01. 2013年11月11日 10:04:55
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太陽光発電の「2015年危機」は本当か2つの優遇制度、同時廃止は痛手大きい 2013年11月11日(月) 村沢 義久 ソーラーブームもあと1〜2年? 2012年7月の固定価格買い取り制度導入により、日本の太陽光発電にもようやくかつての勢いが戻ってきた。2012年は前年比2倍の200万kWの新規導入なった。2013年にはさらに2.5倍増の500万kWになる予測である。この通り行けば、年間新規設置容量で、世界2位となりそうだが、1位予想の中国がスローダウンしているため、日本が1位になるとの見方もある。 筆者は、現在の勢いを少なくとも2030年までは続け、太陽光発電の累計発電容量1億kWを目指すべきと主張している。ところが、業者の中には、「このブームもあと1〜2年」という悲観論者が少なくない。実は、あと1年半で、大きな転機が来ることは確かなのである。
その原因は、2つの「2015年危機」だ。1つは買い取り価格、もう1つは、税制に関わるものである。太陽光発電を基幹エネルギー源として長期持続的に発展させていくためには、これらの問題をクリアすることが必須だが、ことは簡単ではない。 「プレミア期間」は残り1年半 固定価格買い取り制度の初年度価格は、大方の予想を大きく上回る税抜き40円(税込みで42円)となった。筆者の周辺では、「30円台後半」を想定してビジネスプランを作っていたから、驚きであり、業者や投資家にとっては「うれしい誤算」であった。この高めの価格設定の背景には、「施行後3年間は、再生可能エネルギー電気供給者の利潤に特に配慮する」という基本方針があった。 つまり、制度施行の最初の3年間は、「プレミアム価格」が設定されることとなったのである。この価格が、現在の過熱気味とも言えるソーラーブームの主たる原動力となっていることは間違いない。 今年度、つまり、2013年4月から2014年3月までが制度の2年目であり、産業用の価格は、税抜きで1割削減され36円(税込み37.8円)となった。我々にとっては、初年度の想定価格まで下がっただけなのだが、業者によっては10%の落差を大きいと感じているところもある。 そして、「プレミア期間」の最終年は、2014年4月から2015年3月までである。この3年目の価格について、最近「30円台前半」という報道がなされた。同じ「前半」と言っても、税抜き34円なら大した低下ではないが、32円なら、2年続けての大きな下げになる。 もし、期間中に毎年10%の低下となると、終了後にはさらに大きな下げがあるのではないかと懸念される。それが、「ブームもあと1〜2年」という悲観論の根拠の1つである。 実際には「即時一括償却」終了の方が痛い 実は、同じ2015年3月に、もう1つ重要な制度が終了することになっている。税制に関わるもので、現場感覚からすれば、「プレミア価格」の終了以上のインパクトを持つ可能性があるものだ。 その制度とは、2011年6月30日に、「太陽光などの再生可能エネルギーに対する投資を促進する」目的で施行された「グリーン投資減税」である。中でも、特に大きな影響を与えてきたのが、「即時一括償却」制度だ。 これは、法人または個人(青色申告をしている者)を対象に、太陽光発電などの設備の取得価額の全額を一括して償却できる特別措置である。利益の出ている企業や高額所得者の中には、買い取り価格よりも、この「一括償却制度」の方をより重視する者も少なくない。 太陽光発電の場合、普通償却の期間は17年である。例えば、50kWの分譲ソーラーは2800万円程度で販売されているものが多いが、その金額から土地代や保守代などを除いた本体部分はだいたい1700万円前後になる。 このような物件を取得した企業や個人の場合、普通の償却(定額法)では、毎年100万円ずつ17年間かけて償却することになる。償却額は、損金として落とせるので、その分税金(法人税/所得税+地方税)が減額されることになる。 頭金が戻ってくる 普通償却なら17年間に少しずつだが、グリーン税制による「即時一括償却」を活用すれば、1700万円全額を1年で償却できるので、そのメリットは大きなものになる。 仮に、ある個人の課税所得が1700万円だったとすると、本来なら所得税と地方税合わせて合計税額は600万円程度になる。