01. 2013年7月16日 00:57:53
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JBpress>海外>ロシア [ロシア] 東高西低が常態化し始めたロシアのエネルギー供給 意気軒昂なロスネフチとは全く対照的なガスプロム 2013年07月16日(Tue) W.C 7月に入ると、ロシアはもうどことなく夏の休暇モードに入ってしまう、と相も変らぬ表現を毎年繰り返さねばならない。物事が安定しないと見られがちなロシアにあって、これだけは万古不変の真理のごとくだ。経済がどうであろうと、政治が揺らごうと、ひょっとして戦争が起ころうと、・・・休暇は休暇なのだ。 だから、それを見越して、ロシアの国際経済会議で最も規模が大きいサンクト・ペテルブルグの国際経済フォーラムも例年6月の20日前後に行われて、ロシア経済の前半戦のフィナーレを飾る。 ガスプロムが主役から滑り落ちた初めての年 エネルギー大国だから、フォーラムの主役はロシア最大の企業ガスプロム、とこれまでなら大体相場が決まっていた。そして、会社法で決算6カ月以内の開催が義務づけられる株主総会となれば、12月決算が普通のロシアで6月末のガスプロムのそれが、全ロシア企業のトリを務めてきた。 欧州への天然ガス供給、再びストップ ロシアとウクライナは非難合戦 モスクワにあるガスプロムの本社〔AFPBB News〕 今年は、しかし、ガスプロムが主役の座から滑り落ちた最初の年になるのかもしれない。 国際経済フォーラムの方は、参加者総数が7000人を越え過去最大であったと主催者側は発表している。参加費を2倍につり上げても、人気は衰えないと言いたいのだろうか。確かに、エネルギー分野では世界の大手メジャーの最高経営責任者(CEO)がほとんど顔を揃えるといった華々しさがまだ続いている。 その大企業幹部達を前にウラジーミル・プーチン大統領は「世界のエネルギー需給の予見可能性を高めるために国際的な調整機能の存在が求められている」と説いた。 これはいつもの調子だから、大統領閣下には失礼ながら、まあどうでもよい。どうでもよくないのは、彼に続いてアジア方面でのガスの需給見通しなどに言及したのが、ロスネフチ社長のイーゴリ・セチンだったことだ。ガスのことなら、それはガスプロム社長のアレクセイ・ミレルの役割だったはずなのに・・・。 こうしてプーチンとセチンが並んでしまうと、今やこのKGB中退組の2人がロシアのエネルー産業を動かしていると、大方は納得するしかなくなるだろう。なにせ、ロスネフチ=セチンの一人勝ちとも言える今回のフォーラムでの赫々たる成果が、それを裏づけている。 中国石油天然気(CNPC=ペトロチャイナ)を相手に、総額2700億ドルと喧伝される25年間の対中原油輸出を筆頭に、エクソン・モービル他西側主要企業とのオフショア(大陸棚)開発や、エクソン・モービルや日本企業とのサハリン方面でのLNG生産計画で、具体的な合意を次々とものにした。 加えて、このフォーラムの時期に合わせてサンクト・ペテルブルグでロスネフチは株主総会を開き、その場でセチンが2022年までの10年間で2000億ドルの投資を行い、今後7年間で原油生産量は年間2.2億トンへ、と目一杯風呂敷を広げる。 そして、彼は言ったものだ、「ロスネフチはロシア最大の納税企業である」。 意表を突いた発言でも何でもない。TVで流されている同社のCM(良くできている、どこの会社か、と皆が注目してしまう)に出てくる台詞を繰り返したまでである。 重なる他企業吸収合併を経て、今やロスネフチの売り上げ規模はガスプロムに匹敵するまでになり、遂には、「ロシアでオレが一番」と言い始めたのだ。 ガスプロムはいつもの通り、6月の末に株主総会を開催した。ミレルが年次報告の演説を行い、議題を通し、そして彼の記者会見。だが、見ている方が何も新たなことは出て来まいと期待していなかったこともあってか、生彩がまるでない。 精々が、いささか子供じみて、「ロシアで最も税金を負担している企業はガスプロムである」と、セチン発言に言い返す程度だった。 シェール・ガス革命対策に有効な手立ては何一つなし 株主総会でのガスプロムのミレル社長(ガスプロムのサイトより) ここ2〜3年、ガスプロムはメディアから袋叩きに遭っている。シェール・ガス革命で大きく動きが変わった世界のガス市場の中で、その最大のガス輸出企業の立場を誇りながら、新潮流に対応する有効な手立ては何一つ打ち出せていない。
