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[核心]資源が競争力を変える 米の「革命」生かせるか
本社コラムニスト 脇祐三
明日は米大統領選の投票日。この数年の間に米国では非在来型の石油・ガス資源の開発が進み、資源をテコに国際競争力の強化を目指す動きが強まってきた。エネルギー政策で迷走する日本は、米国の資源増産の恩恵を受けられるのか――。米国の行方は日本の競争力にも影響を及ぼす。
選挙戦で共和党のロムニー候補はオハイオ州の炭鉱を訪れ、「オバマ政権の環境規制は石炭産業を破滅させる」と訴えた。選挙の勝敗を左右する接戦州でのパフォーマンスだ。同候補は二酸化炭素を含む排出物の規制強化を批判、資源開発にかかわる規制も大幅に緩和すべきだと主張する。
一方のオバマ大統領は再生可能エネルギーに傾斜した当初の政策を後退させ、今はグリーンではなくクリーンなエネルギーの比率向上を目標とする。天然ガスの活用を増やし、原子力の活用も支持する政策だ。
両者とも「シェールガス革命」と呼ばれる非在来型資源の開発進展を踏まえてエネルギー自給率を高め、米経済再生に結びつけようとする点では同じである。
前回の大統領選があった2008年の米国の年間の天然ガス生産量は約20兆立方フィート。これが昨年は23兆立方フィートに達し、今年はさらに増える。米国は世界最大の産ガス国として復活した。
原油の増産も続く。天然ガス産出の際に回収する天然ガス液(NGL)も含めると、今年1〜9月の産油量は4年前より25%多い日量平均851万バレル。石油の純輸入量は同774万バレルに減った。5年後に産油量が同1100万バレルを超えるとの予測もあり、将来の完全自給への期待も膨らむ。ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフリー・イメルト会長は「米国はエネルギーの余裕を得た。ゲームが変わる」と言う。
米国では原油や天然ガスの輸出が規制されている。国内の増産で需給が緩んだため、米国の天然ガス価格は日本が原油相場に連動する方式で液化天然ガス(LNG)を調達する価格の5分の1前後まで下がった。米国産のWTI原油の相場も、アジア市場の指標である中東産ドバイ原油よりバレル当たり約20ドルも安い。
「安価な石油・ガス供給が増え、原子力も維持するから、米国の競争力は強まる」と、田中伸男・前国際エネルギー機関(IEA)事務局長は指摘する。
日本では福島の原発事故の後、脱原発とソーラーや風力などによる発電拡大に期待する声が強まった。再生可能エネルギーは地球温暖化への対応で不可欠だが、当面は高額の買い取り制度に頼らざるを得ない。
エネルギー問題の権威であるダニエル・ヤーギン氏は、「高コストのエネルギーで代替すると、日本の競争力に響く」と警告する。
中国の台頭をにらんで日本が強い米国を必要とすると同時に、米国は強い日本を必要とする――。アーミテージ元米国務副長官は日本に原子力の維持を求めるとともに、米国のLNG輸出が日本の支えになると説く。ヤーギン氏も「誰が米大統領になっても、日本へのLNG輸出を認めることが正しい政策だ」と語る。
ただし、米国では別の意見も強い。原料や燃料のコスト安を生かして国内生産を再拡大しようと動く化学業界などが、その代表だ。自動車燃料をガソリンから天然ガスに転換しようとする動きも強まっている。
「1バレル20ドルの石油に相当するガスを米国内で使おう」。10月下旬にシンガポールで開かれた国際会議で、米国のエネルギー問題のアドバイザー、ガル・ルフト氏はこう主張し、自動車燃料転換による米国自体の利益を説いたという。
米国からのLNG輸出計画を積み上げるとガスの余剰分を上回るとの見方もある。輸出が承認される案件は「2つか3つにとどまる」(ルフト氏)かもしれない。日本が期待する米国からのLNG調達の進展は、大統領選と同時に改選を迎える米議会の今後の動向次第ともいえる。
シェールガス革命に伴う「資源の玉突き」が進行していることにも着目する必要がある。9月に東京で開いた天然ガス産出国と消費国の対話の際には、カナダや米アラスカ州の日本への売り込みが目立った。「ガス価格が大幅に下がった米国市場以外の売り先を求めている」(オリバー・カナダ天然資源相)からだ。
カナダでは、中国政府と表裏一体の中国海洋石油によるカナダの資源会社買収計画への警戒感が強まっている。外国の民間企業による買収なら問題ないが、「他国の政府が事実上カナダの資源を支配するようなことは認められない」との考えから、企業買収ルールの見直しが始まった。
カナダなどは資源開発推進のため、日本の投資は歓迎している。日本のエネルギー安全保障に資する調達チャネル多角化の好機であることは間違いない。
日本では原発停止を火力発電で代替する燃料費がかさんで電力各社が軒並み赤字となり、電気料金の引き上げに向かう雲行きだ。
エネルギー供給で重要なのは、できるだけ多くの選択肢を持つことだ。原子力に依存することの是非ばかりを論じるのではなく、日本の競争力維持、中国との競合なども踏まえて、シェール革命で塗り替わるエネルギー地図を、日本の国益に結びつける視点と戦略が欠かせない。
[日経新聞11月5日朝刊P.4]
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