http://www.asyura2.com/09/eg02/msg/809.html
Tweet |
太陽光発電、2年前の半額以下で設置可能に
設置コスト削減、適地確保で進化する
2012年11月15日(木) 村沢 義久
今年7月1日の再生可能エネルギー買い取り制度(FIT)導入以来、予想通り太陽光発電が大ブームとなっている。開始から2カ月間で、経済産業省の設備認定を受けた再生可能エネルギー案件は全国で7万2660件、出力合計は約130万kWに達した。政府が2012年度(2012年7月〜2013年3月)に見込む250万kWの50%をすでに超えたことになる。
内訳は太陽光が約103万kW(全体の約80%)で他を圧倒している。2位は風力で約26万kW。3位のバイオマス以下はずっと小さくなる。筆者は、再生可能エネルギーのうち、太陽光発電だけで2012年度の新規設置容量は250万kWを軽く突破すると予想している。その中心は発電出力10kW以上の業務用だ。
このようなメガソーラーブームは久々に日本に活気をもたらしている。特に地方の工事業者からの期待が大きい。しかし、今後さらに普及を加速していくためにはいくつかのハードルがある。その1つが用地確保の難しさだ。
スペース争奪戦激化
実際、今、日本中の業者がメガソーラー用の土地探しに血眼になっている。当然、フラットでアクセスも容易な使い勝手の良い土地から順に使われていく。しかし、狭い日本ではそういう土地は急速に減り、かつ賃料が急騰している。そこで様々な場所を使う努力がなされている。
埼玉県杉戸町では、町所有の未利用地であるスーパー堤防(木津内高規格堤防)を有効活用するという。大洪水の時にどうなるのかと心配ではあるが、意欲的な試みだ。実際に建設するのはメガソーラー建設で実績のある日本アジアグループ傘下のJAG国際エナジーで、この発電所は「(仮称)埼玉・杉戸ソーラーウェイ」と呼ばれるという。
また、熊本県では、三菱商事主導により地元企業が集結して空港にメガソーラーを建設することになった。熊本県の住宅向け太陽光発電システムの普及率は5.63%で、全国第2位(2010年度)。これから、メガソーラー設置にも力を入れていくようだ。
筆者は、日本中の全ての土地を総動員するべきと考える。狙い目は全国に40万ha(国土面積の1%強)ある耕作放棄地。その3分の1を投入する。それから、山林を考えている。日本は国土の67%が森林。その67分の1(国土面積の1%)程度を使うのだ。耕作放棄地と併せて、国土面積の1.3%になる。
それだけ投入すれば、発電容量(kWhベース)で、計算上、日本の総電力需要の30%強を賄えることになる。もちろん、不安定な太陽光発電の比率をそこまで高めるためには、太陽光発電拠点すべてに大容量バッテリーを設置する必要があるので、実現するのは相当先のことになる。
山林のメリットは平地と比べて土地が広いことだ。平地だと何百坪、何千坪という単位で考えるが、山地だと、何万坪単位である。大体、1万坪(3.3万平方メートル=3.3ha)で1.5〜2MW程度の設備を設置できる。
ところが問題も多い。その1つは傾斜である。ソーラーパネル設置の角度としては30度ぐらいがベストだが、土地の勾配がそれだけあると杭打ちのユンボ(パワーショベル車)などが使えないのである。この傾斜地を段々畑のように整地すれば、工事は可能になるがコストがかかり過ぎる。そのため、大体15度ぐらいまでが適地であると考えられている。
また、木を切るなどのためのコストがかさむ。ただし、木は切っても、きれいに整地する必要はなく、切り株や草は、工事に差し支えない限りそのまま放置する。パネルで覆えば勝手に枯れてくれるからだ。
筆者は、先日ある業者さんに同行し、静岡県の山中でメガソーラー候補地をいくつか視察した。その1つ、ある牧場跡地はほとんど平らで日照条件は良く、木や灌木も少ない優良物件で、数MWの設備を設置できそうであった。アクセスも悪くない。しかし、残念ながら、もう1つは、別荘用地として途中まで造成された後放置された土地で、勾配、植生、日照条件とも不適であった。
風力発電とのハイブリッドも
面白いところでは、風力発電所との併設が考えられる。風車は直径100mもあり、互いに干渉するので、前後・左右に相当離して設置する必要がある。そのため、設備利用率では太陽光発電の2倍近くもありながら、面積当たりの発電量では劣っている。
