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[経済史を歩く](33)LNG導入(1969年) 最大消費国への道 大気汚染解消へガス革命
超低温で液体にした天然ガスを専用船で運ぶ液化天然ガス(LNG)。日本は世界貿易量の3分の1を輸入する最大の消費国だ。3・11後は原発不在の電力供給を支えるエネルギーとして重要性が増している。その利用が始まったのは1969年。公害との戦いがきっかけだった。
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東京ガス根岸工場(横浜市)の岸壁を、荷揚げを終えたLNG輸送船が離れていく。沖合を別の受け入れ基地に向かう輸送船が北上する。東京湾を航行する輸送船は年間600隻あまり。世界中からLNGが集まる今日の姿だ。
この岸壁に日本初のLNG船が到着したのは69年11月4日。米国アラスカから3万トンを運んできた「ポーラ・アラスカ号」である。
「間違えるわけにはいかない」。午前8時、沖合にポーラ・アラスカ号が姿を見せると、有沢務(78)は緊張した。有沢らは受け入れ作業の担当。入念に準備してきたとはいえ、マイナス162度で液状になっている天然ガスを貯蔵タンクに入れると何が起きるのか、誰もが初の経験だった。
東電と共同購入
米系石油会社から東京ガスにLNG導入の打診があったのは57年。東ガスは3年の検討の末、導入方針を決めた。当時、都市ガスは石炭や石油を化学反応させて造っていた。高度成長期を迎えた東京湾岸では都市ガス需要が増える一方、急速な工業化の代償というべき大気や水質の汚染が問題となりつつあった。
天然ガスは潤沢な埋蔵量が見込める。石油から作るガスに比べ単位あたりの熱量も高く、大気汚染の原因となる硫黄分を含まない。これが決断の決め手となった。
だが、問題があった。6000キロメートル離れたアラスカの工場からLNGを運んでくるには一定の導入量がないと採算が確保できない。「一緒に輸入しませんか」。副社長の安西浩は65年、東京電力社長の木川田一隆に会い、共同購入を持ちかける。
木川田はすぐに反応した。東電も増大する電力需要への対応と公害対策の板挟みになっていた。東ガス根岸工場の隣接地に計画していた新設発電所は重油を使う予定だったが、環境規制を強める横浜市から見直しを迫られていた。
火力発電部門にいた竹内哲夫(79)はある日、上司に木川田の部屋に連れて行かれた。LNGを発電に使うための技術上の問題を内密に調べよという。竹内は売り手や東ガスとの折衝を水面下で進めなければならなかった。
というのも、当時の発電燃料の主力は石油。遠隔地からLNGを運んできて発電ボイラーで使った例は世界にもない。東ガスと共同で調達しても、LNGは重油より割高だった。実際、導入構想は常務会で猛烈な反対に直面した。
それでも木川田は低公害燃料にこだわった。「社長の責任で断行する」。木川田は66年4月、3度目の常務会で導入を決めた。議案には竹内が調べあげた資料が添えられた。「何としても需要地近くに(硫黄分)排出ゼロの発電所を造るという木川田の哲学が反対を押し切ったのだと思う」。当時、燃料部門にいた白石智(77)は振り返る。
利用、一気に拡大
LNGだけを使う初の発電所「南横浜火力発電所」が稼働した。LNG導入をきっかけに都市ガスの供給は家庭から、工場や商業施設に広がった。ほかの電力・ガス会社も続き、輸入量は飛躍的に増えた。中国や韓国などアジア各国にも導入は広がっていく。
東ガス現社長の岡本毅(65)はLNG時代が幕を開けて間もない70年春に入社した。「LNG導入は都市ガス事業に革命的な変化をもたらし、日本のエネルギー供給構造を変えた」と意義を語る。
アラスカからの輸入は2011年まで42年間続いた。最後の輸送船が到着し、関係者が都内でプロジェクトの終了を祝ったのは3月10日。大震災が日本を襲うのはその翌日である。南横浜火力はマレーシアやブルネイ産のLNGを使い、今日もフル稼働を続けている。
=敬称略
(編集委員 松尾博文)
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いま起きている出来事には出発点がある。源流をたどると忘れていた断面が見える。経済史を歩く。次回は「官から民への流れ先導〜宅急便誕生」
■調達の効率化課題 日本が2011年度に輸入したLNGは8318万トン。前年度比18%増えた。原発を代替する火力発電用の需要が伸びている。日本は最大の輸入国だが、購入単価は米欧向けに比べ割高だ。「シェールガス」と呼ぶ割安な新型天然ガスを使う米国産LNGの輸入など調達コストを下げる工夫が求められている。
[日経新聞12月30日朝刊P.11]
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