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【津山恵子のアメリカ最新事情】
シェールガス採掘の「水汚染」―著名人らが反対運動に立ち上がる
2012年 9月 5日 18:02 JST
東日本大震災による福島第1原子力発電所の事故で、日本では「反原発」「脱原発」の活動が驚く速度で拡大した。それに比べ、米国では「反原発」「反核」運動は実態として全く盛り上がらない。雇用問題や権利に関わる運動であれば簡単に数千人から1万人がデモを繰り広げる大都会ニューヨークでも、反原発デモは常に数十人どまりだ。
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Keiko Tsuyama
ニューヨーク州都オルバニーで開かれたフラッキング反対集会（先月27日）
そんななか、天然ガスやいま話題のシェールガスを採掘するために使われる水圧破砕法（ハイドローリック・フラクチャリング、通称フラッキング）が環境に与える影響について、市民の関心が急速に高まっている。
水圧破砕法は、簡単にいえば、天然ガスやシェールガスを採掘するために、地層に水平に「トンネル」を作ってやる方法だ。トンネルを作るため、高い圧力を加える際、トンネルがその形を保つことができるように、水だけではなく、さまざまな薬品を混入する手法がとられる。
オバマ大統領は、原油価格の高騰が市民の暮らしを直撃し、地球温暖化ガスの排出量が多いという理由で、石油依存からの脱却を唱え、クリーンエネルギーとしての天然ガスに注目が集まった。また、エネルギー業界にとっても、地中のガス層に向けひたすら垂直に坑井を掘っていたのに比べ、水圧破砕法で地層に水平に「トンネル」を作り、ガスを取り出しやすくする方が採算性が高い。
さらに、私が住むニューヨーク州から中西部のオハイオ州、西側のペンシルベニア州まで、米国最大といわれる「マーセラス・シェール」というシェールガス層が広がっており、開発が進んでいる。ニューヨーク州ではクオモ州知事が近く、エネルギー会社が申請を出している約5万の坑井の許可、あるいは規制について判断を下すとみられている。
ところが、水圧破砕法は、薬品が地層に染み込み、飲料水や、農業に使われる用水が汚染される懸念が浮上した。人体や農業に安全だという保証はいまだにない。
私が反原発デモなどに行くと、「バン・フラッキング（水圧破砕法を禁止せよ）」というステッカーやビラをよく見るようになったのは、こういった経緯だ。さらには、アーティストのオノ・ヨーコと息子のショーン・レノンが呼び掛け、8月29日、180人からなる「アーティスツ・アゲインスト・フラッキング」という団体まで形成された。レディー・ガガやポール・マッカートニーまで名を連ね、クオモ州知事に面会を求める書簡を送るという。
先月27日にはクオモ州知事の決断をくつがえそうと、 州知事オフィスがあるニューヨーク州の首都オルバニーで、大規模デモがあった。私が住むマンハッタンからは、リムジンバスと小型スクールバスの2台が準備され、私は13人の活動家とスクールバスに乗って、3時間半かけてオルバニーに向かった。
「ニューヨークをフラッキングするな」「クオモ、ここが正念場だ」などと書かれた看板を掲げた2400人の人々は驚いたことに、マンハッタンだけでなく、マーセラス・シェールがまたがる広大な地域から集まっていた。しかも、誰に話しかけても、知識が豊富で、すでに水圧破砕法が実施されているペンシルベニア州の事情などを詳しく知っている。
社会運動に多く関わる女優デブラ・ウィンガーさんが駆けつけ、集会の口火を切った。
「クオモ州知事は昨年、同性愛者の結婚を認可する決断をした。今回フラッキングを許可するかどうかは、彼が民主主義を守る度胸があるのかどうか試す、2回目のチャンスです。私たちには民主主義が必要です。フラッキングに反対する声を上げて、民主主義を勝ち取りましょう」
その後は、農家の代表だけでなく、フラッキング反対のドキュメンタリー映画を製作しているアーティスト、エネルギー掘削会社に務める肉親を健康被害と事故で失った家族、州議会議員などが次々とマイクをとった。
マイクを握った参加者の1人、ジェイミー・カレスティオ氏（26）は、ニューヨーク州北部で農家を営み、有機農法野菜をマンハッタンで売っている。彼が住む町は有機農業が盛んで「水こそが命だ」と訴える。彼は、わずか1年半前にフラッキングの話を耳にはさんで、すぐに行動を起こした。フラッキングを禁止するように小さな町の審議会に300の農家の署名を提出し、住民を教育する集会を繰り返し、ついには町の自治体に「フラッキングが許可された場合、実施を猶予（モラトリアム）させる」という決定をさせたという。
彼のもとには、近隣の町村で、同様の「フラッキング・モラトリアム」に持ち込もうとする住民から問い合わせが絶えないという。
私も1年少し前まで、フラッキングについて何の知識も持たなかった。しかし、日本の震災後に開かれた数々の反原発集会に通ううちに、関係者がフラッキングについてのビラやステッカーを配っているのに気がついた。自分たちの飲料水や野菜、乳製品に影響が及ぶ危険性が知られるようになり、一斉に市民が立ち上がったのを受けた形だ。
スクールバスの道中には、「フラッキングを禁止せよ」という看板のほかに、「天然ガスは私たちの友達」という天然ガス採掘に賛成する住民の看板も見た。反対派が多数派というわけではない。
オハイオ州ではフラッキングがすでに許可されており、エネルギー業界は、クオモ州知事の決定に期待をかける。しかし、どんな決定を下そうと、メディアで大きく取り上げられ、賛否両派の住民の声がどれだけ評価されたのか分析されるのは必至だ。
日本では、政府が大飯原発再稼働を決めた過程に批判が集まり、新たなエネルギー政策の原発依存度についても議論が続いている。クオモ州知事はさまざまな住民の声をうまく集約することができるだろうか。
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津山恵子（つやま・けいこ） ジャーナリスト
東京生まれ。共同通信社経済部記者として、通信、ハイテク、メディア業界を中心に取材。08年米大統領選挙で、オバマ大統領候補を予備選挙から大統領就任まで取材し、ＡＥＲＡに執筆した。米国の経済、政治について「ＡＥＲＡ」「週刊ダイヤモンド」などに執筆。著書に『モバイルシフト「スマホ×ソーシャル」ビジネス新戦略』（アスキーメディアワークス）など
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http://jp.wsj.com/US/node_506728?mod=Center_Column
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