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[中外時評]揺れるロシアのガス輸出 自由化めぐり抗争激しく
論説副委員長 池田元博
資源大国のロシアが天然ガスの輸出政策で揺れている。焦点は、日本を含むアジア市場を中心に、需要が膨らむ液化天然ガス(LNG)の輸出をどこまで自由化するかだ。
「現在、政府で検討されているのは天然ガスの輸出自由化ではない。あくまでもLNGに限った輸出規制の緩和だ」
モスクワの国営ガスプロム本社。輸出を統括するアレクサンドル・メドベージェフ副社長が語気を荒らげた。政府がこれまで同社に認めてきた天然ガスの輸出独占の権益が奪われかねない現状に、焦りは強い。
プーチン大統領は2月、LNG輸出の段階的な自由化の検討を指示した。北米発のシェールガス革命で、ドル箱のガス輸出が低迷しかねないとの危機感が背景だ。独占に甘んじるガスプロムへの不満も重なった。
国内ではすでに、独立系のノバテクが北部のヤマル半島、国営石油最大手のロスネフチがサハリン島近辺でLNG基地の建設計画を打ちだし、独自に輸出する権利を求めている。
とくに攻勢を強めているのがロスネフチだ。間髪を入れず、米エクソンモービルとLNG基地構想に関する覚書に調印し、丸紅などに合計500万トンを販売する基本契約もまとめた。
ロスネフチを率いるイーゴリ・セチン社長はプーチン大統領の側近だ。ラジオ局「モスクワのこだま」のアレクセイ・ベネディクトフ編集長は「セチン氏は組織力に優れ、指令を短期間で処理する能力が高い。だから大統領は複雑な課題を与えている」という。LNGをめぐる攻勢もその流れだろう。
もっとも、エネルギー研究所のタチヤーナ・ミトロワ部長は「これは国内で影響力を持つ両陣営の闘いだ。ガスプロムも手ごわい」と指摘。なかでもロスネフチはなし崩し的な輸出自由化をめざしており「決着の行方は予断を許さない」とみる。
抗争は日本にとっても見過ごせない。ロシア産LNGの調達戦略に直結してくるからだ。
ガスプロムは三井物産なども参画する開発事業サハリン2でLNGを輸出しているが、アジアの需要増に対応し、極東で新たに2つの計画を進めている。サハリン2の拡張とウラジオストクLNG基地の新設だ。
輸出が自由化されれば、これらに加えてロスネフチのサハリンでのLNG基地建設も本格始動する。ノバテクもヤマル半島から北極海経由で、日本にもLNGを供給する計画だ。
いずれも2018年前後の稼働をめざしている。ロシアの専門家はそのころのアジア市場のLNG価格を、シェールガスの影響を加味しても現行よりわずかに安い100万BTU(英国熱量単位)あたり13〜15ドルと試算する。ロシアの新規計画もこの水準での販売をもくろむ。
ロシアで供給能力が増え、企業間の競争も始まれば、日本にとっても価格交渉で有利になる可能性はある。それ自体は歓迎すべきだが、問題はすべての計画が順調に進むかどうかだ。
とくにロスネフチの計画は、同社や日本連合のサハリン石油ガス開発(SODECO)などが出資するサハリン1のガスが主な供給源となる。仕向け先をめぐり、開発側とガスプロムが長年対立してきた案件だ。
日本政府がウラジオストクのLNG基地構想を後押ししたのも、サハリン1のガスを日本に供給する思惑があった。それをロスネフチが使えば、ウラジオストク基地はどうなるのか。
ガスプロムは単独で開発中のサハリン3のガスで十分賄えるとするが、「国内需要やサハリン2の基地増設も考慮すると、ガスはもっと必要になる」(メドベージェフ副社長)。同社が東シベリアで権益を持つ未開発のチャヤンダ、コビクタの巨大ガス田は、ウラジオストクまで最短3200キロメートルのパイプラインを敷かなければならない。
東シベリアのガス田開発は、大量の需要が見込める中国との交渉が決着しないと難しい。その中国はシェール革命でぐんと下がった米国市場価格を盾に、安値での供給を求めている。
ミトロワ部長は「やっかいなのは日本の企業や政府の対応がバラバラで、ロシアの争いに巻き込まれていることだ。結果的にどの計画も迅速な決定を難しくしている」と嘆く。
ロシアの輸出自由化は日本に吉とでるか、凶とでるのか。日本企業が互いに競うのは当然だが、一枚岩で対ロ資源戦略を進める中国との違いは気になる。
[日経新聞10月20日朝刊P.10]
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