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25%の国際公約は実現困難。だからこそ国内対策を着実に進める
関荘一郎・環境省地球環境局長に今後の温暖化対策を聞く
2012年11月8日(木) 田中 太郎
昨年3月の原発事故によって、原発の活用を前提にした従来の温暖化対策が抜本的な見直しを迫られている。2020年に温室効果ガスの排出量を25%削減するという国際公約は、実現の見通しが立たない状況だ。今後の対策をいかに進めていくのか。9月に環境省地球環境局長に就任した関荘一郎氏に聞いた。(聞き手は田中太郎)
温暖化対策のかじ取りが非常に難しい時期に局長に就任した。
関 ほとんどの原発が停止している状況の中で、今後のエネルギーをどう確保するのかが非常に重要になっている。環境省は、温暖化対策のために原発を再稼働するという立場ではないが、エネルギーミックスがどうなるのかによって、温室効果ガスの排出量に大きく影響する。非常に難しい時期だ。
国際公約をどうするかは国内対策をまとめてから
「2020年に温室効果ガス排出量を1990年比で25%削減する」という目標を掲げた地球温暖化対策基本法案が宙に浮いている。廃案にするという話もささやかれいる。
関 荘一郎(せき・そういちろう)
環境省地球環境局長。1955年、大分県生まれ。78年東大工卒、旧厚生省入省。2006年環境省廃棄物対策課長、2010年水環境担当審議官、2011年11月除染担当審議官、2012年9月より現職。1997年に開かれ、京都議定書を採択した第3回気候変動条約締約国会議(COP3)に環境庁(当時)の担当として参加した
関 そういう決定はしていないし、検討もしていない。現在、温暖化対策の推進を目的にした政府案、自民党案、公明党案の3つが国会に提出され、継続審議になっているが、法律の裏付けを得て対策をしっかり進めていくためにも、いち早く審議して成立させていただきたい。政府案を提出した責任省庁として説明を続けていく。
政府が9月に発表した「革新的エネルギー・環境戦略」では、「2030年時点の温室効果ガス排出量を概ね2割削減(1990年比)することを目指す」とされた。国際公約があるにもかかわらず、国の目標がいつのまにか後退した印象がある。
関 ご存じのように政府は今夏、「エネルギー・環境に関する選択肢」の3シナリオを提示して国民的議論を行い、革新的エネルギー・環境戦略が固まった。選択肢をつくる際には、中央環境審議会中央環境審議会で何十回も議論を重ね、それぞれのシナリオで温暖化対策をどう進めるのか、温室効果ガスの排出量はどうなるのかを緻密に計算した。
では、革新的エネルギー・環境戦略にあるものが現在の目標で、国際公約は下ろすということか。
関 細野豪志・前環境大臣も、3.11以降の状況を考えると25%の目標達成は極めて難しいと国会で答弁している。ただ、国際的には(すべての主要国による公平かつ実効性のある国際枠組みの構築及び意欲的な目標の合意を前提にした)条件付きの25%削減が日本の目標であることに今のところ変わりはない。そういう意味ではかい離している。
今後の目標をどうするかについては、年末までに2013年以降の「地球温暖化対策の計画」をまとめることになっており、政府内で議論中だ。それが固まってから、国際公約をどうするのかを検討することになるだろう。
新しい地球温暖化対策の計画はどのようなものになるのか。
関 現在の「京都議定書目標達成計画」のように、省エネなどの施策を積み上げることは当然するだろう。中央環境審議会でもすでにかなりの議論をしてきている。革新的エネルギー・環境戦略には省エネなどの数値目標をかなり踏み込んで書いてあり、これを達成していくことが必要になる。原発の再稼働がどうなるのかなど考慮しなければならない事項はいろいろあるが、さわさりとて地球温暖化は待ったなしだ。国際的な信用が失墜しないためにも、国内対策をしっかり推進する必要がある。
削減目標をどう書くかは、率直に言って悩ましい。現時点では検討中としか言えない。
2国間オフセット・クレジットを国を挙げて推進
国際的な枠組みづくりも非常に重要な時期にきている。
関 今月末に開催される第18回気候変動条約締約国会議(COP18)で京都議定書の第2約束期間について話し合われるが、これには日本は義務を負わないことを表明している。それに代わる2020年からの新たな枠組みに対し、日本は貢献を求められている。
従来から日本が主張している、すべての国が参加する公平な制度を目指して、途上国が主張している共通だが差異ある責任を踏まえつつ、実効性のある国際ルールを2020年から発効できるようにする。それを2015年までに決めようということになっているので、より良いルールづくりに環境省としても全力で取り組みたい。ただ、各国の利害が絡む国際交渉であるので、日本の主張で世界が大きく変わるという簡単なものではないことは承知している。
国際的な信用を失わないようにするためにも、日本が努力している姿勢を示すことが必要になる。現在の国連の枠組みではなく、海外の国と個別に温室効果ガス削減プロジェクトを実施して貢献分を日本の削減量にカウントする「2国間オフセット・クレジット」に政府は期待をかけているようだが。
関 日本が具体的に主張していくポイントの1つだ。現在の京都議定書では認められていないが、世界の温室効果ガス削減のための重要なツールになるので、2020年以降の新たな枠組みに取り入れられるように、日本政府を挙げて取り組んでいる。
ルール化されるかは別として、いくつかの国とは協定を結ぶための話し合いを進めている。インドネシアやベトナム、インドとはかなり深いところまで話が進んでいる。
最大級の台風を乗り越えた浮体式洋上風力の実証事業
国内対策では、エネルギーの使用に課税する温暖化対策税が10月1日から導入されている。
関 エネルギー起源のCO2削減に効果を上げる省エネや再エネ対策に活用していくことが最大の課題だと考えている。これまで環境省はかけ声だけの“旗振り官庁”と言われることもあったが、再エネ事業などを具体的に後押しできるようになった。
プロジェクトにはどのようなものがあるのか。
長崎県・五島列島沖での「浮体式洋上風力発電」の実証事業。現在は出力100キロワットだが、2013年度には2メガワットの実証機を設置する計画(写真提供:環境省)
関 たとえば、長崎県・五島列島沖で浮体式洋上浮力発電の実証事業が始まっている。100キロワットの実証機が今年7月に稼働した。それが、今年はたまたま、すごい実証ができた。というのも、浮体式の風力発電で最大の懸念事項は天候が悪化した場合に壊れないかということだ。今夏は、戦後最大級の台風が2度襲ったが、何も問題が起きなかった。大変な期待が持てる。
風力発電は、再エネの中では比較的安定しているが、地上には適地が少なくなっている。日本には遠浅の海が少なく、着床式の風力発電も設置しにくいこともあり、浮体式が成功すれば、立地の確保を進めやすくなる。来春には実機レベルの2メガワットの実証機も設置する。
地熱発電についても、国立公園を所管している環境省だからこそ、立地場所に工夫ができる面もある。そのための調査にも、温暖化対策税を活用できる。納税者の方が納得できるような有効な施策を進めていきたい。
キーパーソンに聞く
日経ビジネスのデスクが、話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎日1人、新しいキーパーソンに出会えます。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20121107/239178/?ST=print
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