06. 2014年12月04日 07:37:29
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「終わりなき戦い」 本当の敵は誰? エボラとの戦い(2) フィリピンのサルとネズミを追う 2014年12月4日(木) 國井 修 エボラはアジアでも流行していた エボラはこれまでに世界で20回以上の流行が報告されているが、実はアジアにもエボラは存在し、流行していた。レストン型、またアジア型と呼ばれるものである。 これが最初に発見されたのは1989年、米国バージニア州の町レストン。サルの検疫施設で実験用カニクイザルが大量に死亡し、そこからエボラが検出された。 この施設はアメリカの首都ワシントンDCのダラス国際空港の近くにあり、当時はエボラの空気感染も否定できなかったため、エボラのアメリカ上陸として人々を不安と恐怖に陥れた。ベストセラーにもなったリチャード・プレストン(Richard Preston)著「ホット・ゾーン(The Hot Zone)」が当時のことを如実に伝える。 その後も1990、96年に米国バージニア、テキサス州、1992年にイタリアのシエナに輸入された実験用サルにレストン型エボラ流行が流行した。 これらの共通点は、サルの輸入元がすべてフィリピンであること。1996年にはフィリピン国内にある輸出元のサルの飼育場で、さらに2008年には養豚場のブタにエボラが流行し、多くのサルとブタが死亡した。 フィリピンで自然宿主探し 1998年、エボラの世界的権威、米国疾病管理予防センター(CDC)特殊病原室の責任者アンソニー・サンチェス(Anthony Sanchez)と、日本の国立感染症研究所の専門家の共同研究チームに参加させてもらい、フィリピンを訪れた。フィリピン熱帯医学研究所の協力も得て、輸出用サルの飼育場とその周辺でエボラがどのように伝播しているか、実地調査をしたのである。 米国疾病管理予防センター(CDC)
CDCにある最高度安全実験施設 CDCのBSL4の前でDr.サンチェスと筆者 当時、自然宿主の正体やそこからの伝播経路がわからなかったので、サルの飼育場で働く人々、その周辺に棲息するネズミなどの血液を採取してエボラ抗体の有無などを調べた。 フィリピンの灼熱の太陽の下、アメリカ人、日本人、フィリピン人が犬と一緒に野原を駆け回った。「ここ掘れワンワン」と犬が吠えた場所をみんなで掘り、ネズミを捕まえ、その血液を採取して調べるのだ。「宿主探し」というよりは、途中から、「宝物探し」のように見えてきた。 エボラレストンが流行したサル飼育施設近くでネズミの捕獲
捕獲したネズミを運ぶ少年 ネズミの血液採取 サルの近くにフルーツコウモリが それにしても、サンチェスのネズミの扱い、採血の速さには驚いた。私も学生時代に研究室の手伝い、大学助手時代には実際に研究室でネズミを使った研究はよくやっていたが、野ネズミを使った調査ははじめてである。それも実験用ネズミに比べて、サイズがでかい。私がもたついている間に、ほかの研究者はさっさと採血を済ませる。その中でも、サンチェスは手際がよく、素早いというだけでなく、流れるような美しさ、ネズミも肩透かしをくらうような技があった。 サンチェスを含め、同行した研究者の中には、世界中で自然界の様々な動物を調べて、エボラを含め、いくつかのウィルスの伝播・変異を調査している人がいた。彼らを「ウィルス・ハンター」と呼ぶ人もいる。彼らから、いろんなことを学んだ。 この一連の調査で、サルを扱う人間からはエボラ抗体を検出した。が、自然宿主については、残念ながら、同定することはできなかった。しかし、その後の別のグループの調査で、フィリピンでもフルーツコウモリからエボラ抗体が確認されたという。レストン型でも、アフリカ同様、コウモリが自然宿主である可能性が強まった。 よく調べると、問題となった輸出用サルの飼育施設は、フルーツコウモリが多く棲息する果樹園の跡地に建てられた。コウモリが自由にサルの檻の中に侵入し、ウィルスを伝播していた可能性は容易に想像できる。 欧米に輸出された実験用サルの飼育施設(フィリピン) 幸いなことに、今までのところ、このレストン型のヒトへの病原性は低いとみられている。1989−96年の米国、イタリア、フィリピンでのレストン型エボラ流行で多くのサルが死亡しているが、発症・死亡したヒトはいない。感染したサルの捕獲・飼育・処理にかかわった458人の追跡調査の結果、発症はなく、血液検査で1%にエボラ抗体陽性が認められたのみである。
ただ、少し心配なことがある。CDCが発行する専門誌「Emerging Infectious Diseases」の2013年2月号の論文によると、バングラデシュで2010−11年に捕獲したフルーツコウモリ276匹のうち5匹(3.5%)にエボラ抗体が確認され、それもレストン型よりもザイール型(最も致死性の高い株)に強い反応を示したという。 バングラディシュにも危険が? これはエボラ、それも致死性の高いザイール型がバングラデシュに存在する、流行の危険があるとの結論に直結はしないが、フィリピン以外のアジア諸国でも、フルーツコウモリが同種または類似のウィルスを運ぶ可能性を示唆しているようである。 フルーツコウモリは、エボラ以外にも、狂犬病、マールブルグ、ニパ、SARS(コロナ)、ヘンドラなど、様々な病気をもたらすウィルスの宿主でもある。聞きなれない名前も入っているだろうが、この多くは新興感染症と呼ばれ、最近、動物から人間に伝播するようになり、新たな脅威となっている。 さらに問題は、フルーツコウモリはかなりの距離を飛行し、中には1年で3000km以上も移動する。「感染症に国境はない」というが、ヒトのみならず、自然宿主の国境を越えた移動にも注目しないとならない。 ウィルスハンターたちの活躍にも、期待したい。 (つづく) 調査に向かうCDCのウィルスハンター達
このコラムについて 終わりなき戦い
国際援助の最前線ではいったい何が起こっているのか。国際緊急援助で世界を駆け回る日本人内科医が各地をリポートする。NGO(非政府組織)、UNICEF、そして世界基金の一員として豊富な援助経験を持つ筆者ならではの視野が広く、かつ、今をリアルに切り取る現地報告。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20141201/274500/?ST=print
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