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[Part1] 地中のパワーが国を支える
まるで月面のような溶岩の黒い大地の中で、そこだけがリゾート島のように青白く光っていた。アイスランドの国際空港から車でわずか約20分。5000平方メートルにわたって湖のように広がる大露天温泉「ブルーラグーン」だ。
白濁した約38度の湯は、乳液やクリームの原料として使われるシリカ(ケイ石)を多く含む。美肌効果があると若い女性の間で評判になり、欧州各国からカップルや家族連れが訪れる。年間の来場者は約40万人以上。みんな、老化防止にとシリカのパックを顔に塗りたくり、極楽気分で湯につかる(写真)。
湯気のかなたに、白い蒸気を吐く建物がかすんで見える。スバルツエンギ地熱発電所(7.6万キロワット)。地中2000メートルから噴き出す蒸気と熱水のうち、蒸気が発電機のタービンを回し、分離された熱水が「ブルーラグーン」の泉源となっている。「熱水は近所の家庭暖房や温水プールにも利用されています」と、発電所を運営するHSオルカ社の現場責任者ソルズル・アンデルソンが説明した。
アイスランドは2008年、金融危機の影響で経済が破綻(はたん)状態に追い込まれ、それまで目指していた「金融立国」からの路線転換を迫られた。国の再建のキーワードとなったのが「天然資源」「環境」「観光」。ブルーラグーンは、その象徴的な存在となっている。
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火山の島アイスランドで地熱利用の歴史は長い。20世紀前半から温室や暖房に使われてきた。ただ、地熱発電を含む本格的な開発のきっかけは1973年の石油危機だ。石油に代わるエネルギー源として政府が主導、基金を通じて開発に乗り出す企業を支援した。同国エネルギー局長のグズニ・ヨハネソンは「国のバックアップがないと、民間企業が自ら地熱事業に乗り出すのは難しい」と話す。
その結果、1977年にスバルツエンギ地熱発電所が稼働するなど次々に新規立地が実現。現在7カ所の地熱発電所の発電能力は57万キロワット。国全体の電気の約22%を賄っている。
開発された地熱は、電源だけでなく暖房にも利用。首都レイキャビク市がオーナーの電力会社が運営する国内最大規模のヘトリスヘイジ地熱発電所(25万キロワット)は、温水を約20キロ先の同市内にパイプラインで運ぶ。同市の家庭暖房は、石油を使う場合の約4分の1のコストで済むという。
地熱利用による熱源探査や掘削の技術の蓄積は、アイスランドに様々な可能性を生み出してもいる。
駐日アイスランド大使のステファン・ステファンソンが6月末、岩手県庁を訪れた。岩手県には、2カ所の地熱発電所がある。ステファンソンは、被災地へのお見舞いを述べると同時に、自国の地熱発電技術もアピールした。「震災をきっかけに日本のエネルギー環境は変わった。わが国の経験とノウハウで日本に協力したい」
アイスランドが開発のノウハウを持つのに対し、地熱発電の心臓部にあたるタービン製造で世界の約8割のシェアをもつのが、実は日本だ。ヘトリスヘイジのタービン6台は三菱重工製、スバルツエンギのタービン3台は富士電機製。「両国が手を結んで地熱開発のパッケージをつくれば、第三国への売り込みができる」との狙いも、アイスランド側は隠さない。
アイスランドは、途上国の地熱開発支援にも熱心だ。国連大学傘下に1979年設立された国際教育機関「地熱トレーニングプログラム」を通じて、技術者約500人を育成。プログラムの責任者イングヴァル・B・フリズレイフソンは「卒業生とは常時コンタクトを取り、世界じゅうの技術者間のネットワークにしている」と話す。
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アイスランドと同様に火山の島である日本で、地熱発電の発電能力は18発電所で53万6000キロワット。アイスランドにほぼ匹敵するが、電力全体に占める割合は0.2%に過ぎない。政府や電力関係者が地熱開発に熱心とも言い難く、新規立地はここ12年間ない。
しかし、世界の流れは地熱発電の促進に大きく傾斜しつつある。温室効果ガスの排出が少ないクリーン度、天候に左右されず一定の出力で運転し続ける安定性──。福島第一原発事故で原子力への疑念が広がり、期待は強まりつつある。国際エネルギー機関(IEA)は今年6月、世界全体の地熱発電量が2050年までに10倍に拡大し、地熱発電が占める割合も現在の0.3%から3.5%に伸びる可能性がある、との報告書をまとめた。途上国に手付かずの資源があること、政府支援や技術革新の余地があることなどが理由だ。
もちろん、課題も少なくない。発電開始までの初期投資がかさみがちなこと。景観を損なうとしてしばしば問題となること。早くから開発が進んだ米国では、特定の地域に集中した結果、発電のための蒸気の激減という現象も起きている。
現在、地熱発電の発電能力が最も多いのは米国で、フィリピン、インドネシアと続く。今後開発が見込まれるのはアフリカだ。南北に巨大な地溝帯が走り、未開拓のエネルギーが眠っているとの期待が強い。アイスランドは地溝帯に連なるケニアなどからのプログラムへの技術者派遣も受け入れている。
(稲垣直人、安田朋起)
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