しかし、上空では大きな風車が周囲を威圧していても、その基礎部分はせいぜい10メートル四方の土地しか使っていない。つまり、「下界」の地面は「空き地」だらけと言うわけだ。そういうところに太陽光パネルを敷き詰められる。いわば、風力・太陽のハイブリッド施設である。まだ、検討段階だが、全国に可能な場所はいくつかありそうだ。
屋根ソーラーもブームに
このように、メガソーラー用地の確保は楽ではない。そこで、必要なのが、屋根の最大活用である。筆者自身も現在、神奈川、愛知、宮城などで数件の屋根ソーラー物件に関わっている。
そんな中で、注目されるのが「屋根貸し」方式だ。使える屋根を持っていて太陽光発電の普及にも貢献したいが自分ではやりたくない、という人が居る一方、他人の屋根を借りてでも自分で太陽光発電をやりたい、という業者も多い。
ソフトバンクの孫正義社長は、自らが事務局長を努める「指定都市 自然エネルギー協議会」で、「屋根貸し太陽光発電事業」への参入を表明した。彼は、「各政令市に共通しているのは、地価は高いが膨大な数の屋根があること」と言っている。
「屋根を借りたい」という人と「貸したい」という人がいると、そこに市場が出来上がる。その市場形成を促進するため、神奈川県では、両者を引き合わせるマッチング事業を本年9月7日より開始した。東京都や福岡県でも同様のサービスを行っている。
このように屋根の利用には期待が大きいのだが、屋根の場合は設置工事に注意を要する。メガソーラーでも、設置コストは土地の状況に左右されるが、屋根の場合も結構大きな差がでる。理想的な屋根は、強度が十分で、南向き、適度な傾斜角度の場合で、これなら安く設置できる。メガソーラーよりは少し高いが、工事費も含め、kW当たり30万円そこそこで可能だ。
ところが、方角が悪いと発電量が落ちるし、屋根の強度が不足しているような場合には補強が必要となってコストがかさんでしまう。また、勾配があまり急な場合(40度超)だと、対応できないことも少なくない。
屋根ソーラーにおける工事の難易度という点から考えると、これまでは、住宅屋根、特に切妻型が一番扱いやすかった。パネルを並べやすく適度な傾斜がついているからだ。同じ屋根でも、フラットな陸屋根は一番扱いにくいと考えられてきた。しかし、後述のように、ここに革新的な工法が進出してきた。
新工法でコスト削減に挑戦
スペース確保の次の課題は、コスト削減だ。まだまだ、「太陽光発電は高コスト」と思われている。確かに、戸建住宅用では、2年前まではkW当たり60万円もしていた。3.3kWタイプだと200万円である。
しかし、導入コストは最近、急速に下がってきている。例えば、神奈川ソーラーバンクシステム(SBS)が提案するプランの中の最安値のものは、工事費込みでkW当たり36万円である。また、一部では30万円を切る案件も出始めている。2年前の半値以下だ。
コスト低下という点では、住宅用以上に激しいのがメガソーラーだ。数年前までは、kW当たり70万円以上もかかっていた。住宅用に対して、メガソーラーのサイズは2桁も大きいのだから、本来は規模の経済が働きやすくなるはずなのに、実際には逆だったのだ。
その理由の1つは、基礎工事の手法が非効率で、架台作りにコストがかかっていたからだ。コンクリートブロックによる基礎が中心だったので、時間がかかり、コストもかさんだ。
メガソーラーの主流はスパイラル杭
それに対してヨーロッパでは簡単な杭打ち法により、手際よく基礎をつくり、低コスト化を実現している。日本でもようやく昨年あたりから杭打ち法が普及し始めたのだが、台風が多い日本では普通の杭を打っただけでは強度的に十分でない。
そこで、日本で主流になりつつあるのが、スパイラル杭(ネジ杭、グラウンド・スクリューとも呼ばれる)である。木工における普通の釘に対する木ネジのようなものだ。これだと大きな強度を確保しつつ、工事のスピードも格段に速くできる。最近では杭をユンボの先に取り付けて、電動ドライバーの要領で高速打ち込みも可能になっている。
これだと、撤去も簡単だ。特に遊休地や耕作放棄地を使う場合、将来、太陽光パネルを撤去して別の目的に使用する可能性がある。そういう時にスパイラル杭法式だと簡単にとりはずすことができるから便利だ。
ただし、地盤が軟らかすぎるところや、逆に岩地などで固過ぎるところでは打てないので、従来工法に頼ることになる。
メガソーラー以上に革新的なのは陸屋根向けである。上述のように、屋根の中でも、学校やオフィスビルの屋上のようなフラットな陸屋根は工事が難しいとされてきた。
陸屋根工事に革命
