03. 2013年11月12日 00:49:47
: niiL5nr8dQ
エネルギー自給率160%の町、その新たなる挑戦 岩手県葛巻町、優秀な若者を呼び込む施策とは 2013年11月12日(Tue) 川嶋 諭 経営力がまぶしい日本の市町村50選(20) 岩手県葛巻町は知る人ぞ知る最も有名な日本の地方自治体の1つである。その理由は何と言ってもエネルギー自給率が160%を超えるという、エネルギー立国ぶりにある。東日本大震災で原子力発電に疑問符がつくはるか前から自然エネルギーに着目し、風力や太陽光、バイオマスなどの自然エネルギー開発に力を入れてきた。 そしてもう1つが、もう古くなってしまったが「じぇじぇじぇ」で有名になった岩手県久慈市の隣町ということだろう。ただし、久慈市に行くには山を1つ越えていかなければならない。また盛岡など岩手県のほかの町に行くにも山を越える必要がある。 それほど山深く農業や林業以外に目立った産業がなかったために過疎化の進展が急速で、そこに強烈な危機意識が芽生えたことが「エネルギー立国」に目覚めるきっかけとなった。日本中から毎年多くの見学者を集め、地方自治のモデル地域の1つと見なされるようになった。 しかし、実は、その取り組みは完成の域に達したと言うにはほど遠い。エネルギー完全自給という華やかな施策の裏で人口の流出が止まらないからだ。 ただし、それは町の経営が失敗していることを意味するのではない。むしろ成長痛と呼ぶべきものだろう。町は問題点をよく把握しており、若者を呼び込むあの手この手の施策を用意し実行し始めている。 また、有名になったエネルギー自給も、例えば地熱発電には全く手を出していないなど、さらに大きく進展する可能性がある。 過疎に苦しむ地域をいかに蘇らせるか。葛巻町の取り組みは、日本の未来を懸けた壮大な実験と言えるのかもしれない。目の離せない自治体の1つである。 クリーンエネルギーは第1次産業を一歩ずつ前進させてきた結果 川嶋 葛巻町は早くから風力や太陽光、バイオマスなどクリーンエネルギー発電に力を入れ、エネルギー自給率166%の町になりました。その経緯からお聞かせいただけますか。 岩手県葛巻町の鈴木重男町長 鈴木 そもそも町でエネルギーを自給しようという考えはなかったんですよ。
川嶋 え、そうなんですか? 鈴木 私たちは町の基幹産業を第1次産業に据え、それを一歩ずつ前進させてきただけです。バブルの頃も含め、どんな時代も淡々とやってきました。 昭和20〜30年代は燃料が木炭だったので、町内の山林所有者は裕福でした。しかしそれが石炭、さらに石油に代わり、薪や木炭などが使われなくなってきた。それでも山で木を切ったら植える、管理して育てるということをずっとやってきました。 また、東北一の酪農の町になりたいという夢を描き、昭和50年当時、町には乳牛が約5000頭しかいなかったのを1万頭に増やそう、牛乳も1日30トンの生産から100トン生産する町にしようと取り組んできました。そういう林業と酪農の町づくりを推進してきたんです。 川嶋 その一歩ずつというのがすごく大事だと思うんですね。地方の多くはそれができず衰退していきました。例えば、林業も多くの地方で管理ができず荒れ果ててしまった。それができた理由はなんですか。 鈴木 山の管理は森林組合が中心となって行っていますが、町も財政的に森林組合をずっと支援し続けてきました。昭和30年代から、平均で年間数千万円です。 川嶋 結構な額ですよね。それを昭和30年代から50年以上も続けてきたと。 鈴木 そうやって第1次産業を一歩ずつ前進させてきた結果として、いまのエネルギー自給があるんです。 くずまき高原牧場。子牛や羊の世話、シイタケ栽培、アイスクリーム作りなど自然に触れる様々な体験ができる 例えば、酪農の町をつくるにしても、平地がないから山の上を活用して放牧場をつくり、採草地をつくった。そうしたらそこにはいい風が吹いていて、風車を回そうということになって、風力発電が始まった。
