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日本の近年の出来事の中で、1990年に始まった、信用インフレから生じた不動産および株式バブルの崩壊ほど人々の記憶に深く焼きついていることはない。
しかし昨年秋以降の日本の工業生産と輸出の急激な落ち込みは、ほぼ間違いなく、バブル崩壊後に起きた数回の景気後退局面が穏やかなものに見えるような、未曾有の大不況の到来を物語っている。
バブル崩壊後最悪の年だった1998年に、日本経済は2%縮小した。しかし大半のエコノミストは、2008年の第4四半期だけで日本経済はそれ以上縮小したと考えている。ゴールドマン・サックスは2009年の日本のGDP(国内総生産)成長率が3.8%のマイナス成長になると予測している。
戦後最長となった約6年間の景気拡大期を経て、日本は早ければ2008年第2四半期から景気後退局面に入ったと見られている。しかし、当初はかなり緩やかな景気下降だったものが年末の2〜3カ月間で、信用危機の嵐のただ中に巻き込まれた国々が味わっているよりもはるかにひどい不況に姿を変えた(図参照)。
11月には、輸出額が前年同月比27%落ち込んだ。状況は悪化する一方で、12月にはマイナス幅が35%に拡大した。輸出急減の主因は米国の景気後退で、対米輸出は前年同月比36.9%減少した。
世界的な景気後退が今度はアジアのサプライチェーンに打撃を与え始め、12月に日本の対中輸出は35.5%減少、アジアの「虎」(香港、シンガポール、韓国、台湾)向けの輸出は対米輸出以上に落ち込んだ。
輸出は日本の工業生産のほぼ半分を占めるため、鉱工業生産も統計を取り始めて以来、過去最大の下げ幅を記録している。11月の鉱工業生産は前年同月比16%減少した。12月には、景気の先行指標である工作機械受注額が前年比72%減少した。
トヨタ、09年世界販売計画を下方修正
自動車メーカーは生産台数をほぼ半減させる〔AFPBB News〕
BNPパリバ証券のエコノミストの白石洋氏は、鉱工業生産は昨年12月時点で既にバブル後最低だった2001年の水準まで落ち込んでおり、堅実な回復とされていた過去6年間の成長分が吹き飛んだと見ている。
不況が終わるまでに、生産高は1987年の水準にまで落ち込むと白石氏は予測する。
2002年以降の日本経済の回復を牽引してきた輸出需要が、自動車と消費者向けハイテク製品という極めて限定された産業に支えられていたことも裏目に出た。この2業種の落ち込みは特に激しく、自動車メーカーは生産台数をほぼ半減し、結果として鉄鋼、半導体、化学品メーカーにも大きな影響を与えている。
今回の不況で恐らく最も予想外と言える要素は、日本国民が受けている心理的打撃だろう。そもそも日本は米国や大半の欧州諸国と異なり、信用の過剰供与問題は全く存在しなかった。
近年、日本の企業は借り入れを増やすどころか負債を圧縮し、家計は多額の貯蓄を維持した。金融システムも概ね、不良資産や不良債権に汚染されておらず、地方銀行は公的資金注入の申請に動き出したようだが、大手都市銀行については当面はその必要はないと見られている。
それなのに、6年間の景気回復期にも決して強いとは言えなかった消費者の需要が急速に冷え込んでいる。12月の自動車販売台数は前年同月比で2割以上減少し、百貨店売上高は10%近いマイナスとなった。
1月20日に内閣府が公表した12月の消費動向調査では、消費者態度指数が3回連続で過去最低を更新。同調査の結果は、深刻な不況がサービス産業に波及したことを示している。
揚げ句、日本は追い払ったとばかり思っていた亡霊、すなわちデフレの再来に直面している。
今夏までに物価は再び下落し始めるだろう。これが昨年来のエネルギー価格下落を反映する程度なら有益ではある。しかし、それ以上にしぶとい物価下落は、金融政策の失敗と言える。
日銀は昨年12月に、政策金利をゼロ近くまで引き下げることを余儀なくされた。2006年の水準への回帰である。
1月22日、日銀は買い入れの対象をコマーシャルペーパー(CP)だけでなく、社債にまで広げる方針を打ち出した。最近まで政府の経済財政諮問会議の民間議員を務めていた東京大学の伊藤隆敏教授は、日銀はさらなる施策を実施する必要があると考えている。物価上昇率をプラスにする目標(インフレターゲット)を明確に示すなどの施策だ。
