02. 2013年10月03日 04:16:33
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JBpress>日本再生>エネルギー [エネルギー] バイオ燃料で世界から取り残され始めた日本 2010年に大きく舵を切った欧米諸国 2013年10月03日(Thu) 藤原 秀樹 なぜかは分からないが、日本における再生可能エネルギーの議論から、すっぽり抜け落ちているものがある。それは、木材(木質原料)を利用したガス化によるバイオ燃料の開発である。 設備的に大がかりになり、投資リスクもそれなりにあるが、グリーン(カーボンニュートラル)なディーゼルや航空燃料も生産可能になる。言い換えれば、木材を使って重油ができるのだ。 ヨーロッパでは実証プラントが稼働しているし、一部は本格生産に移行しつつある。米国でもエネルギー省を中心に国家戦略として動きつつある。 このままでは、欧米を中心とする流れに取り残される危惧がある。世界的なエネルギーの状況をいま一度見直しながら、日本におけるバイオエネルギー、ひいては国内材の戦略的利用を論じてみる。 バイオエネルギーと言えば聞こえはよいが、その中身は多岐にわたる。例えば、ヨーロッパでは単に木材を燃やすか、燃やしやすいようにペレットにしたものもバイオエネルギーに含まれ、多額の補助金が与えられるらしい(英エコノミスト誌2013年4月6日号)。 この補助金目的のバイオエネルギーはカーボンニュートラルという名の下に、ヨーロッパの再生可能エネルギーの約50%を占めるそうだ。昔の薪を燃やすのと何ら変わらない。 何かしっくりこないが、しかし、木材をそれだけ伐採できる能力もあることを物語ってもいる。 わが日本では、木材を使おうにも伐採するだけのインフラもなく人員もいないであろう。国土に占める森林面積が68%にも及び、先進国ではフィンランド、スウェーデンに次ぐにもかかわらずである。 フィンランドでは木材が再生可能エネルギーの80%を占めるという(前出のエコノミスト誌による)。 バイオエタノールとバイオ燃料の違い バイオエネルギーと言えば、トウモロコシを原料としたエタノールを思い浮かべる方も多いであろう。木質原料(木材・草など)を使う同様の方法もある。 しかし、エタノールではバイオエネルギーの主力とはなり得ない。第1に、原料が食料と競合することが多い。第2には、エタノールはガソリンの代替にしかなり得ないのである。 再生可能エネルギーの種類と出力 木材を燃やす場合は、蒸気、電気などのエネルギーが得られるのに対し、エタノールから得られるのは主としてガソリンの代替エネルギーである。
それでも、それらのエネルギー源は、太陽光や風力よりは安定しているし、得られるエネルギーも太陽光・風力のように主として電気のみというわけではない。 原子力については先進国と発展途上国での状況が異なるので後に改めて述べるが、石油に変わり得るエネルギーを考えるときには、ディーゼルや航空燃料そして化学製品の原料としてのバイオエネルギーを考える必要がある。そのためには、我が国の林業のあり方も含めた総合的戦略が必要となる。 バイオエネルギーが真に石油の役目を担うためには、化学製品の原料となる必要がある。また、輸送目的に使用する場合もディーゼル燃料、飛行機用燃料を製造可能としなければならない。 そうした背景から、これからは「バイオ燃料(Bio Fuel)」と呼ばせていただく。 2010年の段階で、ヨーロッパではすでに多くの実証プロジェクトが立ち上がっていた。フォルクスワーゲンの木質材料をガス化のあと燃料を取り出すもの、ボルボの木材パルプ工程で出るリグニン(木に20〜30%含まれる)をガス化してディーゼル燃料を得るものなど大規模なものだけでも7つほどある(日本には大規模なものは皆無)。 それぞれが800万〜1000万ユーロ(約10億〜13億円)の補助金をEUから得ている。その後フィンランドの大手紙パルプ会社であるUPMキュンメネ社がラッペンランタ工場で設備を建設、2014年からバイオディーゼルを供給予定である。 また同社は、フランスのストラスブール工場でもバイオディーゼルのプラントを立ち上げる予定であり、環境負荷の削減に役立つとしてEU当局から1億7000万ユーロ(約220億円)の補助金を得ている。これら技術の根本は「ガス化」である。 フォルクスワーゲンのパイロットプラント(PulPaper2010より)ボルボのパイロットプラント(PulPaper2010より) 1920年代からあった木材のガス化技術 さて、木質資源のガス化に使われる技術は、1925年にさかのぼるフィッシャー・トロプシュ法(Fisher-Tropsch Process)に行き着く。 ドイツにあるマックス・プランク研究所の前身であるカイザーヴィルヘルム石炭研究所(Kaiser-Wilhelm Institut für Kohlenforschung)でフランツ・フィッシャー とハンス・トロプシュが開発したのでこう呼ばれる。 この技術は石炭から液体燃料を取り出す目的で開発された。第2次世界大戦中ドイツでは、この技術を使って石油の代替物を多量に生産した。日本では、技術の差から使いこなせず、松根油などを使うはめになった。 ごく簡単にフィッシャー・トロプシュ法(以下FT法)を図解すればこのようになる(下図参照)。 フィッシャー・トロプシュ法(FT法)の概念 もちろん、現在では技術改良がなされ大きく進歩している。石炭を原料としたのでは、化石燃料を使うのであるから、再生産はできないし、カーボンニュートラルでもない。そこで、木質資源を原料としたFT法の応用が考えられたのである。 また、今の時代であるからガス化炉にも最新技術が導入されている。さらに、ガス化した一部を発電に回すなどの応用も考えられている。 木質資源を原料としたFT法 下図は米国ニューページ社のウィスコンシン州・ウィスコンシンラピッズ工場のガス化設備を表している。右下の色付けした部分である。発電はもちろんCHP(熱電供給システム、コジェネレーションとも呼ばれる)である。 ニューページ社ウィスコンシンラピッズ工場の例(右下に色付けした部分がバイオ燃料製造設備) ここでは、製紙工場の中に組み込まれたシステムとなっていて、CHPで生成した電気、蒸気、温水は製紙の工程で使われている。シンガス(syngas)と呼ばれるガス成分は、水(蒸気)でクリーンアップされた後、GTL(gas to liquid)工程に運ばれバイオ燃料となる。 余剰の洗浄ガスは一部売電に回される。残りのガス(テールガス)は再びガス化炉の燃焼に使用される。現在の技術では、ガス化炉、CHPとも最新の技術が応用されている。しかし、もとはといえば1920年代の技術である。 なぜバイオ燃料か それでは、再度なぜバイオエタノールではなくバイオ燃料なのだろうかを考えてみる。再生可能エネルギーとバイオベースの燃料の両面から考えてみることとする。 まず、再生可能エネルギーの種類である。再生可能エネルギーにはいろいろなものが含まれる。太陽光、風力、水力、地熱、海洋エネルギー、バイオエネルギーである。 この内、バイオエネルギー以外は電力しか供給しないことはお分かりだろう。膨大な量の石油製品は製造不可能である。しかも、太陽光、風力は不安定であるのも既定の事実だ。 そこで、化石燃料である石油、石炭、天然ガスに変わる安定な電力を供給可能なものは、原子力しかないと先進諸国は考えていた(まだ考えているかもしれないが)。そして、今から原子力に依存しようという国も多くある。 国内の電力の3分の1近くを原子力で賄ってきた日本では想像しにくいが、世界的に見れば原子力はいまだマイナーな発電で、これから安定な電力を供給するものとして捉えられている。 次回は世界のエネルギー供給状況を見てみる。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38723 |