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アングル:金メダルか死か、「遺伝子組み換えアスリート」の実現性
2012年 08月 8日 16:18 JST
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[ロンドン 7日 ロイター] これまでの動物実験で、遺伝子操作によって動物の持久力や筋肉の増強に成功したことを考えると、「遺伝子組み換えアスリート」が五輪に出場するのもそう遠いことではないかもしれない。
一部では、競技能力を強化するための遺伝子ドーピングが、すでに現実のものとなっているとの声も上がっている。ただ、今の検査技術は遺伝子ドーピングを検出できるほど精度が高くないため、本当のところは誰にも分からないというのが現状だ。
確かなことは、スポーツ選手の能力強化に遺伝子組み換えを使用することは技術的には可能だということ。そして、命の危険にさらされても金メダルを取りたいと思っている選手が存在していることだ。
<遺伝子ドーピング>
遺伝子ドーピングは、筋肉の増強、血流の増加、持久力の強化といった効果をもたらし、スポーツ選手のパフォーマンスを向上させる可能性がある。
その実現可能性について、英エセックス大学でスポーツ科学を研究するクリス・クーパー教授は、「誰かが遺伝子ドーピングをやっているとは極めて考えにくい」としている。
しかし一方で、動物実験における遺伝子操作に携わる科学者らのもとには、スポーツ選手からの問い合わせが殺到しているという。
ウェストオブスコットランド大学の科学者、アンディ・ミア氏は「動物実験で効き目があったもので、技術的には人間にも使えるものがある」と明かした。
<「マラソンマウス」の誕生>
米ペンシルベニア大学のリー・スウィーニー教授は2007年、筋ジストロフィーの研究をしている際に、老化が進んでも筋力が衰えず、十分な強さを保ち続けるマウスを作り出すことに成功した。
2004年には、遺伝子操作したマウスが通常のマウスの2倍の距離を走ることも発見されており、当時は「マラソンマウス」という言葉がメディアでもてはやされた。
ただ、こうした遺伝子操作が人間にも適用できるかどうかはまだ分からず、生殖機能や寿命などへの影響も不明確だと懸念する声もある。
ペンシルベニア大学の研究者がサルを対象に行った遺伝子操作の実験では、赤血球数が増えて血液の流れが悪くなるという副作用が起き、最終的にはサルを安楽死させなければならなくなったという実験結果も出ている。
このため、前述のクーパー氏は「現段階で遺伝子ドーピングは技術的には圧倒的に困難かつリスキーなものだ」と指摘している。
<金メダルの魔力>
しかし、こうした命の危険や未知の副作用があったとしても、遺伝子組み換えアスリートになりたいと望む五輪選手は間違いなく存在するだろう。
米スポーツ医学協会(NASM)の創設者でもあるボブ・ゴールドマン氏が1980年代に実施した調査の結果は、驚くべきものだった。世界レベルのスポーツ選手198人を対象に「ドーピングで金メダルが保証されるなら、5年以内に死んでも構わないか」と質問したところ、過半数が「イエス」と答えた。その後10年にわたり、2年ごとに同じ調査が行われたが、約半数が「イエス」と答える結果に変わりはなかった。
ゴールドマン氏は「私が聞き取り調査した相手には16歳の選手もいた。21歳で死んでもいいと考えるのは、心理学的にも深刻な問題だ」と語っている。
現時点で、実際に遺伝子ドーピングをした選手が五輪に出場しているかどうかは誰にも分からない。しかし同時に、金メダルの持つ魔力が、アスリートを危険な「遺伝子の領域」に踏み込ませてしまう可能性も、誰にも否定できないだろう。
(原文執筆:Kate Kelland記者、翻訳:梅川崇、編集:宮井伸明)
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