輸出先のヨーロッパでは、EUの市場自由化策との対立や彼らの経済不調で、ガスの販売量は大きく減ってしまった。そして重要顧客先からの値引き要求に、一社、また一社、と次々にこちらが押し切られていく。 ウクライナでもガスの価格を巡ってガスプロムへのしぶとい抵抗が続き、ここでもガスの販売量(かつてはガスプロムの最大の輸出先だった)が激減。国内では、ロスネフチやノヴァテックといった他の企業に販売先を奪われはじめ、さらに彼らもLNGの輸出を目指してガスプロムの独占撤廃を叫び出す。 ガスプロムの守護神プーチンも、最近はどことなくガスプロムによそよそしい。輸出独占解除の検討も政府に命じてしまう。もういい、経営陣は何をやっとるのか? 社長ミレルの更迭の噂が市場に流れるたびに、ガスプロムの株価は上昇する始末。リングにタオルが舞っているようなものだ。 こうなると、もうガスプロムの時代も終わりか、といった気の早い観測も出てくる。株価は過去1年で3分の1も下がり、ミレルの以前の予測ではもう1兆ドルを超えていてもよさそうな株式時価総額は、はるか下方の1000億ドル前後を這いずり回っている。 だから、古きヨーロッパよ、さようなら、で、「東へ!」がスローガンになった。― オレ達のやることにツベコベ抜かす奴らはもう相手にできない。新天地が待っている。 だが、国際経済フォーラムの場で目玉になると期待されていた中国へのガス輸出での合意は、ロスネフチとは対照的に、今回も価格が折り合わずに不発に終わった。中国側はどうやら今回で纏める気でいたにもかかわらず、である。 株主総会後のミレルの記者会見は、あらかじめ質問が選別されてそれらへの回答も大体予想が付くものだったから、入りはあまりよくなかった。そして、アジア・中国方面に関する質問はただ1人に限られていた、それも急所を衝くようなものではないものに。突っ込まれては、よほど不都合だったのだろう。 しらけた雰囲気を察してか、記者会見の司会を務めた広報部長は、最後にうるさ型メディア人のヴラジーミル・コンドラチェフ(TV局「NTV」の解説委員)を質問者として指名。そのコンドラチェフが、「このままでは一体ガスプロムはどこへ行ってしまうのか」と経営姿勢そのものを問うと、ミレルは「我々は眠っているわけではない」と素っ気ない回答。 その素っ気なさに、今に見てろよ、といった開き直りや気概が含まれているなら、まだ救われるのかもしれないが・・・。 今回の国際経済フォーラムでロスネフチとガスプロムで明暗が分かれたのは、いずれも中国が相手の話だった。 ロスネフチが中国への原油の輸出を大幅に増やすことは、既にその大まかな筋立てが3月の両国のトップ同士の会見で合意されていた。今回はそれを実務レベルのロスネフチとCNPCとで具体的に纏め上げただけなのだが、最も注目されるのはCNPCがロシアからの原油輸入で初めて市場価格適用を認めたことだろう。 ESPO価格連動で中国と合意 2000年代に入ってロシア企業が中国への原油輸出を鉄道貨車で始めてから、これまでは国際相場に比べれば概ね安くなる一種の固定価格が適用されてきた。これは社会主義時代の名残とでも言うべきものなのかもしれない。 だが、国際価格が跳ね上がった状態が続いた時代だっただけに、ロシア側には固定価格で損をしているという不満が蓄積され、他方で人為的な固定価格で主張されるロシア側の言い分に対しても、それが合理性(実はもっと安くなるはず)を備えているのか、という中国側の疑問も嵩じてくる。 そうしたことが理由で、値上げを求めて露側が供給削減に走ったり、決められた固定価格への疑問から中国側が支払の一部を差し止めたり、といった事態も過去に生じた。 