また、牛の数が増えたら糞尿の処理をどうするかという問題が起き、それを活用したバイオマスプラントができた。 さらに、いまは化学肥料をどんどん使う時代ではないということで、牛の糞尿を堆肥化して、畑に還元しようと。いま葛巻の農業は化学肥料をほとんど使っていません。ほぼゼロです。 川嶋 ほとんど有機農業ということですか。 鈴木 ほぼ有機です。化学肥料はゼロではないですが。そういったことを一歩ずつ進めながら地域循環型の農業になってきたんです。 林業も間伐材が売れないので、間伐材を使ってバイオマス用のチップにする、あるいはそれを活用して木質バイオマス発電をやろうとかですね。我々がやってきたのは決して先進の町づくりではなく、淡々と第1次産業を推進してきた結果にすぎません。 生ゴミをバイオマスプラントの燃料に活用 鈴木 いま世界的にエネルギー問題が言われていますが、私は食糧問題のほうが深刻だと考えています。 日本の人口は減る傾向にあるけれども、世界の人口は増えている。一方で、穀物の生産はそれほど増えていない。これまで日本はカネにものをいわせて海外から食糧を買ってきたわけですが、これからはそうはいかないと思うんです。 そんな中で、日本では毎日大量の食品が捨てられています。ここにまずメスを入れるべきです。食品に消費期限や賞味期限などを表示する必要はなくて、単に「食べられるまで」と表示すればいいと思うんです。買った人は自分の責任において食べればいい。 生で食べられなくなったら火を通す。火を通しても食べられなければ、次を考えればいい。人が食べられなければ、家畜に食べさせればいい。家畜も食べられなければ、堆肥化して、肥料として畑に入れて、もう1回食に帰るようにする。 とにかく、食べ物はゴミに出してはいけない、という法律を作るべきです。葛巻町は昨年秋から、ゴミ焼却場に生ゴミを出してはならないということにしました。 川嶋 生ゴミはどうやって処理しているんですか。 鈴木 町が収集車で集めてバイオマスプラントに運んで、エネルギーに変えています。当初、このゴミ分別は浸透するまでに時間がかかるだろうなと思ったんですね。以前は生ゴミも紙クズも一緒に出していましたから、楽だったわけですよ。 川嶋 燃えるゴミと燃えないゴミの分別ですね。 鈴木 ええ、わが家もそうやってました。その燃えるゴミを紙クズと、台所から出る野菜クズとか豆腐のような食べられるものなどを分けて出す。これは浸透するのに時間がかかるだろうなと思ったら、始めて1カ月で燃えるゴミの量が25%減ったんです。今は約31%減です。 川嶋 1年でそれだけの効果が出たわけですね。やればできるんですね。 鈴木 そう、できるんです。みんな協力してくれる。 鈴木重男町長の著書『ワインとミルクで地域おこしー岩手県葛巻町の挑戦ー』(創森社、1905円、税別) 川嶋 ただ、費用の問題はどうですか。分別して集めるとおカネがかかりませんか。もちろん意義は分かるので、多少おカネがかかってもやるべきだとは思いますが。
鈴木 確かにそこは微妙なところで、おそらくトントンだと思います。というのは、ゴミの量が減ればゴミ焼却炉の延命化につながるんですよ。 焼却炉の寿命は20年くらいで、新設するのに100億円程度かかる。その炉の延命化になることと、炉を燃やすための石油の量が減ることなどを計算すると、トントンくらいかなと。 川嶋 トータルで見るとトントンか多少のプラスになると。 鈴木 そうです。それと、おカネの問題以外に、町民の間にムダにしないという意識が生まれます。 川嶋 意識改革が一番大事ですね。 都市と山村は、ないものを補い合う「連携」関係への転換を 鈴木 戦後68年、日本の都市と山村の関係は「取引関係」でした。売った買ったという取引。都市は山村に対して、買ってやるから作って持ってこい、と。その取引で、山村は1回も勝ったことがない。 川嶋 0勝68敗ですか。 鈴木 全敗。山村は負け続け、衰退疲弊し、都市だけが大きくなった。 川嶋 買う方が強かったということですね。 鈴木 だから今後は取引はしない。これからは「取り組み」の時代です。 川嶋 「取引」から「取り組み」ですか。 鈴木 そうです。山村の持っている力を都市の人たちに理解してもらって、我々も都市の役割というものは理解しながら、お互いにないものを補い合う。つまり連携です。 それはおカネだけでなく、人もそうです。過密の都市と過疎の山村の差を少なくするために、都市住民に山村に来てもらわないと、山村は今後やっていけなくなる。 葛巻町役場 現在、日本の国土総面積の57%が過疎地と言われています。そこに住む人は人口の8%程度、1200万人もいない。人口の1割にも満たない人間で、6割の国土を保全することなどできないわけです。
