03. 2011年11月19日 00:55:20: 2sAQKQFScM
5 共同事業「ドイツのエネルギーの未来」に関する基本方針5. 1 共同事業 倫理委員会はその審議の成果を基本方針として定式化する。人々はエネルギー転換へと 決断しなければならない責任を持っており、倫理委員会の審議の成果はこの責任のうちに 置かれる。焦点になってくるのは、連邦や各州や自治体の議会と政府である。そしてまた、 工業や貿易、金融サービス業、手工業関係の企業や、財団法人や公共施設も、多くの点で 重要な役割を果たす。しかしエネルギー転換の成功は、とりわけ個々の市民の決断にも依 存している。 脱原発のプロセスは、基本的な決定から始めなければならない。その後、何年間にわた り、継続的に、そのつど達成した脱原発の段階に応じて、さらなる決定を行っていく必要 がある。この脱原発に際して重要なのは、経済と社会の発展の見通しであり、そしてまた、 資源の問題がますます大きくなりつつあるこの世界において、われわれの豊かな生活を保 障していくという基本的問題である。脱原発には、エネルギーの生産と供給、インフラの 役割、気候保護、価格やコストや収益に及ぼす国民経済的影響、研究のレベル、市民の参 入といったことがかかわってくる。このプロセスは、持続可能性の原理を、社会と人々の 生活スタイルをさらに発展させていくための基礎としてさらに定着させていくことでもあ る。 このときに、目標の衝突が発生するだろう。それは、オープンに語られ、提案したモニ タリング・プロセスにおいて透明性をもって交渉されなければならない。 大きな共同事業は、現在のドイツ経済とって、重要な発展の刺激となり得る。倫理委員 会が確信するところでは、エネルギーの安定供給は、気候保護という目標を損なうことな く、また産業界や手工業の領域で雇用を拡大しつつ、電力不足にも陥らず、また原子力エ ネルギーからの電力を輸入することなしに、成し遂げることができる。エネルギー転換を 進めていく中で、数多くの企業が新たに設立され、そしてすでにある企業は、その生産能 力を拡大し、新たな雇用を生み出すであろう。企業は、社会的協力関係という実り豊かな 原理を義務としなければならない。労働者の権利とその利益代表者を尊重することは、持 続可能なエネルギー転換を進めていく際の倫理的な前提である。 電力網とその拡充は、共同事業にとって重要な試金石である。果たされた合意を持続的 に維持することは、市民や経済界が投資計画を策定するにあたって、長期的に信頼ある枠 組みが生み出されていくためにも、非常に重要なことである。このことはグローバル市場 の競争において非常に有利になることが示されるだろう。脱原発は、もしそれが一気に高 まり、「ドイツのエネルギーの未来」という共同事業がどの政党からも広く支持されるな らば、いっそううまく果たされるだろう。 連邦政府は、2010 年10 月に立てたエネルギー・気候保護プログラムでは、2050 年に照 準を合わせている。連邦政府の温室効果ガス削減目標は、原子力エネルギーからの離脱に よっても、変更されることはない。もちろん、野心的な削減目標を今世紀の半ばに達成し ていくためには、脱原発を遂行していく十年という期間中に、すてに、重要な基礎を築い ておかなければならない。 5.2 目標に関する衝突を真剣に受けとめること エネルギーの安定供給への道は、それぞれに根拠ある目標と利害をめぐる論争によって 特徴づけられる。電力価格の経済性や気候保護、負担やチャンスの社会的に正当な分配、 再生可能エネルギーへの転換といった目標は、それを足し合わせれば自動的に最善の状態 になるわけではない。 問題となるのは、脱原発によって失われる電力量をめぐって立てられる目標が、互いに 衝突を起こすことである。目標とされるのは、脱原発によって失われる電力量を、
