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大前研一の「産業突然死」時代の人生論
国家危機にある日本は、再生可能エネルギー政策を改め、石炭火力を見直せ
2013年03月29日
再生可能エネルギー政策の見直しが進んでいる。液化天然ガス(LNG)や石油の価格が高止まりする中、現実的なエネルギー政策を追求しなければならない。石炭火力は有力な解答の一つである。
太陽光発電の買い取り価格がようやく1割下げへ
政府が、太陽光発電の急拡大を支えてきた再生可能エネルギーの価格政策の見直しを進めている。経済産業省は3月11日、太陽光発電による電力の買い取り価格を、2013年度からおよそ1割引き下げる方針を固めた。
再生可能エネルギーの固定買取価格制度は、2012年7月1日からスタートした。当初の設定は、次のようなものとなっていた。「再生可能エネルギーの主な固定買取価格」をご覧いただきたい。
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太陽光発電については、10kW未満は10年間、10kW以上は20年間を買い取り期間とし、1kWh当たり42円の買い取り価格となっている。太陽光以外にも、風力、水力、地熱、バイオマスについて固定買取価格が設定されたが、いずれも非常に高い。
もし、このまま20年間、固定買取価格制度が続けば、非常に歪んだエネルギーミックスになる可能性が高かった。
私はこの固定買取価格制度にはじめから反対し、また法案となってからは一刻も早く見直すべきだと訴えてきたが、ようやく自民党政権になって見直されることになった。今後新たに設置する太陽光発電については、買い取り価格を1割引き下げるというのが今回の方針だ。
Next:ドイツやスペインでも引き下げが進む
ドイツやスペインでも引き下げが進む
しかし、買い取り価格を1割引き下げても約38円だから、まだまだ高い水準と言える。下の「ドイツ・スペインの再生可能エネルギーの買い取り価格」を見てもらおう。
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ドイツも太陽光発電の買い取り期間は20年間だが、買い取り価格は32.2〜42.9円(屋根用)、31.5〜33.0円(その他)と幅がある。一方、スペインの買い取り期間は25年間で、買い取り価格は38.4〜43.0円(2000W以下)、34.5円(1万kW以下)となっている。
両国とも、高く設定した買い取り価格が再生可能エネルギーを推進した効果は認めながらも、最終ユーザーへの負担が大きいことから見直しを何回か試みている。
買い取り価格を設定した民主党政権は、一部の業界の人たちに煽られて、異常に高い数値にしてしまった。その結果、高い買い取り価格を目当てに太陽光発電への参入が殺到し、すでに今年の3月末までに予定していた枠をオーバーしている状況だ。政策をつくる時にこうした事態を予測しておくべきだった。
Next:今後注目されるのは低コストの石炭火力
今後注目されるのは低コストの石炭火力
このように、再生可能エネルギーの高コスト構造が問題となっている一方で、火力発電に使うLNGや石油の価格も依然として高止まっている。LNGのスポット価格は、東日本大震災の前に比べて9割も上昇している。
日本は世界のLNGの40%を占める世界最大のLNG消費国である。原発が相次ぎ停止したので、さらにその購買を加速しており、価格の高止まりの一因となっている。
世界的には、天然ガスはパイプラインで産地から消費地まで送られるので、そのコストはLNGの半分程度である。最近では米国でシェールガスの本格的な商業生産が進んだおかげで、価格は100万BTU(英国熱量単位)当たり3ドルくらいになり、日本の5分の1となっている。
政府は4月までに夏の電力需給を検証し、数値目標や計画停電の必要性を詰める方針だが、原発の新安全基準の施行は7月のため、再稼働は夏に間に合わない見通しだ。
原発が動かず、LNG火力や石油火力はコストが高止まりで、再生可能エネルギーもコスト面などからまだまだ実用的でないとすると、今後は石炭火力が有力になってくる。
「電源別の発電コスト」を見てもらおう。
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実は、石炭火力というのは発電コストで見ると原子力に匹敵するほど安い。1kWh当たりの発電コストは、原子力が8.9円であるのに対し、石炭火力は9.5円である。一方、LNG火力は10.7円、石油火力は36円となっている。
Next:韓国、米国、ドイツは4割以上が石炭火力
韓国、米国、ドイツは4割以上が石炭火力
では、なぜ石炭火力があまり使われていないのかというと、CO2(二酸化酸素)排出量が問題視されてきたからだ。しかし、最先端の技術を使えば、石炭火力におけるCO2排出量を少なくできるようになっている。CO2ガスを固体にして地下に埋設するとか、カルシウムなどと反応させて炭酸カルシウムとして補捉する、といったことが試みられている。
いろいろな技術を組み合わせることでコストの安い石炭をかなりクリーンなエネルギーとして使うことができるようになってきているのだ。