今回は、ロシアが太平洋岸から輸出している原油(ブランド名はESPO)の価格に、対中パイプラインで輸出される原油価格を連動させるということで合意した、とロスネフチは発表している。 どんな裏があるのか詳細は不明にしても、その通りなら、従来の価格水準から見てこれはロシア側の大勝利とも言える。原油の確保では、それだけ中国側も切羽詰まっていたということなのだろう。 ESPO原油は現在アジア太平洋地域での人気商品にのし上がってきている。2009年の末に初めてユーラシア大陸部からロシアが原油を輸出し始めた時は、内心「売れるのかなぁ」でおっかなびっくりだった。 しかし硫黄分が低い軽質原油ということでファンが急速に増え始め、今では中東原油に対してプレミアム付きで日・韓・中へはもちろん、遠く東南アジアや米国にまで売られている。 輸出能力も年間3000万トンに増強され、それも売れっ子とくれば、では我社も、でESPOとして販売しようというロシアの石油企業の数も増えてくる。 ロシア全体の原油の生産量が大きく増加しているわけではないし、原油の国内での精製増加(より高い付加価値の石油製品とする)が政府の指針だから国内需要も増加する。そこへ中国向けの輸出増加が加われば、減らされるのは結局西向け、すなわちヨーロッパに向けた輸出ということになる。その傾向は既に現れ始めている。 ヨーロッパの代表的な原油価格の指標であるブレント(Brent)に比べて、硫黄分が多くやや重いロシアのヨーロッパ向け原油(Urals)は歴史的に割安品だった。ところが6月後半にこのUralsの価格がBrentを上回るようになった。ロシア原油の輸出量減少で、その精製を前提として装備されたヨーロッパの製油所で品薄感が広まり始めたからである。 あいつら、本気で西から足を洗おうってのか ― ロシアの行動に対してヨーロッパの中から、まだわずかとはいえ、不安らしきが芽生え始めている。 原油市場でロシアはヨーロッパと対立しているわけでもないから、それが理由ではないのだが、意図せぬ西から東への動き(西向けを減らしたのではなく、減ってしまった)が生じたことになる。 シベリア産原油が東へ向かい、生じた問題点 細かい話をすれば、それがロシアにとってすべてハッピーということでもない。Uralsの硫黄分が高く重いのは、主にウラル地方(タタールスタン、バシキリア)の原油がそうだからだ。これを硫黄分が低く軽質のシベリア産原油とブレンドすることで、その含有比率や比重を、Brentよりは高いものの極端ではない、と言える程度にまで引き下げてきた。 しかし、シベリア産の原油が東に向かい始めると、中和剤のような役割を果たす原油が足りなくなる。そうなれば、Uralsの硫黄含有量が上がったりさらに重くなったりで、これまでの標準性状のラベルを貼り替えねばならなくなる。それは中長期的には価格の低下も意味する。 このように、問題が全くないわけではない。だが、セチンの東進政策は今のところ至極順当に進んでいるとみていいのだろう。では、ガスではそれがなぜ首尾よく進まないのか。 ロシアから中国へのガスの輸出について、両国がまともに協議し合うようになってから既に7〜8年、構想が生まれてからで勘定すれば、15年以上の歳月が空しく過ぎてしまっている。 これだけ時間がかかったのも、原油の場合と違って中国側が是が非でも買わねば、という状況に置かれてこなかったこと(ガスと石炭は代替関係にある)や、ロシアが東シベリアのガス田開発と地域の総合開発を一緒くたにしてしまったために、交渉上のあらゆる問題解決でその都度多大な時間を消費せねばならなかったことに理由がある。 ようやく最近になって、中国は環境問題の深刻化に押されたこともあり、ガスの需要を急速に増やし始めた。 他方では、小田原評定ばかりで一向に開発にも対中輸出にも結論が出せないガスプロムに対してプーチンがとうとう怒りを爆発させた。こっぴどく彼に尻を引っ叩かれたガスプロムは、東シベリアのガス田開発とそれに伴うパイプラインの敷設を昨年10月に急遽本決まりとする。 双方の機は熟した。しかも、東シベリアのガス田開発は、そのガスを中国にパイプラインで輸出するのがロシアにとって最も経済的という、誰が考えても当たり前の結論をガスプロムもようやく受け入れる。