02. 2014年10月30日 06:14:49
: jXbiWWJBCA
コラム:エボラ医療従事者の強制隔離に見る「ご都合主義」 2014年 10月 29日 17:41 JST Celine Gounder[28日 ロイター] - 米ニューヨーク州のクオモ知事とニュージャージー州のクリスティー知事は23日、エボラ出血熱の感染が広がる西アフリカのギニア、シエラレオネ、リベリアから帰国した医療従事者について、21日間強制隔離するとの方針を明らかにした。 その翌日にはイリノイ州のクイン知事もこれに続き、ミネソタ、ジョージア、コネティカットなど他州も同様の措置を導入した。 24日にシエラレオネから帰国した看護師で疫学者のケーシー・ヒコックスさんは、この新規則により隔離された最初の人物となった。当局はヒコックスさんの意思に反し、ニュージャージー州ニューアークの病院に27日午後まで隔離した。 これら州知事が打ち出した隔離政策は、科学ではなく、恐怖と政治的なご都合主義に基づいている。 クオモ知事とクイン知事は共に民主党で、今年再選を目指している。クリスティー知事は2016年の次期大統領選で、共和党の候補として取り沙汰されている。こうした知事たちのエボラ熱への強硬姿勢は、市民の利益よりも自分たちの政治的利益を優先しているように見える。そして、帰国した医療従事者はもちろんのこと、米国民の健康と安全にリスクをもたらしている。 エボラから米国を守る最善策は、西アフリカでの流行を制御することにある。米政府は、イスラム教過激派組織「イスラム国」が米国を攻撃するまで待つことはせず、中東で事前に防衛策を講じている。 同様に、米国はエボラウイルスが国内で拡大するのをただ待っていることはできない。米国人が感染源で戦わなければ、国内での感染拡大は不可避であろう。 エボラとの闘いにおいて、西側諸国は医療従事者にさらなる協力を求める必要がある。しかし、強制隔離は医師らのやる気を損なうだけだろう。 筆者には、西アフリカで医療ボランティアに従事する友人がいる。エボラに感染しようとしまいと、彼らは帰国に際して受ける嫌がらせや汚名から身を守る対策を講じている。彼らの多くがフェイスブックやツイッターのアカウントを削除し、メディアで自分たちの写真が使われないようにしている。中には、同僚や勤め先に内緒でボランティア活動をしている人たちもいる。 筆者と共に西アフリカでのボランティアに行く予定だった友人は、ニューヨーク州の強制隔離を知った後、計画を取りやめた。彼女は筆者同様、サハラ以南のアフリカ地域で何年もの間、断続的にボランティアをしてきた。エボラ患者を治療する際のリスクは構わないが、ヒコックスさんが帰国して受けたような扱いを自分も受けたくはないという。帰国した医療従事者を強制隔離するということに、どのようなメッセージが隠されているのだろうか。 隔離の義務付けは、ダブルスタンダード(二重基準)となっている。 米国内でエボラ患者の治療にあたる医師や看護師は、西アフリカの医療従事者よりも潜在的に大きなリスクにさらされている。米国の先進医療では、人工呼吸器で患者の呼吸を助けたり、腎機能が低下すれば透析を行うことができる。このような西アフリカではほとんど行われない治療は、医療従事者がエボラに感染した体液に触れる可能性を高めている。 だが、米国でエボラ患者を治療する医師らが強制隔離されることはない。 公衆衛生当局は、西アフリカでエボラ出血熱に感染した米国人が移送されたエモリー大学病院やベルビュー病院などの医療従事者を隔離していない。では、米国内で初めてエボラ熱と診断されたリベリア人のトーマス・エリック・ダンカンさんの治療にあたり、自身も感染した看護師ニーナ・ファムさんの治療チームの一員だった米国立アレルギー・感染症研究所 (NIAID)のファウシ所長を隔離すべきなのか。 もし自身が複数のエボラ患者を治療するような立場だったらどうなるだろうか。患者1人を治療するたびに、21日間隔離されなければならないのだろうか。 また、強制隔離はエボラの感染方法についての誤解を長引かせる。エボラウイルスに感染しても、発症するまでにはある程度の時間がかかる。発症するまでウイルスは血液中で検知されず、発症しなければ他者を感染させることはない。 ギニアから帰国後にエボラ熱に感染したニューヨークの医師クレイグ・スペンサーさんは、検査で感染が判明する前に地下鉄に乗車したり、友人らとボーリング場に行ったりしていたが、何も悪いことはしていない。当時は発症しておらず、他者を危険にさらしてはいない。 クオモ州知事が強制隔離を発表する前、ニューヨーク市保健精神衛生局は科学に基づいた政策を打ち出していた。同局は先週、西アフリカからの帰国者を1日に2回検温し、エボラ熱の他の症状も出ていないか直接監視することにした。 この方法であれば、感染リスクのある人たちが発症したら即座に隔離治療できる。こうした積極的監視は、市民の健康を守ることと医療従事者の権利を守ることをうまく両立させられる。 感染症で隔離する場合、公衆衛生当局はある一定の原則に従う法的義務がある。感染拡大を防ぐために必要な場合にのみ、個人の自由を奪うことが可能となる。 現代のテクノロジーは、時代遅れな強制隔離を必要としない新たな解決策を生み出すことを可能にしてくれる。例えば、感染の疑いがある人を、ワイヤレスの体温監視装置やGPS(全地球測位システム)で継続的に監視する方法も可能だろう。測定値は公衆衛生当局者にリアルタイムで送られ、もし発症が確認された場合には直ちに治療が受けられるようにする。 エボラ最前線で闘っている医療従事者らは、帰国した際に英雄としての歓迎を受けるに値する。家族と離れ、給料をあきらめ、命の危険を冒しているのだから。米国と世界中の衛生を守ろうとする彼らの努力は、敬意を表されるべきなのだ。 http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPKBN0II0AP20141029
|