・近隣諸国の原子力発電所から生産された電力を購入することによって簡単に埋 め合わせないことである。なぜならそのようことは、責任ある脱原発という原則 と矛盾するからである。 ・簡単に二酸化炭素を排出する化石燃料によって代替しないこと。なぜなら、温 暖化政策の制約があるからである。 ・再生可能エネルギーをまたもや急激に、加速度的に拡充して代替しないこと。 というのも、自然の生命圏への負担には限界があり、技術力は性急に過大評価さ れるからである。 ・簡単に電力の強制的合理化によって節電をしない。というのも、これは人々の 生活の要求と、ハイテク国家の経済に矛盾するからである。 ・簡単に価格の引き上げによっては補わない。というのも、企業は、国際的な経 済競争をしており、また国内には社会的な不均衡があるからである。 ・簡単に国の基準で放棄できるようにしない。というのも、これは、民主主義の 規則と社会的市場経済に適合しないからである。 このような目標の衝突に関する適切な比較衡量は、持続可能な発展という観点に立って 全国的な共同事業という責任を引き受ける場合にのみ成し遂げられる。利点は過大評価さ れてはならないし、欠点は軽視されてはならない。このことは、原子力エネルギーの利用 から引き出されうる教えでもある。すなわち、原子力施設や貯水ダムといった大型技術を 民間事業によってではなく社会によって保険をかけることが実際的に必要となるが、その ときに、その利益は過大評価されてはならないはずであるのに、しかし非常に簡単に過大 評価され得るのである。それゆえ保険対象と損害補償義務の範囲は、間違った価格シグナ ルを導きうる。社会的リスクの過小評価と利益の過大評価が認められるところでは、リス クへの補償責任と実際のリスクの引き受けとが乖離してしまっている。ノーベル賞受賞者 の経済学者ジョセフ・スティグリッツは、最近、金融産業と原子力産業におけるリスク・ マネージメントの比較において、次のように述べた。「ミスをしたときのコストを他人が 負担する場合、自己欺瞞が助長される。損失は社会に支払わせ、利益は私有化されるよう なシステムは、誤ったリスク管理だと非難せねばならない。」(注2) (注2)「ガーディアン」(The Guardian)の2011 年4 月6 日の記事より。 5.3 消費者需要と市民参加 共同事業として、新エネルギー政策と気候保護政策は、これまで以上に集中的に、個人 の需要を考慮しなければならない。エネルギー政策が市民の分散的な参加と自己決断に任 せられるに応じて、エネルギー転換についての合意も、早く達せられる。 消費者が望んでいるのは、エネルギー「そのもの」ではなく、エネルギーサービスであ り、交通機関や自動車を利用し、旅行し、住み、豊かに生きる、といったことである。魅 力的な都市のインフラ整備や、非効率的な家庭用機器や暖房器具の交換といったエネルギ ー効率を高める行動を促す資金的、法的整備は、「省エネ」という、エネルギー節約の生 活スタイルへの変化を引き起こすための重要な刺激である。賢明な政策案は、人口の変化 と共に現われる変化を基にして行われるものである。人口の変化や国民の高齢化、新しい 住居様式が必要な年齢において健康で仕事を続けることのできる生活、しかしまた介護負 担を軽減するための改築、社会サービスの「身近さ」など、これらは、すでに多くの市町 村において、都市改造の規準として取り上げられてきた。いずれにせよ、世代に合った住 居へと改築が行われる際には、それを省エネ対策の改造と結び付けることができる。 消費者は、いろいろな役割を持つ。すなわち、エネルギーシステムにおいて市場参加者 (需要者)であり、「消費者市民」であり、「共同生産者」である。消費者は、エネルギー 効率の高い製品やサービスをより多く需要し、節約して利用することによって、市場参加 者としてエネルギー転換に貢献することができる。また消費者は、自分の住居を改築し、 自ら分散的エネルギーを生産し、可変的に供給すること(スマートホーム、スマートグリ ッド、「自家発電設備」)によって、「共同生産者」としてエネルギー転換に貢献すること ができる。そしてまた、例えば自治体における電力網拡充参加の手続きに加わって、目標 の衝突を適切に公共の福利という義務のもとで処理する試みを行うことによって、政治的 市民としてエネルギー転換に貢献することができる。 アンケートによれば、多くの消費者は、すでに、原子力エネルギーなしの、安定エネル ギー供給のためには、いくらか多く支払う用意がある。そしてまた、建築物の改築や、効 率的な暖房器具や、分散型エネルギー供給への投資を意義のあることだと考えている。こ れと結びついた対策や、後の世代へのポジティヴな効果といった利点に関しては、適切で 明確な啓蒙が欠けていることが多い。だがしばしば!!賃貸法にあるように!!利点や利 益やコストが、投資家と受益者の間で不利益な仕方で分配されており、採算のあるエネル ギー開発を経済的に阻害している。個人世帯は、潜在的に!!個人の大世帯や施設等の大 世帯も!!スマートグリッド方式によるエネルギー供給とピーク時の負荷の分散化に多く 貢献することができる(コジェネレーション・システムによる仮想的な大型発電所)。