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市場原理の限界
市場原理には限界がある。では、なぜか?
それは、「利益の最大化を目的とする」という発想自体にある。
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米国の自動車産業が倒産寸前であるだけでなく、トヨタのような優良企業でさえ苦境にある。賃上げを拒否するどころか、「賃下げしないと企業存続が脅かされる」と言い出す始末だ。
トヨタと言えば、優良企業の見本だ。カンバン方式などで徹底的ニコスとを切り詰めたし、ハイブリッド車で環境技術の最先端を切っている。また、レクサスは米国ではベンツをしのいで最高のブランドとなっている。これほどの企業が赤字になってしまうのだ。では、なぜか?
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ここではもはや、「市場原理にそのものに限界がある」と見なした方がいいだろう。トヨタのような一企業がいくら努力したところで、景気という巨大なものが歪めば、トヨタさえひとたまりもない。どんなに優秀な船も、嵐のなかではなすすべがない。
だから、ここでは、
「一つ一つの船が最善の努力をすればいい」
という発想は成立しない。つまり、
「市場原理で状況が最適化する」
という発想は成立しない。
大切なのは、市場において一つ一つの企業が努力をすることではなくて、景気そのものを悪化させないことだ。── これが大前提となる。この大前提を見失っては、何にもならないのだ。
( ※ 基盤が間違っていれば、その上のすべては砂上の楼閣となる。)
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では、市場原理の発想の、どこがおかしいのか? 市場原理そのものもおかしいが、より根源的には、次の発想がおかしい。
「経済活動の目的は、利益の最大化である」
このような発想は、経済学の教科書(ミクロ経済学の教科書)に書いてあるものだ。しかし、この発想は、正しくない。正しくない発想を取るから、正しくない結果になるのだ。その正しくない結果が、現在の不況だ。
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では、正しくは? こうだ。
(i) 「経済活動の第1目的は、不利益の最小化である」
(ii)「経済活動の第2目的は、利益の最大化である」
ここでは「不利益」を「赤字」と呼び、「利益」を「黒字」と呼び替えるといい。すると、上の (i)(ii) は、次のように言い換えることができる。
「経済活動では、赤字を出さないことが最優先だ。そのことが成立した上で、黒字の最大化が目的となる」
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このことは、ちょっとわかりにくいかもしれないので、具体的な例で示す。
2005〜2008年ごろ、トヨタは米国で工場をどんどん拡張していった。生産台数を増やして企業規模を拡大し、「年産 1000万台をめざす」というふうに攻撃的な姿勢を取った。
この際、取締役会では、次の二つの意見があったはずだ。
(1) 慎重派 …… 「そんなに急拡大すると、やばいよ。売れなくなったら、どうするんだ」
(2) 積極派 …… 「どうせ売れるさ。急拡大するべきだ。うちが急拡大しなければ、ホンダや日産にシェアを奪われてしまう」
この両者は、次の二つの原理をもつ。
(1) 慎重派 …… 「赤字を出さないことが最優先だ。将来、莫大な赤字を出す危険性があるのならば、企業存続を危険にさらすようなことはやめるべきだ。だいたい、このバブルはいつか必ず崩壊するはずだと、クルーグマンや南堂が予測しているじゃないか。危険なことはやめておこう」
(2) 積極派 …… 「黒字を出すことが最優先だ。危険を恐れていては、前には進めない。リスクを負ってこそ、成長できるのだ。クルーグマンや南堂なんて、異端のトンデモじゃないか。当たるわけないよ。エコノミストの主流派は、景気はずっと良くなるよ、と主張しているんだから、彼らの言うことを信じて、拡大路線を進もう。2009年には、すばらしいバラ色の未来が開けている」
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これらの発想の根っこには、何があるか? 先に述べたとおりだ。
・ 赤字を出さないこと
・ 黒字を増やすこと
この二つだ。では、この二つは、どう違うか? 次のようになる。
・ 稼働率の維持 (赤字を出さないこと)
・ 利幅の増大 (黒字を増やすこと)
この二つは、次の違いでもある。
・ 商品がかならず売れること (赤字を出さないこと)
・ 商品をなるべく高く売ること (黒字を増やすこと)
生産した商品がすべて売れるのならば、「商品を高く売ること」(またはコストを下げること)が、最優先となる。そこでは、市場原理が成立する。
しかしながら、その前に、「商品がすべて売れること」が前提となる。商品が売れなかったら、元も子もないのだ。利益を増やすかどうかなんて関係ない。商品が売れなければ、利益という概念そのものがないのだ。何も売れないところに、利益などは存在しない。自動車が売れなければ、売れない(作らない)自動車の利益などは存在しない。そして、存在しない利益について「利益の最大化」を論じているのが、市場原理主義者(古典派経済学者)だ。