そいう個人投資家が、1700万円を即時償却すれば、課税所得はゼロとなり、従って、税金もゼロになる。太陽光発電に投資することで600万円程度の節税になるのだからその影響は大きい。 もし、この物件購入に当たり、頭金800万円として残りの2000万円をローンで賄ったとすると、頭金800万円の大部分が税金還付の形で戻ってくることになる。結果的に、非常に小さな元手で太陽光発電に参加できることになる。 この制度では所得金額が大きい人ほど節税額も大きくなる。「金持ちが益々もうかる仕組み」という批判もあるが、設備投資を促すのに非常に有効な施策であることは間違いない。 この制度は、当初2013年3月で終了する予定であったが、2年延長された。その結果、終了するのが2015年3月となったのである。 つまり、このまま行けば、2015年3月には、買い取り制度の「プレミア期間」が終了し、同時に、グリーン税制による「即時一括償却」も終了するのである。 消費増税を加えて「トリプルパンチ」
筆者は、上述のように、太陽光発電の現在の勢いを2030年まで維持し、累計で100GW(1億kW)を目指すべきと考えて普及活動を行っている。発電容量が1億kWになれば、年間の発電量は1000億kWhとなり、日本の電力総需要(2010年ベース)の10%を賄えるようになる。 2030年までの中間にある2020年に、東京でオリンピック・パラリンピックが開かれることになった。筆者は東京オリンピックを徹底した再エネオリンピックにするべきと考える。ソーラーオリンピック、略して「ソラリンピック」である。 「ソラリンピック」構想については、9月25日の本欄で報告したので詳細は省くが、その中心になるのは、新国立競技場のデザインを簡略化し、ソーラーハウス化すること、東京都が管理する奥多摩湖、多摩湖、狭山湖等にフロート式のメガソーラーを大量設置することなどである。東京だけでなく、少なくとも、オリンピックの2020年までは、現在の太陽光発電の勢いを全国的に維持したい。 筆者は、太陽光発電を健全に普及させていくためには、買い取り価格の低下が必須と考えている。また、「プレミア価格」や「優遇税制」などのインセンティブは普及の初期に限定すべき制度であり、業者側もそれに頼っていてはいけないことも理解している。 しかし、2つのインセンティブが同時に終了する「ダブルパンチ」の影響はあまりにも大きい。しかも、消費税が一足先の2014年4月に引き上げられる。これを「トリプルパンチ」と呼ぶ業者もいる。 現在の勢いを止めないために、買い取り価格の「プレミア期間」か「即時一括償却」の少なくともどちらか一方を、数年間延長することを提言する。 買い取り制度の改革が必須 現在の買い取り制度が太陽光発電の急速な普及の主たる原動力になっていることは間違いない。しかし、その一方で、内容・運用にいくつかの不備があることも否めない。 まずは、太陽光発電の規模と買い取り価格の問題である。現在は10kW未満(家庭用)と10kW以上(産業用)という粗い区分けになっている。産業用に関しては、10kWの「ミニソーラー」から100MWの「超メガソーラー」まで同じ買い取り価格なのだが、建設コストの方は大いに違っている。 土地の造成費や電力系統との接続費用を除いた本体コストで比較すると、1MWのものだとkW当たり25万円程度が標準だ。ところが、分譲ソーラーの主力である50kW型だと35万円前後となり、kW当たりで10万円も違う。事業期間を20年とすると、発電コストに換算してkWh当たり5円程度の差となる。 従って、買い取り価格は、少なくとも、50kW未満とそれ以上の2つの区分に分けて設定する必要がある。2013年度の産業用太陽光発電の買い取り価格は一律税抜き36円である。仮に来年度の価格を33円に下げるならば、50kW以下については、36円据え置きということでどうだろうか。 引き延ばし防止策も もう1つ必要なのはいわゆる「引き延ばし」防止策だ。2013年9月中旬に経済産業省から、再生可能エネルギーの固定買い取り制度の設備認定取得者(400kW超)に一斉に「報告の徴収」が送付された。 認定設備の中には、初年度の調達価格40円の枠取りだけして、着工をわざと先延ばしし、建設工事代金が下がるのを待っているのではないかと疑われるものが出てきたからだ。 