02. 2013年8月30日 02:51:59
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JBpress>日本再生>地球の明日 [地球の明日] 日本の地熱発電技術、世界一から滑り落ちる危機 発電量が安定、コストも安いのになぜ二の足踏むのか 2013年08月30日(Fri) 川嶋 諭 福島第一原子力発電所から漏洩が続く高濃度の汚染水は非常に厄介な問題だ。しかし、これを早期に解決できないようでは日本が原発を再稼働させる資格はない。東京電力任せにせず国を挙げて全力で取り組む必要がある。 一方で、この問題が示唆するのは、原発に代わる代替エネルギー源を一刻も早く開発、実用化させていくことだろう。恐らく、その最右翼にいるのが地熱発電である(地熱発電に関するこれまでの記事1、2)。 世界第3位の地熱資源大国 何しろ、日本は小さい国土ながら地熱の資源では世界有数の資源国なのである。日本の地熱発電研究で第一人者である弘前大学の村岡洋文教授(北日本新エネルギー研究所長)によれば、地熱資源量が最も多いのが米国の3000万キロワット。 次いでインドネシアの2779万キロワット。これに次いで日本は世界第3位。2347万キロワットもの資源を有する。4位以降は一気に資源量が激減して、4位フィリピンとメキシコが600万キロワットでしかない。 米国の陸地面積が963万平方キロで日本(38万平方キロ)の約24倍、インドネシアの陸地面積は191万平方キロで日本の約5倍であることを考えると、地熱資源の密度はこの2つの国を圧倒する。 しかし、前回書いたように日本は原発一辺倒にエネルギー政策の舵を切ったために、この豊かな資源をほとんど開発してこなかった。その結果、今や人口がわずか32万人のアイスランドよりも地熱発電量は少ない。 日本が原発に現を抜かし、日本の地下に眠る大資源に見向きもしなくなった頃、エネルギー自給に敏感な世界の国々は、日本よりも圧倒的に少ない地熱資源を効率良く回収する仕組みにしのぎを削り始めた。 それがバイナリー発電という方式である。これは日本のように恵まれた地熱資源のない国が、少ない資源を有効活用する発電方法だ。 日本では少し地中深く掘れば、地熱発電に適した摂氏200度以上の熱水を容易に得られるが、資源の乏しい国ではかなり深く掘っても得られる熱水はせいぜい150度にしかならない。あるいは温泉のように100度以下の場合もある。 こうした温度の低い熱水では、蒸気の力が弱く発電効率が極めて低くなる。そこで、温水の熱を熱交換器を通して冷媒と呼ばれる沸点の低い化合物に移し、その冷媒が低い温度でも蒸発して勢いよく噴き出す力を利用してタービンを回し発電するのがバイナリー発電だ。 この方式だと、常温では蒸気とならない100度以下の温水でもタービンを回すことが可能になるため、地熱資源の乏しい国を中心に普及が進み始めている。 日本が豊かな資源を眠らせたままにしている間、世界では少ない資源を効率的に使おうという努力が続けられてきたわけである。 バイナリー発電で伸張著しいイスラエル 日本が地熱発電の研究から手を引く15年ほど前にはほとんど見られなかったこのバイナリー発電は、今や世界の地熱発電の4分の1を占めるまでになり、さらにシェアを拡大しそうな勢いだ。 この分野で急速に力を伸ばしているのがイスラエルの企業。弘前大学の村岡教授は「イスラエルのオーマットという会社が、日本にはない軍事技術の転用でバイナリー発電の圧力容器では世界市場をほぼ独占的に握っています」と言う。 地熱発電のタービンでもかつては圧倒的に強かった日本メーカーの牙城を崩し、イスラエルが世界市場の24%を占めるまでに拡大してきた。優れたガスタービン技術などを持つ日本メーカーはまだ強いとはいえ、すでに世界シェアは50%を割り込んだ。 このままの状態が続けば、日本が地熱発電の技術で世界一の座から滑り落ちるのも時間の問題だろう。兎と亀の寓話ではないが、資源も技術もあることに胡坐をかいてうとうとしている間に、日本は追い抜かれ、世界の景色が全く変わってしまっていたということになりかねない。