後はいくらで売るかを決めればよいかだけの話。 差し当って中国は、東北3省でのガス需要をロシアからの輸入で賄う積りだから、初めは現在の主力燃料である石炭の国内価格に輸入ガスの価格を連動させろ、と要求していた。だが、石油に比べれば価格水準の低い石炭を、ロシアが基準値で受け入れるはずもない。 ロシアの強硬姿勢に中国側が石炭を諦め、石油価格にリンクしたガス価格の原則に同意すると、今度は価格算定式でのベースプライスをいくらにするかで揉める。一時は1000立方メートル当たり350ドルを主張するロシアに対し、中国は100ドルも安い250ドルを主張。 ロシアの350ドルは、実は開発コストを考えれば採算ギリギリの数値で、駆け引きも何もなく、これを下回れば赤字になるから、もう譲れない線になる。これに対して中国は、自国内でのガスの需要増や価格の引き上げもあって、言い値を290ドルまで競り上げてきた。 差は60ドルで、中国がロシアに優遇金利での巨額融資を供与すれば、複雑な損得計算を通じて何とか埋められないこともないギャップである。 パンドラの箱を開けてしまったロシア だが、この6月に話は纏まらなかった。その理由の詳細は明かにされていない。従って、以下は、メディアで報じられた断片的な情報を繋ぎ合せたうえでの筆者の想像だが、どうもガスプロムが土壇場になってそれまでの交渉の流れを変えて、新たに極東から今後輸出されるロシアのLNG価格(原油価格ベース)にリンクさせろ、と言い出したようだ。 今頃になってそれを言い出したことが交渉の面で妥当かどうかはともかく、アジア方面へのガスの輸出で中国向けとLNGとで価格が異なってしまうと、ガス輸出という大枠全体での整合性を欠き、結果として中国への優遇に陥るのではないか、あるいはほかの買手からその点を詰られるのではないか、とガスプロムが疑問を抱いたとしても不思議はない。 そこへ原油での成功が目に入る。あちらは市場価格のESPO(東シベリア・太平洋)原油を基準に決めた。ならば、ガスでも現在アジアで通用している原油リンクのLNG価格をロシアの全アジア向けのガス輸出に適用してもおかしくはあるまい。 売り手としての理屈はその通りである。だが、ロシアはアジア市場でのガス価格について、1つ大きな問題を見過ごしていた。それは従来からの原油リンク方式の妥当性を、日本をはじめとするLNGの輸入国が疑い出してしまっている点である。 要はこの方式で算出される価格が、世界最安の米国内(Henry Hub(HH)価格−米ルイジアナ州のガスパイプラインの交差点で、ここで米国内のガス価格指標が立つ)と比べればもちろん、ヨーロッパ市場と比較しても、現状では余りに高いものになってしまっているのだ。 だからガスプロムは、新たにヴラジヴォストークで生産し輸出を計画しているLNGの価格を基準値にせよと言い出すことで、CNPCから、「ならばHHリンクでやってくれ」という逆提案を引き出してしまった。 米国産のガスなど、アジアにまだ輸出されていないではないか。だから、そんな想像上の価格を基準にするなど馬鹿げている ― ロシアはこう言いたいだろう。だが、実際にHHリンクでの価格の導入は、徐々にではあるがアジア向けでも始まっている。CNPCの主張はその流れに従ったまでの話だ。 現状では、今後どのような価格がアジア市場で支配的であるべきか、あるいは支配的になるのか、については様々な見解があり、まだ誰にもその結論が見えていない。 あえて言えることは、これまでのアジア市場で通り相場だった(そして、これからもロシアが主張しようとしている)原油価格リンクのLNG価格は、誰もが支持するものとはもはや必ずしも言えなくなってきているという点であろう。 そのような厄介な問題を、パンドラの箱を開けるにも等しく、あえてロシアは中国との交渉の俎上に載せてしまったのだ。 この神学論争に拘泥する限り、早期に露中がガス取引で合意、ということにはならないだろう。どこかでうまい政治的な妥協案を見つけぬ限り、これはそう簡単に片がつく問題でもないのだから。 |