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徹底取材「幻の1号患者」で明らかになったこれが現実!殺人・エボラ大流行日本は絶対に防げない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41022
2014年11月11日(火) 週刊現代 :現代ビジネス
「国内唯一の検査機関」の隣に小学校が/インフルエンザと見分けが付かない/地方空港「準備が間に合わない」/指定病院「患者が3人来たら、対応できない」
致死率70%。感染者の多くが死亡する恐怖の殺人ウイルス、エボラが日本にも迫っている。感染疑い第1号の男性がスムーズに隔離され、無事退院したが安心してはいけない。不安な実態を取材した。
■検査施設は「使えない」
「あの患者さんがエボラではなかったと分かって、本当によかった。実は『エボラだったら、この先いったいどうするんだ』と病院内でも困惑する声が出ていたんです。
今回は運がよかったけれど、日本でエボラ疑い例が次々と出てくることになったら、とても対応はできないと思います」
東京・新宿区の国立国際医療研究センターに勤務する看護師の女性はこう証言する。
10月27日、西アフリカに渡航したあと帰国し、羽田空港に降り立った、日系カナダ人の男性ジャーナリスト(45歳)が検疫で発熱を申告。日本国内初のエボラ出血熱感染の疑い例として同センターに収容された。
28日夜の会見で塩崎恭久厚労相は「段取り通り」だったと、準備態勢が万全であることを強調。29日までに行われた2回の検査で、男性はエボラ・ウイルスには感染していないと判断され、退院した。
だが、空港、病院、警察など、エボラが本格的に上陸・流行した際に関係する機関を取材すると、今回の「幻の1号患者」が見かけ上、つつがなく病院に隔離されたのは、まさに「幸運」と言わざるを得ないことが明らかになってきた。
冒頭の看護師の話に戻ろう。彼女が勤めるのは、エボラ出血熱を含む、危険な第一種感染症に対応できる特殊な設備・スタッフを擁する医療センターだ。それなのになぜ、内部で困惑の声が上がったというのか。彼女はこう指摘する。
「一般の人はあまりご存じないでしょうが、いまの日本の態勢では、エボラ出血熱の本格的な治療・研究はできません。患者さんから採取した血液から、エボラ・ウイルスを分離して、その性質を調べたり、どんな薬が効くのか調べたりすることができないからです」
医療先進国・日本は、富士フイルムの子会社が開発した抗ウイルス薬アビガン錠がエボラ治療にも効果を発揮するのではと国際的に期待されるなど、世界をリードする研究を行っているように思える。
だが、現場の医療従事者には、「本格的な治療ができない」とフラストレーションが溜まっている。いったい、どういうことなのか。
エボラなど危険度の高いウイルスは、世界保健機関(WHO)が定めるバイオ・セーフティ・レベル(BSL)の最高ランクであるBSL4に分類される。
日本国内で、このBSL4のウイルスを扱える設備が整っているのは、国立感染症研究所の村山庁舎(東京・武蔵村山市)と、理化学研究所バイオリソースセンター(茨城・つくば市)の2ヵ所だけだ。
このうち、エボラ感染疑いの患者が出た際に、患者の血液などの検体を受け入れ、ウイルスの有無を確認するのは、国立感染症研究所村山庁舎になる。
ところが、この国内唯一の検査機関である村山庁舎が、現状では「ほとんど使えないのと同じ」だと前出の看護師は話す。
「周辺住民の反対などで、BSL4の施設として国の指定が受けられていないんです。だから、今回も緊急避難的に、珍妙な論理で検査をするしかなかった」
実は今回、厚労省は次のような「珍妙な」見解を打ち出している。
〈エボラ疑いの検体は、エボラ・ウイルスが入っているか分からない状態だから、法的にはBSL4で扱わなければいけないとは限らない。BSL3として対処し、実際にエボラ・ウイルスが入っていると分かれば、そこからBSL4とする〉
エボラと分からないうちは研究者が取り扱えるが、エボラと分かった瞬間に扱えなくなる—。