そこで、経済産業省はそのような事業者に対して、早期に工事に着工するか、当該設備認定を実際に建設できる者に譲渡するか、あるいは、廃止届を出すかの選択を迫っている。 今後このような事態を起こさないためには、設備認定時に何らかの時間制限を設定することが必要だろう。1つの方法は、「認定取得から何カ月以内に」とするものだが、土地の手当てや資材調達に時間がかかることもあるだろう。従って、売電開始時の買い取り価格を適用する、というやり方が現実的かも知れない。 もう1つ、認定時の審査も強化する必要がある。認定を受けた案件のうち、土地の手当てができていないものがかなりある。極端な場合には、地主の承諾がないまま、複数の業者が同じ土地で申請し、重複して認定を受けている、という例もあるようだ。 違法な点はなくても、買い取り価格が下がることは分かっているのだから、早めに取っておこう、という業者も多い。中には「来年どこまで下がるか分からないのでとりあえず」という業者もいる。先が見えないことの不安が原因だ。
その点では、複数年の買い取り価格を提示することも検討してよいのではないだろうか。加えて、再生可能エネルギー全体に関する、政府の導入目標も知りたいところだ。 このコラムについて 「燃やさない文明」のビジネス戦略 いま、大きな変革の節目を迎えようとしている。時代を突き動かしているのは、ひとつは言うまでもなく地球環境問題である。人口の増大や途上国の成長が必然だとしたら、いかに地球規模の安定を確保するかは世界共通の問題意識となった。そしてもう一つは、グローバル化する世界経済、情報が瞬時に駆け巡るフラット化した世界である。これは地球環境という世界共通の問題を巡って、世界が協調する基盤を広げるとともに、技術開発やルールづくりでは熾烈な競争を促す側面もある。 筆者は「燃やさない文明」を提唱し、20世紀型の石油文明からの転換を訴える。このコラムではそのための歩みを企業や国、社会の変化やとるべき戦略として綴ってもらう。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20131101/255394/?ST=print NBonline 「エネルギー 世界の新潮流」 「100%再エネ地域」を実現する方策
ドイツのスマートグリッド「E-Energy」(3) 2013年11月11日(月) 山家 公雄 今回は、ドイツのスマートグリッド実証(E-Energy)6事業の1つである「レグモドハルツ」(RegModHarz)を取り上げる。前回、前々回で取り上げたバルト海に面する港町クックスハーフェンの「イーテリジェンス」事業と並ぶ地方(ルーラル)モデルである。 2050年再エネ電力80%を目指すドイツ 2022年までに脱原発を決めているドイツは、発電に占める再エネの割合を2030年に50%、2050年に80%以上とする国家目標を持っている(資料1)。地域により再エネ資源の濃淡がある中では、再エネ資源に恵まれた地方は100%あるいはそれ以上のシェアが求められる。 再エネ発電を多く開発しようとすると、資源量が豊富な風力および太陽光由来の発電量が増えることになる。両者の発電量は天候に左右されることから、再エネ100%を目指せば、その地方の需要以上の発電量が出たり、大幅に下回ったりするケースが生じうる。すなわちエリア外への移出やエリア外からの移入が生じる。
地域の電力消費量から地域で発生する変動電力である風力および太陽光発電量を差し引いた量を「残余電力」(residue power)と称するが、再エネ割合を高めようとすると、残余電力は風力などの変動を吸収できる柔軟(フレキシブル)な電源でなければならず、また天候の変化をカバーできる十分なキャパシティを持っている必要がある。この条件を満たすのは天然ガスおよびバイオマスの熱電併給(CHP:Combined Heat & Power)になる。揚水と蓄電池はフレキシブルだが、自らは電気を作るわけではなく、容量にも限界がある。 再エネ比率を上げるためにはバイオマスに期待がかかる。ドイツをはじめ欧州は、森林資源が豊富であり、牧畜業が盛んで畜糞の排出量も多い。コーンなど燃料用作物の栽培も盛んである。バイオ燃料としては、木質はチップなど固形燃料で、畜糞・コーンなどは微生物発酵による消化ガスになる。 ただ、バイオマス発電を開発するための課題は少なくない。