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つまり、市場原理というのは、
「存在しないものの最大化を目的とする」
という発想だ。少なくとも不況期においては、そうなっている。……まったく、馬鹿げた発想だ。
( ※ 「稼働率の低下」という不況の現象を理解できていないから。)
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こうして、市場原理の限界というものがわかっただろう。
利益の最大化は、たしかに大切だ。しかしそれは、第2目的にすぎない。第1目的は、「商品が売れること」「赤字を出さないこと」「稼働率を維持すること」である。……より簡単に言えば、
「生産活動をなすこと」
である。
たとえば、自動車作業で言えば、大切なのは、黒字を最大化することではなく、生産活動を維持することだ。ここでは、生産台数を増やすことが大事なのではなくて、工場の生産台数に応じた生産台数を維持する(稼働率を維持すること)ことが大事だ。
そして、需要が減少する可能性があるのであれば、工場は拡大しない方が正しい。なぜなら、工場を拡大すれば、生産台数を維持できなくなるからだ。(不況による遊休。)
仮に、工場が遊休すれば、どうなるか? 黒字が減るのではなく、莫大な赤字が発生する。すなわち、第1目的に反してしまう。……そういうことは、絶対にあってはならないのだ。
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個人で言えば、「金を増やそう」と欲をかいたあげく、自分の人生を壊す可能性のあるギャンブルをやるのは、絶対にしてはならない。1万円ぐらいで馬券や宝くじを買うのならば勝手だが、自分の年収に匹敵するような金をギャンブルに投じるのは狂気の沙汰だ。そんなことをすれば、自分の人生を失いかねない。…… ここでは、「いくら儲かるか」「黒字が最大化するか」ということは関係ない。自分の人生を破壊するような莫大な赤字の可能性に踏み込むこと自体が間違いなのだ。
もちろん、そんなことは、たいていの人が知っている。しかし、トヨタは知らなかった。ホンダも知らなかった。日産も知らなかった。だから、これらの企業は、米国にどんどん工場を建設して、それらの新設工場がすっかり遊休するハメになった。馬鹿なギャンブルをしたせいで、企業基盤そのものが脅かされてしまった。
では、トヨタやホンダや日産は、どうしてそんな愚かなことをしたのか? そのわけは、先に述べたとおりだ。
「黒字の最大化をめざして、赤字の危険性を無視したこと」
一つの企業がいくら黒字を拡大するために努力しても、嵐の海では、一枚の葉っぱのようなものでしかない。カンバン方式でどんなに努力しても、不況になれば需要縮小によって大幅な赤字が発生する。
トヨタやホンダや日産は、そのことを知らなかった。黒字の拡大ばかりをめざして、赤字の発生する危険性を理解しなかった。企業経営のことばかりを考えて、マクロ経済のこと(総需要縮小のこと)を考えなかった。
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結語。
大切なのは、次のことをはっきりと理解しておくことだ。
「経済の第1目的は、黒字の最大化ではなく、赤字を出さないことだ」
では、これを知った上で、これを実行するためには、どうすればいいか? 二つある。
第1に、市場原理なんていう古典派の発想を捨てるべきだ。そこからは「黒字の最大化」という概念しか出ないからだ。
第2に、マクロ経済学の発想を取るべきだ。そこからは、「生産量の維持」という概念が出るからだ。
[ 付記 ]
仮に、こうして経済学をちゃんと理解しておけば、トヨタはおそらく次の方針を取っただろう。
「企業に利益が出た時点でに、その利益を社員に還元し、同時に、日本全体で大幅な賃上げを実現する。そのことで物価上昇をもたらし、かつ、生産量を拡大する。……こうして、不況から脱出する」
3年ぐらい前、トヨタにその知恵があれば、日本は今ごろ、内需拡大によって、不況を脱していたはずだ。また、米国で無駄な工場投資をすることもなかったはずだ。
しかしながら、トヨタはその方針を取らなかった。ちゃんと私の言うことを聞いておけば良かったのに、そうしなかった。……とすれば、今の惨状は、自業自得というべきか。予想されたとおりの事態が起こった、というだけのことだ。「穴に落ちるぞ」と警告されていたのに、その道を進んだのだから、穴に落ちるのは当然なのだ。
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簡単に言えば、こうだ。
トヨタは、自分が「儲けよう儲けよう」と思って、せっせと利益を拡大した。そのために、労働者の賃金を引き下げた。そのせいで、日本中の総需要が低下して、あらゆる産業が不況になり、客がいなくなった。自分ばかりが儲けようとしたから、かえって自分で自分の首を絞める結果になった。
仮に、トヨタが「利益を独り占めしよう」と思わずに、松下幸之助みたいに「利益を労働者と分かちあおう」と思ったなら、現状みたいな状況にはならなかっただろう。
http://nando.seesaa.net/article/114460260.html