都市住民に山村に来てもらわなければならない。そこで葛巻では、都市住民を受け入れる体制をつくっています。 川嶋 具体的には何をしているんですか。 鈴木 葛巻町に来て、家を建ててくれたら300坪の土地を差し上げますと。ただし、新婚さんの場合、夫婦どちらかが45歳以下という条件があります。以前は年齢の条件はなかったんですが、若い世代、子どものいる世代に絞ろうと。 そのほかに、モノを作る力のある人、すなわち職人を育てる取り組みをしています。いま日本は職人を粗末にしています。モノづくりの職人が昔は町中に何人もいました。桶屋、下駄屋、鍛冶屋、何でもあったけど、いまは何もない。 時代的に下駄屋や桶屋が復活するのは難しいと思いますが、ガラス細工や木工品、陶芸などいろんなモノづくりの職人を育てていきたい。そこで職人になろうという人に町が補助金を出しています。 川嶋 都会から職人を呼び込むんですか。 鈴木 いまは町内だけですが、将来的には外からも呼びたいと考えています。職人を育成して町に工房をつくりたいんです。工房をつくるには2000万円ぐらいかかるだろうと見積もって、その8割を補助金として出そうと。 川嶋 8割とはなかなか太っ腹ですね。 鈴木 2000万円の8割とすると1600万円ですね。しかし、こんな小さな町に10軒も工房ができたら、町が変わると思うんですよ。 陶芸家がいたり、ガラス細工の作家がいたり、お菓子職人がいたり、木工とか何か作る人がいたり。10軒で町が変わるのであれば、1億6000万円は決して高くはないのではないかと。 川嶋 工房が10軒あったら、外からいろんな人が来ますよね。いつから始めたんですか。 鈴木 昨年からです。すでに酪農家の女性グループがジェラート工房を立ち上げました。 再生可能エネルギーで電気料金を下げ、企業誘致を図る 鈴木 都市と山村の連携についてさらに言うと、山村としては企業の誘致にも取り組む必要があると思います。 川嶋 日本の企業はどんどん海外に出ていっていますが、どうやって誘致するんですか。 鈴木 安いエネルギーを供給するんです。 川嶋 なるほど。電気代が安ければ、企業が来る可能性がありますね。 鈴木 例えば、国がいまの電気エネルギーの3割は再生可能エネルギーにし、何年までに達成するという数値目標を決めれば、電気を大量に使っている都市部は何とかしなければならない。 その時はエネルギー自給率166%の葛巻に来ればいい。電気代は現在22円(1kwh当たり、全国平均)ですが、これを15円ぐらいにする。30%以上安くなります。 川嶋 日本の電力システムの考え方は本当におかしいですよね。企業を海外に出さないためには何をしなければいけないのか。法人税の減税もあるけれど、電気代を下げるというやり方もある。もっと国家戦略的に、真剣に考えなければダメですよね。 くずまき高原牧場のメガソーラー 鈴木 そうなんですが、そこに風穴を開けるのはたいへんなことなんですよ。国や研究機関、エネルギー業界など、全関係者の理解と合意、協力が必要不可欠なんです。
でも、原発はもうやめようよと。再生可能エネルギーをどんどん増やして。ただ、再生可能エネルギーは儲かるという感覚はよくないですね。 これは先行投資ですから、この先20年は儲からなくてもしょうがない。しかし、20年後はいまより安くしなければならない。そのためにどうするか。エネルギーの地産地消です。 鈴木 エネルギーは遠くに運ばず、作ったところで使う。そのためには、一般事業者の新規参入ができる環境をつくることです。それには送電線を開放しなければいけない。 川嶋 本当にその通りです。発電と送電はそれぞれに任せなさいと。 鈴木 そう、分離です。これは電力会社10社をつぶせということではなくて、電力会社は安定しない電源を集めて、精製して質の高い電気に作り替えるということをやってくれればいいんです。電力会社と連携しながらやっていこうということです。 川嶋 仕組みを変えていくということですね。 町長自ら医師をスカウト。豊かな自然を生かした医療の産業化も 鈴木 葛巻では現在、医療の充実も図っています。これは私の2期目の公約です。 川嶋 何をされているんですか。 鈴木 老朽化した町立病院の建て替えと、医師を増やすことです。周辺の町では医師がいなくなって、病院が診療所になったり、ベッドが無くなったり、閉鎖になったりしている。 私が町長に就任した時は、町立病院には医師が2人しかいなかったんですが、いまは5人います。 川嶋 医師を確保するのはたいへんですよね。特に地方は難しいと思います。どうやって3人も増やしたんですか。 