01. 2011年10月13日 19:07:58: fL9ebhgc8Q
再生可能エネルギー100%地域会議(その2) http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/archives/51666986.html優先順位の高いものは2つあります。系統の強化と捨電です。 イ)系統の強化 いよいよここに来て、政治が動き、各種の系統強化に関する法律を策定したり、Dena(ドイツエネルギー機関)が専門家調査を行い高圧系統の強化、新設に関するロードマップを明示したり、連邦系統機関がその促進を指示したりと、系統の強化に関してはてんやわんやの状況です。 http://www.dena.de/ http://www.bundesnetzagentur.de/ ただし、2020/25年までに2000kmとも、3000kmともいわれる系統の新設、強化は進んでおらず、現在着工中の系統は80kmで10倍のスピードが必要であるという厳しい現実も分科会では報告されていました。もちろん各種のシナリオがあり、捨電、蓄電、スマグリの推進状況によっても、あるいは再生可能エネ発電側の技術革新によっても、系統強化の必要量は変わってきます。 どちらにしても、ドイツ政府が掲げる再生可能エネ電力の推進のロードマップ(2020年35%、2030年50%、2050年80%)を達成するためには、今以上に柔軟で、強化された系統が必要なのは議論をまたないところです。 ロ)現在、ドイツの太陽光発電は設置量が18GWを超え、夏期の日中のピーク時には10GWを超える発電出力が系統に表れます。休日の電力消費量が小さなときには、日中、独全体の系統に太陽光発電の電力が30%を超えるときも散見され、とりわけ設置が集中するバイエルン州の南部では、系統の電力が100%以上太陽光だけで埋まってしまうこともあります。風力については、これ以上に厳しい事情を抱えているため、これまでにも、太陽光発電と風力発電については、系統の安定を脅かす場合に、遠隔操作で系統運営事業者が両発電を部分的に切り離す、いわゆる発電をストップして捨電することが、再生可能エネルギー法(フィードインタリフ)の定めで認められていました。ただし、系統運営事業者は、発電をしなかった分の捨電量についても、再生可能エネ発電者に対して固定買取価格の補償をしています。 この類の取り決めが2012年に改正されるフィードインタリフ法では、さらに強化される見込みで、風力発電やメガソーラーだけではなく、30kW出力以上の太陽光発電についても系統切り離しの遠隔操作装置を設置することが義務となりますし、30kW出力以下のものでも、遠隔操作の設置か、インバータのMAX出力を設置PV最大出力の70%に制限して、ピークカットを行うことのどちらかを行うことを義務付けたりしています。 また、地域的な系統が100%以上再生可能エネ電力で満たされる場合には、捨電量の買取価格支払補償を取りやめることも方針として決まりました。 このように系統強化と捨電(ピークカット)については、政治的にもある一定の合意がなされ、実質的にも推進されることが決まっています。
再生可能エネルギー100%地域会議(その3) http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/archives/51666991.html
それに続く優先順位として考えられているのが、需要側での電力消費量のマネージメントと蓄電です。 ロ)スマートグリッド 100%再生可能エネを目指す系統安定化対策の分科会では、スマートグリッドという言葉は忌み嫌われており、使わないことが専門家たちの口から出てきました。理由は定義が曖昧で、学術的に価値がなくとも行われているプロジェクトが沢山あるからということです。ということで、ドイツ語ではLastmanagement、系統負荷マネージメントという言葉で議論が進みました。 まずスマグリと聞いて、系統における状況をスマートメーターで感知し、各家庭に置かれた電気自動車における蓄電や家庭の電力機器がスマートメーターと連動して、系統の負荷を緩和するような物語を連想する方も多いと思います。