む ろん、このためには、資金的な刺激が魅力的でなければならず、かつ/あるいは、法律上 の行動条件が適切な規準を出さなければならない。 市民が国の計画策定へと参加することは、脱原子力エネルギーへと速やかに転換し、ま た再生可能な供給システムを建設していくために非常に重要である。このためには、例え ば電力網や揚水発電所の拡充や、効率的な化石燃料発電所の建設といった、インフラ対策 が前提となる。このようなインフラの拡充は、上からは指令されることはできず、公衆参 加という建設的で新しい形式で導かれなければならない。大事なのは、受け入れを「うま く手に入れる」ことではなく、大多数の人に支持されているエネルギー転換に、公衆が参 加することであり、負担と利益に公平なバランスを与えることである。 倫理委員会は、市民の参加を実効的に算入していくことはつねに望ましいと原則的に考 えている。計画策定権が、成果のある公平な計画策定を可能にするものであるとき、その 特徴としては、そこに必ず市民の参加の権利という要素が含まれている。もっとも、今日 合法的に企てられる参加形式は、しばしば、あまりに時間のかかるように見えるので、場 合によっては必要なパイプやネットワークが求められている程度まで築かれないことがあ る。 協同組合のような新しい経営モデルや、収益に対して所有権を持つ可能性などは、市民 フォーラム、グループ、会合、未来ワークショップなどといった、直接的な参加形式と同 様に、導入されていくべきである。また自治体の参加に関しては、電力網を拡充したとき の営業税の加算を変更することによっても、改善していくべきだろう。 加えて、エネルギー転換に関する社会全体の議論もさらに進められるべきであり、福島 の事故の記憶が色褪せたときにも市民の動機が維持されるようにすべきだろう。また、後 で詳しく提言する「エネルギー転換全国フォーラム」の設立についてもここですでに指摘 してよいであろう。 エネルギー効率のよい消費や再生可能エネルギーへの投資やエネルギー・インフラスト ラクチャーの受け入れといった、大きなテーマは、自ずと進んでいくものではない。むし ろ、ここでは政治が、消費者のために活発な促進政策や情報政策や参加政策が構想してい くべきであろう。そうした政策では、省エネのための建築物改築や、コジェネレーショ ン・システムの拡充、省エネ開発、電力網拡充、発電所の新規建設といった要素の交差す る場が適切な仕方で共同参加的に取り扱われるべきである。
5.4 検討規準 衝突する目標を比較衡量する際に、次の規準が注意深く考慮されなければならない。 ・気候保護 ・安定供給 ・経済性と資金的な可能性 ・コストの分配の社会的アスペクト ・競争力 ・研究と技術開発 ・ドイツの一方的な輸入依存を避けること これらは、エネルギー供給の転換中に行うモニタリングのための基本的な指標である。
5.4.1 気候保護 気候変動は、社会、政治、経済、科学のあらゆる領域に対する大きな挑戦である。それ は長期にわたって続くであろうし、今世紀の半ばまでに温室効果ガス排出のさらなる削減 を達成するということを射程に入れて、倫理的に、経済的に決断していくことを要求する ものである。 気候問題が、果たして、原子力技術の事故から生じる問題よりも大きなものなのか、そ れとも小さなものなのか、という問いは、さまざまな仕方で答えられる。しかし、基本的 には、有効な比較基準なぞない。安定したエネルギー供給を守ることと同じくらい真剣に、 気候温暖化の問題に対応すべき倫理的義務がある。脱原発を遂行中の期間も、気候保護政 策の目標は維持される。この目標が脱原発によって妥協させられるかもしれない、という 推測には、裏づけがない。 ドイツは世界的に見ても、また欧州の中でも、野心的な気候保護目標を自らに義務づけ た。最新の見積もりによれば、2010 年のドイツの二酸化炭素排出量は、金融・経済危機 後の景気上昇に連関して、前年比で4,8%増加した(注3)。その結果、排出量の削減は !!脱原発をしない場合であっても!!今後加速されなければならないだろう。「欧州 2020」に掲げられた欧州における2020 年´へ向けての削減目標を達成すためには、毎年、 はるかに多くの温室効果ガス排出を制限していかなければならないだろう。これまで目標 とされていた1500 万炭素換算トンではなく、2000 万トン削減になる(なお、2000 年から 2010 年までは、毎年840 万トンしか削減できていない)。