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【第5回】 2013年10月7日 石川和男 [NPO法人 社会保障経済研究所代表]
電力自由化は電気料金に悪影響と知っていながら経産省が電力自由化に突っ走るのはなぜか?
欧州各国で電力自由化したものの
ほとんどは電気料金が上昇した
経済産業省のホームページに興味深い報告書が掲載されている。
タイトルは「諸外国における電力自由化等による電気料金への影響調査」で、一般財団法人日本エネルギー経済研究所への委託調査による報告書(以下「経産省委託調査報告書」)だ。経産省は現在、電力小売事業への参入規制・料金規制の撤廃や電力会社の“発送電分離”のための制度変更を行おうとしている。
日本の政策決定プロセスでは、往々にして諸外国がどうしているかを気にする向きが強い。電力自由化に関しては、欧米諸国が既に1990年代から実施していることもあって、日本政府も欧米諸国の動向を参考にしながら電力自由化の議論を進めてきた。
経産省委託調査報告書は、欧米と日本を対象に、ここ十数年の電気料金の推移とその要因を定量的に分析したものだ。結論から言うと、報告書の記載を引用すれば、「日本を除く調査対象国では、電力自由化開始当初に電気料金が低下していた国・州もあったが、概ね化石燃料価格が上昇傾向になった2000年代半ば以降、燃料費を上回る電気料金の上昇が生じている」。多くの諸外国が電気料金の低下を期待して電力自由化を進めたのだが、殆どの国で電気料金が逆に上昇する結果となっている。
これについては、私も以前から週刊ダイヤモンド2013年5月11日号「電力の値上げ自由化となりかねない政府の「電力システム改革」案の“改悪”」を始めとして、多くの寄稿等で指摘してきた。しかし、ただ単に電気料金が上昇していることを示すだけでは、「電気料金上昇の主因は燃料費の上昇であって、改革の効果が、燃料費上昇のコストアップ要因を緩和している可能性」を否定できない。
その点、経産省委託調査報告書では定量的な分析が加えられている。諸外国での電気料金上昇が燃料費上昇で説明される以上のものであることを示し、電力自由化が電気料金低下に資していないことを明らかにしている。
これはとても意義深いものだ。対象とした国・地域の集約結果は資料1(家庭用電気料金)と資料2(産業用電気料金)の通りである。
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資料1、資料2のいずれについても、「上昇率(燃料費除き)」の列の数値は、燃料費上昇の影響を除外した電気料金の上昇率を示している。調査対象とした国・地域は、フロリダ州と日本を除き、電力自由化が進められてきている。
しかし、日本以外は、燃料費上昇で説明できる以上に電気料金が上昇する結果となっている。逆に言えば、日本だけは、燃料費上昇にもかかわらず電気料金が下がっているわけだ。
電力自由化したドイツでは
市場原理の結果として料金上昇
ドイツの家庭用電気料金を例として考えてみる。国・地域によって得られるデータに差異があるため全てに同等の分析がなされているわけではないが、基本的な視点は共通だ。
資料3の左のグラフは、ドイツでの化石燃料価格の推移を示している。電源種(石炭火力、石油火力、ガス火力)ごとの発電効率の経年実績も示されているので、電源種ごとに発電燃料費(1kWh発電するのに必要な燃料費)が推定される。これが資料3の右のグラフだ。
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発電用燃料のドイツ全体の消費量の経年実績もわかるので、資料3の左のグラフの単価をこれに乗じてドイツ全体の消費電力量で割れば、消費電力量1kWh当たりの平均発電燃料費が算出される。これを算出してグラフ化したのが資料4だ。
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2000年以降増加傾向であることが読み取れるが、ドイツでは、石油やガスに比して価格が低廉で安定している石炭のウェイトが高いので、絶対額としては1セント/kWh程度であり、電気料金全体に占めるウェイトは決して大きくない。
資料5の最下段「10/00」の行を見ると、2000年から2010年の間に、ドイツの家庭用電気料金は11.01セント/kWh上昇したことがわかる。ここから、電力自由化とは直接関係ない、@燃料費上昇、A付加価値税(VAT)の増税、B自然エネルギー・コージェネレーションへの政策補助のためのコスト負担増といったコスト増要因を差し引いても、4.52セント/kWhの上昇幅が残ることがわかる。