もちろん、2050年や2100年の未来にはそうなっているかもしれませんが、今のドイツの問題を2020年とか、2030年に解決する方法ではないことは学術的に明らかだと専門家は言います。理由は技術的な問題ではなく、費用対効果の面で、全く割りに合わないからです。 今のドイツに必要なのは、コンビ発電所(太陽光、風力と連携、自動化したガスタービンやバイオマス発電)などの電力供給サイドでのスマート化と、変圧所などを基点とした系統自身の一方通行ではないスマート化(新しいアルゴリズムの開発など)、そしてドイツの電力消費量の8割近くを占める産業部門での、とりわけ電力→冷却部門での消費サイドのスマート化です。 分科会では、マティアス・ランゲ博士(energy&meteo systems)によって、バーチャル発電所のプレゼンが行われました。自治体や地域に存在する冷却施設(スーパーやロジスティックの拠点、倉庫など)と中・低電圧系統、再生可能エネルギー発電をスマート化するだけで、地域の系統負荷のピークカットがどのように行われるのか事前にシュミレーションでき、かつ実用化できるソフトについて説明があり、費用も安価で効果も大きいため、直ちに対策を始めるべきだとの議論がありました。 http://energymeteo.de/index.php 日本では、どちらかといえばHEMSなど建物単体でのスマート化することばかりに注目がなされていますが、マクロ的、社会経済学的な視野では、日本の小型から推進をはじめたPVのケースと同じように、高い買い物を社会がしてしまうのではないかとの危惧が、この分科会を得て、ますます強まりました。 社会として、最小の費用で、最大の効果を生み出すためには、発送電分離や国有化の前に、そもそも系統についての情報の透明性を上げる取り組みがより大胆に推進される必要が日本にはあるとの確信もより強いものになりました。 今後、大きな規模でツールとして利用されてゆくバーチャル発電所などの動きには注目して行きたいです。 再生可能エネルギー100%会議(その4) http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/archives/51667008.html
そして、議論はもうひとつの将来的な取り組みである蓄電についてです。 ハ)優先順位では、ここまで並べた対策のうち、費用対効果の関連で一番優先度が低いものの、技術革新と大量普及のための対策が急がれるのが蓄電です。 ただし、蓄電と一言でいっても、種類は豊富にあります。まず最も簡単で安価な蓄電方法は、電力を重力エネルギーとして置き換える揚水発電施設についてです。ただし、高低差が少なく、雨量もそれほどなく、かつ自然環境と人間生活環境に多大な影響を与える大型の揚水発電所を、今後もバンバンと推進してゆくことは現実的ではありません。 揚水発電の可能性があるところで、かつ環境負荷の低いところは今後のドイツでも新設してゆく予定ですが、ポテンシャルを最大限に利用したとしても、期待されるほど大きな効果が出ないことも同時に学術的な調査で明らかになっています。小型のものの開発が進んだり、どれだけ有効にポテンシャルを活用してゆくのかは、まだまだ今後の課題と言えそうです。 そして次に蓄電のための技術として有望なものは、電力を圧力エネルギーに変換する圧縮空気式の蓄電方法です。ドイツには、岩塩や石炭の採掘跡地で、比較的密閉度が高い場所が多くあることから、その穴に、余剰電力によってコンプレッサーで空気を送り、圧を高めておいて、電力が必要なときは、その圧からの空気でタービンを動かして発電する方法です。 揚水発電所と同じようにすでに実用化されている技術で、費用対効果もますます高くなることが予想されていますが、そのドイツ国内でのポテンシャルは、今後の再生可能エネルギー発電の増加量と比較すると、わずかでしかなく、上記の揚水発電と同じように推進する価値はあるものの、決定的な切り札にはなりえません。 その次に考えられるのは、各種のバッテリーによる蓄電です。