風力・太陽光の残余として非効率な運転になりかねないし、熱需要とのバランスにも配慮する必要がある。こうした課題を乗り越えて、十分な投資を誘導する必要がある。 再エネ100%によりハルツ地域を再生 「レグモドハルツ」(Regenerative Model Region Harz)事業は、その名のとおりハルツ地方をモデルとしてエネルギ−を利用して地域を再生する試みである。ハルツ地方は、ドイツの中心からやや北に位置する山地にある(資料2)。人口24万人のまとまったエリアであるが、東西ドイツに分裂していた影響で3つの州に分かれている。ドイツの野心的なエネルギ−目標を実現するために、自然豊かな地方が担うべき役割とシステム構築を実証・シミュレートする。 ハルツ地方の電力需給状況を2008年の実績にて概観してみる(資料3)。域内の電力消費量は1300GWh(1Gは10億)であるが、これはドイツ全体の0.2%を占める。191MW(1Mは100万)の発電容量がある。発電量は467GWhであり、内訳は水力5%、風力67%、太陽光2%、バイオガス7%、バイオマス2%、天然ガスCHP18%となっている。域内の消費量1300GWhで除した見なし自給率は36%となるが、うち30%が再エネとなる。この状況でも、風力および太陽光の出力変動により過不足が生じる。15分単位で試算すると、域外からの移入は65%、域外への移出は2%となっている。
レグモドハルツ事業では、2008年実績、2020年シナリオおよび再エネ100%シナリオについてシミュレーションを行うが、風力と太陽光の出力が大きく増える。風力は151MW→248MW→630MWであり、太陽光は10MW→90MW→708MWと拡大する。両発電の割合が高くなると、変動は大きくなり、移出入の規模も大きくなる。また、季節や時間帯の発電量は変化し、電力価格も変化する。両者のウェイトが大きくなるほどに、柔軟電源であるバイオマスの役割が重要になる。
再エネ発電を電力取引市場で直接売買 ドイツはどのようにバイオマス発電誘導策をとっているのだろうか。キーワードは市場との直接取引(Direct Marketing)である。 ドイツ政府は2009年1月より、固定価格買い取り制度(FIT:Feed in Tariff)を改正して、再エネ発電を直接電力取引市場で販売できるようにした。再エネ発電は、FITにより、20年間固定の有利な価格で送配電事業者に引き取ってもらえるが、直接市場に販売することも選択できるようになった。しかし、通常はFITよりも市場価格の方が低いので、市場販売はあまり選択されなかった。 2012年1月には、「マーケット・プレミアム」が導入され、直接の市場取引を選びやすくなった。これは、市場価格がFITを下回ればその差額が補填される制度である。契約は月単位で行われ、月平均の市場価格から固定価格を差し引いた差額が支給される。高価格時間帯での販売が多いとその分利益が増える。 直接取引では、販売量と販売時間の予想を提出し、外れると反則金が課される。このリスクを補填するために「マネジメント・プレミアム」が支給される。このプレミアムは、予測精度の向上などにより、漸次縮小されていくことになっている。また、バイオガス発電については、需給に合わせた出力調整に伴って運転を制約を制約されるので、これを補填するため「フレキシビリティ・プレミアム」が支給される。 バイオマスは、火力発電と同様に燃料を使用することから安定的な出力が見込める。いわゆるスケジュール出力・送電ができ、高い市場価格での販売を実現できる。翌日市場の価格や自身の発電容量をにらみながら、最も利益がある時間と販売量をピンポイントで申し込める。従って、高いマーケット・プレミアムをはじめとして各種プレミアムを享受できる。 この改正は、風力などの変動電源にも相応のメリットがあるが、バイオマスが最も優遇されており、大きな投資誘因になる。フレキシブルな再エネ発電はそれほど高い価値を持っていると判断されたのである。政策支援により、ファイナンスが受けやすくなり、追加投資のインセンティブが働く。 バイオマス直接取引への期待と課題 制度上の後押しがあるバイオマスではあるが、課題も少なくない。直接取引の導入により、バイオマス発電は市場が高い時に発電して売り、低い時に運転を止めるような操業が多くなる。オンサイト電源であるバイオマスは、熱需要を取り込む電熱併給(CHP)システムにより格段に効率性を増す。