エネルギーの生産性の向上は、 2020 年までに、年平均二倍以上にしなければならないだろう。これまで毎年平均1.6%で あったエネルギー生産性の上昇は、4%弱にまで高めなければならない。その他の条件が 同じままだとすれば、二酸化炭素の排出は、脱原発によっても上昇することになるだろう。 もちろん、欧州連合(EU)の気候保護政策は有効であり、これと反作用することになる だろう。気候保護政策の努力は、熱供給や建築物改築や、とりわけモビリティー(交通移 動)市場の領域において、強化されなければならない(注4)。エネルギー変換は、それ ゆえ、単に電力分野に限られるものではなく、システム上、熱供給や冷暖房の領域やモビ リティーにも関わるのである。 (注3)Vgl. Hans Joachim Ziesing: .Kraftiger Anstieg der CO2-Emissionen in Deutschland“, in Energiewirtschaftliche Tagesfragen, 2011, Heft 4. 理由としては、GDP の増大と寒冬が挙げ られている。 (注4)全国電気自動車プラットフォーム(Nationale Plattform Elektromobilitat)のサイ トを参照: http://www.bmu.de/verkehr/elektromobilitaet/nationale_plattform_elektromobilitaet/doc/45970.php 2013 年に、欧州排出取引システム(EUETS)の第二の約束期間がスタートする。2008 年か ら2012 年までの平均的な排出量に基づいて、また2020 年に達成すべき気候保護目標の見 地から、20 億3915 万2882 炭素換算トンという排出許可証が確定されている。これは、年 間あたり1,74%減らすことを意味している。排出許可証は、競売にかけられる。エネルギ ー集約型産業に対しては特別規定が与えられており、そのような産業が競売しなければな らない排出許可証は少しだけであり、排出許可証の大部分の割り当てを受ける。脱原発は、 そうでなくても上昇傾向にある二酸化炭素価格をさらに高くすると予想される。 2020 年へ向けた気候保護目標は、新しい設備投資サイクルが作り出され、未来技術が 人々の日常経験と密着したかたち結び付けられ、それによって人々に新たな、大きな決断 の選択肢が与えられるならば、安定エネルギー供給の共同事業の枠組みのもとで達成する ことができる。
5.4.2 安定供給 現在、従来の化石燃料による国内の発電所全体から潜在的に引き出すことのできる電力 量(総設備容量)は、エネルギー需要をはるかに越えている(注5)。 (注5)全供給量とは、エネルギーを生産しうるすべての設備から生産された電力 の総容量である。この量は、どの時点においても安定的に(したがって電力網か ら確実に)引き出すことのできる電気の量とは区別される。 エネルギー供給の安定性を確保するためには、安定的な電力が、需要をはるかに上回っ ていなければならない。しかも、平均値ではなく、ピークの負荷(需要)をはるかに上回 っていなければならない。さらに、安全性のための準備や、システムサービス事業による 変動幅も指摘されねばならない。 電力供給の安定性は、連邦ネットワーク庁の発表によれば(注6)、計8(7+1)基の原 子炉を停止した場合にも、十分保たれる。もちろんその場合には、さらなる発電能力が準 備されない限りは、長期的に追加的に原子炉を停止していく際の数値上の安定緩衝材がも はや存在しなくなる。現在行っている原子炉の一時停止によって送電網と供給安定性にど んな影響が出ているか、目下、集中的に追跡せねばならない。連邦ネットワーク庁は、夏 期の電力網の供給リスクは、まだ制御可能な状態であると、改めて確認している。そして、 電力準備のための追加対策が必要かどうかについての決定は、オープンにしておくよう勧 めている(注7)。 (注6)連邦経済技術省に対して連邦ネットワーク庁が2011 年4 月11 日に行った、 原子力発電所の一時停止によって生じる送電網と供給の安定性への影響に関する 報告を参照:http://www.bmwi.de/BMWi/Navigation/energie,did=386714.html (注7)連邦ネットワーク庁による2011 年5 月27 日の、「原子力発電所の一時停止 によって生じる送電網と供給の安定性への影響の更新報告」参照。 