つまり、ウイルスがあるかないかの確認まではできるが、あると分かった瞬間に、治療のための具体的な研究は何もできなくなるということに他ならない。
さらに、ひとたびエボラ患者と判明した人の血液を再度、検査することができないため、治療が功を奏して血液中のウイルスがほとんど消えていたとしても、それを確認することもできない。要するに、
「エボラとして入院したが最後、たとえ治っても退院の可否が判断されない」
ことを意味するのだ。
■対策は性善説だのみ
いったい、何のためのBSL4設備なのか。
そもそも周辺住民が稼働に反対するという、この国立感染症研究所村山庁舎とは、どのような場所なのか。
本誌が現地を訪れてみると、そこは畑と住宅地が入りまじる、どこにでもあるような郊外の町だった。
そのなかで、村山庁舎の周辺には、東京経済大学、国立病院機構村山医療センター、武蔵村山市民総合センターなど、大規模な公共施設などが並んでいる。
そして驚くべきことに、村山庁舎の真裏には武蔵村山市立雷塚小学校、真横には都立村山特別支援学校が置かれ、さらにその隣は東京小児療育病院がある。幼い子供たちが集まる施設が、殺人ウイルスの研究所を取り囲んでいる状態だ。
こんな事態になってしまった経緯を、戦時中から周辺に住んでいるという83歳の女性は、畑の端に座ってこう話してくれた。
「昔、あそこには陸軍病院と陸軍の航空整備学校があって、あとは畑ばかりだった。戦後は結核の療養所になったけど、要するに何にもない場所でしたよ。
だから、最初にそんな研究所を作ろうと計画した頃には、周りの住民のことなんか気にしなくていいと思ったんじゃないのかねぇ」
感染症研究所が、村山陸軍病院の後身である結核療養所の敷地に村山庁舎を設置したのは、'61年。'58年にポリオの大流行が発生し、ワクチンの検定を行う部門を置くためだった。その後、'63年にウイルス検査部門が追加されている。
当時ここがどんな場所だったのかを、国土地理院が公開している'61年の航空写真を確認すると、周囲は見渡す限り畑ばかりで、人家はほとんど建っていない。
ところが'65年になると、近隣の様子は一変する。
「それは大きな都営の村山団地が研究所の隣にできたのよ。子供も増えて、あちこちに小学校が建った」(前出の近隣住民女性)
村山団地は総計100棟を超える大規模団地だ。その開発と並行して、周辺の宅地開発も進んでいった。
'67年、感染症研究所村山庁舎の真横に、武蔵村山市立第五小学校(現在の雷塚小学校)が設立される。
'81年、村山庁舎にBSL4の検体を扱う施設が完成する。だが、すでに住宅街になりつつあった地域では激しい反対運動が勃発。研究所側は地元選出の議員に国会で反対の質問を出されるなど、追い詰められた。
結局、BSL4での稼働に必要な、厚生大臣による「一種病原体等取扱施設」の指定は受けられないまま。村山庁舎ではBSL4での運用が法的にも行えないことになり、前出のような珍妙な見解をひねり出さなければ、検査もできない異常事態が生じてしまった。
村山庁舎から600mほどの場所に住む男性は、こう不安を口にした。
「日本のどこかにはなきゃいけない設備でしょうが、ここにあるのはおかしいですよ。エボラは空気に漏れて広がるウイルスじゃないというけれど、いくらなんでも、小学校の真裏だもの。
それにね、私は週末よくサイクリングに出るんです。ここは東京の水がめのひとつである多摩湖まで自転車で15分くらいと近い。多摩湖からは都心にも水を送っています。それを考えても、ここに危険なウイルスが来る仕組みは変えたほうがいいんじゃないか」
たしかに、村山庁舎から約2・5qの場所にある人造湖・多摩湖からは、都心の千代田区などに給水する境浄水場と、新宿区、渋谷区などに給水する東村山浄水場に水が送られている。
「素人考えかもしれないけど、僕がテロリストだったらここを狙いますね。村山庁舎からウイルスを盗んで、ちょっと走って、多摩湖に捨てるだけ。それで首都全域が大混乱だ」(前出の近隣在住の男性)
不安が残るのは、脆弱な検査態勢ばかりではない。本誌は、日本へのエボラ上陸を防ぐ、水際対策の最前線、空港の検疫関係者にも取材を行った。
羽田空港での検疫を担当する東京検疫所の検疫衛生課長、横塚由美氏に訊いた。