産業育成という意味でも原発依存は大きな問題がある。 しかし、3.11は少しずつではあるが日本にも変化をもたらし始めている。地熱発電の研究開発予算が復活したり、規制緩和されて企業の新規参入が容易になり始めたりしているのだ。 例えば、電気事業法の一部が改正され、300キロワット未満のバイナリー発電に関しては、専任のボイラー・タービン技術者を置かなくてもよくなった。これは前から要望が出されていながら実現されなかった規制緩和策で、明らかに3.11の原発事故が後押ししたと言っていい。 小さな規制緩和に見えるが、その効果は大きい。 専任の技術者が不要になることで発電コストが大きく下がると見た企業が相次いでバイナリー発電に参入し始めたのだ。 神戸製鋼所はスクリュータービンと発電機を1つの軸で直結して小型化した基本出力70キロワットの「マイクロバイナリー」という発電システムを商品化した。日本のお家芸とも言える高効率のヒートポンプや冷凍・圧縮機の技術を組み合わせて高効率なシステムとなっている。 一方、IHIはターボチャージャーやジェットエンジンなどの得意技術を駆使し、今年8月、出力20キロワットの小型バイナリー発電機「ヒートリカバリー」を発売した。70度から95度の温水があれば発電できるという。 軽トラックで運べる超小型発電機 温泉地などでの余った温水や高温の工場排水などから電力を取り出すことができるため、地域分散型の発電システムとして期待が持てる。 またアルバックの100%子会社であるアルバック理工は軽トラックで持ち運ぶことができる超小型のバイナリー発電機を開発している。使い方の一例として、91度のお湯が毎秒43リットル得られれば、エネルギー回収率7.8%で3.8キロワットの発電ができるという。 これ1台で一般家庭5〜20軒分が使う電力が得られるそうだ。こうした小型のバイナリー発電機が普及し、日本中で排出される200度以下の廃熱から発電すれば、理論上は日本の全家庭が使う電力の45%を賄えるという。 また、川崎重工業も250キロワットのバイナリー発電機用タービン「グリーンバイナリータービン」を開発した。 小型化が得意な日本の技術が十二分に生かされる分野と言えるだろう。こうした企業の取り組みを見るにつけ、日本という国にとって規制緩和の効果がいかに大きいかが分かる。 さらに世界的なバイナリー発電の需要に応える形で、大型のバイナリー発電機の開発も進められている。富士電機は2000キロワットのバイナリー発電システムを開発、インドネシアなど地熱発電に力を入れる東南アジア市場を目指している。 日本が本格的に地熱発電に力を入れれば、企業の開発にも弾みがつくことは間違いない。そして確実にコストは下がり、発電効率は上がっていく。 地熱発電について3回(第1回、第2回)にわたってお送りしてきた。日本が原子力に偏って地熱発電に積極的に取り組まない理由がないことをお分かりいただけたと思う。 コスト的にも、現在の技術でも「1キロワット時当たり8〜10円のコストで発電できる地熱発電に適した場所は日本にかなりある」と弘前大学の村岡教授は話す。「1キロワット時20円であれば日本中至る所で発電できる可能性があります」と言う。 3.11を契機として、風力や太陽光発電など自然エネルギーから得られた電力は1キロワット時当たり42円で買い取ってくれることになった。地熱発電も1.5万キロワット以下であれば42円で買い取ってくれることになった。1.5万キロワットを超える大規模発電所の場合でも27.3円である。 太陽光や風力など安定しないエネルギー源と違って、地熱は常に一定の電力が得られるという大きな強みもある。地熱発電への関心は少しずつ高まっているが、もっと大々的に取り組んでもいいのではないか。 第1回で触れたように、世界初で非常に高効率な地熱発電が日本に誕生する可能性があり、それはまた、付随する産業を刺激して育てる可能性が高い。 福島第一原子力発電所の高濃度汚染水の漏洩問題がなかなか解決できないのを考えると、地震大国・地熱資源大国の日本が進むべき方向性は自ずと見えてくるのではないだろうか。 |