現在ドイツでは、90 ギガワットの安定的な電力が利用可能である(注8)。このうち原子 力発電による電力は、約20 ギガワットをなしている。この安定電力は、80 ギガワットの ピーク需要と比較される。一時停止というかたちで停止中の原子力発電と、すでに電力網 から外されている原子力発電によって8,5 ギガワットがなくなっているが、それでも十分 に81,5 ギガワット分が、安定的な発電能力として残されている。 (注8)この安定電力では、従来の発電所設備からの発電量のうち、修理や故障や 整備の理由によって10 ギガワット分が差し引かれることを考慮してある。また水 力発電からは、その設備容量のうち50%が、バイオマスの発電能力からは100%が、 風力発電の電力からは7%、揚水発電からは100%の出力が含められている。これ に対して、太陽光発電からは、その利用可能性が非常に変動するために、安定電 力としては含めることはできない。 2013 年までに、化石燃料発電は、約3 ギガワットの電力が、老朽化の理由により、電力 網から外されるが、これに対して約11 ギガワットの電力が電力網に追加される(注9)。 この追加された発電量は、現在停止中の原子力発電所からの8,5 ギガワットの電力に相応 する。すべての原子力発電を停止した場合の原子力エネルギーの電力は、計20 ギガワッ ト程度である。 (注9)この箇所と以下の箇所に掲げている発電量のデータは、フェリックス・マ テスとハンス=ヨアヒム・ツィージングによって、連邦ネットワーク庁と、連邦エ ネルギー・水道事業連合会(BDEW)と自治体系企業連盟(VKU)からのデータと個人 的な算出によってまとめられたものである。Felix Matthes und Hans-Joachim Ziesing: .Beschleunigter Verzicht auf die Kernenergie in Deutschland: Elemente eines flankierenden Einstiegsprogramms. Kurzanalyse fur die EthikKommission .Sichere Energieversorgung“ “, Berlin 2011 参照。高い安全性のもとで、2013 年までに操業が開始されると期待され ているのは、ボックスベルクR号機、ノイラートF 号機とG号機、デュイスブル ク・ヴァルズムG号機、カールスルーエRDK 8 号機、リューネン4 号機、マンハ イムGKM 9 号機、モーアブルク1 号機と2 号機、ヴェストファーレンD号機とE 号機、ヴィルヘムスハーフェン、アイゼンヒュッテンシュタット、ヘヒスト、ボ ンHKW 北号機、ハノーファー・リンデン、イルシング4 号機、カールスルーエ RDK 6 号機、ザールブリュッケンGuD 南号機である。近年中に!!エネルギー経 済の理由に基づき!!古い化石燃料発電所は停止され、2012 年までに、約3 ギガ ワットがなくなる(フリンマースドルフE 号機からO 号機、ニーダーアオセムA 号機からD号機、シュタオディンガー3 号機、マンハイムGKM 3 号機と4 号機、 プラインティング、ミッテルスビューレン3 号機)。2020 年までに、化石燃料発電 からは、8 ギガワット分の発電所が停止されると予定されている。 再生可能エネルギーについては、近年中に、かなりの増設がなされる必要がある。この 増設は、環境に配慮した電力生産という目標を達成するために、重要である。風力や太陽 熱や太陽光(PV)、地熱、その他の新しい技術による試みは、それを補助する電力貯蔵対 策と一緒になって、ベースロード電力需要を賄うことに貢献しつつある。今日ではすでに、 バイオマス発電が、安定電力を供給できる状態にある。 脱原発によって失われる電力量は再生可能エネルギーの増設によって代替されなければ ならいなが、それは10 ギガワット分が、また安定性をもっと大きく確保するという目標 からは、約20 ギガワット分が代替されなければならない。可能性としては何年か早まる こともあろうが、2020 年までには、提案されているコジェネレーション対策によって12 ギガワットを、バイオマス発電の対策によって2,5 ギガワットまで(このうち2 ギガワッ ト分はいずれにしても拡大が予定されている)、また従来型の発電設備新設に対して設備 容量選択を市場で与える対策からは、7 ギガワットまでを生み出すことができる。