—水際対策としては、まず流行国への渡航の有無と、発熱の感知になりますね。
「発生国から来られた方は健康相談室でお話を聞いています。滞在歴を聞いた上で、接触歴を訊ねます」
—滞在歴や基準以下(38℃以下)の発熱などは基本的に自己申告ですね。患者と接触していても、最長潜伏期間とされる21日以上経っていれば隔離されない。
「意図的に逃げる人を捕まえるシステムではありませんので、基本的には性善説でやっています。第三国経由などで意図的に逃げられれば、(検疫で)漏れるかもしれませんが……」
—せっかく観光で日本に来たのに、いろいろ訊かれるのは面倒だという外国人の方もいるんじゃないですか。相談室で話を聞いている段階では強制力はない。途中で席を立たれたら止められないのでは。
「実際、発生国から来た方で、『なぜ私だけ行かせないのか』と怒った方もいますね。現場の検疫官はかなり苦労していますよ。なかには怒って暴れる人もいます。アフリカ系で体格のいい方などは日本人と体格差もあるので大変です。あまりに激しい場合は空港警察官に来てもらいます」
—でも、もしその人がエボラ患者の疑いがあるなら、警察官も準備が必要では。
「滞在歴と接触歴が確認されていれば、我々も防護服を着ますし、警察官にも着用してもらいます。まだ暴れる方への対応訓練はしていませんが、体液に触れないよう訓練はしています」
10月24日には厚労省がエボラ対策を強化。西アフリカの流行地域に3週間以内の渡航歴のある全員に、1日2回の体温測定と結果報告を義務付けるなどの手を打っている。違反した場合の罰則規定も存在するが、正確に体温を測っているか、実際に測定結果を報告してくるかは、本人任せだ。
また、性善説に基づく対策には不安も残る。日本に渡航してくる外国人にも、善き市民もいれば、順法意識に欠ける人もいるからだ。
実際、'13年6月には六本木の外国人クラブで18歳未満の女子高生を雇ったとして、経営者のシエラレオネ国籍の男性が警視庁に逮捕されている。シエラレオネは現在もっともエボラでの死者数が多い西アフリカの最流行地域。日本とは遠く離れているとはいえ、人的交流を止める術はない。
■「県警が対応?誰が言った」
さらに不安を募らせているのは、実は羽田や成田、関西国際空港や中部国際空港のような大規模な空港ではない、中小の地方空港だ。
日本国内では全97空港のうち、29空港で国際線が就航している。たとえば新潟空港では上海、ハルビン、ソウル、ハバロフスク、グアムなど複数の国際線が日々発着している状況だ。
東北地方の、ある地方空港を担当する検疫官は、こう話す。
「東北地方ではエボラ患者を受け入れる指定医療機関が岩手と山形、福島にしかない。検疫官だって海の港やらと兼務で2~3人というところも多い。とても準備が足りません。実際に感染疑いの人が出たら、今回の羽田のようなスムーズな対応は絶対にできない」
この検疫官がとくに心配だと話すのは、中国からの観光客だ。地方空港の国際線は、中国の経済発展を当て込んで地元が積極的な誘致をしている例が多いこともあり、中国で拡大する中間所得者層の格安日本ツアーでの利用者が多い。
一方で中国は近年、資源獲得などのためにアフリカに100万人を超す人々を派遣し、大規模な公共工事を受注するなど結びつきを深めている。また広州市には50万人ものアフリカ人が暮らす「黒人村」と呼ばれる場所もある。
エボラの潜伏期間の研究で知られる、米国ドレクセル大学のチャールズ・ハース教授はこう話す。
「いまエボラの感染拡大は主に欧米を中心に広がっている。ただ、渡航者の統計を見ると、アフリカと中国の人の行き来は非常に多い。中国と日本の人の往来も多いことを考えると、中国経由でウイルスが入ってくる可能性も否定できません」
アフリカで得た稼ぎを使って、日本で家族と買い物を楽しもうという中国の中間所得層がいても、まったくおかしくはないわけだ。だが地方空港の現場では、
「設備も人手もない。対応しろというほうが無理だ」(前出の東北地方の検疫官)と怒りに似た声も上がる。
もし地方空港で感染疑いのある渡航者が検疫を強引に突破しようとしたら、警察はどう対応するのか。国際線の就航する空港を管轄する各県警に問い合わせると、反応はさまざまだった。
