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「天然ガス生産大国」を狙うウクライナ
2012年10月11日(Thu) 藤森 信吉
2012年8月、ウクライナ政府は、黒海棚の「スキタイ(スキフスキー)ガス鉱区」の国際入札につき、エクソンを主幹とする国際コンソーシアムの落札を承認した。
ウクライナの1次エネルギー供給源の約4割を占める天然ガスは、2度の「天然ガス戦争」を経て、平均輸入額は8倍、輸入総額は4倍近くに跳ね上がり、ウクライナ経済回復の足かせとなっている(図1参照)。
一方で、ウクライナ迂回ルートたるノルドストリームの稼働が迫り、エネルギー輸送大国ウクライナの立場が揺らいでおり、ウクライナ政府は国内ガス田の開発、LNGターミナル建設、と矢継ぎ早に計画を打ち上げている。
輸入依存から自給へ
ウクライナの天然ガス輸入依存度は大きいが、1次供給源全体の自給率は実は低くない。石炭は自給可能であるし、天然ガス、原油も一定した生産量がある。
これに独立以降のエネルギー消費の落ち込みが加わることで、自給率は相対的に上昇し、現在ではほぼ5割に達している。
天然ガスだけを見ても、「ガス戦争」後、ガス輸入量は減少し、自給率は上昇している(図2参照)。
とはいえ、単価の上昇は顕著であり、ガス輸入額は右肩上がりで上昇し続けている。直近の2011年度統計では貿易輸入の17%、対ロ貿易輸入の48%を天然ガスが占めるに至っている。
このような状況下で、対露ガス依存は、外交圧力を受けやすく、かつ高値のガスを押し付けられることを意味することになる。
現状では、ウクライナの輸入手段は、旧ソ連時代に敷設されたパイプラインのみであり、必然的にロシアが唯一の供給源となっているからだ。
さらに、2009年1月の価格フォーミュラ導入により、ウクライナは毎年、一定量以上の天然ガスを、時としてヨーロッパ諸国やスポット市場を上回る価格で買わねばならず、政権の苛立ちが、ハリコフ合意やティモシェンコ裁判へつながっていった。
輸入依存の克服、自給率のアップは、2006年に当時のユーシチェンコ政権が承認した「2030年までのエネルギー戦略」でも強調されており、自国生産のアップと新供給源の確保、さらにはエネルギー消費(特に発電用燃料)の天然ガスから石炭・原子力への転換が打ち出されている(図3参照)。
エネルギー戦略はヤヌコヴィッチ政権も継承しており、近年になり、いくつかの天然ガス関連プロジェクトが現実化しつつある。
黒海棚スキタイ鉱区の開発
黒海棚のスキタイ鉱区は、ルーマニアに近いズメイヌイ島近くの面積1万6698平方キロの鉱区で、国際コンソーシアムと生産物分与契約が締結された。
コンソーシアム構成は、エクソン・モービル(参加権益比率40%)、シェル(同35%)、OMVペトロム(同15%、OMV傘下のルーマニア企業)、ナドラ・ウクライナ(同10%、ウクライナの国営企業)となっている。
報道によれば、契約期間は50年、サインボーナスとして3.25億ドル、第1段階として最低4億ドルの投資、ロイヤルティは25%となっている。
ルクオイルも入札に参加していたが、ウクライナ政府の意向が「ロシア依存の解消」であるため、指名されなった。
なお、黒海には巨大なガス埋蔵が確認されており、ルーマニア・ウクライナ間で国境画定が難航していたが、2009年の国際司法裁判所の決定で、ズメイヌイ島は、「島」と見なされず、黒海の国境線が引き直された経緯がある。
同鉱区は、最大で年間に50億立方メートル、埋蔵量は2000億〜2500億立方メートルのポテンシャルがある、とウクライナ政府は試算している。
シェールガス
ウクライナは、確認埋蔵量39兆立方フィート(EIA, World Shale Gas Resources:An Initial Assessment of 14 Regions Outside the United States)を有するシェールガス資源国である。
2012年5月に行われた入札では、ユーゾフカ・ガス田(ハリコフ州〜ドネツク州)をシェルが、オレスク・ガス田(リボフ州)をシェブロンがそれぞれ落札している。
PS契約によれば、どちらの契約ともロイヤルティは30%、シェルはサインボーナスとして4億ドル支払うことを条件に加えている。
ウクライナ政府によれば、両ガス田においてボーリングが2013〜2014年に、採掘が2017年にそれぞれ開始され、基本シナリオで年150億立方メートル、楽観シナリオで年500億立方メートル産出される。
とはいえ、黒海棚の開発は、過去に何度も不発に終わっており、自給率アップの本命は石炭ガスやコールベッドメタンであると指摘する専門家もいる。
輸入の多元化-LNGターミナル建設
これまで、ウクライナはロシア天然ガスの基幹輸送ルートを独占していた。しかし、ノルドストリーム稼働とガスプロムによるベルトランスガス買収により、基幹ルートから転落することが必至であり、さらにサウスストリームまでも着工されると、ウクライナルートの稼働率は半分以下に追い込まれてしまう。
この最悪のシナリオを回避するには、ウクライナのガスパイプライン運営にガスプロムを参加させることが望ましいのだが、ロシア政府はパイプライン株式譲渡や関税同盟参加を絡めているため、交渉は進んでいないと伝えられている。
パイプライン交渉が停滞する一方で、ウクライナ政府は、2012年8月にオデッサ近郊のLNGターミナル建設を承認した。
計画によれば、ターミナルは年100億立方メートルの受け入れ能力を持ち、総工費は15億ドル。2016〜2018年にかけて稼働するとなっている。
同様のLNGターミナル建設をルーマニアも計画しており、アゼルバイジャン・ガスの奪い合いにより、ウクライナのLNGが「オデッサ・ブロディ」原油パイプラインの二の舞いとなる可能性もある。
天然ガス大国は夢物語か
意外に知られていないが、ウクライナは1960年代から70年代にかけて、天然ガス大国であった。ピークの1975年には、生産量680億立方メートル、自給率120%を記録しており、国内生産に頼るという策は、根拠がない夢物語というわけではない。
しかし、既存ガス田の増産に頼るのは限界にきており、これまでウクライナ政府が採用してきたエネルギー戦略はことごとく下方修正を迫られてきた。
今回のシェールガスは新しい供給源であり、それだけにウクライナ政府の期待も非常に大きいものとなっている。来る10月末の議会選挙においても、ヤヌコヴィッチ与党の選挙プログラムにも、シェールガスがエネルギー自給率アップの切り札として掲げられている。
仮に黒海棚とシェールガスの生産が計画通りに進み、LNGターミナルにも政府の思惑通りに稼働すると、ウクライナの対ロ依存は激減し、自国生産でガス需要を満たすことが可能となる。
独立以来21年間にわたってウクライナ外交・経済を規定してきたロシアガス問題から解放されることになるわけで、ユーラシアの地図を塗り替える可能性を秘めている。
ただ、生産するガスの何割が国内に回されるか現時点では不明である。アザロフ首相は、国内生産のメリットを「輸入ガスよりはるかに安いこと」と述べているように、ウクライナ政府としては、購買力のない国内消費者(何よりも政権の資金源であるドネツク鉄鋼業)保護用に安いガス供給源を確保したい本心が見え隠れする。
ウクライナはEUやIMFから国内ガス価格の引き上げを突きつけられているものの、依然として大きい内外価格差を有している。契約内の欧米メジャーズの輸出取り扱いについても注目する必要があろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36279
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