鈴木 人脈を使って会いにいってお願いするんです。「来てください」と。東京や長野など県外にも行きます。いま、すでに2015年4月から来られる先生が決まっています。山形から来る31歳の若い内科の先生です。 この先生の子供が葛巻小学校に入ります。それで高校ぐらいになったら東京へ出て、医師になって、最終的に葛巻に戻ってくれるといいなと。山村からは、なかなか医師になる人が出ません。それが医師不足につながっている面もある。 川嶋 お医者さんの子供が小学校に入れば、周りの子供たちに刺激を与えて、もしかしたら医学部を目指す子供も出てくるかもしれないですね。 鈴木 葛巻高校の生徒には、医学部に進んだら町が学費をすべて出すからと言っています。 川嶋 それは素晴らしい。私立の医学部でもいいんですか。 鈴木 かまいません。県はすでにやっています。例えば、私立の岩手医科大学には15人の地域枠があって、県内の高校出身者を優遇しています。親は国立大学医学部と同じ授業料だけ払えばいい。年間60万円弱ですね。あとは県が出すという制度があります。 川嶋 面白いですね。第1次産業が盛んで、クリーンエネルギーがあって、職人の工房があって、そこに充実した医療がある。 鈴木 今後は医療も1つの産業になるかもしれません。豊かな自然環境の中で、1カ月ほどリフレッシュもしながら人間ドックを受けたりするわけです。 川嶋 富裕層が来るかもしれない。インターネットの時代だから、半日は診療などを受けて、半日は仕事することだって可能ですよね。 鈴木 ほかに野菜を作ったり、牛にエサをやったり。 川嶋 そうやって自然の中で過ごすことで体が活性化して元気になりますよ。 鈴木 そうするとこんな山村でも、医療が1つの産業になる可能性があると思っています。 【数字で分かる葛巻町の財政事情(平成23年度)】(協力:大和田一紘) 葛巻町は類似団体と比較しても地方税が少なく、財政力指数注1が低い。 ○人口1人当たりの地方税 葛巻町:67,713円 ⇔ 類似団体:105,186円 ○財政力指数 葛巻町:0.15 ⇔ 類似団体:0.25 少子高齢化、過疎化の進行による人口減少や、全国平均を上回る高齢化率(平成23年度末37.9%)に加え、町内に大型企業が少ないことなどにより財政力指数が低く、類似団体の中でも最下層に位置している(111団体中97位)。特に人口減少率が8.9%と(平成17年と平成22年の人口比較)、依然として高水準であることが非常に気になるところである(平成12年と平成17年の比較では8.1%の減少)。東北一の酪農地域であることと盛岡市や八戸市という大きなマーケットに近いという地理的優位を生かして、酪農の6次産業化などを推進することで若者向けの雇用創出を図るなどの対策が必要と思われる。 一方では、第5次行政改革大綱(平成23年策定)に基づいた歳出の徹底的な見直しにより、行政の効率化、事業の重点化が徐々に成果を出しつつある。具体的には経常経費充当一般財源(人件費、扶助費、公債費などの経常的な支出に充当された経常的な収入の割合)については、前年度対比で、人件費が△2.6%、公債費が△25.7%と大幅に減少した。行政改革大綱において「人件費の抑制」と「地方債現在高の削減」を目標に掲げ、全庁的に財政健全化に取り組んだ結果、経常収支比率も4年連続で改善が見られる。 ○経常収支比率 平成19年:91.9% ⇒ 平成23年:85.7% ○地方債現在高の推移 平成15年:94.7億円 ⇒ 平成23年:60.6億円 さらには、公共事業の重点化による投資的経費注2の抑制により行政運営経費の節減が図られているところも注目に値する。 ○人口1人当たりの投資的経費(カッコ内は普通建設事業費) 葛巻町:141,736円(87,836円)⇔ 類似団体:155,188円(146,140円) 注1 財政力指数(3カ年の平均値)= 基準財政収入額 ÷ 基準財政需要額 基準財政収入額…自治体の標準的な収入である地方税収入の75% などを対象とする。 基準財政需要額…人口や面積などにより決められる標準的な行政を行うのに必要と想定される額。 注2 投資的経費…固定的な資本の形成に充てられる予算で普通建設事業や災害復旧事業・失業対策事業などに係る経費 http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38991
[12削除理由]:無関係な長文多数 |