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ドイツの急速な脱原発は、フランス原発に依存か? (その1)
http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/archives/51630812.html
2011年5月21日、原発Emslandが定期検査に入ったことで、ドイツの原発17基(総出力20.5GW)のうち、4基(総出力5.4GW、全原発の26%にあたる出力)しか発電できない状況に陥りました。5月26日には、定期検査を終えた原発1基が稼動をはじめたのですが、6日間にわたって、近年のドイツでは経験したこともない急速な原発なしの事態を迎えました。
こうした事態を迎えたときに、日本語のメディアでは、「フランスの原発電力の輸入で賄っている」というメガネを通して報道がなされたようですが、多くの自称電力通、欧州通の方も、同じメガネでこうした事象をみていると感じていましたので、大変手間ではありましたが、各種の情報を取り寄せ、取りまとめることで、こうした議論に決着をつけたいと思います。
まずは、ドイツの電力事情にかかわる基礎情報です(それすら知らないで、ドイツ云々の議論をしてもらっては困るのですが、まあ、こういうのはサービスで):
・ドイツの年間電力消費量 604,000GWh(2010年)
・ドイツの5月の月間電力消費量 約40,000(ここ数年の平均値)
・ドイツの5月のある平日の1日の電力消費量 約1,400GWh
・それを賄うために必要な発電出力 50〜60GW(日中、というより朝晩のピーク時も考慮)
この数字は、(その2)以降でも、必要ですから覚えておいてくださいね。出典はBDEW:ドイツ電力・水道事業者連合(電事連のようなものです。以下の数字も同じ)。
そして、こうした電力需要を賄うために、どれだけのドイツには発電出力があるのかというと:
ドイツには、全出力で140GW〜160GW出力容量の発電施設があります:
・石炭火力:29.0GW
・褐炭火力:22.4GW
・原子力:20.5GW
・コージェネ:20.8GW
・ガスタービン:23.1GW
・風力:25.8GW
・水力:10.3GW
・その他、太陽光、廃棄物、石油、バイオマス、小型発電機などで数十GW
ということで、一般には、風がない、曇りや夜間、ゴミもない、渇水、温水需要がないなど、不安定な要素のある自然エネルギーやコージェネ、分散型の発電施設を除き、かつ安定供給できる発電所も、点検や補修など稼働率を考慮すると、控えめに見ても、ドイツには常時86〜87GW出力の発電施設があります。
また常識的には、一律にすべての自然エネルギー発電や分散型発電の発電を停止させることは想定しがたく、分散されているからこそ、そして前提条件が多様だからこそ、ある一定量の発電は常時行っています。ですから、こうした86GW出力の発電能力のうち、40〜45GW出力分だけ発電できると、ドイツでは電力の安定供給が行えることがわかります。
もちろん、人的なミス、テロによる集中攻撃、あるいは隕石による発電施設のピンポイント破壊などの事柄が発生しない限り、ドイツでは原発減少分15.1GWがなくとも、あるいは全原発が停止したとしても、まったく問題なく安定供給できるわけです。
また、各種の専門機関は、今の期間(あるいは同等に急速にドイツが脱原発した場合)の電力取引価格の上昇分から、電力料金への反映がどのようになるのかを研究しているところですが、月世帯負担がゼロ〜数千円と多様で、まだ統一した見解や数字は出てきていません。何度かこのブログでも繰り返しになりますが、中期的には、電力価格は安価に、安定した状況に向かうという見通しがあるからこそ、そして、なにもしなければ、高騰する原発新設費用、事故のリスク、化石燃料+ウラン費用などによって電力料金は不安定に高騰するという前提があるからこそ、ドイツは自然エネルギーへの大々的な転換をエネルギー政策の柱にしています。
はい、この数字だけでも、議論を終えても良いのですが、ドイツでは発電しようと思えば発電できる能力がありながら、今も、昨年も、フランスから一定量の電力を輸入超過していますから、その辺についても詳しく見てみましょう。
ドイツの急速な脱原発はフランス原発に依存か?(その2)
http://blog.livedoor.jp/murakamiatsushi/archives/51630797.html