しかし、電力市場の価格動向と地域の熱需要のスケジュールは、必ずしも一致しない。 電力市場動向をにらんで運転すると、熱需要以上の熱が生じる事態も生じる。その場合は、ヒートポンプの出力を上げたり、蓄熱設備を利用したりすることによって熱需要を増やす。需要より少ない熱量になる場合は、熱需要を減らすことに加えて、蓄熱槽やバイオマスボイラーを利用して熱の供給を増やす−−といったきめ細かく合理的な制御が必要になる。 そのためためには、CHP設備やボイラー、蓄熱槽、ヒートポンプなどの設備形成が不可欠になる。こうした投資を促すために、バイオマス発電には、マーケット・プレミアムやマネジメント・プレミアムが設けられたのである。 資料4は、レグモドハルツ事業における、バイオガスCHP設備およびバイオガスボイラーの、直接売買を伴う稼働状況を示したものである。第1段は翌日電力市場価格の推移を示している。第2段は熱の需給推移、第3段は電力の供給推移、第4段は熱貯蔵の容量と水準をそれぞれ示している。電力価格と熱需要、蓄熱設備の利用状況をにらみながら、CHPとボイラーの最適な稼働を決定している。 どのような投資が最適かの判断は、容易ではない、電力取引市場、地域の電力や熱の需要、地域の天候予想など多くの変動要因が絡むからだ。こうした多くのパラメーターを織り込んだシミュレーションソフトの開発が最重要ポイントになる。要するにノウハウである。E-Energyは、こうしたソフト開発を行うための実証事業ということができる。
最終解は柔軟な供給システム構築 前述したように、100%再エネ発電を目指すには、ボリューム的に風力、太陽光の発電量が多くなり、その変動を吸収するために柔軟電源であるバイオマスの開発や需要シフトを促す仕組みが重要になる。FIT制度を改正して電力取引市場との直接取引が導入されたのは、この切り札ともいえる。 一方で、バイオマスCHPは、電気と熱のバランスを取る必要がある。電力取引との最適解は必ずしも地域の熱需要と合わない。CHPでは同時に一定の割合で熱が発生する。従来のコジェネは、熱需要に対応し結果として電気も発生するという操業が一般的であったので、ある程度まではデマンドレスポンスを利用した熱需要シフトで調整できるのだろう。 しかし、再エネ発電を普及するには、電力市場の動向に合わせて電力供給による利益が最大になるように運転し、結果として熱が一定量発生するのが合理的な運転となる。FIT制度は熱供給設備としてよりもローカル柔軟電源としての価値を高く評価する設計になっている。したがって、地域の熱需要に対してはボイラーの稼動・停止や蓄熱設備からの入出、熱供給導管への出し入れ、需要シフトで調整することになる。 ただ、100%再エネを目指すとなると、熱需要シフトや熱貯蔵設備設置だけでは限界がある。電力や熱のみならず、燃料をも含めた「地域の柔軟な供給システム」の構築が求められるようになる。バイオマスCHPでは、燃料であるバイオガス生成との調整が重要になる(資料5)。 電力、熱、ガス3つのネットワークの総合活用
燃料であるバイオガスは、消化発酵を行う微生物の活動の影響を受けるので、安定的な消化活動を行える環境づくりが基本となる。電力市場との直接取引を前提とすると、一定速度で生成されるバイオガスとの調整が必要になる。ガス貯蔵タンクの設置やメタンガスに精製した上でガス導管に注入するなどで過不足を調整する。余剰電力を利用した電気分解により水素を生成し、バイオガス精製工程より分離されるCO2と反応させてメタンガスをつくり、燃料として貯蔵するのである。 なお、木質バイオマスを燃料とする場合は、燃料の調整がより柔軟になるが、丸太・端材やチップ・ペレットなどをストックする膨大なスペースが必要になる。また、収集・運搬のウェイトが高くなり、ロジスティスの整備が不可欠になる。 このように、再エネ電力100%を目指そうとすると、再エネを豊富にもつ地域は大きな可能性を持つが、実現するためには電力・熱・ガスのネットワークをフルに活用する柔軟なシステムの構築がカギを握る。これらのネットワークは優れた地域インフラであり、既に整備されている地域は、大きな可能性を持っている。これを利用しない手はない。 ヒートポンプや冷蔵倉庫などの「柔軟な消費」とバイオマスなどの発電や蓄電池を利用する「柔軟な供給」で出力の変動を吸収する。