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環境汚染を再生エネルギーに変える日本の技術
パームオイル廃液からバイオマス発電や新プラスチック材料
2012年11月13日(Tue) 宇田 真
前回の「インドネシア経済を支えるパームオイルの光と陰」では、パームオイルとそれが引き起こす環境問題を取り上げたが、今回は環境問題のなかでも廃水問題を解決するビジネスについてお伝えしたい。
高濃度の汚水が環境問題を引き起こすパームオイル搾油所
インドネシア・サワラク州のプランテーションで、パームを収穫する作業員〔AFPBB News〕
パームオイルの搾油所はインドネシアとマレーシア両国で約1000カ所あると言われ、そこから毎年1億トンの廃水(Palm Oil Mill Effluentの頭文字をとりPOMEと呼ばれる)が出ていると推計されている。
インドネシアとマレーシアでのPOMEがどの程度汚染されているかというと、COD(化学的酸素要求量)の量が1リットルあたり5万ミリグラム、BOD(生物化学的酸素要求量)が1リットルあたり2万5000ミリグラムという平均値がある。
これを日本の環境省の一律廃水基準に当てはめると、日本ではCOD、BODともに1リットルあたり160ミリグラム以下と定められているので、POMEのCOD、BODは日本の基準のそれぞれ300倍、150倍という桁違いの汚水ということがお分かりいただけるだろう。
前回の記事でふれたように、POMEはいったん巨大な池に溜め込まれ、微生物の分解によりメタンガスを発生させながらCODとBODを100ミリグラム程度に下げて河川に排出される仕組みになっている。ただ、実際には雨が降れば周辺にあふれ出すので、基準が守られているとは言えなかった。
今、これまで放置されてきたPOMEによる環境破壊の問題は、改善される方向に向かいつつある。
きっかけの1つとして、新たにパームプランテーション事業に参入してきた南アフリカなどの国々が、廃水基準を遵守するようになったことが挙げられる。企業イメージを気にする欧米の日用品、食品メーカーが、環境破壊を放置しているパームオイル会社の商品を買わなくなることを懸念するようになったためだ。
一方、国としても各社の自主性にまかせず、規制を強化する必要がある。マレーシアはそれほどではないが、インドネシアはトレーサビリティが難しいと言われている。
トレーサビリティとは、購入したパームオイルがどこのプランテーションで生産され、どこでどのオイルと混ざり、どのルートをたどってここに至ったのかを追跡できるかどうかである。
これが困難ということは、環境にやさしいパームオイルと環境破壊をしたパームオイルが知らないうちに混ざっている可能性があることを意味する。全体を良くしないと、ブランドイメージの悪化はまぬがれない。
排出権ビジネスが困難なメタン―発電事業への期待が高まる
POMEの浄化については、1990年代後半に、京都議定書によりCDM(Clean Development Mechanism)が動き出したことで、まずメタンの回収と回収したメタンの燃焼による発電が可能かどうか、実現可能性のための調査が行われた。
CDMとは、簡単に言えば二酸化炭素やメタンの回収を行うことで、回収分の排出権が獲得でき、それを第三者に販売してお金に換えたり、自身の削減ノルマに使える仕組みである。
京都議定書では各国が二酸化炭素の排出量を一定量減らすというコミットメントを行い、排出権を確保すればその分排出量が減ったということにできる仕組みを作った。
メタンは二酸化炭素の21倍の価値があり(二酸化炭素換算で21倍に評価される)、効率的に排出権を獲得できることから注目された。しかし、京都議定書が2012年末で期限を迎えるために、CDMによる収益に依存したモデルはむずかしくなっているのが実情である。
そのため、最近の傾向としてCDMはおまけの収益として期待せず、発電事業のみで収益を上げるプロジェクトがいくつか立ち上がっている。
例えば、マレーシアのAmInvestment(マレーシア第3位の銀行であるAmBankの投資銀行部門)は、運用するアジア・ウォーター・ファンドを通じて、マレーシアのサバ州の搾油所の浄水プロジェクトを企画している。
このプロジェクトは、廃水からメタンを回収し、それを燃焼させることでガスタービンを回し発電するというもので、生み出した電気は搾油所に販売する。搾油所と長期の売電契約を結ぶことで、安定的な収益を確保できる。
日本勢が関わっているプロジェクトでは、九州工業大学がマレーシアのFELDA*と共同で同様のビジネスを展開しようとしている。
*Felda Global Ventures Holdings Bhd(ティッカーFGVH.KL)今年の6月に上場し31億ドルを調達したマレーシア最大の政府系パームプランテーション会社
筆者の知る限り、九州工業大学は国公立の単科大学としては、日本で唯一海外にサテライトキャンパスを持っているユニークな大学である。マレーシアのマレーシアプトラ大学の中に設置されており、ここがプロジェクトの拠点となる。
九州工業大学による画期的なプロジェクトが進行中
九州工業大学のプロジェクトは、メタンの回収と発電だけでなく、パームの実を取った後の芯(空果房:Empty Fruit Bunchまたは略してEFBという)を材料に、プラスチック原料を生産する工程も併せて行う計画であり、非常に画期的なプロジェクトとなっている。
通常、実を取った後の芯は細かく砕いて肥料にするか、乾燥して焼却し、ボイラーを動かしたり発電するのに使われていた。
いわゆるバイオマス発電と言われるもので、九州工業大学とFELDAはすでに廃棄される芯を使ったバイオマス発電を実施している。(参考:「マレーシア最大のパーム会社Feldaが2基目のバイオマス発電」アジア・バイオマスエネルギー強力推進オフィス)
さまざまな分野で再生可能エネルギーへの取り組みが始まっている〔AFPBB News〕
この芯を、捨てたり焼いたりする代わりに、過熱水蒸気処理技術を使い、細かく砕き、汎用プラスチック原料を混ぜて、プラスチックコンポジットとするのが今回のプロジェクトである。
もともと捨てるようなものなので原料費はかからないことから、安価なプラスチック原料を生産できる。製造に必要な電気や蒸気は、メタンガスを利用して作られるので、製造コストが安くなり、競争力があると期待される。
これらのプロジェクトはインドネシアよりもマレーシアが先行している。理由としては、マレーシアの規制当局の方がインドネシアの規制当局よりも厳しい対応をし、ペナルティーが科せられるリスクが高いためと言われている。
ペナルティーを払うよりも、メタン回収の費用を払った方が得だという発想から、パームプランテーションの経営者が費用を払いやすい。
インドネシアの場合、賄賂を払ってペナルティーを帳消しにしてもらう傾向がまだ強いと言われており、設備投資をしてメタンを回収するメリットがまだ出にくいのが実情だ。
パームオイルの環境問題に限らず、日本勢がすぐれた技術を生かして環境問題の改善に貢献する例は数多くある。今後もこのような取り組みが行われ、日本経済の発展と地球環境の改善につながることを期待している。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36485
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