また、 ピーク負荷の2,5 ギガワット分と、低負荷時の4 ギガワットを、エネルギー効率の対策に よって生み出すことができる。効率の高い新設備に投資することは、「環境配当金」をも たらす。すなわち、欧州連合排出取引制度(EUETS)という手段によって、排出された 二酸化炭素の最大量の抑制が、技術開発の原動力として働く。 それどころか連邦エネルギー・水道事業連合会は、発電容量の増設について、さらに上 回る数値を出している。それによれば、2019 年までに、約50 の発電所(風力、ガス、石 炭、褐炭、バイオマス、ゴミ、水力、揚水、圧縮空気を利用した発電所)で、約30 ギガ ワットの発電が達成されるだろうと言われている(注10)。 (注10)http://www.bdew.de を参照。
5.4.3 経済性と資金的可能性 原子力エネルギーからの電力転換には、財源と投資に関して多額の経費が必要である。 電力価格はいずれにしてもエネルギーと二酸化炭素排出許可証のために上昇すると見られ ているが、エネルギー転換はこの価格上昇をさらに進めるだろう。これについては、専門 家の間で、意見が一致している(注11)。とはいえ、価格上昇の程度については、一致し ていない。したがってモニタリング・プロセスは、必要とあれば適切な対策を施すために も、価格の変化とそのコスト面への影響に対して、特に注意を払わなければならない。 (注11)例えば以下の論述を参照:Enervis energy advisors GmbH (2011): .Atomausstieg bis zum Jahr 2020: Auswirkungen auf Investitionen und Wettbewerb in der Stromerzeugung, Kurzgutachten fur den VKU“, Berlin, 9.5.2011; r2b (research to business energy consulting): .Energieokonomische Analyse eines Ausstiegs aus der Kernenergie in Deutschland bis zum Jahr 2017“, Koln, 20.4.2011, http://www.r2b-energy.com/pdf/Kurzfassung_Ausstieg2017.pdf; Sascha Samadi / Manfred Fischedick / Stefan Lechtenbohmer / Stefan Thomas: .Kurzstudie zu moglichen Strompreiseffekten eines beschleunigten Ausstiegs aus der Nutzung der Kernenergie, im Auftrag des Ministeriums fur Klimaschutz, Umwelt, Landwirtschaft, Natur und Verbraucherschutz des Landes NRW“, Wuppertal Institut, Wuppertal, 18.5.2011, http://www.wupperinst.org/uploads/tx_wiprojekt/Strompreiseffekte_Endbericht.pdf; Claudia Kemfert: .Wie teuer wird die Energiewende?“, in: DIW, Wochenbericht Nr. 20 / 2011, http://www.diw.de/documents/publikationen/73/diw_01.c.372712.de/11-20-1.pdf および http://www.claudiakemfert.de/no_cache/todaysclimate/detailansicht/period/1305629712///article/10/ wie_teuer_wird_die_energiewende.html; Ottmar Edenhofer: .Die Strompreise steigen nicht wesentlich“, in: Handelsblatt, 16.03.2011 (vgl. auch http://www.pik-potsdam.de/aktuelles/pik-inden- medien/die-strompreise-steigen-nicht-wesentlich/view). 