さらに「柔軟な需給要素」として、燃料に転化・貯蔵しておき、必要に応じて電気・熱で供給するシステムも重要になる。 電力工学に通じている専門家は、電力は広域(国単位、EU単位など)で制御する方が高効率と考えている。火力・揚水などの既存の調整電源を有効に使えることに加えて、風力や太陽光発電の平滑化効果(地方により天候が異なることからくる平準化)が見込めるからである。 しかし、広域電力ネットワークに余力があることが前提となり、送電網の整備は時間を要する。燃料・熱需要をも考慮に入れると、広域の調整に加えて地域での調整力整備が不可欠になる。 地方で100%再エネを実現するためには、送配電網、熱導管、ガスパイプラインの3つのネットワークを活用することで、電気、熱、燃料の最適なスケジューリングを組み立て、地域でエネルギ−を循環させる必要がある。実現すれば、3つの価格を見ながら合理的に運転を判断できるメリットもある。 ドイツのローカル型スマートグリッドであるE-Energyは、日本のガス業界が提唱するスマート・エネルギー・ネットワークに近い概念である。ドイツでは、各ネットワークがある程度整備されているので、可能性がある。 残念ながら、日本は熱と燃料のネットワークが脆弱で、整備はこれからである。その間は蓄電池に頼らざるを得ないと考えられるが、これが蓄電池のコスト低下を促し日本型モデルとなるかもしれない。 山家公雄さんの新刊が出ました! 『再生可能エネルギーの真実』というタイトルでエネルギーフォーラムから発売中です。
このコラムについて エネルギー 世界の新潮流
米国でのシェール革命の進展や、欧州における再生可能エネルギーの普及など、世界のエネルギー地図は大きく変化している。化石エネルギーから再生可能エネルギーまで幅広い分野で世界の最新動向を伝える。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20131031/255379/?ST=print 「世界初」の浮かぶ風車が回りだす
日本の眠れる資源がエネルギーを変える 2013年11月11日(月) 山根 小雪 本日、11月11日は日本の再生可能エネルギーの歴史に、新たな1ページが加わる日だ。 震災後に突如、持ち上がった「福島県沖浮体式洋上風力」が、いよいよ運転を開始する。本日11時ごろに、小名浜港沖20kmほどのところに浮かぶ風車が回りだし、陸上へと電力を送り始める。 浮体式洋上風力とは、その名の通り、海の上にプカプカと浮かぶ風車のこと。巨大なチェーンを巧みに係留させることで、風速70mの風が吹いても耐えられる。実際、超大型台風が建設中の浮体式風車の近くを通過したが、びくともしなかった。福島県の地元放送局は、台風中継の際に、驚きをもって風車の無事を伝えたという。 建設当初からの様子は、連載「実録・福島沖巨大風車プロジェクト」でご紹介してきた。丸紅を筆頭に、三井造船や三菱重工業、日立製作所や新日鉄住金、ジャパンマリンユナイテッドなど、11社の企業がコンソーシアムを組成し、このビッグプロジェクトを進めてきた。 このプロジェクトの話を初めて聞いたのは、2011年9月ごろのことだった。東京電力福島第1原子力発電所事故が起きて、半年ほどが経ったころだ。反原発のムーブメントが高まり、「原発代替は再生可能エネルギーだ」と叫ばれていた時期だ。 「原発事故からの復興の象徴として、福島県沖に世界初の浮体式風力のウインド・ファームを作る」。ある取材先から、こう聞かされたとき、正直なところ「それはいくらなんでも無理なんじゃないか」と思った。 風車の世界には、導入の順序がある。まずは陸上の風のよく吹くところに建てる。陸上風車の建設が進み、陸上で風況の良い適地が減ってきたら、着床式の洋上風力へと移行していく。遠浅の海の海底に風車を直接、固定するタイプのもので、欧州をはじめ世界各国で実績がある。 「トンデモ話」にしか聞こえなかった2年前 当時の日本は、今以上に「再生可能エネルギー後進国」だった。エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合はわずか1%。昨年7月にスタートした「固定価格買い取り制度」によって、少しずつ上積みしているとはいっても、まだたかがしれている。当時は、菅直人元首相が「私を辞めさせたいなら再生可能エネルギー法案を早く通したほうがいい」と発言していた。 