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http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47631
「1年間待ったかいがあった!」―そう快哉を叫ぶ大河ファンもいるだろう。三谷幸喜の脚本は真田家も視聴者も翻弄し、さながらジェットコースターのよう。戦国武将たちはこの後、どうなるのか?
意外と「史実」なんです
次々と家臣に裏切られ沈痛な面持ちの武田勝頼(平岳大)を前に、真田昌幸(草刈正雄)がキッパリと言い切る。
「富士や浅間の山が火を噴くようなことでもない限り、武田の家は安泰でございます!」
すると、火を噴く山の光景が出て「2月14日、48年ぶりに浅間山が噴火した」という有働由美子アナのナレーションが重なった。凍りつく父・昌幸の脇で真田信繁(堺雅人)が淡々と言う。
「そりゃ火山ですから、たまには火を噴くこともあるでしょう」
『真田丸』初回から脚本家・三谷幸喜ワールド全開と話題になった天正10年の浅間山噴火場面だ。
「大河の王道を求めるファンからは批判されるでしょうけれど、こういう路線を突き進んでいったら、すごく面白くなるのではないでしょうか」
と歴史エッセイスト・堀江宏樹氏は絶賛しつつ、こう語る。
「真田幸村(=信繁)を大河の主人公として英雄的に祭り上げるのではなく、ちょっと天然な不思議ちゃんキャラとして描いていますよね。そのさじ加減が抜群にいい。
昨秋、三谷さんが語った言葉を聞く機会があったんですが『史実』ということを強調しているんです。まさか、と思うようなキャラクターや、たとえば女性陣を含めた家族が山道を逃げるという破天荒な展開などでも、じつは歴史的な事実を基に演出を加えた結果だったりするという。
序盤の信繁はまだ10代なんですから、後年に『義の武将』と称えられたような人物像に無理に合わせたら、かえっておかしい。初々しい中で時に腹黒い表情を漂わせてみたりという演出は、むしろ史実の信繁像に近いのではと思います」
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コラムニスト・桧山珠美氏も言う。
「NHKが三谷さんに脚本を依頼している時点で、時代劇の勧善懲悪のように一筋縄ではいかなく、かつ笑いあり、という設定は視聴者も予想したはずです。
しかも序盤を見る限り、三谷大河の前作『新選組!』に比べて、登場人物の演出はわりと抑制が効いていて、物語の脱線が少ない。武田勝頼という名家の御曹司が滅亡する悲哀に、泣かせられた人も多いのではないでしょうか。
今まで大河ドラマを見なかった人たちが『意外と面白いじゃないか』と食いつくドラマになっています。最近は朝ドラ人気が高く、大河は引き離されがちでしたが、3話まで見た限りでも、ここ最近の大河低迷を吹き飛ばせる出来だと思います」
吉田鋼太郎の信長が楽しみ
実際、ツイッターなどでは、「大河ドラマはとっつきにくい気がして敬遠してたけれど、わかりやすくて面白い」「『花燃ゆ』は挫折したけど、これは続けて見られる気がする」などの書き込みがあふれた。初回の評判を受けてか、早くも第2回で20・1%と、大河では3年ぶりの20%越えを果たしている。
『テレビドラマを学問する』の著者である宇佐美毅・中央大学教授は、
「第2話の最後のシーンは、まさに喜劇でいう『三段落ち』でしたね」
と解説する。
主君であった武田勝頼が自害したことがわかり、昌幸は信幸・信繁兄弟と3人で密かに真田家の今後を話し合う。昌幸は「赤い紙縒を引けば上杉に、黒い紙縒を引けば北条につく」と、宣言して長男・信幸(大泉洋)にくじを引かせるが、どちらの紙縒を引っ張っても昌幸は紙縒を意地でも離さない。何してるんですか、父上! という息子たちの困惑をよそに、昌幸は突然「織田につく!」と言い出すのだ。
