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「人民元経済圏」は出現するか?
米国金融危機が世界にもたらしたダメージを受けて、世界の国々は次のことを認識するに至った。一国の通貨を土台として世界的な決済システムを構築して、同国と世界経済の動きに従っていくことは、不安定で不確実なことであり、これでは真の意味で世界経済のさらなる全面的な発展を推進することも難しくなる。世界は今、多元的な国際通貨決済システムを必要としており、こうした状況の中で人民元の地域化や国際化の実現が見通される。そう遠くない将来、人民元を主要決済通貨とする人民元経済圏が出現する可能性がある。
現在、人民元は中国周辺国家で広く流通しており、国境貿易取引で大量に使用されているほか、ここ数年は大陸部の観光客が大陸部外で巨額の人民元を消費している。人民元は長年にわたり価格の安定を保ち、東南アジア地域では日本円を抜いて「第二の米ドル」と呼ばれるようになった。中国経済の実力が急速に高まり、貿易や金融分野の開放レベルがますます向上し、金融をめぐる環境が段階的に改善されるのに伴い、人民元の地域化・国際化の条件が一層整ってきた。将来的に国際通貨システムにおける重要な通貨となることは確実で、中国もより積極的かつ主体的に国際金融システムの改革に参与するようになり、世界経済の安定的成長にふさわしい貢献をするようになることが予想される。
2008年12月24日に開催された国務院常務会議では、広東省、珠江デルタ地域と香港澳門(マカオ)地域、広西チワン族自治区、雲南省と東南アジア諸国連合(ASEAN)との貨物貿易で、人民元決済を試験的に行うことを決定した。今回の試験的決済は規模が1千億元を超えており、限られた範囲での試験的決済ではあるが、中国政府が人民元の国際貿易決済ツール化を推進する上で、重要かつ実質的な一歩を踏み出したことを示している。これに先立ち、中国はロシアと合意を結び、今後は両国の中央銀行によるルーブル・人民元決済業務を拡大することを決めた。韓国との間でも二国間通貨相互両替合意を結んでいる。
人民元の地域化、国際化の歩みが加速するのに伴い、1カ所ないし2カ所の人民元国際決済センター設立が急務となっている。上海と香港はいずれも国際貿易が発達した地域であり、人民元による国際貿易決済を推進する上でそれぞれに長所を備えている。香港は開放の歴史が長いうえ、大陸部から独立した国際化された金融市場があり、1990年代以来長期に渡り人民元の域外市場が存在してきたという強みがある。人民元の国際化が一歩ずつ順を追って進むのに伴い、香港は中国金融の前進基地としての役割やモデルケースとしての役割を一層発揮することが出来るようになるとみられる。
国務院が発表した「当今の金融による経済発展の促進に関する若干の意見」の30条では、香港の非金融企業による人民元建て債券の発行を認め、香港における人民元業務の発展を支援し、周辺国・地域との貿易における人民元の決済規模を拡大するとの政府方針が明確に打ち出されている。香港にとっては、こうした政策は、中国政府が香港の人民元域外市場の中心への発展を支援するとともに、これまでシンガポール、香港、韓国などにあった人民元域外市場を香港に集約することを意味している。また未来の域外人民元市場の登場により、従来の決済不能だった人民元建て金融派生商品(デリバティブ)は姿を消し、人民元建て債券が新たに加わって同市場は一層厚みを増すことが予想される。
また一方で、資金源の豊富さや人民元の監督管理の利便性、より広い金融サービスの対象範囲などからみて、上海も香港にはない強みを備えており、人民元決済センターを設立するのに大変ふさわしい場所だといえる。上海と香港が連携する形で協力を強化するのが最も適切だ。香港と上海は人民元決済に関して、矛盾や排除の関係にあるのではなく、合理的かつ有効に業務を分担して協力し合う関係にあるべきだ。上海は国際金融センターとなる上で抱える制約や不足点を現実として十分に認識し、人民元の国際化プロセスが加速する状況において、人民元経済圏の成立過程で占める位置や役割、将来の発展戦略などを重点的に研究し、人民元の国際化決済センターや取引センターになるべく積極的に動く必要がある。(編集KS)
*筆者は同済大学経済・管理学院の石建所視ウ授