日本はモクモクと煙を出していたころの蒸気機関車(SL)や発電所のイメージから、石炭火力に対するアレルギーが非常に強いけれども、海外を見ると、今でも石炭火力は多く使われている。「世界と主要国の発電量に占める石炭の割合」を下に掲げた。
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世界の発電量に占める石炭火力の割合は40.5%であり、電源別に見て最も多い発電となっている。
一方、主要国の発電量に占める石炭の割合を見ると、中国では約8割となっている。この一部が古い技術のもので微小粒子状物質「PM2.5」などの公害発生の元凶となっているが、韓国、米国、ドイツでも4割以上が石炭火力なのに大きな社会問題とはなっていない。日本の石炭火力は2割強でしかなく、非常に低い水準と言える。
Next:米国のシェールガス革命が起こす「世界の玉突き現象」
原発事故に伴う電力不足を契機に、日本でも石炭火力を再評価する動きが出ており、昨年11月には東京電力が石炭火力発電所の建設を発表した。これについては環境省がCO2問題の観点から反対していたが、自民党政権が割って入り環境省に承諾させている。3月19日には、関係閣僚会議で石炭火力を推進する方針を打ち出した。
米国のシェールガスの価格低下はまさに「革命」とも言うべきものである。安倍晋三首相が今年2月に訪米した時に、オバマ大統領にシェールガスをLNG化して日本にも輸出してくれ、と依頼している。米国の相場から見て、いまカタールなどから原油価格にリンクして買っている値段の半分くらいになると見込まれるので、これはぜひ進めてもらいたい。
欧州は、シェールガスの価格下落により米国で売れなくなった石炭を大量に輸入し、パイプラインの供給元であるロシアに揺さぶりをかけている。つまり、世界的には米国におけるエネルギー価格の下落が玉突き現象を起こしているのである。
Next:エネルギー問題は実現可能なプランが重要
エネルギー問題は実現可能なプランが重要
パイプラインを持たず、LNGを原油価格にリンクして長期契約を結んでいる日本は特別に不利な状況に陥っている、という認識を持たなくてはいけない。
その日本で産油国に対する抑止力となる予定であった原子炉がほぼ「全面停止」というのが、いかに国家的危機であるかを認識する必要がある。
民主党に比べると、石炭火力に舵を切った自民党はかなり現実的な答えを出してきているように思う。エネルギー問題については、絵空事ではなく、実現可能なプランを追求していくことが重要となる。
TeamH2Oが2011年10月に提出した福島第一原発事故に関する報告書をベースにまとめた単行本『原発再稼働「最後の条件」: 「福島第一」事故検証プロジェクト 最終報告書』(小学館)が2012年7月25日に発売されました。
報告書「福島第一原子力発電所事故から何を学ぶか」
米MITで原子力工学博士号を取得し、日立製作所で高速増殖炉の炉心設計を行っていた大前研一氏を総括責任者とするプロジェクト・チーム(TeamH2O)は、「民間の中立的な立場からのセカンド・オピニオン」としての報告書「福島第一原子力発電所事故から何を学ぶか」をまとめ、細野豪志環境相兼原発事故担当相に10月28日に提出しました。
報告書のPDF資料および映像へのリンクは、こちらです。最終報告、補足資料はこちらをご覧ください。
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大前研一の「「産業突然死」時代の人生論」は、09年4月7日まで「SAFETY JAPAN」サイトにて公開してきました。そのバックナンバーはこちらをご覧ください。
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大前 研一(おおまえ・けんいち)
1943年、福岡県に生まれる。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号を、マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年、マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社。以来ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を務める。
2005年4月に本邦初の遠隔教育法によるMBAプログラム(ビジネスブレークスルー大学院大学)が開講、学長に就任。経営コンサルタントとしても各国で活躍しながら、日本の疲弊した政治システムの改革と真の生活者主権の国家実現のために、新しい提案・コンセプトを提供し続けている。
著作に『さらばアメリカ』(小学館)、『新版「知の衰退」からいかに脱出するか?』(光文社知恵の森文庫)、『ロシア・ショック』(講談社)など多数がある。
大前研一のホームページ:http://www.kohmae.com
ビジネスブレークスルー:http://www.bbt757.com
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20130329/345761/?ST=overview&rt=nocnt
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