原子力エネルギーからの撤退は、エネルギー供給とそのインフラへの投資が国民経済 を後押しするので、経済成長の原動力となりうる。これらのコストには、それに応じた収 益がある。同じように、公的財源!!市場を刺激する公的資金調達や融資!!は、雇用や 技術開発の市場に大きな生産的な効果を与えることができる(注12)。原則的には、国 の財源の準備は、財政規律と負債限度を考慮しなければならない。特に排出許可証の競売 による国庫への収入状況も算入されなければならない(注13)。民間事業による投資も、 同じように、重要な役割を果たす。この場合には、新しい投資手段が考慮に値する。それ は、特に、新しいファンド・ソリューションや、持続可能な経済において投資対象となる 金融商品の供給を含む(注14)。 (注12)復興金融公庫(KfW)による建造物改築の支援策の経常収支が示すように、 1 ユーロの支援額は手工業や産業部門に7 ユーロから8 ユーロの投資を生み出す。 (注13)国は二酸化炭素排出許可証の競売からの収入を得るであろう。欧州の排 出許可証は、2013 年から競売にかけられる。現在の1 炭素換算トンあたりの価格 は15 ユーロであるが、この価格が欧州委員会が2020 年について試算したとおりに コンスタントに上昇したとすれば、2020 年までに1500 億から1900 億ユーロの売上 金が見込まれる。ドイツは、370 億から460 億ユーロの収益を見込めるはずである。 欧州連合が2020 年への排出量削減目標を現在合意されている20%から30%へと引 き上げたならば、売上金は総額2000 億から3100 億ユーロに増加するだろう。二酸 化炭素の上昇価格は、欧州連合によれば、2020 年に1 炭素換算トンあたり25 ユー ロと見積もられている。欧州連合が2020 年への削減目標を30%と定めた場合には、 その価格は上昇する。この場合、2020 年には、1 炭素換算トンあたり55 ユーロ、 もしくは30 ユーロ(クリーン開発メカニズムの補完的手段が購入される場合)と 試算される。Vgl. Simone Cooper / Michael Grubb: “Revenue Dimensions of the EU ETS Phase III”, Entwurf, 10.04.2011. (注14)この報告書の、省エネ対策の都市改造に関する論述[7.1.3] を参照。
5.4.4 コスト配分の社会的諸側面 モニタリング・プロセスの枠組みで検討しなければならないのは、市場への刺激の効果 や投資効果や他の経済的効果による、相乗効果をどのように利用できるか、ということで ある。 加えてここで着目しておくべきことは、コストの社会的な配分の判断である。ドイツ経 済研究所(DW)は、[現在の8 基の原子炉の]一時停止は、家計に対して電気料金を少 しだけ高くするだけであり、最大で1,4%だろう、という結果を導き出している。ドイツ 経済研究所によれば、価格上昇の主たる原因は、キロワット時の取引価格が約0,4 セント (6%)上昇することに帰せられる。さらなる原子炉の停止のためには、ドイツ経済研究 所の評価するところによれば、発電能力の増設と代替が必要である(注15)。現在のとこ ろ見通し得る期間内においては、消費者価格の上昇は、価格を上昇させる作用と低下させ る作用がほぼ等しい大きさなので、予測としては、総じて小さいものにとどまる。追加的 排出による排出許可証取引価格の上昇は、電力の消費者価格の上昇へと作用する。必要な 発電所の増設と電力網の拡充は、その拡充が比較的小さな要素と評価され、またそれによ って追加される電力容量が価格低下作用を引き起こす傾向があるとしても、潜在的には価 格上昇を引き起こす。 ( 注15 ) Vgl. DIW Wochenbericht 20/2011, http://www.diw.de/documents/publikationen/73/diw_01.c.372712.de/11-20-1.pdf 倫理委員会が提言する対策は、この考察と一致するものである。本委員会からは、次 のように指摘しておく。すなわち、原子力エネルギー利用からの離脱にかかるコストを問 題にするとき、そのコストは、現在日本で進行しているような原子力事故の後始末のコス トとの比較も行わなければならない。そして、原発事故の収拾にかかるコストは、ドイツ がエネルギー転換をする場合に予想されるコストのすべてを上回るものであろう。
