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職業柄、私自身、言葉を多用していますし、沢山の言葉を読み込んでいます。その中でも、読んだり、聞いたりする受け身の言葉であると、6対4ぐらいの割合でドイツ語をインプットすることのほうが多いと思います。話したり、書いたりするアクティブな言語では、完全に日本語のほうが多いのですが、まあ、今回のブログは、そういうような前提でのお話です。
もちろん常にということではありませんし、何事にも例外はあります。ただし、言葉に触れたときに「カッコイイ」というか、美学的(Aesthetik)なものを感じることがドイツ語では多々あります。日本語の場合は、「ちょっといい話」的な言語という感覚が私にとっては強く、膝を打つような、背筋を電流が流れるようなカッコイイ言葉に出会う機会は残念がら稀でしかありません。もちろん、個人的、主観的な話なのですが。
さて、なんの話をしようとしているのかといえば、今回は法律のお話です。ドイツ語に触れたときにしびれるほどカッコイイと感じたのは、『Die Wuerde des Menschen ist unantasbar』からはじまるドイツの基本法(憲法)の第一条です。私の拙い翻訳能力でこの第一条を訳すとすれば:
「人間の尊厳に手を触れることはならない。これを尊び、護ることは、全国家権力の義務である」
となります。普通は以下のように訳されることが多いのですが・・・
「人間の尊厳は不可侵である。これを尊重し、および保護することは、すべての国家権力の義務である」
http://www.bundestag.de/dokumente/rechtsgrundlagen/grundgesetz/gg_01.html
まあ、日本の憲法の第一条と比べるとカッコ良さが数段違うと感じるのは私だけではないはずですよね。
こんなことを書き始めたのには訳があります。ドイツの上院・下院は、再生可能エネルギー推進法、いわゆるフィードインタリフ、再生可能エネルギーからの電力の固定買取制度を7月上旬に改正しました(施行は来年1月1日)。略称で、FIT2012、あるいはEEG2012です。日本でも、おなじ方向性の法案が、菅首相が退陣をかけた法案の一つとして、今日のニュースでも取り扱われていますよね。ニュースによると、今国会での妥協の上での成立が、8月19日になると言われています。
それを比較するわけではないのですが、是非皆さまにドイツ版のフィードインタリフの第1条を知っていただきたいと思い、今回のブログ記事を書いています。いや、この文章も実にカッコイイんです。
さて、訳してみましょうか:
===============
第一条(1):法律の目的
この法律の目的は、とりわけ気候保護、環境保護への関心において、持続可能なエネルギー供給の発展を可能とし、長期的な外部コスト効果も考慮することによって国民経済の上での総コストを低減させ、化石エネルギー資源を節約し、再生可能エネルギーからの電力供給の技術をさらに発展させるためにある。
第一条(2):
上記(1)の目的を達成するため、この法律は電力供給における再生可能エネルギー電力の割合を少なくとも以下のように向上させることを目的とする:
1.遅くとも2020年までに35%
2.遅くとも2030年までに50%
3.遅くとも2040年までに65%、そして
4,遅くとも2050年までに80%
さらに、これらの電力量を電力供給システムに統合(インテグレート)する。
===============
http://www.erneuerbare-energien.de/files/pdfs/allgemein/application/pdf/eeg_2012_bf.pdf
うーん、ざっと日本語に直してみましたが、(1)の部分の文章のカッコ良さがあまり分からないですね。私の能力不足です。ただし、この目的数行を読んでいただければ、なんのためにこの法律がそもそも存在するのかが明確で、この法律で一体何をしなければならないのか、その結果何が実現されるのかが見えてきます。どれだけ時間をかけたのかは知りませんが、この表現を最終的にひねり出すために、官僚と政治家の方々は非常な苦労をしたことが良く伺えます。
ちなみに日本の法案は以下のとおりです(国会で修正されようとしている最終案についてはよく分かりませんが、この目的まではいじられないと思います):
=================
第一条:
この法律は、エネルギー源としての再生可能エネルギー源を利用することが、内外の経済的社会的環境に応じたエネルギーの安定的かつ適切な供給の確保及びエネルギーの供給に係る環境への負荷の低減を図る上で重要となっていることに鑑み、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関し、その価格、期間等について特別の措置を講ずることにより、電気についてエネルギー源としての再生可能エネルギー源の利用を促進し、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
=================
言っている内容は同じようなニュアンスは漂っているのですが、ドイツのそれと比較すると、イマイチだと思いませんか?
ドイツでのそれは以下のことを言っています(後ろの○、×、?はそれぞれ日本の法案の目的にも含まれるかどうかを示したものです)。
1.気候保護、環境保護に貢献する(○)
2.エネルギー供給を持続可能にする(?)
3.外部コストも考慮することで、社会的な総コストを低減させる(×)
4.化石エネルギー資源を節約する(×)
5.技術革新をさらに進める(×)
6.そのための具体的な数値目標(×)
7.系統を含むシステムの安定供給(○)
もちろん、日本の法案で最も不満な点は、上記の6.であることは明確で、具体的な数値が載せられていないこと自体が論外なのですが、ドイツでは、再生可能エネルギーの「戦略的」な推進は、社会コストと低減させ、脱化石を可能とし、技術革新をも可能とするという理解が深いことが一目でわかります。
そもそも再生可能エネルギーを推進することで見かけ上のミクロでのコストが向上することを、社会としては投資とみなし、一定以上の効果が国民のために現れるからこそ3.4.5.を実現するためにこの法律はドイツでは20年続けられているわけです。そして、今後も続けられてゆくのですが、このへんがよく理解されているかどうかが、鍵となるように思います。
幸いにも、新聞報道によると、日本の法案は施行後、3年をめどに、大々的な見直しをするそうです。そのときまでに、多種多様な背景を持つ学術的な調査と分析がしっかり行われ、より専門性を高め、実効性を高めることを願ってやみません。法律が施行された時点で、関心が薄れ、劣悪な目標値を維持したRPSなどの悪夢を繰り返さないためにも、施行後こそ、国民が最大限の関心を持って議論を続けてゆくことが、生きた機能する法律として必要なことだと思います。
ということで、8月19日以降も、注意深く観察してゆきたいと思います。
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