悲観論を押しとどめる根拠も存在する。家計には今でも多額の貯蓄があるし、企業に対する銀行融資も増加している。ただし、融資増加の大部分は、干上がってしまった資本市場から直接供給されていた信用を置き換えるだけのものだが。
日比谷公園に「年越し派遣村」開設
異例の速さで雇用調整が進む〔AFPBB News〕
重要なのは、先の不況の際には苦境に陥った企業でもなかなか手をつけようとしなかった余剰人員や過剰な生産能力などの領域で今回は急速に調整が進んでいる点だ。
過小評価されていた円の実効為替レートが急騰して適正な水準に近づき、資金調達がいよいよ難しくなったことで、低利資金と円安のおかげで長らく生かされてきた「ゾンビ」企業の破綻が急増している。
また、派遣契約や臨時雇いの労働者を急激に増やしてきた10年間が過ぎ去った今、企業はこうした労働者を解雇し始めている。在庫調整のために生産も削減されている。こうした動きは、これまでの日本経済にはなかった柔軟性を示すものである。
現在の失業率は3.9%だが、バブル崩壊後で最も高かった5.5%の水準にまで戻る可能性がある。ただ、日本の労働者の構成がその痛みを和らげるかもしれない。
日本では、景気回復局面で人口の多くを占める団塊の世代に定年後も会社にとどまるよう求めていた。しかし今後は、この世代の多くの労働者が、雇用期間を延長することなく退職して年金で生活するようになるだろう。労働力および在庫の迅速な調整により、日本経済はほかの先進諸国よりも早く立ち直る可能性がある。
しかし、経済がいつ、どれほど力強く回復するかはまた別の問題である。日本企業が、かつて借金漬けの米国人の需要を満たしていた生産能力をどれだけ迅速に削減するにしても、日本の経済構造そのものは外需に応えることに向いていることに変わりはない。
そうした日本の戦後モデルはもう破綻した。このモデルを築き、導いてきた政治システムも同様である。半世紀の間、ほぼ政権の座を降りることなく政治権力を握ってきた自民党は、その存在意義を失い、今後数カ月以内に行われると見られる国政選挙で大敗する恐れに直面している。
高齢化する人口と劣化する政治の中で
麻生首相、26兆9000億円の追加経済対策を発表
政治の機能不全が日本経済にとって最大の問題〔AFPBB News〕
政治の機能不全は、今や日本経済にとって最大の問題になっていると言っても過言ではない。政策立案者は、高齢化と人口減少が進む社会で内需を拡大する策を議論すべきだ。
例えば、医療分野や高齢者向けサービスでは、サービスの受け手よりもサービスの提供者の方を手厚く保護している規制を撤廃したらいいだろう。
しかし政府は今、2兆円(220億ドル)という比較的小規模な景気刺激策を巡って、野党とばかりか、与党内でも不毛な争いを繰り返すばかり。しかも、このカネの大部分は、使われることなく消費者のポケットに収まることになる。
JPモルガン証券の菅野雅明氏は、今の需要減に対抗するには、生産性の向上を目的とした4倍の規模の刺激策が必要だと考えている。
政府が大胆な刺激策を打ち出せないのは、バブル後に急増した国の膨大な債務が背景にある。日本の純債務はGDP比90%以上に達している。しかし金利は極めて低く、このため債務の利払いコストも非常に小さい。そのうえ日本の国債保有者はほとんど日本人で、移り気な外国人ではない。リスクを考えれば、より積極的な行動を取った方がいいはずである。
中央銀行についても同じことが言える。もともと慎重な日銀だが、政治からの指針の提示や議論がないため、その傾向が強まっている。例えば、日銀は明確にインフレを目標とするだけでなく、株式を買い取って商業銀行の自己資本――その多くは価値が下がり続ける保有株式から成る――を増強するといった手段だって正当化できるかもしれない。
それにしても皮肉な話である。米国をはじめ、日本以外の先進諸国が必死になって日本のバブル後の経験を避けようとしている時に、当の日本はお粗末な政治のせいで、重い足取りで他国の後ろをのろのろとついて行く羽目に陥っているのだから。
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英エコノミスト誌の記事は、JBpressがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/501