02. 2013年2月07日 00:37:10
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膨大な波力エネルギ−を取り出せ加速する技術開発と見えてきた商業化 2013年2月7日(木) 山家 公雄 前回は、海洋エネルギ−の世界動向を、先行するスコットランドに焦点を当てて、政策・具体的な支援策を主に解説した。今回は、スコットランドで活躍する波力エネルギ−開発会社を紹介する。多くの事業者が、波が持つ膨大なエネルギ−をいかに使いやすい形に変換するかを競っている。経済性を求めてさまざまな工夫を凝らしており、大規模商業施設の建設も視野に入ってきた。 波力と潮流を比較すると、一定の流れに身を置く潮流発電は、風車技術の応用であり技術開発のターゲットが一定の範囲に収まっている。場所を選べばコストもより低いとされる。しかし、適した場所は限られる。 一方、波力は、沖合や浅瀬では波形などが異なるし、その複雑な動きを利用しやすい形に変換する技術もさまざまであり、現状は百花繚乱ともいえる状況にある。しかしそのエネルギ−は膨大で、生き残った技術は大きなビジネスチャンスをつかむことになる。世界で2億〜3億kWの潜在量があると言われる。 まずスコットランドで開発されている代表的な技術を紹介し、波力発電のイメージに接近する。浅瀬(ニアショア)に固定し陸上で発電するウェイブジェンのLIMPETとアクアマリン・パワーのオイスター、沖合に浮いて発電し大規模化を目指すAWSオーシャン・エナジーのAWSIIIとペラミスのP2である。 実績を誇る陸地一体型波力発電 波力発電開発の歴史を語る上ではずせない会社は、その名もウェイブジェン(Wavegen)である。正式社名は、フォイト・ハイドロ・ウェイブジェン(Voith Hydro Wavegen)で、スコットランドのInvernessに本社を置く。フォイトは、ドイツに本社を置いて世界規模で活動する同族経営の機械製作会社である。フォイト・ハイドロはその水力発電部門で、かつてのフォイト・シーメンス水力発電社であるが、世界の水力発電の3分の1は同社のタービンと発電機を使用している。日本の富士電機が提携関係にあり、両者で富士フォイトを設立している。 ウェイブジェンの代名詞は、同社の波力発電実験施設であるLIMPET(the Land installed Marine Powered Energy Transfer)である。その名の通り「陸地に設置された」海洋エネルギ−発電で、2000年11月に、スコットラントの西北に位置するアイレー島に建設された。世界初の商業規模の波力発電であり、既に11年間にわたり稼働し7万時間系統に送電している。300kWでスタートし、現在は500kWで運転している(250kW×2)。水深は15m程度のニアショアに適する。信頼性を実証するとともに豊富なデーターを蓄積し、運転方法を含む改善点を多く提供してきた。ここで培った経験とノウハウをその後の事業に反映させている。 空気圧でプロペラを一定方向に回転 資料1.Wavegenのシステム 出所:Voith Hydro Wavegen 同社が採用する技術は、「振動水柱形空気タービン方式」である(資料1)。防波堤や岸壁などに空気室を付設し、その一部に隙間を設けてタービン・発電機を設置した閉鎖空間を連結する。寄せては返る波の力を振動水柱(OWC:Oscillating Water Column)によって空気圧に転換し、空気室から空気が出入りする力でプロペラ状のタービンを回す。 空気は左右に動くが、タービンは常に一定方向に回転する。これはウェールズ・タービンと称され、空気圧式波力発電では多く利用されている。イギリスの科学者ウェールズ博士が開発した技術だ。中心部のローターに複数の羽根が固定されているが、羽根の形に工夫を施している。 タービンは、年平均の波の強度(15〜25kW/m)に最適となるように設計する。ピッチやギアボックスが不要でシンプルな構造で、頑丈なモジュールとなっている。モジュールは1トン未満の重量で、可動式クレーンで設置・取り外しができる。 この方式は、浅瀬(near shore)の波を利用し比較的静かで環境に優しい。陸と一体となった構造物を利用することにより、陸上のインフラを容易に利用でき、発電部分が海水に接することによる不都合から解放される。既存グリッドとの親和性が高く、離島コミュニティーへの電力供給や海水淡水化設備での利用に適している。 建設・設置しやすいデザインで、発電所が低く景観を損ねないのも利点だ。護岸や港湾施設を利用するほか、人工的なリーフ(礁)ともなりえて、フィッシングに適する環境をも形成する。ハーバー開発やレクレーションエリアの整備ともマッチする。 スペインで商業化 ウェイブジェンの波力発電設備は、スペインのユーテリティEVEに納入された。EVEは、スペイン北部にあるMutriku港に波力発電所を建設した。世界初のフルスケール・フルギャランティー(発電保証)の商業発電である。出力は300kWで、16タービンからなる。2011年7月に試運転を開始し11月に引き渡されたが、海洋エネルギーの歴史に残る快挙と評された。 