いている。「特許は会社の命と同等」と幹部は言葉に力を込める。
「日本や欧米の大企業において、製造業としての競争優位性は、中国など新興国企業の台頭によって、失われ始めている。したがって、過去のR&Dの蓄積である特許を、法的手段によって守るのは、当然のことである」とモリソンアンドフォースター弁護士事務所パートナーのアラン・C・ジョンストン氏は言う。
独占か、公開か。いずれにせよ、特許戦略は経営そのものである。
(『週刊ダイヤモンド』副編集長 遠藤典子)