「家の存亡をかけた深刻なシーンなのに、いつの間にか子供の綱引きのような様相を呈した挙げ句、AでもBでもなく、Cでしたというオチがつく。深刻な場面に喜劇的演出を持ってくるのは、いかにも三谷さんらしい。
一族を連れて岩櫃城へ逃げる途上で野盗に襲撃されるシーンも、信繁の母である高畑淳子さんの役どころが笑いを取っていました。
大河ドラマには、通常のドラマファンと『大河だけは見る』という歴史ファンの二つのファン層があります。そのため本来は他のドラマより有利な条件にあるはずですが、近年の大河が苦戦していたのは、どちらのファンもきちんと捕まえきれなかったからです。前作の『花燃ゆ』は、ヒロインが人を結ぶという企画はよかったものの、あまりに表舞台から縁遠い人物すぎて歴史ファンは楽しめず、パーソナルな魅力でも一段のドラマファンを十分には引きつけられませんでした。
今回は、真田信繁という、戦国のキーマンでありながら、大大名ではない人物が主人公。信繁自身の描き方だけでなく、織田信長(吉田鋼太郎)や徳川家康(内野聖陽)など従来イメージが固定されがちな人物をどう三谷さんが描いてくるかも、とても楽しみです。おそらく三谷さんは定石どおりのパターンで描いてはこないでしょうからね」
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一方、『真田幸村と真田丸の真実』などの著作がある歴史学者の渡邊大門氏は「戦国時代という厳しい時代の緊迫感が、もう少し欲しい」と、やや厳しい注文をつける。
「『真田丸』というドラマは、大坂冬の陣に築かれた出城(城の外の要塞陣地)の名であると同時に、真田丸という船に真田一族が乗って航海をする家族ドラマだと銘打たれています。ですから、ここ数年の大河の影響を受けて、家族愛、兄弟愛みたいなものが前面に出すぎているように感じてしまう。しかし本来の戦国期は、たとえ親子兄弟であれ、時によっては殺し合わざるを得ないという非常にシビアな時代です。今のところは、どうも戦国をテーマにした現代劇を見ているようにしか思えません」
とはいえ、渡邊氏は信繁が馬を盗んで徳川勢から逃げる場面で、赤備えの甲冑に身を固めた後年の姿が挿入されたことに期待を抱いたという。
「これには三谷さんの意図を感じました。まだ今のところは間抜けてちゃらちゃらとした感じがする信繁ですが、成功や失敗を重ねていくことで成長し、最後は徳川家康すら苦しめる『日本一の兵』になるということを予感させたかったのだと解釈しています。ですから、ドラマの回を重ねるごとに、信繁の演じ方の緊張感を徐々に高めていくのかもしれません。そこは大いに期待したいところですね」
健康オタクの家康
三谷幸喜は、大変な歴史好き。「可能なかぎり史実に近いものを書こうと思っている」と語っているとおり、ドラマには随所に歴史好きが喜ぶ小ネタが出てくる。
「初回の最後、歴史ファンの視聴者はにやりとしたのではないでしょうか。北条氏政(高嶋政伸)の紹介は、汁掛け飯を食べる光景でした。
ある時、氏政が飯に汁をつぎ足しながら食べているのを見て父の北条氏康が『毎日食べている飯にかける汁の分量さえ量れんとは。我が家もわしの代で終いか』と嘆息したという逸話があるのです。氏政が後に豊臣秀吉(小日向文世)の小田原征伐で滅ぼされるのを暗示しているわけですが、これなど典型的な"知る人ぞ知る"話ですね」(歴史家・安藤優一郎氏)
前出の堀江氏は言う。
「オープニングで配役を見ている時点で、歴史のツボを押さえているなという感じがしました。なにしろ穴山梅雪(榎木孝明)が、重要な役として登場しています。歴史的にはマイナーな存在かもしれませんが、今後も大きく絡んでくるに違いありません」
浅間山噴火直後に裏切った穴山梅雪は、母が武田信玄の姉で妻が信玄の娘という「武田御一門筆頭」。「本能寺の変」の際には堺見物をしていた徳川家康に同行していながら、別の脱出経路をとって落ち武者狩りで命を落とすという数奇な運命を持つ。
