06. 2014年10月30日 07:59:03
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米国のエボラパニックを助長する「当局への不信感」 2014年10月30日(Thu) Financial Times (2014年10月29日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)米NY州、エボラ対策の強制隔離を緩和 オバマ政権が圧力 自分か親友、親類のいずれかがエボラ出血熱にかかるだろうと考えている米国人の割合は45%を超えているという(写真は米ニューヨーク市で、防護服を着て路上に立つ男性)〔AFPBB News〕 これまでの死亡率に基づいて計算すると、米国人がエボラ出血熱で亡くなる確率はキム・カーダシアン*1と結婚できる確率よりも低い――。そんなツイートが発信されている。 しかし、科学的な議論に固執する連邦政府と、一人また一人とパニックに感染していく遊説中の政治家たちとの間で多勢に無勢の綱引きが行われている現状は、冗談では済まされない。 カイザー・ファミリー財団によれば、自分か親友、親類のいずれかがエボラ出血熱にかかるだろうと考えている米国人の割合は45%を超えている。また、ギニア、シエラレオネ、リベリアと米国の間の渡航禁止を支持する人の割合も4分の3を超えている。 米国人を襲うパニック、選挙をにらんだ慌ただしい動きも リードしているのは共和党だが、このパニックは次第に超党派の様相を帯びつつある。ここ数日で3つの州――ニューヨーク、イリノイ、ニュージャージー――が、エボラ熱の患者と接触した人全員を21日間強制隔離することを決めた。3州のうち2州の知事は民主党で、どちらも来週行われる選挙で再選を目指している。 連邦議会の中間選挙に臨む民主党の候補者たちは、渡航禁止に反対するバラク・オバマ大統領の姿勢は受け入れられないと、大慌てで反発している。批判されているケイ・ヘイガン上院議員(ノースカロライナ州)や厳しい戦いに臨むジーン・シャヒーン上院議員(ニューハンプシャー州)などがそうだ。 このパニックの根底には、当局に対する国民の強い不信感がある。この不信感は、エボラ熱への連邦政府の対応を主導している疾病対策センター(CDC)など、エボラ熱以外の分野では尊敬を集めている機関にも向けられつつある。オバマ氏の発言を国民のかなりの部分が自動的に割り引いて聞いてしまうことも助けにならない。 しかし科学――そして、科学を振りかざす政府機関――への不信感ゆえに、相反する主張をする人々が団結するようになっている。子供への3種混合ワクチンの接種、水道水へのフッ素添加、そしてその他の公衆衛生キャンペーンに反対する草の根運動家たちは、科学的な証拠を受け付けないように見える。 *1=米国の人気タレント。ラップ歌手の夫との間に娘がいる 中途半端な情報や誤った情報が拡散 エボラ熱に関する当局の判断に対しても、明らかに同じことが当てはまる。この病気は握手をしても伝染しないし空気感染もしないとCDCが何度訴えようと、多くの米国人はそれを信じていないように見受けられる。 米CDC、エボラ熱対策で新指針 強制隔離は推奨せず 米ニューヨークで、西アフリカから帰国した医師がエボラウイルス陽性と診断されたことを一面で報じる新聞を売る人〔AFPBB News〕 中途半端な情報や誤った情報の拡散にはメディアも大きな役割を果たしている。 あれだけ集中的に報道されたことを考えれば、リベリア国籍のトーマス・エリック・ダンカン氏(今のところ、エボラ熱により米国内で死亡した唯一の人物)とダラスで接触した後に看護師2人が感染したことを知らない米国人は少ないだろう。 だが、どちらの看護師もその後退院したことを知っている人はもっと少ないだろう。 また、ダンカン氏が入院するまで1週間、同氏と同じ部屋で暮らしていた4人を含め、ダンカン氏が病院に運ばれる前に同氏と密接な接触をしていた21人全員が危険なしと判定されたことを知っている人も同様に少ないはずだ。こうしたことは広く報道されていないのだ。 国民に届かないオバマ大統領の言葉 渡航を禁止すれば米国の支援が現地に届きにくくなり、事態がさらに悪化する、とオバマ氏は話している。いずれにしても、前述の西アフリカ3国と米国の間には直行便が就航しておらず、飛行機で行き来するには欧州の空港を経由しなければならない。世論調査から判断する限り、オバマ氏の発言はほとんど功を奏していない。 ホワイトハウスは、米国の医療システムはエボラ熱対策で万全の体制を取っていると明言したものの、自らの威信を高めるには至っていない。ダラスの体制は明らかに万全ではなかった。 オバマ大統領、イラクでの米軍戦闘任務を否定 エボラ対策が批判されるバラク・オバマ大統領〔AFPBB News〕 オバマ氏は先週、ホワイトハウスの上級スタッフであるロン・クレイン氏をエボラ熱対策の責任者に据えることを決めたが、これも事態の改善にはほとんど役立っていない。 この決断はまず、責任者を置く必要はないという以前の見解と食い違うものだった。また、オバマ氏は科学と同じくらい世論にも左右されるとの見方を強めることになってしまった。 理想的な世界では、米国の医療職の最高位である公衆衛生総監が連邦政府を代表するはずだ。このポストはずっと空席のままになっている。 公衆衛生総監の指名公聴会が阻まれる理由が銃規制とは・・・ オバマ氏はビベク・マーシー氏を総監に指名しているが、共和党は指名承認公聴会の開催を阻んでいる。マーシー氏が銃規制の強化を支持しているというのがその理由だ。 エボラパニックが生じている中でも、共和党が反対の姿勢を緩める兆しは見られない。ちなみに、ダンカン氏がエボラ熱で亡くなった日以降に銃に命を奪われた米国人の数は1500人を超えている。 By Edward Luce in Washington http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/42093
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