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その間は、資料6から規制料金であるネットワーク料金はほぼ横ばいであることが確認できる。つまり、電力自由化によって市場原理が導入された発電・小売分野では、「市場原理の結果として」電気料金が上昇したことになる。
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ドイツの平均発電費は
市場価格よりも低い
市場原理の結果として電気料金が上昇したとは、いったいどういうことか。
ドイツが電力不足の状況にあれば、需要と供給の関係から市場価格が上昇するというのは分かりやすい話だ。しかし、2000年から2010年の間と言えば、日本の原発事故の影響で日本国内の原発が停まる前であり、ドイツは電力不足の状況ではないので、この説明は当てはまらない。
先に示した資料3の右のグラフに黒い線で卸電力市場の価格が記載されている。ガス火力の発電燃料費の推定値(青い線)とよく連動していることがわかる。これは市場原理がよく機能していることを表していると言える。
経済学では、市場価格が限界費用で決まる時、社会厚生が最大になる。最も効率的であるからだ。だが、その水準は、資料4で示した平均燃料費よりも数倍高い水準にある。これに発電設備の固定費を加味して平均発電費としても、卸電力市場の価格の方が相当に高い水準になるだろう。
このことに関して、資料7を使って説明する。赤い階段状の線はドイツの火力発電をイメージした供給曲線を表す。限界費用(≒発電燃料費)が電源種によって異なるから階段状になる。青い直線は需要曲線だ。赤い線と青い線の交点で市場価格が決まり、この場合は、ガス火力の限界費用P1が市場価格となる。
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実際に、ドイツの卸電力市場の価格がガス火力の限界費用とよく連動しているのであれば、この図のような形で需要曲線と供給曲線が交差している時間帯が多いことが推察される。
しかし、ガス火力は、kWhベースの電源構成でみればドイツ全体の10%強を占めているに過ぎない。ガスに比して価格が安価かつ安定している石炭火力のウェイトが高いから、平均発電費は市場価格よりもかなり低いだろう。
例えば、平均発電費がP2であるとすると、市場導入前は総括原価方式によりP2を基に決まっていた電気料金が、市場導入後はP1を基に決まるようになる。つまり、P1−P2だけ電気料金は上昇し、発電会社の利益は増える。
燃料費上昇やVAT増税で説明できずに残った4.52セント/kWhの上昇幅のかなりの部分は、上記の現象によるものだろう。実際、ドイツの電力会社の利益水準は、自由化前に比べて相当に高くなっている。もちろん、日本の電力会社に比べても利益率は遥かに高い。そして、この電気料金の値上がりは市場原理を導入した自然な帰結である。ドイツの電力会社が儲けていると言っても、市場で独占力を行使したわけではない。
「電力システム改革は
待ったなし」なのか?
以上、経産省委託調査報告書の内容から引用して、欧米諸国での“電力自由化の先進例の結果”を考察してみた。これは、経産省が正式に受理した報告書である。こうした報告書を受け取り、しかも堂々と自らのホームページで公開しているにもかかわらず、「電力システム改革は待ったなしの課題」であると経産大臣に言わしめるエネ庁事務局の考えが、私にはとても理解できない。
化石燃料費が比較的高い時に自由化すれば、電気料金が上昇するのは市場原理として当然のことである。加えて今の日本は、原発が不当に停止を余儀なくされている『塩漬け状態』にあるために、国を挙げて化石燃料を買い漁っている。シェールガス革命に期待する声が聞こえているが、私に言わせれば、シェールガス革命に期待しているのは日本政府だけだ。
資料1で示した通り、ここ十数年で、燃料費の上昇にもかかわらず、電気料金を引き下げてきたのは日本だけである。この現行電力システムをコストパフォーマンスの悪い欧米諸国に倣った制度に変更することが、日本の国益に資するとは到底思えない。
電力システムという側面で喫緊に取り組むべき課題は、原発運営を適正化することによるエネルギーベストミックスの追求と、それによってここ一連の料金改定で値上げされた電気料金を元の水準以下に戻すことだ。そして、これが最も重要なのであるが、原発事業を国家管理化することで、政治の不作為による国富流出を見て見ぬ振りをしている現在の電力行政からの脱却することだ。
http://diamond.jp/articles/print/42629
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