こちらについては、高価な技術であり、レアアースなどの資源的な問題も抱えている場合が多いので、分科会では、とりわけ家庭や建物、産業などの消費サイドではなく、系統の調整サイド(変圧施設や分電施設)で、もっとも有効なポイントにピンポイントで使用していゆくことの大切さが強調されました。もちろん、現在のドイツに登録してある4000万台を超える乗用車が電気自動車に置き換えられ、スマート化されれば蓄電量は膨大なものとなるわけですが、系統の安定性を活かすための有効な切り札には成り得ないことについても議論が進みました。 もちろん、今後の技術開発でどのようなタイプのバッテリーが、どれだけの価格で、どのような資源を利用して製造できるようになるのかの研究や動向などにもよりますが、今のところ、ドイツ政府のエネルギー戦略でも一番重要な蓄電先として考えられるようになったのは、以下の電力のガス化という取り組みです。 ソーラーガス、ウィンドガスという言葉がドイツのこの手の専門家の間では普通に使われる語句になっています。単純に説明すれば、余剰電力を使って水などを電気分解して人口の水素ガスを作り、そのままそれを利用するか(燃料電池や直接燃焼)、あるいはバイオマス、天然ガス発電施設からのCO2と合わせて人口メタンガスを作って、それを天然ガスのインフラ(貯蔵、パイプライン)に貯めておき、熱や電力供給の場面で、そのガスを利用するという仕組みです。 この方法にはいくつかの利点がありますが、まずは貯蔵のため、ガスから電気の変換のためのインフラはすでに社会にあり、その蓄電ポテンシャルは膨大で、上述した3つの蓄電方法とは比較にならないくらい潤沢にあること。そして、化石燃料からの脱却の場面では必ず必要になるが、同時にバイオマス資源には限度があることから、最も困難な課題を抱える自動車のエネルギー源の多様化の場面でもポジティブに働くこと(電気利用、水素利用、ガス利用の3通りに多様化する)、この2つが大きなものとしてまずは挙げられるでしょう。 同時に欠点もあります。小型の実験、実証の施設は建設が進むものの、大型の実用化までには数多くの技術開発が必要であり、同時に最初は費用がかかること。つまり今すぐの技術ではなく、10年ぐらいは時間がかかることです。また、効率の面でも議論があります。目指しているのは、電気→ガス→コージェネによる発電の場合、熱効率で30〜40%なので、60〜70%の電力はロスすることになります。 ただし、電気の発生するところからの観点では、バイオマス(+バイオマス由来の化石燃料も含む)は、太陽光エネルギーを自然が1%程度の効率でエネルギー化し、それを収穫、採掘し、輸送し、燃やすことで、電気となるためにはコージェネでの利用でも熱効率は0.5%程度にしかならないのに対して、PVでは15〜20%の効率で電気となり、それをガス化して、再度発電しても5〜8%の効率は保たれます。哲学的な話でもありますが、再生可能エネ100%の未来では、この源まで遡る効率を見直す議論も必要となってくるでしょう。 このソーラーガス、ウインドガスについては、フラウンホーファー研究所IWESのミヒャエル・シュテルナー博士がプレゼンしましたが、これまででもっとも蓄電に関する議論で、納得がゆくものでした。 上記の4種類の蓄電方法を他の対策(系統強化、ピークカットの捨電、系統負荷マネージメント)と併せて、またときには電気→電熱線での熱利用というケースも含めて、もっとも社会的に費用対効果が高く、環境負荷が小さなものをその時代ごとに選択してゆくという議論は、今後も永続的に続けられてゆくことでしょう。 1つだけ言えることは、系統安定化の対策は、安定化が不安定に脅かされるようになってからこそ、社会的な取り組みとしてはじまる技術や研究分野であることです。いまだに一方通行の系統という体制を維持している日本では、ドンドンとこうしたドイツやスペイン、そしてUSAでの取り組みとの差が開くことでしょう。また費用対効果で優れないHEMS頼みの消費サイドでの取り組みというツケは、将来的に必ず回ってきます。この点にも注意しながら、再生可能エネの取り組みは推進してゆく必要があることでしょう。 とまあ、もう一つの分科会での議論(熱分野のカスケード利用、自然エネ発熱、地域冷房、蓄熱)などについて、そしてSMA社での取り組みについては、後日、またブログで報告したいと思います。 |