スコットランドでは、本格的な大規模波力発電所として「シアダー(Siadar)計画」がある。シアダーはルイス(Lewis)島の西岸に位置するが、ここでウェイブジェンとドイツのRWE子会社の協力により、4MWの発電設備を設置する。実施が決まっている波力発電所としては最大級である。スコットランドの海洋ファンドであるWATERS第1ラウンドが採択した5事業の1つで、600万ポンドの支援を受けている(同ファンドの規模は1300万ポンド)。 海中に設置した「オイスタ−」で陸上水車を回す アクアマリンパワー社の「オイスター(牡蠣)」は、「ペラミス(うみへび)」と並んでEMEC(European Marine Energy Centre)を代表する波力デバイスである。315kWのデバイス「オイスター1」に次いで、現在800kWの「オイスター800」の性能を実験中である(資料2)。 資料2.設置前のオイスター1 出所:EMEC(European Marine Energy Centre) オイスターは、岸に近い海底に一方の貝(状の物体)を設置し、寄せる波と帰る波の力を利用して、蝶つがいで固定したもう一方の貝(フラップ)を開け閉め(上下運動)させる。この力で導管内の水を循環させ、陸上の発電施設にあるタービン(水車)を回す。 貝のような変換デバイスは水深10〜15mに設置する。浅瀬にあり、設置やメンテは比較的容易である。また、タービンと発電機は陸上にあり、真水に接する通常の水力発電であることから、信頼性は高く、海洋環境へ影響を及ぼすこともない。EMECに設置されているオイスター800は、フラップの幅が26mで、沖合500m、水深13mのところに設置されている。 2005〜2009年の間オイスター1を開発し、2009年から2011年の2年間、荒波が生じる2冬季を乗り越えて6000時間以上稼動した。24時間の通電も問題なくこなした。2011年に、オイスター1の実験を反映して格段に効率を上げたオイスター800を製作し、2012年6月からEMECにて実験を開始している。この事業はWATERS1の対象となり、315万ポンドの助成を受けている。遠からず「801」を800の隣に設置して、合わせて陸上の1つのタービンにつなげる実験を行う。アクアマリンパワーは、EMECに3機分の2.4MWを実験するスペースを確保しており、その資金手当ても終わっている。商業化では複数のオイスターを1つの発電設備に統合して運転するモデルを描いている。 3kmにわたってオイスターをつなげる 同社は、商業化に向けた準備を着実に進めている。2011年5月にルイス島の西岸をリースする権利を得ており、技術・環境評価を終えて当局に報告するとともに事業申請を港湾局と議会に行っている。発電容量は40MWで、40〜50のオイスターを3kmにわたり沿岸に設置する計画である。既に系統に43MW接続する権利を得ている。 この事業を遂行するために100%子会社のルイス波力発電会社を設立した。ルイス島の事業は、スコットランド政府が設けたサルティア賞の有力候補に挙がっている。これは最も発電実績を示した事業に付与される。 スケジュールは、EMECでの「800」「801」の稼働状況を見て、2014年にもルイス島で設置を開始し、2015年に最初の3MWを設置する予定となっている。 また、オークニー島の西岸では、スコティッシュ・アンド・サザン・エネルギー・リニューアブルズ(SSE-RE)と組んで排他的リース契約を締結しており、技術・環境評価の調査を行っている。クラウンエステートと2010年3月にリース契約を締結しているが、当時世界初の海底(seabed)リースラウンドでの契約として注目を集めた。 米国では、西岸地区で適地を物色しているところであり、オレゴン州のファンド案件に採択されている。アイルランドの西岸波力開発事業のメンバーであり、5MWの設備を設置する予定である。 船体形で大規模化を目指す AWSオーシャン・エナジーは、スコットランド波力開発のパイオニアで、2004年創設のベンチャー企業である。2011年6月にはフランスのアルストムが資本参加し、現在4割のシェアホルダーになっている。 同社のシステムは、海上に浮かぶ複数のブイを円形に束ねたものである(資料3)。個々のブイは波を吸収する柔軟な膜(メンブランス)と空気圧で回るタービン・発電機から成る。同社は個々のブイをセルと称しており、長さ16m、高さ(深さ)が8mある。 資料3.AWS III 出所:EMEC 一基当たり12のセルからなり、その直径は60mになる。定格出力は設備利用率25%を前提に2500kW。セル同士が空気のやりとりを可能にすることで効率を上げている。また、船体型は安定性が高く、オンボードで検査・メンテナンスが可能になる。セルをカセット式で取り外しできるなどの工夫がしてあり、クレーンを使わなくても工事できる。海底との緩い係留も特徴で、特許も取得している。1基あたり2500kWのスケールを標準とし、これを増やしていく方式で規模を拡大する。発電所群(ファーム)の中心に変電所を置き、そこにつなげる。 