01. 2013年7月26日 01:51:28
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再エネ新制度で潤った人たち突如、出現した「1兆円市場」 2013年7月26日(金) 山根 小雪 「投資基準は他の事業と同じです。CSR(企業の社会的責任)ではないですから」。こう語るのは、大林組の子会社で発電事業を営む大林クリーンエナジーの入矢桂史郎社長だ。 この発言こそ、7月で導入から丸1年を迎えた再生可能エネルギーの「固定価格買い取り制度(FIT)」がもたらした象徴的な変化だと感じる。 大林組は、再生可能エネルギーによる発電事業を、建築、土木、不動産開発に次ぐ4つめの柱にしようとしている。目的は収益基盤の多様化だ。もちろんゼネコンらしく、大規模太陽光発電所(メガソーラー)のEPC(設計・調達・建設)などの受注につなげるという目的もあるが、発電そのものが事業として成立するようになったことは大きい。 6月末時点で、大林組の発電所は全国16カ所、85メガワット(メガは100万)に上る。自社の遊休地もあれば、土地を賃借して運営しているところもある。1年間で16カ所という数字からは、「発電事業者」としての大林組の本気がにじむ。 FIT開始1年目の運転開始は、リードタイムが最も短いメガソーラーだけだったが、「バイオマス発電や風力発電も準備している」と入矢社長は明かす。 大林クリーンエナジーが運営する栃木県真岡市のメガソーラー。今年2月に運転開始した。出力は1.4メガワット。 冒頭の入矢社長の発言は、FITが始まる前の発電事業者からは聞くことのなかった言葉だ。かつて再エネを手がける発電事業者の取材に行くと必ずといっていいほど「日本のエネルギーのために」という言葉を耳にした。「多少、利益率が低くとも、そこに大義があるからこそ発電事業をやるのだ」という思いが、FITの存在しない苦しい発電事業への参入へと突き動かしていた。
FITの導入によって、「儲かる事業をやる」というビジネスとして当たり前のことが再エネでもできるようになった。FITに対する見方は賛否両論かもしれない。だが、この変化をもたらしたことは、日本のエネルギー自給率の向上にしても、新産業の振興という面でも、やはり大きい。 地方への経済効果は1000億〜2000億円 その証左が市場規模。資源エネルギー庁新エネルギー対策課の村上敬亮課長は、「制度が始まってわずか1年で市場規模は約1兆円まできた。メガソーラーは産業化した」と明かす。 この1年で発電事業が「儲かるビジネス」に変わったのには、3つの要素がある。第1はもちろん、FITの存在だ。20年間にわたり電力を収益が出る一定価格で買い取ってもらえることで、発電事業者にとっては安定的に収益が見込める事業になった。 そして第2が節税だ。FITと合わせて施行した「グリーン投資減税」は、太陽電池の取得費用全額の即時償却を認めている。政府が即時償却を認めるというのは異例のこと。当初はFIT開始時だけの特例として2013年3月末に終了する予定だったが、2015年3月末まで延長となった。これはFITが制度開始から3年間を「加速度期間」と定めているためだ。動かない市場を一気に動かすために、3年間は好条件を整えた。 第3が不動産対策だ。日本各地にあり余る遊休地。土地の所有者にとって、使い道がないにもかかわらず、固定資産税だけを払い続けるという、悩みの種の解消策になった。自ら発電事業をやらなくとも、発電事業者へ貸し出すことで得られる賃借料収入だけでも嬉しい。「固定資産税を払ってなおおつりが出る」という状況になった。 さて、1兆円市場の内訳はというと、約5000億円が太陽電池パネル、残り5000億円が、パワーコンディショナーなどの周辺機器や設備工事などだ。 太陽電池パネルやパワコン、メーターなどの機器は、いずれも品薄状態が続いている。FITの申請をしたものの、運転開始に至っていない案件が相当数存在するが、その多くが機器の入荷待ちだといわれる(一部には、FITへの申請を終えた開発案件をそのまま売却するブローカーが存在する)。 太陽電池メーカーは在庫を一掃、ほっと一息ついたというところだろう。パワコンやメーターを手掛けるメーカーも活況に沸いている。架台やパネルを固定するための金具など、様々な領域に新規参入者がいる。 電気工事や土木工事で地方へもカネが落ちた。「地方へ流れたカネは1000億〜2000億円」(資源エネルギー庁の村上課長)。民主党政権下で公共工事が減り、四苦八苦していた地方の事業者にとっては“恵みの雨”となったのだろう。 今後の焦点は風力に あっという間に1兆円まで市場規模は拡大したが、今後、メガソーラーの建設ペースがFIT初年度以上に高まるとは考えにくい。太陽電池メーカーやパワコンメーカーが、品薄だからと増産しないのはそのためだ。 今後は、買い取り価格も安くなっていく。しかし、だからといって導入がピタリと止まることはないだろう。メガソーラーの施工ノウハウなどが蓄積していくことで、現在と近いペースでの導入は進む可能性もある。 太陽電池メーカーは、既に次の一手を模索し始めている。ソーラーフロンティアは7月23日、従来品よりも厚さを3分の2ほどに薄くした住宅向けの新商品を発表。メガソーラー向けで好調な同社だが、「今のうちに住宅向けに手を打っておかねば」という思いがにじむ。 今後の焦点は、再エネの本丸、風力発電がどれだけ増えるかに移っていく。発電量が多く、発電コストが安価な大型風力が入ると、日本のエネルギー自給率にも大きく効いてくる。 風力も産業として育っていけば、メガソーラー以上の市場規模に成長するはずだ。部品点数が1万〜2万点と多い風車の方が、太陽電池に比べて産業のすそ野も広い。 買い取り価格の設定や導入量が太陽電池ばかりの状況で、FITの成否を判断するのは時期尚早だ。今後数年間でメガソーラーが定着し、さらに産業としての成長力を秘めた風力が離陸できるかどうかを見てからでも、白黒付けるのは遅くない。 このコラムについて 記者の眼 日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。 |