材質はコンクリートあるいはモルタルである。ここに架台を設置するために、普通はボルトを使うのだが、ボルト穴をあけるため、屋根へのダメージが避けられない。長く使ううちに、ひび割れや雨漏りもが起こる可能性があるのだ。さらに、工事には時間とコストがかかるし、もちろん専門業者でないとできない。
そこに新しい架台と工法が提案されて、陸屋根工事に革命が起こりつつある。それが「錘固定型架台」である。要するに、ボルトで固定する代わりに架台の基礎の部分を錘(おもり)で固定しようというやり方だ。また、架台自体は折りたたみ式になっていて簡単に展開できる。
これだと、屋根にやさしく、ダメージの心配がないのみならず、工事が格段に簡単になる。そのため、電気工事などを除き、設置工事自体は素人でも日曜大工感覚で設置できてしまうのだ。元々はドイツの技術である。
錘の重さは、その土地の想定される最大風速に合わせて決める。また、台風時などに強風が入り込まないように、後部と側面を覆っている。
この架台と工事法が間もなく日本でデビューする。提供するのは、エイタイジャパン(千葉県鎌ケ谷市、鞠文軍社長)。以前も紹介した、戸建て住宅向けに格安(kW当たり29万円)のシステムを実現した業者グループの一員である。今回、実際の工事を請け負うのは愛知県のグループで、約20kWの陸屋根システムに採用し、12月着工予定である。
この工法は革命をもたらしそうだ。これまでは、「陸屋根は難しい」と考えられていたのだが、これからは逆になるからだ。
太陽光発電における「イノベーション」と言うと、変換効率何%という話と考え勝ちだが、それだけではない。むしろ、架台や工事方法、それから、営業の効率化などの方が短期的にはインパクトは大きい。このようなイノベーションと買い取り制度のお陰で太陽光発電は主役の座を目指して本格普及期に入った。
村沢 義久(むらさわ・よしひさ)
東京大学総長室アドバイザー。1974年東京大学大学院工学系研究科修了。1979年米スタンフォード大学経営大学院修了、MBA取得。米コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニー、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(日本代表)を経て、1995〜2000年にゴールドマン・サックス証券(バイス・プレジデント)。その後、モニター・カンパニー日本代表、コラボ・テクノロジー取締役などを経て、2005年から東京大学サステイナビリティ学連携研究機構特任教授として、サステイナビリティ(持続可能性)研究グループに所属し、地球温暖化対策を担当した。2010年4月から現職。
主な著書は、“Handbook of Strategic Planning”(John Wiley & Sons, Inc. 1986年、共著)、「グローバル・スタンダード経営」(ダイヤモンド社、1997年)、「世界標準時代の成功法則52」(PHP研究所、1998年)、「株主価値経営で強い会社をつくる」(かんき出版、1999年)、「手にとるように地球温暖化がわかる本」(かんき出版、2008年)、「仕事力10倍アップのロジカルシンキング入門」(毎日新聞社、2008年)、「日本経済の勝ち方 太陽エネルギー革命」(文春新書、2009年)、「電気自動車 『燃やさない文明』への大転換」(ちくまプリマ―新書、2010年)
「燃やさない文明」のビジネス戦略
いま、大きな変革の節目を迎えようとしている。時代を突き動かしているのは、ひとつは言うまでもなく地球環境問題である。人口の増大や途上国の成長が必然だとしたら、いかに地球規模の安定を確保するかは世界共通の問題意識となった。そしてもう一つは、グローバル化する世界経済、情報が瞬時に駆け巡るフラット化した世界である。これは地球環境という世界共通の問題を巡って、世界が協調する基盤を広げるとともに、技術開発やルールづくりでは熾烈な競争を促す側面もある。
筆者は「燃やさない文明」を提唱し、20世紀型の石油文明からの転換を訴える。このコラムではそのための歩みを企業や国、社会の変化やとるべき戦略として綴ってもらう。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121112/239310/?ST=print
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。