5.4.5 競争力 ドイツはほぼ隅々にまでわたる付加価値連鎖(バリューチェイン)を手にしている。そ こでは電力を投入して原料が生産され、これが製造業と加工業、売買とサービス業部門に 結びついている。このネットワークは、ドイツ経済が成果をあげている本質的な理由であ る。それは、雇用を確保し、また生み出す。社会的安定も、現在および未来から受ける大 きな挑戦の解決策も、本質的にこうした付加価値連鎖に負っている。 競争力という観点からは、電力価格だけではなく、安定した電力供給の確保もまた重要 である。このことは、特に、産業部門、人命に関わる医療、また情報テクノロジーやコン ピューターによる制御システムに当てはまる。 こうしたものが、エネルギー転換のプロセスにおいても維持されるためには、付加価値 連鎖のどの部分においても、競争力のある枠組みが必要である。 エネルギー転換は、エネルギーや電気やガスや二酸化炭素の価格が上昇傾向にある世界 の中で行われていくものである。脱原発によってどの要素の価格変動が引き起こされるの か、またどの部分が、グローバルな規模での変化に、あるいは現在の条件に、あるいは他 の理由に起因するのか、こうしたことをあらかじめ決めることはできない。それゆえ、こ こでは、チェクしていくプロセスが、特に重要である。
5.4.6 研究と教育と技術革新 共同事業にとって、科学の寄与は非常に大きな意味を持っている。ドイツの経済と社会 は、その開発力と創造性を、新たな領域への参加と協力と勇気から得ているが、しかしま た、とりわけ科学研究からも得ている。 ドイツにおける科学研究は優れた水準にあり、エネルギー転換に対してますます革新的 で成果の高い解決を期待できる水準にある。しかしこれは、さらに高める必要がある。共 同事業が形成されることによって、それも後押しされるはずである。モニタリング・プロ セスは、研究成果への需要を目的に合った仕方で示し、その成果を算入しなければならな い。発展研究を行なう場所が作り出されなければならないし、また、学術と社会との対話 が強められなければならない。こうすることで、研究政策上の優先順位は決めやすくなる だろう。 重要となるのは、新しい解決策を発展させて適用していく社会的な能力を、研究開発に よって強化し、そしてまたその際に、教育や職業専門教育や継続教育への刺激を与えてい くことである。
5.4.7 輸入への依存 電力の輸入と輸出は、欧州域内市場に属するが、これは2015 年から、すべての欧州連 合加盟国による単一の電力市場としても統合される。物資や電力のやりとりは、それ相応 の有益と不利益がある。輸入能力に十分な余裕があるとしても、電気の完全な自給自足へ の努力という方向性は、ドイツにとっては悪いものであろう。原油やガスやウランに目を 向けるならば、エネルギー消費者としてドイツは、非常に輸入依存的である。このことは、 他の多くの原料についても同様に当てはまる。原則的には、輸入によって偏った依存に陥 らないようにし、エネルギーミックスを可能な限り多様に保つように努めなければならな い。 欧州のインフラ網(連結点)が改善されることにより、電力のやりとりは増加する。輸 入と輸出は、電力負荷をマネージメントするために必要である。輸入と輸出は、ドイツの 北と南では、典型的な仕方で、異なっている。電力輸入が批判されるとすれば、それは国 内の改革目標と反対の作用を起こす場合だけであろう。
6 エネルギー転換のための制度 エネルギー供給について高いレベルでの公共の支持を得るためには、議会と政府の決定 が透明性を持ち、社会の諸団体が決定に参加することが、前提となる。このためには、脱 原発のチャンスを全面的に利用するために、創造力と新しい考え方が必要である。 倫理委員会は、脱原発のプロセスを、制度的な改革によって支えることを勧める。提案 としては、互いに独立な専門委員組織を設置することである。一つは、エネルギー転換担 当の連邦議会議員であり、もう一つは、「エネルギー転換全国フォーラム」である。 倫理委員会は、この提案を行うとき、次のように理解している。すなわち、「ドイツの エネルギーの未来」という共同事業を組織することは、連邦と各州のあらゆるレベルとっ て、総じて極めて大変な課題だということである。また倫理委員会は、エネルギー転換を 目標どおりに可能な限り効果的に進めていくために、連邦政府もまた組織上の成果をチェ ックするものと見なしている。
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