まだ日本で本格的に再生可能エネルギーが普及するかどうかもわからない。風力発電については、陸上ですら苦戦していた。着床式は、沿岸からわずか50mほど離れた、陸上風力に毛が生えたような洋上風力が稼働していたぐらいだった。 浮体式に至っては、世界を見渡しても、「お試しで1本建ててみました」というレベルのものしか存在しない。それなのに、福島県沖には、浮かぶ風車を1本ではなく、複数本建ててウインドファームにするという。 このプロジェクトの話が出てきた当時、「着床式すら離陸していないのに、浮体式なんて突飛すぎる」と思ったのは、私だけではなかっただろう。 これまで日本の再生可能エネルギーの導入スピードを見ていたら、「いったい何年かかるだろう」と思わざるを得なかった。「2013年秋の運転開始」というスケジュールが、荒唐無稽に感じたほどだ。 ところが、悲観的な予想は見事に裏切られた。「ふくしま未来」と名づけた浮かぶ風車と、「ふくしま絆」という浮かぶ変電所は、構想開始からわずか2年で、本当に運転を開始する。 このスピードは、通常の商用プロジェクトと比較しても、相当早い。陸上のウインドファームでも、運転開始までには3〜10年かかるのが普通だ。だが、今回のプロジェクトは「復興のシンボルにするために早く」「世界最速で実現するために早く」と、加速し続けた。 福島県沖に浮かぶ風車は三井造船・市原事業所で組み立てたのち、東京湾を曳航して小名浜港に向かった。写真は6月に、三井造船・市原事業所で進水する直前の様子(撮影:的野弘路) 次なる産業の芽に
この超短期、超大型プロジェクトを牽引し続けたのは、「復興のシンボルに」と異例の巨額予算を付けた資源エネルギー庁と、プロジェクトを統括した丸紅だ。 プロジェクトマネージャーを務める福田知史・国内電力プロジェクト部長は、入社以来、海外で数々の電力ビジネスを手掛けてきた人物。東日本大震災の直前に、日本に帰任したばかりだった。電力ビジネスには精通しているが、国内の電力市場の常識とは無縁だった。 プロジェクトの開始当初、「そんな短期間では無理」という声がそこかしこから聞こえてきた。日本の国家プロジェクトの通常のスキームならば、まずは技術開発に数年をかけ、実際に建設するのはそのあとだ。ところが今回は、いきなり福島県沖に浮体式のウインドファームを建てるというのだから、その驚きは想像に難くない。 結果として、コストも想定を上回った。「誰もやったことがないプロジェクトを、ごく短期間で動かすために必死でコストを積み上げた。だが、想定していなかった事態が発生し、補助金の枠内で収まらなかった部分もある」と丸紅の福田部長は認める。 簡単な道のりではなかったが、構想から2年で本当に浮体式風車は運転を始める。参加企業にとっては、体験したことのないスピードで全く新しい風車を作り、海に浮かべ、陸上と送電線をつないだ。この経験は、将来の新市場への「入場券」を買ったようなものだろう。 たとえば、浮体式風力に鋼材を供給した新日鉄住金は、「浮体式風力で当社の鋼材が使えるという実績がほしかった。浮体用の鋼材の仕様を決める際に有利になる」と明かす。 福島県沖浮体式風力は、国がコストのほとんどを負担する国家プロジェクトだ。しかし、福田部長の視線の先には、浮体式ウインドファームの事業化がある。 国土を海に囲まれた日本にとって、海上の風は眠れる資源。遠浅が続く欧州なら着床式に大きな市場性があるが、沿岸からすぐに深くなる日本の地形には、必ず浮体式が必要な時期が来るという確信がある。 浮体式という未来の技術を使ったプロジェクトに対して、「巨額の補助金のムダ使いではないか」という批判もある。だが、日本が震災後の異常事態の中で、大きな一歩を踏み出したことは、きっと近い将来、正しかったという判断が下されるはずだ。 欧州や米国は、日本が福島県沖に浮体式ウインドファームを建設すると発表した直後には、浮体式に巨額の助成金を拠出する方針を固めている。この事実は、再生可能エネルギーは激しいグローバル競争の渦中にあり、世界各国が次なる産業の芽として注目している分野であることの表れだろう。 このコラムについて 記者の眼 日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
[12削除理由]:無関係な長文多数
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