「空港でエボラの疑い例が出たら、県警に要請があるかも?誰がそんなことを言いました?」(新潟県警広報広聴課)
「エボラ対策に特化した訓練はまだ行っていませんが、我々も防護服の着脱など不安はある。一度訓練をやらねばいかんと思っているところです。装備としては鳥インフルエンザの際に用意した、タイベックウェアというのがあり、全所轄署に配っています」(富山県警・滝下弘之警備課次席)
「愛媛には(伊方)原発がありますので、防護服の着脱訓練は年1回、また新型インフルエンザ対応の訓練も年1回行っています。
防護服、N95マスク、ゴーグル、ゴム手袋などを揃えていますが、我々の持っているタイベックウェアという防護服は、雨天に弱いと聞いている。実際には防水装備と組み合わせ、患者の体液に触れないよう、工夫して使用することになります」(愛媛県警・農中実県警本部災害対策官)
ちなみにタイベックウェアは特殊な不織布をベースに作られた防護服。製品により性能は異なるが、血液や吐瀉物が直接、濃厚にかかった場合にどこまで防護できるかには不安も残る。
■ベッドが足りず野戦病院に
いざ、エボラ疑いの人が複数現れ、大流行の可能性に国民が怯える事態になったら、何が起こるのか。
大都市ニューヨークでもエボラ感染者が出たアメリカでは、風邪などで発熱しただけの市民が「エボラではないか」と続々と病院を訪れたり、国防総省の駐車場で女性が体調不良のため嘔吐しただけで周辺が封鎖されるなど、不安による「エボラ・パニック」が起き始めている。
全国の小規模病院の事情に詳しい長尾クリニック院長の長尾和宏医師は、こう指摘する。
「一番怖いのは社会の混乱ですよ。パニックになると、報道を見ただけで過換気症候群になり、息ができなくなる人もいる。怖くて電車に乗れないといった恐怖症が広がるんです。新薬があるというけれども、便乗商法も出てくる。新型インフルのときはネットでタミフルを1錠1万円で売るような怪しい情報もありました」
さらに混乱に拍車をかけるのが、エボラの初期症状だ。このウイルスの権威であるカリフォルニア大学サンフランシスコ校のチャールズ・チウ博士が語る。
「エボラの初期症状はインフルエンザに極めてよく似ている。咳はあまり出ませんが、発熱、嘔吐、筋肉痛、疲労感、下痢など。特徴的なのはしゃっくりが出ることですが、それが出始めると残念ながら死亡率は高くなってしまう」
日本では、これからインフルエンザの流行期を迎える。仮にエボラに感染した人が発症し、初期症状が出ていても、本人や家族、初診を行う地域の医師などが「インフルエンザだろう」と思い込んでしまう危険性もある。だが、ひとたびエボラを発症すれば、嘔吐物や痰、便などから他人にウイルスを感染させてしまう。
また逆に、例年約1000万人が感染するインフルエンザに罹った人たちが不安にかられ、「エボラでは」と指定病院に駆け込む事態となれば、病院はパンクし、機能停止してしまう。
高度な感染症に対応できる指定医療機関は、厚労省の定める特定感染症指定医療機関、第一種感染症指定医療機関をあわせても全国で45機関88床しかない。
都内では、国立国際医療研究センター(4床)、都立墨東病院、同駒込病院(各2床)、東京都保健医療公社荏原病院(2床)だけだ。
駒込病院の関係者は、こう本音を漏らす。
「対応できると言っても、特殊な病床は2床しかない。いっぺんに感染疑いの人が3人来たらお手上げで、疑い者が続々現れることになったら、結局、普通の病室などを臨時で隔離して使うしかないんです。都内で何十人も発生したら?それはもうアフリカと同じで、野戦病院状態ですよ」
前出の長尾医師は、
「無用な混乱に巻き込まれないためにも、今年は早めにインフルエンザのワクチンを打ったほうがいい」
と指摘する。
まだまだ穴だらけの日本のエボラ対策。先進国だから大丈夫などという無根拠なプライドだけでは、命を守ることはできない。私たち一人一人がその現実を知り、正しい知識を持つことでしか、パニックを逃れる方法はない。
「週刊現代」2014年11月15日号より
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