それでは、今度はドイツの電力の輸出入について考えてみましょう。基礎情報として、2010年の状況をお伝えします(これも出典はBDEWがほとんどですが、EEX:欧州電力取引市場、ENTOSO-E:欧州広域系統事業者連合なども参照しています)。
2010年度のドイツの電力の輸出入
2010年
ドイツ輸出入相殺
(単位GWh)
対フランス 14300
対ルクセンブルク -4800
対オランダ -5900
対オーストリア -8000
対スイス -11200
対デンマーク -3800
対チェコ 8800
対スウェーデン -1300
対ポーランド -5200
合計 -16,900
輸出超過は年間電力消費量の3%前後
これで見ても明らかなように、電力事業の完全自由化、および市場での電力取引制度は確立されていますが、年間の電力の調整(行って来い)を相殺してみると、ドイツの年間発電量や消費量と比較すると、電力の輸入量や輸出量は、割合としてそれほど多いものではありません。ドイツは電力の輸出国で、合計すると自国での消費分に対して3%程度の輸出を行っています。
欧州の電力のやりとりについては、月別、どのような形態になっているのか、以下の英語のサイトがありますから、そちらを参考にしてください。
https://www.entsoe.eu/resources/publications/entso-e/monthly-statistics/
また、こうしたやり取りの構図をよく観察すると、小国であるスイスとオーストリアの電力輸入量がかなり超過している様子が伺えますが、これは欧州中央の電池と呼ばれる両国(揚水発電)にドイツの余った電力をかなりの量供給しているわけで、必要時には当然スイスやオーストリアからドイツに戻されはするものの、欧州で慢性的に電力不足に苦しむイタリアに、その分のほとんどは流れているという理解が必要です。
また、フランス、チェコはドイツに対して唯一の輸出超過の国ですが、両国は原発発電など大型発電所の割合が多く、出力調整が効きにくいため、両国で余った電力は、主にドイツの市場で叩き売りされているからで、「ドイツで電力が足りないから両国の原発電力のバックアップが必要」という認識は誤りです。もちろん両国では、日本と同じように建物のオール電化や揚水などの対策は進めていますが、欧州は系統で繋がっているため、ある程度の高価な対策を施すよりも、安価で叩き売りするほうが経済性があるためです。これは、電力取引市場でドイツの電力需要がピークのときに(つまり電力取引価格が高価なときに)、主に両国から電力が流れてきているのではなく、全日を通して平均的に、またときには深夜に異常に高い割合でドイツに流れ込んでいることからも、分かります。詳しく分析されたい方は、ドイツの4つの広域電力系統事業者のうち、フランスとの国境をまたぐEnBWTAGとAmprionの両者のHP上には、15分おきの電力の輸出入の状況が、少し後れてではありますが、リアルタイムで公開されているため(ドイツでは電力事業の透明性を上げるため、情報公開が必要)、そちらを分析してもらえればと思います。
以前、どこかの専門家(誰かは忘れてしまいました)が、スペイン、ドイツの太陽光発電の爆発的普及(僕自身もバブルという認識があります。悪いところばかりではなかったけれど)に対して、固定買取制度を批判していた流れで(ツイートもしましたが、経済界の一部に偏った研究機関RWIの論文だけを出典として)、スペインの驚異的な風力発電量も、フランスの原発バックアップがなければ機能しないなどというおかしな論調を見かけた記憶がありますが、上記の各国間での電力やり取りの様子をよく分析すれば、スペインはフランス、ポルトガルに電力供給しており、フランスへの電力は、他の周辺諸国と同様に、「イタリア」に流れているということが明らかになります。
スペインやドイツの電力政策は、私の個人的な意見ではありますが、非常に好ましい(かつユニーク)なので参考にするべきですが、原発もやらない、化石もやらない、自然エネもやらないというイタリアの電力政策だけは、真似するべきではないでしょう。まあ、系統で繋がっているんだから買えば良いじゃんというのも一つの意見で、生き様ではありますが。
ここまで記載しても、ドイツはフランスに対して輸入超過だから駄目、という意見であれば、私とは議論を続けていただかなくても結構ですが、基本的にドイツはフランス。チェコの余った電力を安いから買っているだけであり、依存というのとは異なることを理解していただければと思います。
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