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その徳川家康の描き方も大きな話題の一つ。真田家の最大の敵であり、いうまでもなく江戸幕府を開いた「東照神君」だが、これがもう、情けないほどのビビリキャラクターなのだ。
演じる内野聖陽が、「台本を読んだときは、あまりに臆病で慎重な家康にめんくらいました」と語っているとおり、神経質に爪を咬み(史実でも家康は爪咬み癖があったと伝えられている)、うっかり焼け跡で火傷をしては「火傷には蕗の葉が効くのか」と家臣・本多正信(近藤正臣)の知識に興味を示して健康オタクぶりを発揮する。
「三谷さんは、人間の表に出る部分だけでなく、裏の顔、弱い部分、癖などまで含めて描きたいというこだわりを持っているんだと思います。現代的にいえば小市民の妬みや虚栄心、保身欲のような、人間の生臭さを描くのが得意ですよね。戦国時代だって、下克上や天下統一の野望ばかりで作られていたわけはない、ということでしょう」
女性キャストも面白い
こう語る前出・宇佐美教授がもう1点注目しているのが、現代語と古い言い回しのバランスだ。
「キャストや場面によって、意図的に使い分けていると思います。たとえば軍議の席では『織田がこの岩櫃まで押し寄せてくるは必定』など、古めかしい言い回しを使い、戦国武将の勇猛さ、侍らしさを表現している。
一方で、家康に『わしは、これからどうしたらいいんじゃろう』と弱音を吐かせていました。人間の弱さ、小さいところを描くには現代的な言葉を使うほうが向いていると私は思います。そんな強弱のつけ方が効果的に作用しているのではないでしょうか」
弱さをさらけ出す男性陣に対して、女性陣は現代的かつ押しの強いキャラが目立つ。信幸・信繁兄弟の姉、松(木村佳乃)は、夫・小山田茂誠(高木渉)に、「ラブラブ~」と言いそうな雰囲気だ。
「第3話から登場した、信繁の幼なじみで生涯のパートナーとなる、きり(長澤まさみ)は、松に輪をかけて現代的な女性。史実にないところは思いっきり想像でつないでいく、と宣言する三谷さんが縦横無尽に想像の翼を広げるのが、こうした歴史上の記録に出てこない女性たちです。そんな女性たちに『あり得ない』と目くじらを立てても仕方ありません」(前出・桧山氏)
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三谷の大胆な推論を推し進めるのに主演・堺雅人も一役買っている。それは、主人公・信繁に忍びの役目を与えているところだ。堺はスタッフと相談して、信繁の太刀を忍者刀のような短いものにし、立ち回りも独特なスタイルに。『半沢直樹』の時にも披露した敏捷な動きを見せる。前出・渡邊氏が言う。
「真田の出自についてはたしかに忍びの者との関係性が指摘されています。真田の忍びといえば『真田十勇士』ですけれども、特殊能力とかいうのは講談の世界の話で、実際には敵方に潜入して情報を取ってきたり、偽情報を流して混乱させたりする。現代でいえば、情報戦をしかけて知略で相手に長じるという方法です。たとえば人質に送られた信繁の従者たちが滞在先の情勢を密かに蒐集し、真田家に通報したりしていたと思われます」
第3回では、その偽情報を掴ませる役を佐助(藤井隆)が行っていた。
さて、まだまだ始まったばかりの『真田丸』だが、この後の見どころはどのあたりだろうか。
前出・安藤氏は「まだ、主人公・信繁は父の策謀を面白がりつつも傍観者、脇役の立場に徹している」と分析する。
「真田の一員、しかも次男という脇の立場から抜け出して、一人の武将として自立しはじめるのがどのあたりなのか、と想像するのも面白いです。第一次上田合戦なのか、関ヶ原前の犬伏の別れまで待つのか。真田の3人の行く末が分かれていくのはだいぶ先ですが、まずは本能寺の変という次の大事件を楽しみにしたいと思っています」
「週刊現代」2016年2月6日号より
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