同社が開発している「AWSIII波力コンバーター」に対する期待は大きく、各種補助金の対象となっている。9分の1スケールの実証事業に対して、WATERS1が190万ポンド、英国政府が350万ポンドの補助金を交付した。2010年に実証試験を行い、良好な結果を出している。フルスケールの事業に対して、WATERS2が390万ポンドの補助金を交付する(2012年8月発表)。2012年にシングルセルのテスト、2013年にフルスケール・プロトタイプの制作、2014年に海上での実験とのスケジュールである。2015年には4基、1万kWのデモンストレーション事業に取り掛かり、2016年には運転開始を予定している。 世界最大の20万kWの波力発電所計画 この技術を使って、世界最大の波力発電所建設計画が進んでいる。2012年1月に、アルストムとSSE-REはJVでオークニー本島の北方沖合5km、深さ60〜75mの地点にて20万kWと世界最大の波力発電事業を行う、と発表した。第一段階は1万kWで実証運転を行い、海域の詳細調査と環境影響調査を行い、次第に規模を拡大していく。 アルストムはフランスの世界的な電機メーカーであり、再エネにも積極的でAWSオーシャンの筆頭株主である。SSE-REは、海洋エネルギ−を主にした世界最大級の再エネ開発事業者であり、2008年から2013年までに30億ポンドの投資を予定している。クラウンエステートがペントラント海峡およびオークニー水域にて提供するリース権の約2分の1は同社が取得している。親会社のSSEは、英国最大のエネルギ−ユーテリティであり、電力とガスを1000万世帯に供給している。 サモンド首相の一押しの「ウミヘビ」 波力で先行するペラミス社は、14年前に、3人の研究者により設立された。システムも社名と同じペラミスである。2010年3月にスコットランド電力再エネ社(SPR:Scottish Power Renewables)から2回目の発注を受け、EMECで実験中である。 長さが140mあり、1基で750kW、1000世帯分の発電が可能になる。ペラミス(ウミヘビ)という名前が示すように、沖合に細長い筏状の浮体を漂わせて、接合箇所のチューブが伸び縮みする運動に合わせてピストンを動かす。ピストンの中で圧縮された油の力で発電機を回す。波の力に逆らわずに漂い、海面の浮き沈みとともにウミヘビのように動く。 資料4.ペラミス・デバイス 出所:EMEC 模型から始まり次第に大型化し、スコットランドの海洋エネルギ−開発の象徴的なデバイスとなった。2008年には、ポルトガルの沖合5kmに設置され、世界初の商業施設として稼動している。現在発電効率や耐久性向上を目指して大型試験機で実証中である。数年後には洋上風力に迫る効率を目指すとしている。スコットランド自治政府のアレックス・サモンド首相は、2012年10月の日本経済新聞インタビューで、注目すべき技術としてペラミスを挙げていた。サルティアー賞の最有力候補である。 地元とドイツのユ−テリティが発電所建設 前述のように、EMECにて、SPRがペラミス社の750kWデバイスP2を使用して実証事業を行い、ドイツのイーオンE-OnもSPRと共同でP2のデモンストレーション事業を実施している。すなわち、両者は世界初の1500kWの共同波力発電試験をしている。EMECでの実証を受けて、それぞれ商業事業に向けた取り組みを進めている。 SPRは、最初の商業規模波力発電となるMarwick Head事業を計画している。総出力49.5MWで、66のデバイスからなる。3つのフェーズで開発する予定だ。第1フェーズとして12デバイス9MWを建設する。事業スケジュールは、そのときどきの状況によるが、2015/2016年に着手し、2016/17年にフェーズ1を設置する予定である。一方、イーオンは、50MWの事業をEMECの北方で計画している。両者とも、リース契約を締結済みである。 このように、スコットランドでは、小規模で複雑な波をユニークな技術と工夫で、使いやすいエネルギ−に変換しそれに対応した効率的なタービンを開発している。EMECなどで実証試験を行い、スペイン、ポルトガルなどで商業化の第一歩を踏み、大規模事業はスコットランドとクラウンエステートが用意する広大なリース海域にて実現する、というパターンを描く。いずれも関係者には馴染みの技術であり、技術提携を結んだ日本企業もある。その動向は大きな注目を集める。 次回は、潮流の技術・事業を紹介する。 山家 公雄(やまか・きみお) 1956年山形県生まれ。1980年東京大学経済学部卒業。日本開発銀行入行、新規事業部環境対策支援室課長、日本政策投資銀行環境エネルギー部課長、ロサンゼルス事務所長、環境・エネルギー部次長、調査部審議役を経て現在、日本政策投資銀行参事、エネルギー戦略研究所取締役研究所長。近著に『今こそ、風力』 再生可能エネルギーの真実
今年7月1日から固定価格買い取り制度(日本版FIT:Feed In Tariff)が導入されるのをはじめ、日本が再生可能エネルギーの普及に本腰を入れ始めている。この連載では、風力や太陽光などの発電の種類ごとに、その実力と課題を解説する。 |